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七人暮らし

おまたせしました。

 神殿の裏手にある簡易式エアポート。そこを目指す一機のエアカーが陽光を反射してきらりと光る。


「お、見えた見えた」


 まだ小さな点ほどでしかないエアカーを、右手で庇をつくるライカが見つけ、軽くはしゃぐ。


「わざわざ空路で運んでくるなんて、厳重ね」


 旅行や帰省など、民間人の長距離の移動は水素バスや馬車が主流。急患などで救急エアカーを使用することもあるが、基本的には陸路だ。


「ま、あんなコトするガキなら当然だろ」


 エアポートにはライカたち六人が並び、イルミナはおろかクレアさえ姿を見せていない。曰く「その時間は会議があるから」曰く「ごめんねー。ちょうど修練の時間なの。あんたたちだって知ってるでしょ?」

 思い出すだにぶん殴りたくなるが、あしらわれるだけなので想像だけで()めておく。


「そう。子供だ。けど暴力でしか対話の方法を持っていない、野獣とも言える。だからって相手の人格を無視してはいけないとぼくは思う」

「何が言いたいんだ、ディル」

「つまり、丁寧にやろう、と」

「それは当たり前だけど、オヒメサマが仕切るの? これからずっと」


 不満げなオリヴィアの問いに、ディルたち三人は視線を泳がせる。


「別にいいだろそういうの。気付いたらやる、やってるやつを手伝う、で」

「まあそうだけど、誰かがデカい面してたら張り倒すからね」

「わかった」


 ぺし、とオリヴィアの後頭部を叩いたのはミューナ。


「な、なにすんのよ」

「だってオリヴィア、えらそうだったから」

「ぐ、あ、……うん、ごめん」


 最後はディルマュラたちに向けて。


「いいさ。誰だって信頼していない相手から指図されるのは腹立たしいからね」

「べつに、信頼してないってことじゃ」

「きみのそういう繊細な心、とても愛おしいよ」


 まっすぐに言われ、オリヴィアは一瞬言葉を失い、すぐに荒くため息をついて。


「なんでそういうの臆面もなく言えるのよ。ばかみたい」

「ぼくの愛は生きとし生けるもの全てに平等さ。無論、一番中心にいるのはクレアだけどね」


 あっそ、と返し、オリヴィアはミューナを見る。えへへと笑い返すミューナの頭をぽんぽん、と叩いて、神殿へ視線を向けた。何を考えているかは、表情が透明すぎて分からなかった。

 そんなやりとりを見届け、あたしがやったら絶対ヘソ曲げただろうな、と思いつつライカは視線をエアカーへ向ける。もう形も色もはっきり見えるほどに近づいている。


「オウジサマのご到着、だな」


 ぽつりと零れたその一言に、ミューナを含めた五人全員が一歩遠ざかっていた。


       *       *       *


 まだまだ小粒な拳がライカへと迫る。

 ライカは左手で受け止め、遅れて迫る左の蹴りを右手で掴み、あっという間に左手で両手首を、右手で両足首を精霊術を使ってひとまとめにしてしまう。


「聞いてたより元気だな」


 ぐい、と診察服姿の少年のからだを縦に伸ばしてまっすぐ目を合わせ、にっ、と笑う。


「まずは自己紹介だ。あたしはライカ。ライカ・アムトロンだ」


 そのまま手首を掴んだまま、囲うようにしていた五人に突きつけるように対面させる。


「え、えっと、ユーコです」

「オリヴィア」

「ミューナ・ロックミスト」

「シーナ・ラパーニャよ」

「ディルマュラ・エイヌ・リュクス・アリュハ・サキアさ。よろしく」


 もう一度自分へ向けて、


「じゃ今日からあたしたち六人が面倒みるからな。よろしく」


      *       *       *


 時間は数日前、六人が用意された部屋に集合した日に戻る。


「そういえば『六人部屋を用意した』って言ってましたね、クレア先生」


 ユーコの言葉に、五人全員が息をのんだ。

 用意された部屋は、寮の三人部屋を二つ繋げて壁を取り払った雑な造り。

 つまり、ベッドは六つしかない。

 ここを使うのは七人なのに。


「たぶん、忘れてたとかじゃないと思う」


 小さく言ったのはミューナ。


「だろうな。こういうのも含めてなんとかしろってことなんだろうけど……、まあいいや。あたしは椅子かソファで寝るから、お前達適当に決めていいぞ」

「そんなのだめ」

「んだよミューナ。あたしはいいって言ってるだろ」

「じゃあ、順番。交代で、椅子で寝るひと決める」


 どっちでもいいから早くして、とオリヴィアが思う横で、


「なら今日はライカが椅子で寝るとして、明日からの順番はじゃんけんで決めようか」


 ディルマュラの提案に、ライカ以外の全員が頷く。


「どっちでもいいけど、あたしはベッド使わないからな」

「ど、どうしてだい?」

「一回言ったことを簡単に撤回できるか」


 またはじまった、とオリヴィアは頭を乱暴にかきつつライカに詰め寄り、後頭部を小気味よく叩く。


「こんなことで意固地になるな。どあほ」

「う、うるせぇ」

「この莫迦が椅子でいいって言うならあたしはずっとベッド使わせてもらうから。あとは好きにして」


 どさりと担いでいたバッグを一番左端のベッドに置いて、オリヴィアは手を振りながら部屋をあとにした。おそらく電書本屋に行くつもりだ。


「じゃあユーコとシーナはベッドを使って。ぼくはミューナと交代で椅子で寝るとしよう」


 でも、と反論しかけたユーコを、シーナが制する。


「どうせ『椅子で眠るなんて一度やってみたいから』とかそんな理由でしょう。音を上げても知りませんからね」

「さすがシーナ。ありがとう」

「どっちでもいいです。あたし、右端の使いますね」

「じゃ、じゃあ私はシーナさんの隣で」


 その後、ミューナはオリヴィアの隣、その隣をディルマュラが使うことになり、リーゲルトのベッドはディルマュラとユーコの間に決まった。


       *       *       *


「よいせっと」


 手足を縛り、口は猿ぐつわを噛ましたリーゲルトをライカはベッドに寝かせ、自身は荷物の置いてあるリビングへ。

 リーゲルトはもぞもぞと動いて逃げだそうとしているが、ユーコたちに押さえられてしまう。


「なにするつもり?」

「思い切り暴れさせてやるんだよ。勉強とか躾はそのあと。そっちはお前とかミューナとかディルマュラたちが考えてくれ。あたしは座学教えるのは苦手だからな」


 あっそ、と返してオリヴィアは自分のベッドへ。ミューナは用事があるからとどこかへ向かったためここにはいない。なのでベッドで変わらずもぞもぞしているリーゲルトと目が合った。


「……あんたも大変ね」

「うるひゃい」


 面倒だったので猿ぐつわを取ってやる。


「あんたさ、たったひとりでなにするつもりなのよ」

「簒奪者エウェーレルを排除する」

「内乱は終わったし、あんたの家はお取り潰しにあったの。現実見なさい」

「うるさいだまれ! お前たちはなにも知らないから言えるんだ!」

「黙らないし、知りたくもないし、あの家についてなにか言うつもりもないわ。ただ、これからあんたがどんなメに合わさられるかぐらい、考えておいたほうがいいわよ」


 鬱陶しそうに睨み付けてもう一度猿ぐつわを付ける。


「現実を受け入れなさい」

「うるひゃい」


 ふん、と荒く鼻息をついて、オリヴィアは自分のベッドに戻り、枕元の電書本を取り出す。


「あたしお腹痛いから。ちょっと休ませて」


 リビングから戻ってきたライカが、珍しいな、とつぶやいたのをオリヴィアは当然聞き漏らしていないが、睨みもせず無視することにした。褒めてやってほしい。


「で、何を持ってきたんだい?」


 見ればライカは手に包みを持っている。


「着替えだよ。購買部で一番小さい修練服買ってきたんだ。いつまでも病院服じゃなんだったからな」


 言いながらリーゲルトのベッドへ近づき、ユーコに彼の手を押さえてもらってから拘束を解くとあっさり病院服を剥ぎ取り、修練服へと着替えさせる。


「手際いいんですね。すごいです」

「そうか? はじめてだからよく分からないけどな」


 へぇ、と返すユーコ。


「まあいいや。ほら行くぞ、えっと、リーゲルト」


 足の拘束を解いて、くい、とリーゲルトの手を引いてライカは部屋の出口へ。


「ちょっと出てくる」

「あ、じゃあわたしも」


 追いかけたのはシーナ。


「ユーコは? 来るの?」

「あ、えっと、その」


 慌てつつユーコはディルマュラに視線を送る。


「いいよ。ライカの組み手を学びたいんだろ?」


 微笑みながら言われ、頬を染めつつユーコもライカのあとを追った。

 いろいろ思うことはあったが、まずはリーゲルトだ、と頭を切り替えてライカは予備の修練場を目指した。


投稿頻度も遅く、お話も遅々として進んでいませんが、よろしければお付き合いのほどを。

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