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仁義なき異世界転生 ~勇者マサヨシの任侠伝~  作者: 風来坊 章
第四章 頂上作戦 
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第96話 予感

 魔界の中心に建設された、暗黒の大邪神が中央にそびえ立つ、漆黒の魔宮パンデモニウム。

 159万平方キロメートル、高さ100メートルの殺風景な城。


 城の中には、様々な警戒装置や防犯装置が張り巡らされ、初めて城に来た悪魔が迷い込み、うっかりセキュリティ装置を発動させ、悪魔でも絶命がまぬがれないトラップが発動し、犠牲者が出るのが、この城の日常となっている。


 そして、地下1キロには世界を破滅に導く大邪神が完全復活の時を待っていた。

 アンラマンユ、またの名をアーリマン、すべての世界を破滅に導かんとする、絶対悪の存在。

 

 その依り代に選ばれた男が、大魔王の玉座の間で、憂鬱そうに腰かける。

 名をガイウス、幾多の世界を救いに導いてきた英雄にして勇者だった金髪の男。


 彼は勇者として、優秀な軍人として、幾多の世界を救済してきたが、いずれは滅びの道へと向かう人の世にあきれ果て、人間を道具程度にしか思っていない神にも嫌悪感を抱き、神々に反逆し魔神と手を組むに至った。


 しかし、彼に会ったことで心境に少しずつ変化が芽生える。

 その名をマサヨシ、かつての自分と同じ世界救済の任務に就いている勇者。

 

 その男、ヤクザなる無頼の徒出身で漆黒の瞳に黒い髪の美男子。


 かつての自分と同じ、人の世を愛し、女たちを愛し、戦いを恐れぬカリスマ性がある男。

 

 もう少し早くに会っていればよかったと、思う気持ちは未だにある。

 そして、この世界で自分のしてきたことを考えた。


 自分は神々に復讐するだけで気持ちは晴れた筈だが、全ての世界を破滅に導く魔神に利用されるだけの存在となり、あの世界を最悪なものに変えてしまい、それどころか神々が生み出した世界の人々は、疫病に苦しみ、消滅の危機に瀕している。


「今の私は、何をしてるんだろうな……」


 彼は人の世に飽きていたが、人々に非道をするために生まれてきたわけではなかった。


 捨て去ったはずの英雄としての良心が痛みだす。

 人々の笑顔を見るために戦っていた、過去の自分が叱責するかのような心の痛み。


 過去の自分がもしも今の自分を見たら、討ち滅ぼしに来るだろう。

 自分は自身の考えに忠実に生きたいと思う。

 そう自信たっぷりに言っていた、かつての自分であったならば。


「本当に……何をしてるのだろう……私は……」


 ガイウスの目から一筋の涙がこぼれ落ちる。

 最初の人生以外、涙を流した事が無い男が涙を流した。


 心が魔と闇に染まり、それでも勇者としての誇りを失わない男の涙。


 願わくば、堕ちるに堕ちた自分を打ち滅ぼしてくれることを願う。

 人の世を愛し、修羅の魂を持つあの男に。

 そして、勇者だった時の彼の勘が告げていた。


 あの男は、勝つためには何でもする手段を選ばぬ、精神的にタフな男。

 あの皇都での戦闘で戦い慣れているのもわかった。

 そして、魔神を倒したのも、おそらくは彼が身に着けた力によるもの。

 まぐれではなく必然、今まで自分が戦った敵の中で最強。


 どんな独裁者でも、皇帝でも、魔法使いでも、魔女でも、強大な力を持つ邪教の教皇相手でも、戦って勝利してきた彼が、初めて感じた敗北の予感。


「君なら勝てるかもしれないな、飽くなき勝利を求めてきた私と、心を蝕むこの忌々しい大邪神にも」


 しかし、今は魔神に隙を見せるわけにはいかない。

 

 ここにいる間は、自分は悪魔の中の悪魔、大魔王を演じなければならない。

 王など望まなかった自分が、王となるとは、何たる皮肉かと思いながら。



 良心の苦しみに苛まれるガイウスをよそに、魔神マーラーを中心とした、復活した魔神たちが、魔界の大国への侵攻作戦と、神界への頂上作戦、そして勇者マサヨシへの対策会議を開いていた。


 大魔王軍は、魔界各国を傘下に収め、残すは魔界の三大国のみとなっている。


 傘下に収めた国家に封印されし魔神達の封印を解いて回り、勢力を拡大するのが、今のガイウス大魔王軍の基本方針となっていた。


 しかし残された三大国は、復活した魔神を擁した大魔王軍でも、侵攻を躊躇するような軍事力を持つ大国であり、特に伝説の悪魔と呼ばれたアースラが建国した国、阿修羅は魔界の中でも屈指の軍事国家。


「まず、魔界統一の最大の障壁となる軍事国家、阿修羅について、いたずらに刺激することなく、大邪神様が復活してから侵攻することとしましょうか? 我々が勝てぬ国ではありませんが、全世界の破滅と創造神への復讐、我らの頂上作戦に支障があってはなりません」


「異議なし」

「異議なし」

「それが良いだろう」

「憎きアースラめ、子沢山すぎる」

「しかしやつはもう死んだ」


 マーラーの提案に多くの魔神達が賛同する。

 それほどまでに、アースラと彼の子孫たちは恐れられていた。


 アースラに心を折られて、魔界に封印された魔神が多いからで、現在の魔界で単体最強と呼ばれたベリアルにはやや劣るが、大魔王クラスの悪魔の数が多すぎるのと、アースラの家臣たちの多くも存命しているからであった。


「次に勇者についてですが、魔神アバドンが倒された可能性があります。そして魔神パズズとも連絡が取れなくなっています。そして我が軍の先遣隊もおそらくは全滅したかもしれません。」


「な!?」

「蟲の雑魚ならともかくあのパズズが!?」

「どうやって人間風情が魔神を」

「あの世界で何が起きてるのだ?」


「私の千里眼をもってしても、あの勇者の状態はそれほど詳しくはわかりません。わかるのは、未だ我々魔神を討伐する力は備えていないという事だけで、もしかしたら、何らかの魔神対策の加護がかけられているのでしょう」


 マサヨシは、仁義なき世界に転生する前に創造神から授けられた、神の加護があった。

 創造神は、あの世界に対する魔界の侵略に、魔神の影があるのを予期しており、今まで幾多の勇者や救世主が救えなかった、あの世界の救済を、アースラの魂を持つ勇者に賭けたのだ。


 そして、魔界の悪魔が企てた人間界移住計画は、全て魔神マーラーが計画したものだった。

 堕天した元大天使長のルシファーをそそのかし、サタン王国の軍事力を使って。

 ルシファーの忠実な秘書長を装いながら。


「判明している事は、大魔王ヤマこと閻魔大王が背後についており、親類と思われる、女神ヤミーと、伝説の魔獣の存在が確認されている事。彼らが動いているならば、魔神消滅の理由に説明がつくでしょう」


「大魔王ヤマか」

「奴はまずいな、破壊神シヴァよりはマシだが」

「まずいどころか、復活したばかりの我々で勝てる者がいるのか?」

「ある意味アースラよりも厄介だ」

「神界に寝返った魔族の面汚しめ」


 大魔王ヤマ、魔界のかつての大英雄。

 現在は閻魔大王の名で呼ばれる神。

 最強の大魔王の一人だった男。


「魔神龍アジ・ダハーカは、我らの切り札で動かすことはできません。よって、ヤマに対抗するため、我々の今後の戦略目標は、魔神ムンヘス、魔神デムラッシュ、魔神ホンドコンツそして、アンラマンユ様の腹心、魔神アエーシューマ殿が封印されてる、呪術国家ダエーワを支配下に置きましょう。あそこなら、魔界で嫌われてますし、他の超大国も知らんぷりでしょう」


「おお、伝説のアンラマンユ四天王」

「アエーシューマ、悪逆にして最狂の魔神か!?」

「ところでドゥルガーはどうするのだ? 彼奴はヤマよりも強いが」

「あやつは地球で人間共に滅ぼされたではないか! 知らんのか!?」


 アンラマンユ四天王。

 かつて創造神に敵対し、名だたる闘神が複数がかりで討伐し、封印した最強の魔神達。

 

 ムンヘスは獣神にして、獣系悪魔達の始祖。

 デムラッシュは、人間に姿が似た魔界の犯罪組織の始祖。

 ホンドコンツは妖魔の始祖にして知能が極めて高い残酷な魔神。

 アエーシューマは、最狂にして悪逆非道の数々を引き起こした魔神。 


「あとは、あの勇者の実力が我々が知らないだけで、大幅に力を増している可能性も捨てきれません。我らが主神の依り代たる、ガイウスも危惧しているようですが」


「それでは私が行こう」


 死を操る力を持つ青の魔神、ペイルライダーが名乗りを上げる。

 復活した魔神の中でも、実力者の一人。

 死霊系モンスターを自在に操り、武器の扱いに長けている魔神。


「お気を付けください、相手は冥界の死の神です」 


 魔神マーラーは、嫌な予感がしていた。

 神界からの監視を潜り抜けて、様々な陰謀を張り巡らす彼女が初めて感じた、嫌な予感。


「それより、勇者の生まれた場所は? 最初に出現した場所はどこかね?」


「確か、デーパという滅んだ町、そこに勇者はまた現れると?」


「ふふ、生まれ故郷と言うものは恋しいものだろう? たとえ全てを破壊するため復活した我らでも。生まれ故郷の、ろくでもないこの魔界の大地も私にとっては愛おしい。無論、この愛おしく、憎たらしい魔界も壊してやるがね」


 魔神マーラーは転移のゲートを具現化する。

 仁義なき世界に、死の魔神が降り立った。


 

 一方、勇者マサヨシは東の大陸を拠点にして、一人で刀の強化素材集めをしていた。


 メリアが作ってくれた、飛行用の黒のサングラスタイプのゴーグルをつけて。


 本当は転生前に付けていた、金縁でオーバルタイプの青みがかかった、レイヴァンの特注品の方が良かったが、これはこれでいかつくて、自分好みのデザインでもあったので、愛着を持ち始めている。


 今の彼は組の相談役で、若い衆などいない。

 今更、引退した身で二代目の若い衆など使えないという、彼の渡世人としての意地を張り一人、素材集めをしている。


 場所は氷の大陸の旧魔王軍基地の跡地。

 寒さに凍えながら、地図を片手に反応する方向へと向かうと、地図が光り輝く。


「間違いねえ、ここだ。ここに俺の道具を強化する何かが落ちてる」


 マサヨシは、雪が降り積もる中、持ってきたスコップで雪を掘り進める。

 すると、地図が示した明かりの中、痕跡を発見した。

 純白の鳥のような羽と血痕。


「ここは……あれか? あのアテネとか言う馬鹿アマが、俺の魔法に巻き込まれた現場か!」


 マサヨシは自分の刀を抜き、女神の羽や血痕に鞘を近づける。

 しかし、刀は無反応。


「チッ、ここに間違いねえんだが、何が素材なんだ?」


 マサヨシは、更にスコップで雪を掘り進める。

 すると、マサヨシがスコップで放った雪の塊に、地図が反応を示した。

 急いで雪の塊を探し出すが、明かりが少なく良く見えない。


 マサヨシは、地図を雪の塊に近づけ、光を灯す。

 すると、金色の一本の縮れた毛を発見する。


「ん!? ちょっと待て、これってアレだよな? うん、転生前に見慣れたアレだよ」


 マサヨシが、縮れた毛に刀を近づけると、刀がまばゆく光った。

 思わず、マサヨシが絶句しながら吹雪の中佇む。

 そして地図の素材名を見やる。


「なになに、一つ目の素材が魔族の乙女の唾液。二つ目の素材が、戦女神の乙女の陰毛。三つ目以降は不明……」


 マサヨシは、刀を思わず雪が敷き詰められた地面に叩きつける。

 

「全部̪シモじゃあねえかああああああ、なんじゃああこりゃあああ! 男の中の男の俺様に、何集めさせてんだああああああ、ふざけんなこのクサレ地図とヨゴレ刀がああああああ」


 氷の大陸の中心で勇者は哀を叫ぶ。

 そしてマサヨシは、素材集めに思考を巡らす。


「親分は、硬派なお方だから、そんなもんを強化素材なんかにしねえ筈。そして俺はアースラの力で、この刀を振るうわけだから、まさかこれは、アースラの野郎の……趣味か?」


 マサヨシは、三つ目の素材に嫌な予感がしてきた。

 地図が示した場所は、故郷のデーパ町で、その素材の法則性を考えると。


「あの町には、ヤミーのちんちくりんと、レオーネが滞在してた……まさかよ、いやいやいや、そのまさかだよな?」


 マサヨシは、膝から崩れ落ちて、両手を地面につく。


 彼は、とんでもない素材集めを強いられている事に、ようやく気が付いた男の悲哀を感じさせる表情をして、暗黒に包まれた空を見上げて叫びをあげた。


「ちくしょう、極道の俺にこんな無様な宝探しさせやがって、大邪神とか言うクズヤローと、ガイウスのクソボケが、絶対にぶっ殺してやるから待ってろよ馬鹿野郎おおおおおおお!」


 マサヨシは、地面に放った木刀の柄を掴み、怒りの表情で故郷に向かう。

 死の魔神の罠が待ち受けていることも知らずに。


「へクチ!」


 ヤミーは、可愛らしいくしゃみをして、素材探しに出かけたマサヨシの身を案じる。


「爺や、マサヨシは今いずこにいるんじゃろうな?」


「お待ちください、お嬢様。ふむ、私の鼻によると、氷の大陸から、アルフランド大陸へと向かい、猛スピードで大きく連邦領を迂回して、西の果てに向かたようです」


 拒魔犬の回答に、ヤミーはうなずく。

 この世界で初めてマサヨシと出会った場所、デーパ町。

 そして、傍らにいる赤毛の聖騎士も。


「レオーネよ、マサヨシが我らと初めて会ったあの町に戻るようじゃ」


「はい、マサヨシ殿と私たちの旅が始まった、あの町ですね」


 幸い、彼女たちが恐怖するアレクシアは、昨日マサヨシと丸一日いっしょに東の大陸を散策していたせいか、穏やかな表情を浮かべて、植物研究の名目で自室に引きこもっていた。


 念のため、ヤミーはマサヨシとアレクシアの心と記憶を読んだが、不純な事はしておらず、今後の世界のあるべき形の相談や、手を繋いで東の大陸の植生などを見て回った事くらいで、それくらいであるならば、ヤミーは何とか許容はできた。


「何か、嫌な予感がするのじゃ、我の勘はよく当たるからの」


「はい、私も胸騒ぎを感じます」


 彼女たちも、マサヨシと、この世界で初めて出会った最初の地へと赴く。

 この時の彼女たちの判断が、彼の窮地を救う事になるとは知らずに。

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