第91話 農場のケジメ
農場では、粗末な布切れ一枚だけ着させられ、作業していた奴らが、雑多な農具で虫モンスターを追い払い、炎魔法を軍服着たチビ共らがぶっ放して、空は赤黒く怪しく光り輝き、雲のようにバッタやイナゴや毒虫の類のモンスターが飛んでいる状況だった。
それに、農場にいる奴ら見知った顔だ。
王国の貴族連中やら、教会幹部やら俺が議員にした共和国の連中。
それに、軍服着させられてるのは、俺が教会とかで保護した孤児達。
なるほど、なるほど、この世界の金持ち連中を身ぐるみ剥いで、ここに連れてきて、ガキを洗脳して看守役やらせて、農場で働かせてたってわけか、ふーん、そういうことね……。
ふざけやがってぇぇぇ、外道が!
ようやっとお天道様を俺とヤミーが取り戻した世界を、仁義なき世界と呼ばれたこの世界が、救済されようとしてたのに、この世界をめちゃくちゃにしやがって、絶対奴らぶっ殺してやる!
「マサヨシ様、帰ってきたのですね!」
振り返ると、アレクシアがいた。
「なぜ、ここに!?」
「マサヨシ様が、なんとなくここに戻ってくるのではないかと思いまして」
そういえばこいつ滅茶苦茶勘が鋭いんだったわ。
まるでエスパーみたいに、俺の考えや行動とか読んじまうんだよ。
ヤスみてえに……。
「あら? ヤミー様ごきげんよう」
アレクシアは、空の虫達に向かって、両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げて、腰を曲げて頭を深々と下げる。
「おい、毒蛾よ、虫めを駆除する前に貴様から駆除してもよいのじゃぞ?」
ああ、やっぱりこいつら滅茶苦茶仲悪いわ……。
魔神とか言う虫野郎と喧嘩する前に、こいつらの喧嘩が始まりそうだぜ。
「再会の挨拶は後だ、あの空を覆ってる虫共をなんとかしよう」
俺は天に両手を掲げた。
すると、俺を中心に空を覆いつくした暗雲が青空となり、太陽の光が降り注ぎ、魔法陣がいくつも展開していく。
「やっぱり、お天道様はいいもんだな、そして失せろ虫共! 地獄の炎陽」
上空にいる虫モンスター目がけ、灼熱の冥界最上位魔法をぶっ放した。
焦熱地獄に時折やってくる、虹色をした超高熱のプラズマが、俺の意志通りに渦を描き、バッタやイナゴのようなモンスターの群れを焼き尽くし、上空の炎の光につられて、虫達がどんどん集まり、焼かれていく。
虫ってよ、光るものに寄っていく習性とかあるんだよな。
俺も転生前に夜の山に行ったとき、穴掘る時に、懐中電灯とか明かり付けたら、毒虫とかが湧いてきて、さらった野郎みたいに、思わず悲鳴上げそうになったよ。
そんでコイツらは、毒とか持ってそうだから、徹底的に焼き尽くしてやるぜ。
光につられて、燃えちまえや、害虫共が。
上空がまばゆい炎の光で包まれる中、俺は土の魔法ででっかい壺を作って、地面に転がした。
「おいヤミー、おめえビスケットとかもってんだろ?」
「な、なぜそれを! ハッ? お主、やらぬぞ! これは我の大事な……」
「うるせえ寄こせ」
俺はヤミーからビスケットをひとかけ貰うと、壺の中に放り込み、神霊魔法で発酵させた。
すると、地を這う毒虫たちが、発酵した臭いにつられて一斉に壺の中に入り込む。
「あの壺の中には、粘性高めた泥が入っててな、マサヨシ様の特製ゴキブリホイホイよ!」
しかし、予想以上の効果だぜ。
本当は、誘引剤とかなんちゃら成分入れた方がいいんだろうが、まあいいわ。
「なるほど、さすがマサヨシ様です」
アレクシアも、手持ちの菓子を放り投げて、俺と同じことをする。
うん、やっぱり理解力が早くて助かるなこいつは。
「ヤミー様は、あそこにホイホイされないのですか?」
「白毒蛾こそ、上空の炎の渦に、飛びこまんのか?」
女共が、口喧嘩しているのを尻目に、農場の奴隷共が害虫駆除に乗り出す。
さあて、まずは農地解放と奴隷解放と行こうか。
なんっつったっけ? 確か、リンカーンさんだっけか?
コルレドに、その時の演説でもパクらせて、共和国の大統領に返り咲かせねえとな。
すると、上空から凄まじい魔力反応がする。
ようやくお出ましか、虫野郎。
緑色した10メートルはありそうな、カマキリのような、バッタのような、キリギリスみてえな二足歩行の虫の魔神が現れる。
俺の冥界魔法で焼かれたのか、エビが焼けたような香ばしい香りがしやがるぜ。
あの馬鹿も虫だから、ついうっかり光に飛び込んで、炎のダメージも受けてるな、ざまあみろや。
「貴様、我が眷属達をよく燃やしてくれたな。我が名は、アバドン! 大古より数多の世界で蝗害を起こしてきた、死の魔神。人の苦しみこそが我が喜びよ」
何だこの野郎?
炎の光に飛び込むような、マヌケの害虫野郎のくせに大物垂れやがって。
「そうかい、俺の名前は初代極悪組の組長マサヨシって言ってよ、てめえらを始末するために、冥界の地獄からやってきた、殺し専門の勇者様よ」
俺はヤミーの方を見やり、うなずく。
するとヤミーは、俺と虫野郎の周りに、無間地獄を具現化させる。
そして、空間ごと中に封印された。
「小癪な下等生物の人間め、暗黒空間に引きずり込み、貴様もろとも私を道連れにする気だろうが、魔神たる私にはこの程度の……」
「何勘違いしてやがんだ、虫野郎」
俺が言い放つと、アバドンとか言う虫野郎は小首をかしげる。
脳みそもねえ、脊髄反射のような思考だから、少し説明がいるらしいな。
「ここはよお、俺専用のバトルフィールドってやつだ。ここならどんなに暴れようが、やべえ魔法をぶっ放そうが、光もエネルギーも出れねえから、外に影響ねえのさ」
俺は言いながら、右手で漆黒の木刀を帯からゆっくりと引き抜いた。
左手には、魔法のピストル。
「そんで、俺の本気をわざわざ他の魔神や、ガイウスらの大魔王軍に見られちまって、対策取られてもよ、それはそれで面白くねえわけだ、わかるか虫野郎?」
さあ、アースラよ出番だぜ。
俺と一緒に喧嘩しようや、この虫野郎と!
すると、暗黒の無間地獄で俺の体がまばゆく光り出し、着物がはだけて、背中に阿修羅の入れ墨が浮かび、背中に腕が四本生えてきて、瞳は燃える漆黒の炎のように、肌は褐色に、そして髪の毛が逆立つ感覚があり、太陽の光のような青白い輝きを纏って、俺はアースラの姿そのものになった。
「き、貴様は!? ま、まさか、そ、そ、そ、そんな筈はない! 魔神マーラーから貴様は、あ、あ、あ、あの闘神アースラはすでに堕天して、し、死んでいると、ま、ま、また私をふ、ふ、封印に」
「何だ虫野郎、さっきの威勢はどうしたんだコラ? 小物みてえにジタバタしやがって」
ビビりすぎだろ、この虫野郎。
いや、こいつの今の言葉はテンパってて聞き取りずらかったが、そうかい。
この虫野郎を昔ボコボコにして、徹底的に恐怖を植え付けて封印しやがったか。
神様だった時の、アースラは。
「テメーよくも俺の縄張りで虫とか放って好き放題やってくれたなあ? 封印だ? もうそんなもんはしねえよ虫野郎、テメーはここで俺に落とし前つけられるんだからよお!」
俺はアバドンに、全速力でかッ飛んで、木刀の一撃を脳天に叩き込む。
そして、魔力を最大限まで高め、左手で魔法のピストルをぶち込みまくる。
イメージしたのは、SF映画のようなプラズマの光の弾丸。
貫通力と衝撃力があって、光の速さで連射できるような奴だ。
ついでに、残りの4本の手で、プラズマのような光の玉を連続で撃ち出す。
「ハッハー、弾数無限みてえなチャカとか最高に楽しいぜ」
それにやっぱいいなあ喧嘩はよお、圧倒的にぶちのめせる喧嘩なら特によ!
アバドンは、俺に対抗するため、間合いを詰め、カマのような手を俺に振り下ろす。
だが、俺は木刀に炎の魔法の力を込める。
すると青白いガスバーナーのような炎が一気に噴き出し、野郎の右手をぶった切った。
「ぎゃあああああああ、私の腕がああああああ」
俺は、炎の力が宿った木刀に、今度は金属の土魔法の力を込めて、滅多打ちにする。
この世界のアダマンタイトよりも重い、希少金属のタングステンをイメージして。
「オラオラ、虫野郎! ビビってねえで抵抗して見ろや、このマサヨシ様に! 脊髄反射しかできねえ虫のくせに、ビビってんじゃねえぞオラ!」
俺が木刀を連続で振り下ろし、間合いを離してまたピストルをぶっ放しまくる。
だが弾丸の雨を耐え、虫野郎の体が怪しく蠢く。
すると、何万、いや何億、何兆匹の無数の光のイナゴになって俺に反撃してきた。
俺の体に光の弾丸のような無数のイナゴたちがぶち当たる。
なかなかやりやがるぜ、だが!
俺は、アースラの記憶を遡り、奴の得意魔法を探り出す。
どうせなら、派手な方がいいなあ、見栄えがいいからよお、あった!
「なめてんじゃねえぞ虫野郎! いくぜ!」
六本の腕で魔力を高めると、俺の体がまばゆく光り出す。
すると、数百数千の小さな魔法陣と共に、無数の光輝く矢が具現化する。
一発一発が必中、虫程度にはもったいない、太陽の光の矢の雨。
「烈日赫赫」
無数のイナゴを光の矢の雨で駆逐する。
すると、アバドンが実体化した。
「や、や、やはり、貴様はアースラ! た、助けてくれ、こ、こ、これは魔神マーラーから、そ、そ、そそのかされて、もう私は二度とこんな……」
「ああ? 何言ってんだてめえ? てめえら俺の舎弟を殺りやがっただろ? 死んでもらうぜ」
俺は木刀に、限界まで風の魔力と水の魔力を高める。
精霊化したうえで、親分の力を借りても無理だった、魔法と居合の極意。
「夢想神明とは己の心明らかにする如きなり、極意、心明剣!」
アバドンは俺に破れかぶれで左手のカマを振り下ろす。
その刹那、奴のカマを俺の剣で、回しながら受けて打ち下ろし、魔力を限界まで高めた剣を振りかぶり、アバドンの首に気合と共に必殺の一撃を打ち込んだ。
アバドンのバッタのような頭が胴体から転げ落ちる。
「や、やめてくれ! も、もう二度と復活しない! 誓う、魔神アバドンの名にかけて!」
まだ生きてんのか、虫野郎。
さすがにしぶてえなあ、魔神とやらは。
お、そうだ、いいこと思いついたわ。
俺は、元の姿に戻り、アバドンのでっけえ首を掴む。
「おい、テメーのこっちの世界での本拠地、どこにあるんだよ?」
「この大陸の、皇国と呼ばれた皇居が拠点の一つ! 頼む、私を許してくれ!」
ふーん、そうかい、いいこと聞いたわ。
そんじゃあ、久々にR15なケジメと行こうか。
ロンには悪い事するが、後で謝っておくかな。
「ヤミー、封印解いてくれ! 終わったぞ!」
そして、俺の体とアバドンの首があの世界に戻った。
ヤミーとアレクシアが、心配そうに俺を見てる。
大丈夫だって、心配すんなよ、それと。
「ヤミー、アレクシアはこの農場で、奴隷にされた人たちを解放してやってくれ。俺は、こいつにけじめをつけるから」
二人は頷いて、俺から離れた。
これから、あいつらには見せられねえ落とし前をするからな。
いねえほうがやりやすい。
「よう虫野郎、気が変わったからテメーに生き残るチャンスをやる」
「ほ、本当かアースラ! わ、わ、私を殺さないでくれるのか!」
ああ、殺しはしねえさ、俺はな。
思いながら、ゴキブリホイホイと化した横たわるツボを魔法の力で起こす。
「ところでよお、虫野郎。俺の前の前の前の前世の国でさ、一番強い虫を決めるやり方ってのがあったわけよ、おめえ、虫の魔神なんだから一番強いんだろ?」
「無論だ! 今の私は魔力が尽きたから操ることが出来ないが、あらゆる次元世界で私は最強の蟲神! 私が一番強い!」
ほう、今のてめえじゃ操ることが出来ねえか。
残存魔力からもしやと思ったが、やっぱりな、へっへっへ。
「そうかい、じゃあおめえさんに男、見せてもらおうか」
俺は、毒虫満載のツボに、その辺の地べたを這ってる小型モンスター、テイオウアリの巣を何個かまるごと、魔法の力で引きずり出し、ツボの中に入れた。
このアリは、単体では強毒性を持つ以外は大したことが無い、6センチほどのアリだが、1匹でもぶっ殺すと、何十万の群れが、一気に襲ってきて大型の凶悪モンスターのドラゴンや、キメラでさえもぶっ殺しちまうやべー奴なんだ。
そして、この中は毒虫満載、アリは何匹か死ぬだろう。
俺は、ツボの中の粘性の土の魔法を徐々に解除し始める。
「そんでよ、俺の遠い昔の前世の国、中国って所に蟲毒って儀式があって、一番強い虫を呪いに使うって言う呪法があってよ。おめえ一番強いんだろ? じゃあ余裕だよな?」
すると、俺が掴んだアバドンの首がぶるぶると震え出す。
「き、貴様は悪魔の中の悪魔、魔神だ! た、頼む、やめてくれ! 助けてくれえええええ」
うるせえよ馬鹿野郎、てめえが悪魔の魔神だろ?
人間なめやがって。
「うるせえ! 往生しろや虫野郎!」
俺は、アバドンの首を毒虫満載のツボの中に放り込んで封印する。
「ヒッ、蟲が、無数の蟲が俺に向かって……やめろ! 助けてくれ! 死にたくない! やめ……ぎゃああああああああああああああああ!」
うん、冥界魔法で野郎の心を覗き見たけど、狂っちまったようだな。
何が魔神だ馬鹿野郎、これくれえのケジメでぶっ壊れやがって根性無しが。
そして冥界の封印魔法を甘めにかける。
そう、こいつが制御不能な毒虫満載のツボの封印を解いてくれと言わんばかりにな。
「さあてと、このツボをっと」
俺は瞬間的にアースラの姿になり、巨大な蟲毒のツボを抱えると、大魔王軍の拠点の一つ、皇国の皇居に向けて、ハンマー投げのように投げ込んだ。
「これが初代極悪組のマサヨシと、大魔王軍との開戦の合図だ馬鹿野郎!」




