第8話 共犯者
おやっさんは、俺を教会で拾った時からそんな予感がしていたらしい。
黒い髪に黒い瞳、この世界にはいない人種。
そして頭の中に神の啓示がしたそうだ。
「マサヨシです。可愛がってください」
俺は神からしたら犬猫かっての。
そしておやっさんは、今回の件を「神の奇跡」として認定するよう、教会本部へ魔法の水晶で報告した。
町の住人は、赤い月が太陽に変わり、空が青くなった事に大騒ぎし、パニックになって教会に救いを求めて神に祈りにきやがった。
普段、信仰心なんか持ち合わせねえ、クズ共のくせに現金な話だ。
ヤミーは俺の部屋に寝かせてやってる。
なんだかんだで、魔界の前線基地とやらがブッ潰せたのはあいつのおかげだ。
閻魔大王様に、魔界へ嫌がらせでも、鉄砲玉でも何でもやるって言った俺だが、まさかいきなり敵の拠点の一つをぶっ潰すとは。
この件で、閻魔大王様から見た俺の評価もきっと上がるだろう。
ヤミーが持ってた対魔界用決戦兵器とやらは、バズーカから、ただの木の笏に戻っていた。
俺は恐る恐る、こいつを竹刀袋のようなものに仕舞い込み、他の荷物と一緒に自室に移動させた。
あんなおっかねえもん、二度とあいつに持たせてたまるかってんだ。
そのあと、俺とおやっさんは木槌持って、教会の屋根を修復していた。
転生前は工具なんて、人をぶん殴る道具くれーにしか使ってなかった俺が、こうして本来の使い方をしてるなんて皮肉な話だ。
屋根を応急処置すると、一面夕日に包まれて、赤い西日が教会を照らし出す。
そう、夕日。
この異世界で、生まれて初めての夕日だった。
美しくて涙が出てくる。
クソみてーな異世界が、初めて美しく見えた。
そして夜。
おやっさんは夕食後眠りにつく。
教会の掃除をしていた俺は、空を見上げた。
青い月が無くなり、青、黄、赤、白の光の絨毯のような星々が煌めいている。
町の奴らも家から外に出ており、空を眺めてその光景に感動し、涙を流してる奴もいた。
そう、本来世界ってのはこういうもんよ。
それと、女でもいりゃあ口説くにはいい夜だ。
だが一応、俺は神さんに仕える神父見習いだ。
不埒な真似はできねー。
それに若い女は、とっくの昔にこの田舎町を出てってババアしかいねえしな。
すると一瞬、ヤミーの顔が浮かんだ。
うん、ねえな、ねえ。
確かにあいつは、黙ってればかなりの器量良しだ。
あれでも一応神だし、閻魔大王様の妹だし、
でも性格が悪いどころか、地雷だあんなガキ。
「きゃあああああああああ」
その時、ヤミーの悲鳴がした。
クソ、魔界の奴らもう嗅ぎつけてきやがったか。
「ヤミー!」
部屋に入ると、ヤミーは素っ裸で鏡の前に立ってやがった。
こいつガキにしちゃケツのあたりが育って……。
「ぎゃあああああああああ」
顔を真っ赤に逆上したヤミーに、俺はボコボコにされる。
ちくしょう、わけがわからねえ!
「ノックくらいせんか無礼者め! レディの部屋じゃぞ! 我は体を洗っておったのじゃ!」
ヤミーは冥界で着てた喪服に着替え、顔を赤らめながら俺に説教しだす。
何がレディだ馬鹿野郎、ちんちくりんのくせに。
ていうか、お前のじゃなくここ俺の部屋な。
「てめーが、アホみてえに叫んでやがったからだろうが。ああすまねえ、アホにアホって言っちまった」
「貴様ぁ……それよりも無いのじゃ、我の角が」
ヤミーの言う通り、額に生えていたヤミーの二本の角が無くなっていた。
「お前のせいじゃ、我に力を使わせるから、神性が無くなり人と変わらなくなったわ!」
はあ? 一発目のバズーカ撃ったのはてめーだろ。
それより、神性がなくなったって何のことだ?
「いや、わけがわからねえ。だから何だってんだよ」
「ダメなのじゃ、神がサポート以外で人間の世界で直接、力を二度行使するのは。神界法違反なのじゃ! 世界を救う功績でも無ければ、我は神に戻れなくなってしまったのじゃ!」
結構な事じゃねえか。
冥界の裁判所でこいつにイジメられた後、気分次第で裁かれる魂が無くなったんだから。
「ふーん、そうかい。で?」
「もう兄様や我の神の力で、この世界で貴様をサポート出来なくなったという事なのじゃぞ!」
へ?
おい今なんて言いやがったこいつ。
神のサポートが無くなっちまっただと?
やべえよ、これ相当やべえ状況じゃねえか。
「ああどうしよう。そうじゃ、貴様が責任を持って我を助けるのじゃ! 見よ! この得得ポイントを」
ヤミーは部屋に置いてた頭陀袋から、ポイントカードみたいなものを取り出すと、俺に手渡す。
「ああ、地獄で閻魔大王様が言ってた例のあれか。俺が善行を積むと、地獄の刑が減刑されるとか、どれどれ」
俺が得得ポイントカードを手に取ると、頭の中に今までの善業が浮かび上がる。
「おお、結構溜まってんじゃねえか?」
俺のカードは、最初にマイナス4000ポイントになってた。
刑期4000年だもんな。
だがモンスターを倒したり、神への祈りを行なうと、数日単位でプラスポイントになり、これがチリも積もって俺の刑期が100年ほど減刑されてる。
「あん? 魔界魔法使うとマイナスがちょっとつくのか、面倒臭え」
そして、俺は最後についたポイントを見やる。
「ん? 魔界拠点制圧補助に1800ポイント、悪魔討伐数3000ポイント、神に神界法違反を強要、マイナス10000ポイント、合計マイナス8930ポイント……」
だああああああああ。
刑期4000年から倍以上に増えてやがったああああ
「世界を救えば、きっと凄いポイントも入ろう。これで貴様は我と一蓮托生、共犯者じゃ。もしこの世界で死ねば倍の刑期で地獄送りよな、ざまあみよ」
俺はヤミーが告げたあと、絶望して足からガックリ崩れ落ち、そんな俺を見たヤミーは、ドSらしく満足そうに微笑んだ。
「おい外道よ、我は三日三晩食事をしておらん! さっさと食事を持ってくるのじゃ」