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仁義なき異世界転生 ~勇者マサヨシの任侠伝~  作者: 風来坊 章
第四章 頂上作戦 
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第88話 呪詛

 ガイウスが、精霊領域に足を踏み入れる少し前、大邪神アンラマンユの呪詛の力を発動させる。

 

 精霊界には効果が無いが、全ての次元世界を覆う呪いの効果。

 その異変は、最初に神界と天界で発生した。


 神々や天使たちには、当初効果が薄かったが、徐々にその効果が表れ始めた。

 天使達の中に、体の倦怠感を感じるものが発生。

 人間界で言う所の風邪のような症状だった。


 その後、ある天使には、喉の痛みや咳やくしゃみなど、症状が出始める。

 またある神には、味覚が失われる症状も発生した。


 神や天使が病気にかかる事はない。

 病気という概念すら、存在しなかった筈であった。

 そして、神々は対策会議を開く。


 すると、神の一人が呼吸困難になりその場で昏倒し、しばらくすると、他の神々にも、のどの痛みや呼吸困難になる症状が次々と発生した。

 

 アンラマンユの呪いの効果で、善と正の力を持つものに発症する、神殺しの呪いだった。


 愛の神カーマに変化してた、魔神マーラー・カーマーの分身体に残した暗黒神の呪い。


 神が死ぬことは基本的にないが、意識混濁により活動不能の状態になる者が出始め、苦しみに耐えかねた神が、魂の消失を願うと、存在そのものが消えてしまう。


 この魂の消失こそが、神の死といえる。


 この風邪にも似た症状は、病気などという概念を知らない、元人間や元大魔王以外の、生粋の神たちにはとても苦しく、魂の消失を願い存在が消えてしまう神が出始めた。


 担当神達がいなくなった人間の世界は、いずれ消滅する。

 閻魔大王が危惧していた、魂の循環が正常に行われない状態となってしまう。

 すなわち、人間界の崩壊の危機である。


 そして、呪いの症状が出た神の担当する、人間界にも同様の災厄が疫病として振りまかれた。

 

 この見えない呪いにより、大天使ミカエルは症状に苦しみながら、原因を探る。

 古の大邪神の呪いの力を発症した者達には共通点があった。


 発症者と接触した者、発症者と同じ密閉空間にいた者、発症者が使っていた道具を共用した者。


 そして、神界の最高神たる創造神への呪いの感染を防ぐため、神や天使同士の接触が禁じられ、神界や天界は機能不全に陥り、徐々に破滅へと向かっていった。

 

 神界にて治療中であった女神アテネにも、呪いの力が発動する。

 彼女の、仁義なき世界の担当神としての任期は切れておらず、呪いはウィルス性の疫病として、あの世界で徐々に広がり始めていった。


 最初に疫病を発症したのは、天界の影響を受けた教王ソフィアだった。

 咳が止まらず、呼吸困難になり、体温も上昇して寝込んでしまう。

 魔法の力も一切効かない、ウィルスによる感染。

 そのウィルスが、教王ソフィアの侍従のシスター達に発症し、司祭たちも感染する。

 

 このウィルスの性質は、きわめてたちの悪いものだった。


 3日から2週間のウィルスの潜伏期間があり、発症する前の人間は無自覚にウィルスを広めてしまい、知らない間に、家族や友人たちも感染させてしまう。


 そして感染した人間は、徐々に身体と精神に異常をきたし、抵抗力が弱まった人間、疾患を持つ老人たちや、抵抗力の弱い乳児が命を落としてしまう。

 

 感染力がそこそこ強く、人間のほか、動物やモンスターにも感染して、凶暴性を高める恐ろしい、暗黒の伝染病。


 教会本部から始まったこのウィルス汚染は、共和国連邦内で蔓延し始める。


 共和国連邦は、西にあるデヴレヴィ・アリイエ王国を占領し、ガイウスの手により皇国の領有権を移譲され、世界最大の超大国へと変貌していた。


 しかし、国境東側の難民流入による治安の悪化と、街の教会から市街地、そしてスラム街へウイルス感染が広まり始め、連邦で軍事クーデターを起こした、大統領のルイ・ド・フィリップは、疫病発生の一報に頭を悩ませる。


「なぜこんなことに? 勇者ガイウスは何をしておるのだ? なぜ我々を救わん!」


 フィリップが呟くと、ガイウスが姿を現す。

 一人の車いすに乗った男を連れて。


「お困りの様子ですね、フィリップ殿。我々人類を助けてくれる男を連れてきました」


「な!? 貴様は、ブリュワーズ!?」


 かつてこの国の平民派首長であったブリュワーズ。


 マサヨシの舎弟であるコルレドの命を狙った報復のケジメにより、手と足の指全てと目を潰された結果、重度の障害を負っており、口元に歪んだ笑みを浮かべる。


「久しいですな、フィリップ首長……。今は共和国連邦の二代目大統領? でしたな。私は、ガイウス様と会って悟ったのです。人間は生まれて死ぬまで全て平等であるべきであると!」


 人間は全て平等? そんな事はない。

 貧富の差や生まれや育ちや身分、そして生まれた地によって千差万別。

 

 共和国市民は、共和の精神により、生まれは不平等であっても、一応は機会の平等は認められている。


 本人の努力次第では、金持ちや議員にだってなれる可能性もあった。


 だが生まれて死ぬまで、人間は全て平等という概念などこの世に存在しないと、フィリップは考えた。


「して、お前は人類の平等とは何を考える?」


「この世界の人類すべての平等ですよ! この国はギルドの資本家や教会組織、そして特権階級の議員たちが、富を独占し、貧困が無くならず、労働者市民たちを脅かしてる。そうは思いませんか?」


 何を言ってるのだろうか、こいつ。

 という目で、フィリップは、ブリュワーズを見やった。


 人間には、生まれ付いた運命や役割がある。

 人類すべての平等など、世迷言もいい所だと言おうとした。


「ふむ、忍耐をもって苦痛に耐えようとしている男を発見するのには、どこの世界でも苦労したものだが、この男面白かろう?」


 ガイウスは、ブリュワーズの人類みな平等の理論に拍手を贈る。

 この思想、マサヨシの世界では共産主義と呼ばれる思想であった。


 特権階級や、資本家の富を国民に均等に配分し、平等をうたう、一見して素晴らしい思想。


 しかしその本質は、人民全ての富が国家に管理され、自由や人として生きる権利を奪われ、危険な独裁者を生み出しやすい理論をもとにした、人類には実現不可能な思想であった。


 ガイウスは二度目の転生で、共産主義思想と民族紛争の戦乱により、機能不全に陥った世界を救済した経験があり、この思想の危うさを熟知したうえで、この世界を破滅に導くためにブリュワーズを利用しようとしていたのだった。


「な! 何を世迷言を! それでは、我々の地位や、名誉はどうなる!?」


「皆平等ですよ! 地位や名誉? それはこれからの連邦では無用なもの……ねえ? ガイウス様」


 ガイウスは、拍手しながらフィリップを見やる。


 その目は、人類への関心などみじんも感じさせない、暗鬱さを感じさせるような、翡翠にも似ていた瞳の色だった。


 それを見たフィリップは、ある結論に到達する。

 この男は勇者ではなく、邪悪な何者かの……。


 その瞬間、魔法によって時間が停止して、ガイウスの剣によりフィリップの首が横一文字に斬られる。

 

 時間が停止した中、ガイウスはフィリップの首を持ちあげ、元の立ち位置に戻った。


 そして時間が動き出して、首を失ったフィリップの体が椅子から転げ落ちた。


「それでは、ブリュワーズ君。君にはこの議会制民主主義だった連邦国家を、己の理想のために、人類が平等に過ごせる、美しい国家を作りたまえ。君が、この国の独裁官たる大統領だ」


 マサヨシ達が、人類の可能性と理想を掲げた救済のための国家、ポートランド共和国連邦は、この瞬間からポートランド社会主義連邦人民共和国へと名前を変える。


 建国の際に建てた、ヤミーの石像は取り壊され、フィリップの巨大石像にとってかわられた。


 そして、共和国首都のフリーダムシティの名はコミニティシティへと、名前を変更する。


 教会幹部や貴族出身者は反国家思想罪とされ、共和国東側から旧皇国西側に位置する平原に、強制連行されて、農作物を作る、作業に従事させられる。


 その広大な農場には、病に侵されているソフィアの姿もあった。


 ソフィアは、この作業が人類、そして勇者ガイウスの望みであるならばと、信じて疑わず過酷な農作業を強いられている。


 マサヨシが作った異端審問官改革制度は、人民警察改革精度に名前を改められ、世界各地の教会は神の名を汚されたうえで、国家公安警察と変えられてしまう。


 武装神父隊、通称武神隊は解体後、部隊が分断されて、私服で活動する秘密警察と、黒い鎧を着た武装警察隊、通称武警隊に名前を改められ、正義の治安部隊が共産国家の暴力装置と化して、市民を弾圧する悪しき存在へと姿を変えた。


 そして疫病が蔓延する中、人々は相互に監視し合う密告社会となっていく。

 この世界の街や村々に散ったマフィア達は、自分たちの親分の帰還をのぞんでいた。

 

 その親分である、マサヨシが打ち出した義務教育制度も改悪される。

 子供たちは、徹底的に共産主義思想を植え付けられ、洗脳教育を施されていた。

 マサヨシが憎んだ、子供達への非道が行われている。 


 いつしか黒い霧が世界のあちこちで発生し、空が赤黒く怪しく光る空へ変色した。


 もはや美しかった太陽も、美しい星々の光も見えなくなっており、大邪神の暗黒の力により、この世界のみならず、すべての世界が徐々に闇に包まれて、地球の伝説に残された、黙示録の世界や末法の世が再現のような世界に、徐々に変質していく。


 地下で活動する、信心深い教会の残存勢力とマフィア達、そして大多数の人々は、神界からやってきたとされる勇者ガイウスこそが偽勇者で、世界に滅びをもたらす存在だと薄々勘づき始めていた。


 そして、もはやこの世界から悪として全世界に指名手配されている一方で、自分たちを救ってくれるであろう真の勇者の帰還を待ち望んで、女神ヤミーに祈りを捧げていた。



 こうして仁義なき世界が最悪を通り越して、滅びに向かいつつある中、マサヨシが、試練の為に冥界へ出かけて一か月が経過する。

 

 ガルフを殺された極悪組の面々は、悲しみに暮れていた。

 

 ガイウスへの怒りで、ドワーフ達は暴動一歩手前になるが、拘魔犬、王妃ナム―ルとドワーフ王となったガイ、そしてマシュとオルテがドワーフ達をなんとか鎮める。


 ロンやアレクシアといった人類側の英雄と賢者や、アスモデウスを始めとする悪魔達は、ガイウスが言い残した、新たな世界の脅威、大魔王軍の存在に震撼し、対策を講じようとした。


 しかしガイウスの、人ならざる戦闘能力について、マサヨシとヤミーが不在状態では、対処不能という結論に達した。


「ここは、僕たちの故郷はもう危険です……みんな、避難をしましょう」


 極悪組若頭代行のブロンドは、亜人達と極悪組のため、故郷である精霊領域、そして自分たちが生まれた大陸、アルフランドから離れるという、苦渋の決断を下す。


 そして新たに作った武器防具を満載し、精霊王フューリーに精霊領域を任せて、亜人達を避難させるべく、旧魔王軍の戦艦で東の大陸へと向かっていた。


 最後の冥界の試練を終えて帰ってくるであろう、自分たちの親分を、そして勇者の帰還を祈りながら……。



 一方、魔界では大魔王ガイウスの元、魔界全体が統治され始め、神々に封印されたはずの、伝説の魔神や大悪魔たちが復活し、大魔王軍として再編され始めていた。


 ガイウスとアンラマンユの力によって、蜂のような羽が生え、カマキリのようなカマを持ち、顔がバッタのような緑の魔神アバドンと、9つの頭を持つと呼ばれる、強大で黒紫色の体色をした、全ての魔界の竜の祖と呼ばれた、伝説の魔神龍アジ・ダハーカも復活する。


 そして死を司る、青白い巨大な馬のような魔獣に乗った騎士のような姿をした、魔神ペイルライダーの姿や、魔神マーラーに屈服した魔王ルシファーも姿を見せ、すでに魂を失った漆黒の大邪神アンラ・マンユのもとに跪く。

 

 その大邪神の依り代に選ばれた、ガイウス達大魔王軍の目的はシンプルにして単純である。


 ――すべての世界の破滅。


 自分たちの存在の一切を否定する、創造神の抹殺と、全ての次元世界の破滅である。


 全ての世界を暗黒と無に帰すための、絶対悪の軍団だった。


「さあ、全ての世界を滅ぼしに参りましょうか? 全ての世界を闇に帰すため、我らの頂上作戦を開始しましょう」


 魔神マーラーカーマが頂上作戦の開始を宣言する。

 しかし、マーラーカーマーには誤算があった。


 一つは、屈服させたはずの、魔界の悪魔達の中に、反旗を翻そうとする元マーラー不死隊の二体の悪魔の存在。


 もう一つは気高い魂を持つ、神でも悪魔でもあり、最後は人として生を終えた伝説の男の魂。

 勇者マサヨシの存在。


 これらを彼女の千里眼を用いても見抜けなかったのが、後に大魔王軍にとって最大の誤算となる。

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