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仁義なき異世界転生 ~勇者マサヨシの任侠伝~  作者: 風来坊 章
第四章 頂上作戦 
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第85話 父と子 前編

 やはり、このガキ……最初に会った時のニコに似てる。

 肌の色と背丈以外はそっくりだ。

 

 記憶の奥底で顔がモヤがかかってたが、ようやく思い出した。

 こいつは……やはり俺のガキだ、間違いねえ。

 目元や顔の形が、なんとなくガキの頃の俺を彷彿とさせる。

 ガキは、俺を一瞥すると、また積み石の方に向き合う。

 

 そして、自分の積み石がある程度の高さまで来ると、蹴飛ばして崩し始めた。

 何やってんだ、あいつ。

 すると、それを見ていた鬼たちがうつむいて、涙を流し始める。


「あやつ、自分で積み石を!」


 地蔵マンの着ぐるみを被ったヤミーが、ガキに近づこうとした。


「ならん、あやつに任せるのじゃ。おい、罪人! あの子の魂を救うのが第二の試練じゃ。こんな塔など最初から、我の賽の河原で、完成させるつもりないのじゃからな」


 お不動さんが、出てきてヤミーの前に立ちはだかり、俺に告げた。

 本当の第二試練、それは俺が転生前に残したガキの魂の救済。

 そして、それはニコの魂を救うという事。


「ヤミーここは俺に任せてくれ。この試練、絶対に成功させてみせる」


 俺が言うと、お不動さんとちんちくりんの地蔵マンは姿を消した。

 さあ、どうしたものか。

 ニコの事ならわかるが、あいつの事は全くわからない。

 とりあえず、話しかけてみるか。


「よう、ぼうず。なんで積みあげたもんぶっ壊すんだい?」


 ガキは何も答えなかった。

 俺がガキに近寄ろうとすると、賽の河原の鬼たちが俺の肩を掴む。


「おうチンピラァ、おどれはこっちや」

「ワシらとちょっとお話しよか?」

「ここじゃ、ふうが悪いけ、のう?」


 河原のほとりから少し離れた、子供達から見えねえところで、俺はボコボコに鬼に殴る蹴るされる。


 あれだわ、多分さっきの件のケジメか?

 いや、違う、これは情念が混じった、本気でケジメいれてるヤキの入れ方。


「おどれがあの子の親か!? このボケ、カス、コラァ!」

「わりゃあ! ええかげんにせえよゴラァ!」

「あがーに、あの子がいちがいなったんは、お前のせいじゃ!」

「あの子が成仏できへんのはおどれやボケ! 死ね! 死にくされ!」


 あのガキの事か……。

 お不動さんは言ってた、俺が犯した業の中でも最悪な非道だと。

 そして、親分は言ってた……真実を知れば俺の精神が耐え切れないだろうと。

 だが、俺が犯した前世の最後の罪、これに向き合ってけじめをつけてやる。


「その辺にしておけよ、貴様ら」


 俺のヤキを止めてくれたのは、魔獣の姿になった兄貴だった。

 兄貴……すまねえ。


「公爵様、せやけどこのチンピラ……」

「ワシらこがぁな外道許せませんぜ」

「こいつ、いてまう許可もろうてええでっか?」


「私がやめろと言ったのだから、やめだ。私をなめてるのか貴様ら?」


 兄貴が一喝すると、鬼たちは一斉に兄貴の前に正座する。

 兄貴、マジで冥界じゃ顔役なんだな、あっちの世界では犬っころの姿してるけど。


「マサヨシよ、この鬼たちはあの子の面倒を、百年以上も見てきたのだ。親である貴様は、こ奴らからこのような仕打ちをうけてもしょうがないのだぞ? わかるな?」


 百年以上?

 そんなにも長く、俺のガキの魂は成仏しやがらねえのか。

 多分、俺が生み出したなんらかの未練のせいで……。


「わけを、話していただいてもよろしいですか? 兄貴」


「できぬ、これはお前が解決すべき試練。さあ、マサヨシよ、今こそ全ての罪を清算するのだ」


 こうして、俺は自分のガキと向き合う。

 何から話せばいいんだろうか、俺は極道の親になったことはあるが人の親になった経験はねえ。


 そして、俺はこいつに何一つ親らしい事をしてやれなかった。

 無様で哀れに死んだ、清水正義としての俺は。

 冥界魔法で心を読もうとするが、かたくなにコイツの心は閉ざされたまま。


「お兄ちゃん」


「あん?」


 すると、ガキの方から俺に話しかけてくる。


「オイラ、夢を見てたんだ。こことは別の、違う世界の夢。オイラは村のお父ちゃんに育てられて、でもお父ちゃんは悪魔に殺されて、そしたらお兄ちゃんとそっくりな人、親分が色々助けてくれて、友達が出来て、好きな女の子もできて旅をする夢、楽しかったけど女の子を守ろうとして、目が覚めちゃった」


 それは夢じゃねえよ。

 俺と、おめえの大事な冒険の記憶だ。

 そして、こいつに確かめねえといけねえことがある。


「なあ、ぼうず、名前なんて言うんだ? お母ちゃんの名前は?」


「オイラの名前はマサト、佐々木正人。お母ちゃんの名前は……京子」


 佐々木京子、まさかこいつは、俺とキョーコのガキか!?

 そして、こいつの名は正人……俺の名前の一文字を入れたのか、あの女。

 俺があいつの人生をぶっ壊しちまったのに……。 


 あれは、俺が組を持つ前の話だった。

 20歳の時、俺はジゴロのマサと呼ばれてて、派手に夜の街で遊び回ってた。

 もう目に付く女は、みんな口説き回って俺の女にしてやったね。

 そして飽きたら、兄貴分にその女あてがうか、赤線の女衒屋に売り飛ばしたりしてた。

 アレだ、俺の若い時はトルコって言ってた、ソープランドとかに女売るのね。


 それと、ヤスと一緒に夜の街でチンピラ相手にかつあげするのが、20歳の俺のシノギだった。


 手っ取り早く金になったからな。


 一応、街の人間の相談に乗ってやったり、年寄りとか子供とかも助けてやったよ?

 特にガキが困ってるのは見過ごせなくてな。

 借金のキリトリとか、ダフ屋とか、競馬や競艇とかのノミ屋の手伝いもしてた。

 けど、自分で言うのも何だが、転生前の若い時の俺はクズよクズ、はっきり言って。

 

 当時、俺のいた組の縄張り(シマ)繁華街で、いくつも組があった。


 そして俺の組よりもでかかった組が、佐々木組だった。

 あいつは、キョーコは佐々木組の組長の一人娘で、まだ学生だった。

 いい女だったよ、俺が言うんだから間違いねえ、激マブの上玉だ。


 そんでな、うちらの組はどうしても佐々木組の縄張り(シマ)が欲しかった。

 当然そうなれば、抗争(けんか)よ。

 そして俺は女衒のジゴロなんかで食うよりも、抗争で男を上げたかった。

 だって、手っ取り早く金になるとはいえ格好悪いだろ?

 

 そして俺とヤスの伝説の始まりだった。

 もうね、俺もヤスも派手に暴れたよ、名前売りたかったからな。

 銀幕で見た、健さんみてえによ。


 そして、俺は佐々木組の組長の(タマ)を取りたかった。


 当時の抗争は、相手の親分の命取っちまったら、後から出て来る、よその組の仲裁人が困るっていうんで、褒められたもんじゃなかった。


 だが、あそこの縄張りを手に入れて、相手の親分の命とったなら、俺の組内の評価は上がり、若頭(かしら)もヘマして懲役でいなかったから、その席に座るのも夢じゃねえと思ったのさ。


 そこで利用するために俺が近づいたのが、京子さ。

 あいつは、男を知らねえウブな女だったからな、コマすのは容易だった。

 ヤミーとの最初の裁判の時、ふいにあいつの事を思い出したぜ。


 そして、俺は身柄隠してる組長の佐々木の居場所を聞き出して、ぶっ殺した。

 俺が人生最初に犯した殺人だった。


 人をぶっ殺す感覚?


 若手の刑事(サツ)や、世間知らずの検事とか、世間一般の素人さんは良心の呵責とかねえのかって、よく聞く話だ。


 はっきり言う、ねえよ、ほとんどな。

 俺は組の為に仕事をしたって満足感と、自分が上り詰めるこれからの極道人生(キャリア)の足しになって、ぶっ殺した奴へ、俺の為にありがとうって気持ちだったぜ。


 ていうか、人ぶっ殺すのに一々良心の呵責に苛まれてたら、武闘派ヤクザなんてやってけねえっての。


 だが転生前、年を経るたびにふいに思い出した。

 俺がぶっ殺した野郎達の事を。

 多くの屍の上に、今の俺があるって気持ちさ、わかるかなあ?

 俺がぶっ殺した奴、俺の命令で命を落とした若衆たち。

 そして俺の組織のせいで、不幸になって死んでいった人たち。


 あいつらにだって人生や、やりたいことだってたくさんあっただろう。

 それを俺は、奪ってきちまったわけだ。

 組の為、子分達の為って言い訳してた、俺の欲の為に。


 今思うとはっきり言って、クズのような人生だ。

 あの世界の子分共や、女共には言えねえ俺の裏の顔よ。

 口では、勇者だの任侠道やら世界を救うなんて言っているが。

 ていうか言えねえよ……俺を思ってる奴らに、前の人生でどんなクズな事をしてきたかなんて。


 だから、あの世界の俺の子分達には、こんな外道にはなってほしくねえ。

 親心でもあり、切なる俺の願いだ。


 ヤミーは、そんな俺の極悪な部分を知っている。

 知ったうえで、こんなクズの俺に惚れちまったようだ。

 だから、あいつには俺なんか相応しくねえ。

 神として、女として幸せになってほしいからな。


 おっと、話の続きだったかな。

 その後、うちらの組は佐々木組の縄張り(シマ)を奪った。

 そして、功労者の俺は組織の中で頭角を現し、若くして若頭補佐、名目上の若貸しの幹部になったよ。


 そんで1年も経たないうちに俺は組の若頭になり、30前に組を任された。


 その後の、京子の足取りはよくわからなかった。

 俺は、あいつの親の仇だったし、警戒はしていたよ。

 だって、佐々木組の残党も姿を消しちまったしね。


 だがいつしか、俺は京子の事なんか忘れちまってた。

 そして、俺が念願の自分の組を手に入れて、しばらくした日……。

 このガキが、俺の組の事務所に現れた。


 そうか、こいつは俺の、京子の子供だったのか……。

 どうして俺の前に現れたんだ?

 

「なあ、マサトだっけ? いや、ニコよ、おめえが、見たのは夢じゃねえ。俺はおめえの親分、俺の最愛の子分だ。だからよお、おめえの心のうち、見せてくれねえか?」


 マサトは、俺の目をじっと見る。

 そして、俺を見て静かに涙を流してうなずいた。

 思い出してくれたようだな、じゃあ、おめえさんの心の中、覗かせてもらうぜ。


「いくぜ、深淵(アビス)


 俺は冥界の上級魔法を使って、こいつの心の中を見る。

 こいつの人生に、何があったんだ?


 そして、俺はこいつの人生をすべて垣間見た。


……死のう、俺みたいな外道は死んじまったほうがいい。


 俺は踵を返し、三途の川に飛び込んで死のうとした。


 すると、俺の意識が飛び、閻魔大王様の元にくる。

 そうか親分は、俺の為に……。


「すべてを、理解したようじゃのマサヨシよ」


 親分は、葉巻を加えて煙を吐く。

 とても、悲しそうな顔をしている。


「へい、自分みてえな外道は、死んじまったほうがいい、魂の消滅を……」


 すると親分は、葉巻を吐き出し、立ち上がって俺を思いっきりぶん殴った。


「逃げるな! 貴様が生み出したあの子を救わんで、あの世界を救えるのか! この試練、逃げることを許さん。死んで楽になろうと思うなよ貴様」


 親分は俺の襟首を掴んで顔に引き寄せる。

 この親分の命令は絶対だ、だが俺の心は、転生後初めてにして、最大の壁にぶち当たった。


 俺がしでかした、転生前の清水正義の最大の過ちに。


 マサト、ニコよ……すまねえ。

 俺はあの世界を救う資格がねえかもしれねえ、それだけの罪を犯しちまってた。


 そして、何より許せねえのは、それを無自覚にやっちまってた事。

 自覚してる罪ならば、向き合う事は可能。

 だが、これは……。


「親分、俺は、どうすればいいんでしょうか? どんなケジメの仕方をしても、あいつに」


「貴様で考えるのじゃ! これは、貴様が犯した最大の罪じゃ! 我が救うのはたやすいが、第二の試練、最後のお主の罪の清算、これができねばお主は、本来の魂のあり方と向き合えん。己の心を、正義を、そしてあの世界におる貴様の愛する者たちを信じよ、それがこの試練を達成する鍵じゃ」


「へい、わかりやした。それでは、お願いしやす」


 俺の体は、賽の河原に戻り、マサトと向き合う。


 こいつは……。


 俺を殺すためだけに生まれてきた。

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