第83話 代行
お控ぇ成すって、お控ぇ成すって!
そちらにいらっしゃるお兄さん方、お姉さん方、お控えなすって!
小説家になろう軒下を借り、遅ればせの仁義、失礼さんでござんすが、これよりあげます言葉のあとさき、間違えましたら御免なすって!
これより軒下三寸を借り受けまして、転生前、転生後の稼業、仁義、発します。
手前、生国は、戦乱渦巻くアルフランド大陸の北端、デヴレヴィ・アリイエ王国、西の最果て、潮騒の香りがする、デーバ町となりやす。
その更に外れにありやす、海沿いの教会において、僧侶としての修行三昧の日々を、送ってはおりやしたが、故郷と育ての親全てを、失いやした。
転生前の性は清水、名は正義。
日本最大最強の極道、極悪組6代目を、恥ずかしながら称しておりやしたが、もはや前世に未練はありやせん。
転生後の性は無く、名はマサヨシと申しやす!
人呼んで、誰が名付けたか勇者マサヨシ!
閻魔大王親分のご配慮により、仁義なき異世界に転生しやした、まだまだ半端者でござんす!
舎弟、子分達に恵まれて異世界で「新生極悪組」を立ち上げやした!
閻魔大王親分から盃を頂戴し、閻魔の姫ヤミーに導かれ、手前の業の清算の為、精霊王、転生前の最愛の舎弟、魔王軍、神界の最高神、名だたる相手に切った貼ったの喧嘩三昧の日々を送り、ようやく勝利を収めることが相成りやした。
しかしながら大魔王と魔神の策略で、勇者としての名声も、最愛の子分も失いやした……。
全ての因果と黒幕たちに、手前の落とし前をつけるため、そしてもはや仁義を失ったすべての世界を救済するため、手前の渡世人としての意地、任侠道を貫くため、そろそろ旅の終着点をむかえる次第でござんす!
最後までお兄さん、お姉さんのお引き立て、よろしくお願い申し上げやす。
僕の名はグルゴン。
極悪組のみんなからは、ブロンドの名で呼ばれているエルフの王でもあり、極悪組の若衆となっている……みんな僕よりも年下だけど……。
最初は人間なんて信頼してなかった。
ドワーフもホビットも、敵対していた悪魔も。
皆、野蛮で愚かで欲にまみれた、耳が短い劣等種族と、僕は教えられてきた。
この極悪組も、望んで入ったわけじゃない。
マサヨシと名乗る人間、親分から暴力を受けて、祖母の了承があったとは言え、無理矢理入れさせられた。
親分は僕たち子分には、時には厳しいけど時には優しくて、本当は愛情深い人かもしれないが、あの人の性格には、品がないし、口汚くてガサツだし、声はドワーフ並みに大きいし、スケベで、すぐに暴力を振るう、まさに言い伝えられた人間種そのもの。
元々親分は、この世界の人間ではなく、日本という異世界の国で生まれた、ヤクザとか極道とか渡世人とか呼ばれてた人だったようで、あんな人がいっぱいいる国とか想像すると、多分ロクな国じゃないと思う。
冥界から来た女神ヤミー様も、背が低くて性格も悪そうで、本当に神なのか疑った。
なぜなら、事あるごとに親分を蹴飛ばして、高笑いとかしてるし、他の女の人に時々冷淡な態度を取るし、この人もすぐ怒る。
けれど、僕たち子分が困っていたら、犬のオジキと一緒に、色々と助けていただいた事もあった。
いつ頃だろうか、僕はこの極悪組を、親分を、種族が違うが兄弟達を、共に食事をし、共に汗をかき、共に戦い、共に遊戯に興じて、みんな好きになっていた。
ニコの兄貴、僕よりもはるかに年下だけど、子分の中で一番強くて、僕の初めての人間の友達。
今、兄貴、いや若頭は、悪魔達の手により、機械の力で心臓が動いている状態で、アスモデウスという女悪魔が提供してくれた、かぷせる治療と言う方式で治療してる。
だけど肝心の意識……魂が戻らなければ、ずっとこのままだそうだ。
天空の神、ゼウスのせいで。
ホビットの王女、メリア殿は、若頭のかぷせるの前で、目覚めの時を待っている。
もう二度と、目覚めないかもしれないのに。
親分も、あの恐ろしい姿になった日以降、口数が減り、よくわからないダジャレとかいうものや、女の人に声をかけることもやめてしまい、食事も満足に取らず、ガルフから酒を貰って、自室にこもってしまってる。
そして、たまに部屋から出ると酒臭い。
ドワーフ達と同じ匂いがする。
ドワーフ……僕たちエルフとは敵だった。
背が小さく、馬鹿で乱暴者で凶悪な種族と教わった。
けどそれは違っていた。
彼らは乱暴者だが、凶悪ではなかった。
むしろ心根が素直で、物事をはっきりさせる性分で、とても情が深い種族だ。
それを言えば、僕らエルフのほうが凶悪だった。
戦争の物資調達の名目で、矢の原料となる、ホビットの鷹を狩って、非情にも多数のホビットらの命を奪ったのだから。
長い間戦争を続けて、僕の父上も母上も戦争で死に、精霊王フューリーのせいで男も生まれず、僕たちエルフ、いやホビットもドワーフもマサヨシ親分がいなかったら、滅びていたかも知れない。
マサヨシ親分の凄い所は、どんな相手だろうと、自分の信念の力で勝利を信じる、勇気と義侠心、勇者の心。
僕にはまだそれはないが、きっといつの日か僕も……。
今僕らは人間種の、コルレドの叔父さんが建国した、共和国連邦東部、それとロンのおじさんの皇国と呼ばれる国家の西部に位置する、国境の平原地帯で野営している。
魔界の悪魔達は、僕ら極悪組の傘下となり、彼らは、自分達の空飛ぶ機械船を中心に、テントを建てており、たまに人間の国から斥候が来るが、その度に追い払っている状況。
親分から言われた、ガイウスという男の襲撃は今の所はないが、僕らは準備が整い次第、精霊領域に一旦立ち寄ってから、東の大陸へと旅立つ事になっている。
親分が言うには、人間世界の教会勢力や各国より、指名手配というのを受けているから、ほとぼりが冷めるまで、身を隠すと言う話だった。
けど親分は頭がいいし、ただでは転ばない人だ。
僕らの傘下にした、マフィアという人間のごろつき共を、人間の街に潜伏させて、何かあったらすぐに報告させるよう、手筈を整えてる。
そして、親分とヤミー様が試練の為に冥界に出掛けてしまい、ニコの若頭の代わりに、僕が若頭代行、極悪組の運営を一手に任された。
マサヨシ親分からは、エルフ王だった経験を買われて、お前がこの組をまとめ上げろと言われたが、僕はエルフ王とは名ばかりのお飾りで、実際の国家運営や催事は祖母が行っていたから、何をしていいのか、正直よくわからない。
こんな時、ガルフに殺された父上ならば、どうしただろう?
父上、偉大なるエルフ王。
僕と同じ黄金に輝く髪と青い目を持った、歴代エルフ王国最強にして、最高の知性を持つと呼ばれた、王の中の王にして、弓と魔法の名手。
王とは何かの、帝王学は祖母に授けられたが、実際に頭で考えている理想と、現実に実行するとでは、難しい問題。
賞罰を明らかにし愛憎ふりまわすことなかれ。
民に公平に好悪に偏るべからず。
王たるもの表情にだすべからず。
決断は迅速に、謀は慎重に行うべし。
祖母から言われていた帝王学が、親分にはほぼ当てはまらず、若頭代行として、どう振る舞えば良いのか、正直よくわからなかった。
ここは客分の人間にアドバイスを貰おう。
僕はまず、ロンのおじさんに相談した。
「ふむ、お前が先人より授けられた帝王学は、正しい。しかし状況によっては、そうとは言えぬ場合もある。どんな種族にも言えることかも知れぬが、生まれ持った、気質というものがあるのだ。余は問うが、お前はこの集団をどうしたいのだ?」
僕がどうしたいか?
今まで考えてこなかった問いかけだった。
親分やニコの若頭に、そして国にいた時は祖母に任せきりで、ただ言われたことだけを、やっていたけど、僕は……。
「僕は親分から言われました。僕がニコの次を継ぐ。最後まで生き延びて、弱気を助け強きを挫く崇高な精神を、後々の世まで伝えるのが使命だと」
「それならば、生き残るために、最善の策を講じるべきだろう。余が見たところ、お前はかしこそうだが、それだけでは生き残れない。強さと、したたかさを磨くべきだ」
強くしたたかに……。
僕に足りないもの。
次に僕は、アレクシアさんに話をうかがう。
冷酷で邪悪だった人間の元女王。
そして、頭脳は親分を凌ぐという。
最近は、親分に言われてオジキの世話や、僕やエルフ達が親分に教えた、役に立つ植物の研究や、花などの栽培で、自発的に鉢の水やりなどをしているようで、どこか酷薄だった表情が、少しだけ優し気な顔つきになってきたように感じる。
「強くしたたかに? それは、あなたの生まれ持った資質が影響してくるでしょう。私が見たあなたは、あのニコと違って未熟で弱い。殿方であれば、強くあるべきです。私のマサヨシ様のように」
やはり実力が不足しているのか。
僕の強みは弓と、植物の知識しかない。
一応レイピアや風の精霊魔法も使える。
エルフなら誰でもそうだけど。
「あなたにしか出来ない強みを、伸ばすべきでしょう。せいぜい、マサヨシ様のお役に立つ事です。ああ、マサヨシ様、私の最愛のお方……次に冥界から帰ってきた時は、あの女神を名乗る黒ゴキブリを引き離して……私はマサヨシ様と……」
ダメだこの人。
今、頭の中が陰謀か親分しか頭にない。
少し怖くなった僕は、コルレドの叔父さんに話を聞きに行った。
「強さと、生き抜くためのしたたかさ。あっしにとっては銭ですよ、ブロンド君」
お金。
自然と共に生きるエルフにない概念だ。
親分も似たような事を言っていた。
けれど、僕にはいまいちよくわからない考え。
生きるためなら、植物や昆虫を採取したり、獣やモンスターを狩ればいい。
なぜ人間はお金なんか使っているか、文化が違いすぎて、意味がわからない。
「なんでお金って必要なんですか?」
僕の問いかけにコルレドの叔父さんは少し考えて、こう言った。
「銭ってのは、何でも交換できちまうし、持ち運びが楽なんですよ。マサヨシ兄貴の銀行制度で、さらにそれが楽になりやした」
何でも交換出来るのがお金。
でも、どこまで交換が出来るのだろう。
「なんでもと言うのは、例えばどう言う物を指すのですか?」
「食べるものや、希少素材、武器、情報、異性の愛や他人の行動、時には命や心まで買えます。それが銭です。だから銭は、あるに越した事はないんです、生きるためには」
何でも交換できてしまうのがお金。
そして、お金は貯めておくことが可能だと言う。
確かにお金と言う物はすごい、けれど……
「お金で交換できないもの……はあるんですか?」
「ありやす、それは信頼です」
信頼……人と人とが信じあって頼り合う心。
僕たち、極悪組のような関係。
「いいですか? ブロンド君。銭と言う物は信頼で成り立ってやす。銭は命よりも重いが、信頼は銭よりも重いんです。人を信じる力は何よりも尊い。信頼が無くなれば、持っている銭はそこらに落ちてる塵芥と一緒、価値がありません。兄貴は、それを誰よりも考えています」
コルレドの叔父さんの言葉で、親分の言っていたことを思い出す。
「俺が転生前やってた、外道でヤクザな生き方ってのはな、お前らは真似しちゃダメなんだ、人様からの信頼を失うからな。お前たちは、世界から、世間様から信頼される男になれ。人様に後ろ指差される立場になっちゃいけねえし、お前らにそれをさせるつもりはねえ。だから、この極悪組のみんなを信じろ。みんなから信頼される男に、お前らはなれ」
親分は人間達からその信頼を今失っている、敵の策略によって。
僕たちが親分を、人々から信頼される立場に、親分の名声を取り戻す。
これは親分が言い出したことじゃないが、それをするのが僕たち子分の役目だ。
「信頼される人になるには、どうすればいいでしょうか?」
僕はコルレドの叔父さんに聞いてみる。
この人は親分が認めた人だから、僕が進むべき道の答えを持っている筈。
「ブロンド君、君のできることは何ですか? できないことは何ですか? 君は信じるに足り得る人ですか? それを行動で示しなさい、君にはそれができるでしょう?」
僕のできるところを行動で示す。
そしてまだ僕は弱い。
人に信頼されるためには、強くならなければならない。
そして僕は弓の腕を磨く。
弓は、親分が新しく仕立て直してくれた。
親分の世界にある最新の弓だそうだ。
特徴的なのは、ドワーフに作らせた丈夫な金属の歯車がこの弓についてる。
そして、エルフが使う弓よりもかなり小型で形が独特。
その形は、まるで、蝙蝠モンスターの骨格のような形をしていた。
何と言っただろうか、コンパウンドボウ?
よくわからないけど、大人のエルフでも引くのがやっとの張力が、嘘のように軽い。
親分は言ってた。
「俺の世界ではよお、ピストルとかぶっ放すと銃刀法違反とかになるから、喧嘩で弓とか使えるんじゃね? とか言う話が出て、ボウガンと一緒にこれ作らせたことあるのよ。でも、弓とか使えねえボンクラばっかだったし、獲物がでかすぎてサツの職質遭うから、やっぱ無理じゃねって話になったがな。けど威力はやべえぞ? おめえがまず使ってみろ」
そして、成人のエルフであるならば、一分間に最大20本射てて、10ファクト(1キロ)先の、鳥を撃ち抜くのが、当たり前。
正直いうと、僕はまだこの域には達してない。
だが、速射力なら誰にも負けない自信がある。
まずはその辺の棒切れと、尖った石の矢尻で作った粗末な矢で、遠当てと速射の練習をする。
どんな劣悪な、最悪な状況でも、戦えるようにしておくこと。
親分が言ってた教えだ。
僕が弓を射ってると、別に僕が呼んだわけでもないのに、顔を赤らめたエルフ騎士団が、時折歓声を上げて様子を見ているが、練習の気が散るので今は帰ってほしい。
そして密かに僕が練習している技がある。
人間が使う土魔法。
これを習得して、軽い金属の矢を作れば、一々背中に背負った弓袋から、矢を取り出して弓へつがえる動作が省略できる。
金属、エルフの生活に無い物。
全て木や植物、そしてモンスターの素材で補えるので、使うとしたらドワーフとの戦争中、相手の鎧を貫く時に、特別に金属加工した矢を使う事くらい。
そして僕には、土魔法で金属を作るほどの魔法の腕はないが、これなら作れる。
僕がイメージして作ったの矢は、土に炎の魔法で手のひらに具現化できる、真っ黒く焦げ付いたガラスのような矢。
見た目とは裏腹に、とてもしなやかで鋭く丈夫に出来ている。
試しに親分に見せたら、物凄い驚いた顔をして、おめえこいつは俺が元いた世界の、カーボンとかグラスファイバーってやつだから、おめえ今度それたくさん作って行商人に売れよ、シノギに使えるぞって言ってたっけ。
それと親分は武芸一般にとても詳しく、弓の心得もあるようだった。
自分にはできないが、お前はできるようになれと言われた言葉。
弓道は正射必中。
正しい姿勢、正しい心の射法で射られた矢は、必ず中ると。
そして、僕は魔法で具現化した矢で、板のマトに向けて弓を連射した。
全て的の中心に矢が当たる。
エルフならばできて当たり前だけど。
でもこれならば、秒間で最速5発は撃てる。
矢を5つほどつがえれば、多数の敵や巨大な相手にもダメージを与える事だって可能。
あと、僕が新しい技をせっかく編み出したのに、いちいちエルフ騎士団から歓声を上げるのはやめてほしい。
集中力が削がれるし、なんか恥ずかしい。
「どーーーーーん、なのだ!」
背中に物凄い衝撃が来て、吹き飛ばされる。
ベリアルとか言う悪魔だった。
僕を吹き飛ばした後、物凄い速さで逃げ出し、後ろを、ガイ、マシュ、オルテが追いかける。
「隙ありなのだ。タッチしたからお前が鬼なのだ」
「逃げろ」
「ブロンドすばしっこい」
「鬼にすると厄介」
僕はため息をついて、兄弟達を追いかける。
こんな事をしている場合ではないけど、彼らと一緒にいる時が一番楽しいから。
「貴様ら! いつまでも遊んでないで対策会議だ!」
アイナノア陛下、いやレオーネ補佐から叱られる。
傍らにいるのは新たに客分として招き入れた、レオーネ補佐のお父上。
人間の王国の伯爵で、今王国の首都は共和国連邦に占領され、この人は全てを失った。
そしてこの人、どことなく僕の父上に似ている気がする。
親分不在の時、この組を実質仕切っているのはレオーネ補佐だ。
エルフのみんなも薄々感じているが、彼女は伝説のエルフの女王ではない。
だけど、みな彼女の指示通り動く。
それこそが信頼の力だと思う。
そして、僕がひそかに思いを寄せる女性……。
いつか、彼女に僕の事を認めさせる事が、目標でもある。
そして、僕達を遠巻きに目て、不敵な顔をしているドワーフ王ガルフ。
いつの日か、父を奪ったこいつにも僕の力を認めさせてやる。
僕が今後会得しなければならない、信頼の力で。
マサヨシの子分から見た極悪組の面々。
そして物語は後半へと入ります。
(ラストのオチをまだ決めてないけど、どうしよう)




