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仁義なき異世界転生 ~勇者マサヨシの任侠伝~  作者: 風来坊 章
第三章 代理戦争
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第82話 代理戦争 後編

 マサヨシはメリアと、ドワーフのガルフと三兄弟の力が無いとできないプランを実行に移すため、ある確認を取る。


「ようガルフ、地下の採掘で一番困ることってなんだ?」


「うーん、ワシらは鉱脈とか掘り進めるとき、困るのは、岩盤がいきなり崩れ出したり、地下水脈にブチ当たって、坑道が寸断された時じゃ。一時避難する時に、方向感覚を失う事が困るな」


「確かに俺もそんな状況になれば、地理がわかっていたとしても、迷っちまうと思うぜ。けど事前に地下の地理が頭に入ってれば、ドワーフならなんとか迷わずにすむだろ?」


「ああ、ワシらドワーフをなめんな兄者!」

「親分俺達地下で強い!」

「地下の戦い得意!」

「即ち極悪組最強!」


 マサヨシはうなずくと小太刀を抜き、地図を描く。

 そしてメリアに対して、地図通りの地下迷宮を作るように、指示を出した。


「ファミコンってゲームが、俺の前の世界にあってよお、洞窟の迷路のダンジョンっていうんだっけ? 俺達でそれ作っちまおう」


 正攻法で勝てないベリアルを、地下の迷宮におびき寄せ、体力と精神力を消耗させ、冥界魔法を使い、地下に封印する計画をマサヨシは考えた。


「俺が地獄巡りした時によ、ミノタウロスって言う、気合入ったワルがいたのよ。ボコボコにして色々話聞いたら、昔迷路に迷い込んで往生したんだと。ベリアルも俺の迷宮で往生してもらうぜ」


 準備が終わり、マサヨシは地上に現れる。


 地上には戦闘不能になった、神界の神々と地獄の鬼達の体を、積み上げた山の上で、ベリアルが腰掛けており、マサヨシを見た瞬間に満面の笑顔となる。


「みーつけたのだ。勇者、ベリアルと遊ぶのだ」


「おう、遊ぼうぜベリアルちゃんよお」


 マサヨシは、地下迷宮に姿を隠した。

 そしてベリアル親衛団も後を追う。



 一方、女達のプライドを賭けた闘いは、ヤミー達有利に運んでいた。


「クソ、あの女神め! まるで私の行動を予測しているような……そしてやはり攻撃力が高すぎる!」


 ヤミーは、相手の心が読める。

 アスモデウスの攻撃を予測し、金棒を使った凶悪なカウンター攻撃を仕掛けるため、たまらず、アスモデウスも獄炎の火球を連続でヤミーに向けて放つが、ヤミーは冥界と地獄の管理者でもあるため、炎魔法が効果が無いどころか、鬼の金棒で打ち返す。


 そしてヤミーにばかり気にかけると、アレクシアの凶悪な格闘攻撃や銃撃、エルフ騎士団に射る矢を、風魔法を駆使して、変幻自在に操るレオーネの攻撃が飛んでくるため、ひと時も油断ができない戦闘に、徐々にアスモデウスの体力が消耗する。


「アスモデウス様! 我らも加勢に!」


 部下の悪魔達が、戦闘に加わろうとしていた。

 すでに戦争継続の意義もなくしていたが、皆アスモデウスを慕っていた。


「ならぬ! 奴はあの閻魔大王の妹の女神、貴様らが来ても絶対に勝てぬ!」


「しかし」


「くどい! 私の雄姿、その目に焼き付けよ!」


 自分を慕う多くの部下たちの手前、もはや引くこともできなくなったアスモデウスは、更なる奥の手を使うため、右手を掲げて人差し指にはめた、竜の指輪の効果を発動させた。


「出でよ魔界の竜、我が愛騎カイザードラゴン」


 全長数十メートル、十の真紅の角を生やし、漆黒の体色と翼を持ち、腹部が紫色に光り輝く、二足歩行が可能な魔界最強の竜を指輪の転移装置を使って召喚し、魔界の悪魔達はその姿に喚起し、アスモデウスコールが巻き起こる。


 そして、アスモデウスがドラゴンの頭に跨ると、アスモデウスの下半身が竜に同化し、彼女の美しい顔が、漆黒の羊毛を生やしたような、毛むくじゃらに変わり、ドラゴンが雄叫びを上げた。

 

「ふむ、醜いのう」

「気品を感じられませんわ」

「正体を表したな化け物め!」


 女達が、口々にアスモデウスの姿を揶揄しながら、侮蔑の表情を向ける。


「黙れ! この姿だけは、あの男に……マサヨシに見られたくない私の切り札だ! こんな姿を貴様らに晒してでも、私はあの男を……お前達に負けたくない!」


 アスモデウスは涙を流しながら、両手をヤミー達に突き出し、魔界魔法、四元素の魔力を最大まで高め、自分の前方全てを消滅させる呪文を放とうとしていた。


 魔界の竜と同化したアスモデウスの魔力に、レオーネは絶望しかかり、アレクシアも冷や汗をかくも、ヤミーは目を閉じると、マサヨシにも使えない冥界最強魔法を展開する。


 上空に巨大な魔法陣が幾重にも浮かび上がり、ヤミーは両手を突き出した。


原子爆発(エレメントバスター)

無限地獄(インフィニティヘル)


 竜と同化したアスモデウスの破滅のエネルギーに対して、ヤミーは無限地獄を具現化する。

 

 無限地獄は、あらゆる光も物質も質量も無にする事象の地平面。

 ブラックホールと同様の効果を持ち、あらゆるエネルギーを吸収して無にする。

 そして、魔法の調整を間違うと、重力崩壊を起こし世界そのものを消滅させてしまう。


 マサヨシと会う前の彼女ならば、魔法が暴走して世界を滅ぼしていたかもしれない。

 

 だから今まで使えなかった。 


 しかし、今の彼女には神としてこの世界を守る強い意志があった。


 女神としての成長が、この魔法を使いこなせるまでに至る。

 

 アスモデウスは全魔力を吸われたため、一時的な行動不能に陥った。


「隙ができました、絶対零度(アブソリュートゼロ)


 アレクシアも自身の最強魔法を使い、カイザードラゴンの体を一時的に凍結させる。


 レオーネは風魔法を使ってヤミーの体を浮遊させ、金棒を持ったヤミーはアスモデウスと対峙し、お互いを見つめ合う。


 ヤミーの体から神のエネルギーが満ち溢れていた。


 マサヨシと旅をして、この世界の人々から集めた信仰のエネルギー。

 

 そしてヤミーは、打席に立つバッターのように金棒を振りかぶった。


「アスモデウスといったかのう? 我が裁いてやるゆえ言い残す言葉はないか?」


「もう、私の部下には手を出さないでほしい」


 アスモデウスは、死を覚悟して目を閉じた。

 多くの悪魔達がアスモデウスを見て涙を流している。

 最後まで、部下思いのいい上官だったと。


 ヤミーは、金棒をフルスイングする。

 しかし、金棒が当たる瞬間アスモデウスの心の中に思い浮かんだ言葉で、金棒を寸止めした。


「なぜ、殺さない?」


 アスモデウスはヤミーに問う。

 ヤミーがアスモデウスの心の中を読んだ時に浮かんだ言葉。

 それは、マサヨシへ助けを乞う乙女の叫びだった。


 極悪ながら、どこか憎めなくて人情味がある、自分の好きなあの男なら、こういう時、こんなことを言うのだろうなとヤミーは思い、アスモデウスに告げる。


「もう二度と、この世界の人間を傷つけないと我に誓え。さすれば貴様と貴様の部下の命は取らぬ」


 ヤミーが金棒を、アスモデウスの顔に突きつけた。

 アスモデウスは、部下の悪魔達を見やる。


「わかった……誓う」


 アスモデウスは竜との融合を解いて、ヤミーに片膝をついてひれ伏して降伏する。


 女たちの意地をかけた戦いは終わり、魔界各国の代理である魔王軍との戦いは終結した。


 

 一方、地底では極悪組とベリアル親衛団のゲリラ戦が展開されていた。

 地下の迷宮で悪魔達を様々なトラップが襲う。

 マサヨシが地獄めぐりで経験した、極悪な罠の数々。


 あるものはニコとメリアによる土魔法で、フロアごと生き埋めになり封印され、またある者は、ドワーフ三兄弟達に誘き寄せられ、悪魔の屈強な巨体では動きにくいような狭い通路で、隠し通路から現れたマサヨシの小太刀で腹を突き刺され、深い穴に落とされて銃撃を受けた後、とどめに爆破されて生き埋めになり、封印される。


「へっへっへ、転生前に広島の縄張り(シマ)荒らした時、繁華街で広島の極道らの、チャカやドスがすっ飛んできたり、ガラさらってくるゲリラ戦くらって往生したがよお、今の俺が悪魔野郎に同じ目に遭わせてるとは、因果な話だぜ」


 マサヨシは、恐慌状態に陥ったベリアル親衛団を見て、ほくそ笑んだ。


 そして、ガルフの火責めで酸欠状態になったり、エルフのブロンドが仕込んだ、毒矢や睡眠ガスのトラップに加え、巨石や水攻めなどの数々の嫌がらせにより、ただでさえ神々や鬼たちの戦闘で消耗した、ベリアル親衛団は、精神的に追い込まれる。


 ただ一人を除いては。


「おお、なんか面白そうな箱を見つけたのだ」


 ベリアルは、地下迷宮で宝箱を見つける。


「これ絶対、あれだよな?」

「ああ、開けたら爆発したり天井とか崩れるパターンだよ」


 ベリアル配下の悪魔達は嫌な予感がして、身構えた。

 

 そして、宝箱を開けた瞬間、封印魔法で封じたマサヨシの水蒸気爆発がさく裂する。


 岩盤が崩壊し、岩雪崩が悪魔達を襲うが、ベリアルは展開した炎の障壁で無傷だった。


「ぎゃあああああ、やっぱりいいいいい」 

「ベリアル様あああ、もう少し慎重にいいいい」


 親衛団がベリアルに懇願するが、ベリアルは楽しそうにはしゃぐ。


「楽しいのだ! 勇者も面白いことを思いつくのだ!」


 様子を陰から見ていたマサヨシはため息を吐きながら思った。


 全然堪えてねえ、あのガキと。

 

 そして、ついには部下ともはぐれたベリアルが、狭く長い通路にさしかかる。


 この場所は、地上に続く空気穴が掘られ、酸素の供給が十分。


 マサヨシは決着をつけるため、炎と風と冥界の魔力を高め、チャージに時間がかかるが、必殺の一撃。


 両手を合掌し、包み込むように魔力を溜め、右脇に両手首を運んで魔力をチャージする。


 そして半身になって、足を肩幅くらいに開き、腰を落として地面に踏ん張った。


 地獄巡りで習得した、兄貴分の技。


 自分の前方にいる直線上を焼き尽くす、焦熱地獄の恒星の光。


「いくぜ兄貴直伝、地獄の火炎(ヘルファイア)


 両手を突き出し、マサヨシは青白い炎のエネルギー波を打ち出した。


 極太のレーザーのような光が、ベリアルを包み込み、地中を貫通していく。


 そして、光が通った後は、青白い炎と共に土がガラス状に焼き付いていた。


「すげええええ、魔力消費やべえけど、転生前に俺の組で事務所当番サボりやがった、ボンクラにゲンコツいれて取り上げた漫画、ドラ●ンボー●の、かめ●め●みてえだぜ、ハッハー!」


 マサヨシが、今度この魔法をマサヨシ波とでも名付けようと思った時だった。


 辺りの酸素を燃焼し終え、青い炎が消えた瞬間、金色の瞳が地中で光り輝く。


「今のは、なかなかすごい魔法だったのだ。今度はベリアルの番なのだ」 


 ベリアルがマサヨシまで歩を進める。

 マサヨシは化物がと思い、歯ぎしりして小太刀を構える。


 この地中の狭い空間では、マサヨシが具現化した刀は、長すぎて使えなかったためだ。

 

 そして、マサヨシは一か八かの賭けに出る。

 魔法が通じなかった場合の賭け。

 マサヨシはその場から飛びのくようにして、後方2メートル地点に着地する。


 ベリアルを見据えながら小太刀を鞘に戻して正座した。


「勇者、疲れたのか? 死ねば疲れが取れるのだ。ベリアルが楽にしてやるのだ」 


 マサヨシはこの一撃にかけるため、気を集中させる。


 実戦で使うの初めてだったが、自分の勝負勘を信じて小太刀の柄に手をかける。

 

「それじゃあ行くのだ、キーーーーーーーーーーン、トウッ!」


 ベリアルがマサヨシへ間合いを詰めて、飛び蹴りを繰り出した。


「心形の心得とは、之すなわち浮雲の如しなり……極意、虎一足!」


 マサヨシは小太刀を抜刀し、ベリアルの特殊ブーツが顔面を打ち抜く刹那、立ち上がりつつ半歩後ろに下がるのと同時に、払うような斬撃を繰り出した。


 魔界の特殊合金ブーツと、アダマンタイトの刃が衝突し、激しい火花が散る。


 マサヨシの繰り出した技は、相手の攻撃を避けつつ打ち下ろし、二撃目に必殺の一撃を繰り出す居合道の極意。


「はは、なかなかやるのだ! トウ!」


 ベリアルが今度は空中で体を捻転させて、左の前蹴りを繰り出すのと同時に、マサヨシは小太刀をベリアルの左足目掛け、渾身の斬撃を繰り出した。


 これもベリアルの特殊ブーツに阻まれ、足を切断することはできず、アダマンタイト製の小太刀の刃がへし折れ、同時にベリアルが着地する。


 その瞬間、ベリアルの足元が崩れ落ちた。

 マサヨシが、メリアに掘らせておいた、深さ1キロにも及ぶ奈落の落とし穴。


 ベリアルは咄嗟に、体を空中で反転し、オーバーヘッドキックを繰り出す。

 

 そして落とし穴の壁に、左足を突き刺し宙づり状態になった。


「悪く思うなよ、お嬢ちゃん。魔界の鎖(デモンチェーン)、そして沈黙(ジップ)


 マサヨシは、ベリアルの体を魔法の鎖で拘束し、沈黙魔法をかける。


 あとは彼女の足を払い、地の底に封印すればマサヨシの勝利だった。


 ベリアルはふいに穴の底を覗き込む。

 彼女にとっては、落ちても造作の無い高さ。

 だが、彼女の魂に刻まれた堕天の記憶を思い起こさせるには、充分な穴の深さだった。


 ベリアルは元々、ルシファーに次いで誕生した、美しい天界の大天使であったが、自由奔放に振舞いすぎ、神々や人々を苦しめた罪により、創造神によってルシファーと共に堕天した悪魔。


 魔界で数多くの悪魔や怪物を屠るうちに、魔界最強とも呼ばれる、強大な大悪魔となったのだ。

 

 堕天した時の苦痛で、彼女は美しい翼を失い、幼児退行してしまった。


 その魂の苦痛が、蘇り、涙を流し始める。


「うう……いやなのだ……堕ちるのはもう……いやなのだ……」


 マサヨシは、涙を流す幼子のようなベリアルを見やり、ベリアルのとどめを躊躇する。


 彼は転生前、母親に虐待されたことが原因で、子供への非道を許せず、見過ごすことが出来ない

性分であった。


 転生後、数多くの子供たちを救うために奔走していたのも、彼のトラウマによるものだ。


 しかし、意を決してベリアルにトドメを刺そうと、右手をベリアルに向け、風の魔法を繰り出そうとした。


 その時、ベリアルの左足を両手で掴む者がいた。


 マサヨシの一の子分のニコだった。


「おいこらニコ、俺はそんな指示を出して……」


「親分! オイラ、可哀そうな女の子は放っておけねえ! オイラは親分から習ったんだ、男は女の子にかっこつけるために生きてんだって!」


 ニコは、泣いているベリアルの体を引き上げようとする。


「てめー、親である俺に逆らう気かよ? こいつ倒さねえと多くの人々が死ぬ」


「だけど、オイラはこの子信じて助ける! 何かを信じる心をオイラに教えてくれたのは親分だ!」


 転生前の彼なら、命令違反の子分を処断することに躊躇が無かった。


 特に抗争中の場合、子分の命令違反は死に直結する。


 小指を奪うか、ヤキという名の暴力を行使し、最悪、命令違反の見せしめに、死の制裁を加えなければならない。


 だが、マサヨシは子分の青臭い甘さと、優しさに賭けてみる。


 転生前に小物だった彼にはなかった、度量。


 そしてこのニコであるならば、そう遠くない将来、自分を遥かに超える器量を持ち、この世界を支えていくだろう、大親分になる可能性を感じていた賭けだった。


「いいだろう、おめえに任せる」


 マサヨシの許可を得たニコは、ベリアルを引き上げた。


 そして、ニコは泣いているベリアルの頭を撫でる。


「もう大丈夫だよ。ベリアルって言ったっけ? 遊ぶの好きなんだろ? オイラ達も遊び好きだ。だからさ、オイラ達と友達になって、一緒に遊ぼうぜ! どうだい?」

 

 ベリアルは泣き顔でニコを見つめる。

 そして、自身に巻き付いた鎖を引きちぎって彼に抱き着いた。


「いいか、オイラ達の断りもなしに、何かをぶっ壊したり、人を傷つけるのはルール違反だかんな! できなきゃ絶交だ」


 ニコは、ベリアルを引き離すと、右手を差し出した。


「わかったのだ、今度はお前たちと遊ぶのだ」


 ベリアルは、ニコの差し出した手を両手で握る。


 マサヨシはニコを見つめて、嬉しそうに微笑む。


 その小さな体と齢13の年齢で、よくぞここまで成長したと。

 

 マサヨシは、二つ名をニコに与えようと思った。


 「男気のニコ」と。


 残りの親衛団を打ち倒したガルフが、マサヨシの後ろに立つ。


 そして、ガルフもニコを感心するような顔つきで見つめていた。


「言ったろ、兄者。あいつはいずれ、あんたを遥かに超え、偉大な王になる気風を持っていると」


「そうかもしれねえなあ。俺が組を引退する日も、そう遠くねえかもしれねえ」


 世界救済後、表舞台から退き、影で子分達を支える決意。


 転生前にできなかった、極悪組の引退をマサヨシが決意した瞬間だった。



 地上には、降伏するために直立不動に整列した元魔王軍の悪魔たち。


 そして、戦争終結のため冥界より閻魔大王が姿を見せていた。


 神界のゼウス配下の神々も、閻魔大王の迫力に怯え、気を失ったゼウスを介抱している。


 この世界に現れた冥界の神に、戦場の各勢力の兵士達も、武器を降ろして状況を見守っていた。


 ガイウスに敗走した、ロンもマサヨシの元に駆けつけ、皇位奪還の失敗を告げると、マサヨシはロンの肩を叩き、生還を喜ぶ。


 しばらくして各人が身だしなみを整えた後、ヤミーを筆頭に、極悪組全員が閻魔大王の前に跪く。


「親分、魔王軍との抗争及び、神々との戦争、あたくし達の勝利で終了いたしました。つきましては、ここにいる悪魔共の処遇に関しては、あたくしに一任していただいても、よろしいでしょうか?」


 マサヨシが、閻魔大王に話を切り出した。


 魔王軍をこれより自分の支配下に置くという提案だった。


 魔王軍大幹部の2名は、マサヨシの軍門に完全に下っていた。


 一人は、マサヨシへの思いを示したことで、女神ヤミーに認められて。


 もう一人は、マサヨシの一の子分の、男気と優しさに惚れて。


「好きにするがよい、我が尻を拭ってやる」


 閻魔大王は、マサヨシの提案を受け入れ、創造神に掛け合うつもりだった。


 彼はもともとは、伝説の大魔王と呼ばれた元魔族である。


 魔王軍と呼ばれた魔族の勢力が、閻魔大王の名の下に、勇者マサヨシとの契約で、正しき道を歩むのであれば、いずれ自分のように、正義を信じる善たる存在となる事を願っていた。


 そしてマサヨシからの報告にあった、全ての世界の脅威となる魔神と大邪神の存在。


 マサヨシと魔王軍しか証明出来るものもおらず、神界に認めさせるには、いささか証拠不足であるが、真実であった場合、全ての神々と精霊達に討伐許可が下る、絶対悪の存在。


 この世界が、地球で起きた大戦の再現になる可能性があり、慎重に動かなければなるまいと、閻魔大王は考えた。

 

 そして閻魔大王は、過去に自分が転生に携わったガイウスの事を考える。


 地球の人類史にも名を残し、幾多の世界を救済してきた最強の勇者であり、神に最も近い男と呼ばれた男。


 やはり、マサヨシの本来の魂を呼び起こさないと、ガイウスと背後の魔神や特に、自分も苦戦を強いられるであろう、邪神の存在には勝てないだろうと、閻魔大王は考えた。 


「争いはやめだ! 今からお前ら魔族はこの俺マサヨシと契約しろ! これからは弱きを助け、強きを挫く任侠の正義の精神のもと、この世界の救済に尽力を注げ! いいか!?」


 こうして、魔王軍と呼ばれた魔界各国の武装勢力は、この世界で生きることを決意した。


 今まで敵対していた人間達と、魔界の悪魔の間の新しい契約が結ばれようとしている。


 そして、戦場に集まっていた人間達や、地獄の鬼たち、そしてオリンポスの神々もマサヨシの侠気に触れ、和平協定の様子を見守っていると、神々に庇われるように、横たわっていたゼウスが目を覚ます。


 自身に無様な姿をさらした、童女の姿をした大悪魔ベリアルとマサヨシを見ると、下腹部の激痛と共に怒りが沸いてきた。


 ゼウスは元々、弱者の守護神、正義と慈悲の神、悪を罰する正義の神である。


 それを冥界の罪人が、弱者救済、そして正義などという言葉を使い、神からすれば絶対悪とも言える悪魔を許し、救済をうたうなど、決して許せぬ愚行であった。


 ゼウスは、ベリアルに攻撃しようと、雷の力を高めて神界魔法を放ったが、それをボディーガードでもあり、極悪組若頭のニコは見逃さなかった。


「あぶねえ!」


 ベリアルを庇うように、神の放つ雷の攻撃を受けて、ニコの体は黒焦げになり、崩れ落ちる。


 辺りが一瞬静寂に包まれた。


「ニコ!」

「いやああああああ!」

「ニコの若頭(かしら)!」


 極悪組の面々とマサヨシ達が駆け寄る。

 メリアは、その光景を見てその場に崩れ落ち失神してしまった。


 ベリアルは呆然として、黒焦げになったニコを見つめていた。


「なんで、ベリアルの為に……なぜなのだ……遊ぶって一緒に約束したのに……うっ、うえええええええええん」


 一度ならずも、二度も自分の命を助けた人間の少年の姿を見て、崩れ落ち涙を流す。

  

 レオーネと、アレクシアがすかさず黒焦げになったニコに駆け寄り、必死に回復魔法をかける。

 

 アレクシアは、教会より司祭認定を受けた神霊魔法の使い手で、突然死した人間をも生き返らせる蘇生魔法(リヴァイブ)も使えたので、必ず助かる筈だと自信を持っていた。


 しかし回復魔法の効果でニコの外傷は癒えたが、意識レベルは回復せず、横たわるまま。


「そ、そんな! このレベルの負傷でも、私の回復魔法は絶対なのに、ああ、マサヨシ様、こんなはずじゃ、こんなはずじゃ」


「ニコ、目を覚ますのだ! 貴様、マサヨシ様を置いていくな」


 こうなってしまっては、2、3日で肉体は腐敗していき、土にかえってしまう。

 

 マサヨシの兄弟分達は目を伏せ、ドワーフ三兄弟とブロンドは、ニコの体にしがみついて号泣し、マサヨシはあまりのショックでその場に崩れ落ち、呆然としてしまう。


「そんな、うそだろ……ニコ……おめえ、俺を、親である俺を置いていくんじゃねえよ! 親不孝者が、認めねえぞ、若衆筆頭のおめえは俺の後継者だ! 一番の子分のおめえが、俺の後を導かなくてどうすんだよ……」

 

 マサヨシは、ニコの体に縋りつくようにして涙を流し、ヤミーは涙をこらえきれず、マサヨシにしがみついて慟哭する。


「チッ、しくじったわ。人間のこわっばめ無駄な事を、今度こそは」


 ゼウスは舌打ちしながら、天空の暗雲に力を込めて、必殺の雷の一撃を放とうとする。


「貴様ぁ!」


 閻魔大王が激怒した瞬間だった。


 ニコの体に縋りつくようにして涙を流した、マサヨシの体が光り輝き、入れ墨が入った。

 

 それは、閻魔大王の入れ墨ではなく、黒く縁取りした絵の下書きのような筋彫りの入れ墨で、太陽を示す光と炎に包まれたような、正義と憤怒の表情を浮かべた、神でもあり魔でもあり人でもあるような、強力な何者かの入れ墨だった。


 マサヨシは、両の手のこぶしを握り締め、ゼウスに歩を進める。


 黒々とした髪の毛は逆立ち、右目には人ならざる、修羅の魂が宿る神々も震え上がる炎の眼。

 

 身体を包むオーラは青白く、身体は茶褐色に変容していき、人間味を完全に失っていた。


 主神ゼウスを庇おうとした神々は、マサヨシの目を見た瞬間、動きを止める。


 それは、神々の中でも古の伝説に埋没した、正義と怒りの化身のような、神の名から抹消された、何者かの姿を思い起こさせる姿。


 そして、悪魔達もその入れ墨を見て驚愕した。

 魔界の古の伝説で伝わる、契約と審判の大悪魔のような何者かの姿に。


「い、いかん!」


 閻魔大王はマサヨシを止めようと、駆け寄る。


「……せよ」


 マサヨシがゼウスの間近まで来て呟く。


 ゼウスは、神の雷の力を限界まで高めて、雷鉾ケラウノスを具現化し、マサヨシの体を貫こうとしたが、彼の背中から具現化した4本の腕が、最強神の鉾を掴んだ。


 最上級神のゼウスの力でも、ビクともしない剛力。


「取消せよ……俺の子分の……あいつの男気を、思いを、無駄だと言ったな……この外道が!!」

 

 マサヨシの怒りの叫びと共に、怒りの拳をゼウスの顔面に叩きつける。

 

 ゼウスの体が地面にめり込む、すさまじい一撃で、その場にいた全員が、マサヨシのあまりにも恐ろしい姿に身動き一つできなかった。 


「き、貴様! わ、わしを最上級神、ゼウスと知っての狼藉……」


 修羅の姿をしたマサヨシは、帯から木刀を取り出すと、ゼウスの体を滅多打ちにする。


「この世界を! 人の思いを! 正なる魂を! 俺の子分を馬鹿にするな‼︎ 神だと⁉︎ この世界を救えなかった役立たずが! 死ね! 死ねよ! 魂ごと消滅しちまえこのクソ野郎!」


 神ですら、魂の消滅を予感させる打撃に、最上級神ゼウスの体が打ちのめされるが、マサヨシに駆け寄った閻魔大王は、渾身の拳をマサヨシの顔面に叩き込んだ。


「鎮まるがいい! 我が友アースラの魂よ! まだ貴様の力が必要とされる時ではない!」


 閻魔大王の拳を受けたマサヨシは、衝撃で吹き飛ばされ、元の状態に戻り気を失う。


 仁義なき世界の空は、天空神ゼウスが作り出した雷雲が晴れて、再び太陽の光が振り注いいだ。


「おい! この馬鹿連れて去れ!」


 閻魔大王は、マサヨシに打ちのめされて、怯え切った表情のゼウスを一瞥(いちべつ)して、周りの神々に告げると、ゼウスを庇うようにして、神界への帰途へとついた。


「ヤミーよ、マサヨシが目を覚ましたら、第二の試練の準備をさせるのじゃ。ワシは大天使殿と創造神様にこの沙汰を報告し、次なる戦の準備を整える。良いな?」


 閻魔大王の言葉に、ヤミーは涙を流しながらうなずき、地獄の鬼達も姿を消していった。



 一方、魔界の大邪神の前にガイウスは佇む。

 そして、魔神マーラ・カーマーはその様子を笑顔で見守る。


「私の千里眼により、神界に送り込んだ私の化身が、神共に見破られるのも時間の問題。大魔王ガイウスよ、今こそ神界の神々に復讐の時です」


 ガイウスは魔神に導かれ、大邪神アンラ・マンユに手を触れて、大邪神の能力の一つである、呪詛の力を呼び起こす。


 全ての世界を破滅に導くため、もはやガイウスには迷いはなかった。



 共和国東部の戦場で、マサヨシは目を覚まし、涙を流している極悪組の面々が見守る中、動かなくなったニコの体の前まで歩を進め、跪く。


 彼はニコの転生前の正体に、すでに心当たりがあり、自分の推測が正しければ、転生前の彼を、そして今この場に横たわる、転生後の彼も守ってやれなかった後悔の念の中、動かなくなった最愛の子分の体を抱き寄せて、静かに涙を流す。


 マサヨシはこの日、この世界で培った勇者としての名声と、最愛の子分の命を失った。

次回、少しだけ間を置いて第4章投稿します

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