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仁義なき異世界転生 ~勇者マサヨシの任侠伝~  作者: 風来坊 章
第一章 仁義なき異世界転生
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第7話 証拠隠滅

 喧嘩には大義名分がいる。

 それは国同士の喧嘩だろうが、ヤクザの喧嘩だろうがカタギの喧嘩だろうが同じことだ。

 

 例えば、カタギ同士の喧嘩の場合を考えてみよう。

 相手が刃物持って、いきなり襲ってきたとする。

 一度切られてやり、そいつを押さえつければ正当防衛は成立するだろう。


 これが大義名分、あくまでもこっちは先に手を出された被害者だというわけ。

 

 その後に、こいつをサツに突きだせば、こいつは刑事事件で刑務所送りだよな?

 ついでに怪我の件で民事訴訟起こしてやれば、その馬鹿と身内から賠償金をせしめられる。

 これなら完全試合の大勝利パーフェクトゲーム、喧嘩は勝ちだ。

 

 だが、切られる前に相手をボコボコにしてぶっ殺すのはだめだ。

 こっちの過剰防衛になっちまい、相手の身内から詰められて逆に風下よ。

 へたすりゃ、あっちとこっちの泥沼の訴訟合戦にだってなりかねねえ。


 ヤクザの喧嘩とは、このパーフェクトゲームをするために、色々と絵図を描く。

 例えば、こっちの組織のほうが組織力や資金も上ならどうすると思う?

 わざと相手から手を出させるように仕向けて、イラつかせるようにするのさ。

 

 相手からわざと手を出させて、そこをぶっ叩く。

 転生前のこのマサヨシ様の必勝法よ。

 あとは、相手がこっちの若衆に手を出したり、組事務所のガラスに拳銃撃ち込めばめっけもんだ。


 こっちは正当防衛のために、相手をぶっ潰して縄張り(しま)を奪う大義名分となる。

 最低でも、相手から賠償金を取るような有利な条件で手打ちになるだろう。


 じゃあ、今回ヤミーが魔界の悪魔共がいる月を、三日月に変えちまうくらいぶっ壊した件はどうだ。

 確かに、魔界の影響でこの世界はひでえ状況になってた。

 この世界が、魔界から数々の嫌がらせを受けてたのも間違いない事実。

 でも、手を出したのはこっちだ。


 そう、奴らに大義名分が立つ。

 相手の本部事務所を、宣戦布告無しにバズーカで吹っ飛ばしちまったようなもんだ。


 おそらく被害はかなりのものだし、ヘタすりゃ死人が大量に出てるだろう。

 そしてこの攻撃の生き残りが魔界の上役に報告すば……。

 魔界は復讐のため、自分たちの身を守るため、こっちを攻撃する大義名分が成立する。


 国同士の戦争(けんか)の発端である、あれよ。

 我が国は自国民保護のため、宣戦を布告するってあれ。

 その後この件で悪魔共がこの世界のけじめで、神界や冥界に因縁つければ……。


 あああああああああああああ、めんどくせえええええええええええええ

 何てことしでかしやがったんだ、この頭スイーツの馬鹿女はあああああああ。

 

 いや、落ち着けマサヨシ。

 昔、こんな不始末起こした子分もいたじゃねえか。

 どんな不利な状況でも、俺は喧嘩で勝利してきたはずだ。

 考えろ……。

 そうだ、アレだ、アレしかねえ。


 「おい、ヤミー。もう一発、あの月に向けてぶっ放せぇぇぇ」

 俺はヤミーに向けて命じる。


 「む、無理じゃ! そんなことしたらこの世界での我の神としての全魔力が……」

 「つべこべ言うんじゃねえ! さっさとぶち込め馬鹿野郎!」 


 ヤミーは、もう一撃三日月になった青い月に、バズーカを撃ち込んだ。

 閃光と共に、極太のレーザーが月に照射される。

 数秒後、再び閃光が上空で瞬き、青い月は消滅した。  


 よし、うまく行きやがったぜ、ざまあみやがれ。

 俺の考えはこうだ。

 

 まず、相手の残存勢力の一掃。

 中途半端に相手を生き残らせるより、口封じで全部ぶっ倒して戦闘不能にする。

 死人に口無しよ。

 

 そうすると、相手の幹部や若衆が減り、組織は戦力ダウンというわけさ。

 ついでに向こうの親分の(たま)でも取れたらなめっけもんよ。

 

 あとは、相手の事務所の痕跡を、跡形もなく燃やし、消しちまった方がいい。

 これをやられちまうと、誰がやったか確証は掴めねえし、情報が寸断されちまう。

 

 やられた組織は、組織が大きいほど大混乱で情報収集に時間がかかる。

 特に、恨みを買って心当たりがありすぎるようなやつらには有効だ。

 俺がいた極悪組も、昔広島辺りで似たようなことをやられた時はまいったもんさ。

 

 あと魔界がやられたからって、捜査に乗り出すサツみてえなのもいねえのも好都合。

 俺も抗争(けんか)で、途中からサツに横槍いれられて往生したぜ。

 それがねえなら楽なもんだ。

 魔界も前線基地が無くなれば混乱するだろうし、当分の時間稼ぎになる。


 暗黒の空はすっかり青空に代わり、赤い月は太陽へと姿を変え、俺達を温かく照らす。

 どうやら、あの青い月が悪さしてやがったんだろう。

 

 世界は光を取り戻した。

 

 ヤミーは、全魔力を使い果たしたのか、深い眠りについていたようだった。

 まあ、こいつにしてはがんばったか。

 よくやったって褒めてやるかな、こいつが起きたら。


 「マサヨシ、お前は一体……」

 

 おやっさんが、俺とヤミーを見て呟いた。

 そうだよな、この人からしたらわけがわからねえ状況だろうぜ。


 「お父さん、すいませんでした。実は……」

 

 俺は自分がなぜこの世界に来たのか、このヤミーが誰なのかを説明する。

 おやっさんに、俺は嘘はつきたくなかった。

 なぜなら、この世界で初めてできた、俺のお父さんだから。


 その時、天井から降り注ぐ太陽に照らされる執務室の机の影が、微妙に動いて歪んだ気がした。

 俺は降り注ぐ太陽の光に、どうせ目が慣れてない光の錯覚と思ったんだ。

 だが魔界や魔族、そしてこの「仁義なき世界」をなめていたのを、俺は後に思い知らされる。

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