第78話 試練
俺は、ヤミーと兄貴と共に、閻魔大王親分のもとに駆け付けた。
親分はため息を吐き、まず俺に別室に行くよう指示される。
ちくしょう、いやな予感がするぜ。
俺がいない間に、あの世界に何かやべえ事態に陥っているような気がする。
こういう時の勘って、結構当たるんだよなあ。
第六感って言うんだろうか?
俺みたいに、転生前に博打打ってたヤクザ者ならわかるかもしれねえけど。
誰の言葉だったかな?
賭けとは全身全霊の行為である。
百万円持っていた人間が百万円を賭け切るときにしか、賭けの真価はあらわれない。
三島由紀夫さんが残した言葉だったな。
何ていうかな、博打ってのは勝負勘というか、自分を取り巻く流れを見るのにちょうどいいんだ。
まあ、たまに、その当て勘は外れるよ?
それは博打だからしょうがねえし、特に欲かいてるときなんてそんなもんだ。
しかし、悪い流れってのは、何となーくだけどわかるんだよな。
そこに気が付けるかどうかで、自分が大成するかしねえか別れ道よ。
そう、転生前のヤスにぶっ殺された日も、何となーくだが嫌な予感がしてた。
だがヤスがそんな事をするわけねえって、思考フィルターってやつがかかってた。
そして、女共と酒が飲みてえって欲もな。
結果はお察しのとおりよ。
悪い流れの時、思い込みと欲ってのは失敗を招きやすい。
カタギさんの世界でもそうだろう?
それでドツボにはまって死んだ俺が言うんだから、間違いねえよ。
まあ、極道に欲かくなって言う方が無理な話なんだがな。
そして俺は、この悪い流れの大本を考える。
うん、あれっきゃねえよ。
神界からやってきた、女神アテネと勇者ガイウス。
ロンの兄弟から、あいつらの存在を聞いて嫌な予感がしてたんだ。
そして、実際に会ってそれは確信に変わった。
ヤミーが撃墜されたあの事件だ。
勇者ガイウス、あいつはただ者じゃねえ。
俺の恫喝と啖呵に動じない時点で、場慣れしてる。
あいつは、間違いなく武闘派で金筋ものの歴戦の勇者。
だが、その一方で危うさを感じた。
あいつ、あの馬鹿女神が何か言うたびに、冷めた目になっていった。
逆に俺との問答では、目に少し光が入り、俺への興味はある様子だった。
ロンの兄弟の見立て通り、あいつはなんか人間と神に冷めた目をしてやがる。
そして、女神アテネ。
あの馬鹿アマ、知恵は多少回るし腕は立つだろうが、乗せられやすいというか、変に純情なところがある。
俺がガイウスなら、あんな馬鹿アマ、とことん利用するね。
あいつらの出現でよくない流れとなった。
これを好転させるためには、どうすべきか……。
親分と、そこのところを詰めねえとな。
そして、ヤミーと兄貴が、うな垂れながら俺の部屋に入ってくる。
ああ、これはこっぴどく詰問か取り調べされたって顔だわ。
親分、その辺容赦なさそうだしな。
「入りやす!」
俺は、大声で親分の元へはせ参じる。
「ふむ、お主も勘図いてるようじゃの。さすが我が子の契りをした男じゃ」
ああ、これ絶対悪い話だ。
俺は直感で思い、親分を見やる。
顔面には、メロンのような血管が浮かび、激怒した後のようだった。
「その前に、自分は親分に詫びる話がありやす!」
俺は先に自分の悪い話に関して切り出す。
こういう嫌な話は先にしておくに限る。
「実は、自分親分の妹様から」
「よい! よいのだ、言わずともわかる」
ああ、全てお見通しだったなこの親分には。
「ところでお主、あの世界救済後に、神になる気はないか?」
へ?
何を言い出すんだこの人、いやこの神様は。
俺が神だと? そんな資格ねえだろうよ。
こんな元外道のヤクザ者によお。
「ふむ、マサヨシよ、清水正義の前に自分が何者だったか、やはり覚えてはおらなんだな」
ああ? 魂の循環の話か。
外道の清水正義の前ねえ、そんなもんどうだっていいや。
自業自得で死んだ、前世にも未練はねえ。
「そうか……まあ良い。それでの、お主を取り巻く状況じゃが、確認させてくれんかの? 記憶に触れるぞ」
親分は俺にこっち来いと、手招きする。
そして俺が近寄ると、頭に手を触れた。
「なるほど、やはりそうじゃったか。ハメられたのう、お主達は」
ハメられた?
あの神界の女神と勇者にか?
「お主にある嫌疑が、かけられておる。女神アテネに対する神殺し未遂の重過失傷害罪じゃ」
はああああああああああ?
何だそりゃ?
いやいやいや、やってねえってそんなの。
ぶっ殺してえとは思ったけどさ。
「わかっておる。お主が魔王軍に攻撃した時、あやつがおったのじゃ。魔法に巻き込まれ、意識不明の重体に陥っとる」
へ? 俺が撃った魔法?
うああああああああああ。
アレだ、あの時魔王軍にぶっ放した魔法で、バカ女神が巻き込まれたのかよ?
使えねえ、ほんと使えねえ、あのバカアマ。
「そして、あのガイウス。我も気になって調べた。我も転生に関わった事があり、守秘義務があるが……。あやつ、お主が勝てるかどうかも怪しい」
うわぁ、そんなに手練れかよ。
でも確かにそんな気がしたわ。
あいつ多分、只者じゃねえし、厄介だって。
「それでの、女神アテネの親が、最上級神権限で、あの世界の破壊を決定しおった。その神の名はゼウス、最強の神の一柱じゃ。お主の身柄も欲しがっとる」
え? 最強の神さんの一人が?
ゼウスって、ギリシャ神話で有名なあれか。
神の雷とか使っちゃうアレだよな。
やべえよ、やべえよ。
俺が救うべき世界で、破壊とか。
ていうかよ、勝手すぎんだろ!
ふざけんなって話だ。
あの世界を救うって決めたの、他ならぬ神々とかじゃねえのかよ!
救ったり滅したり、あいつら神共は人間の事を、なんだと思ってやがんだ!
「神とはそういうものじゃ、身勝手で理不尽な存在じゃ……だがあの世界救済は我が創造神様より、命を受けた。よって我は、最上級神率いる神々の一派とも、一戦辞さない覚悟じゃ」
うげ、親分喧嘩する気だよ。
その最上級神ゼウスさんと。
しかも、全然ビビってねえみてえだし。
さすが、大昔に大魔王やってて、神々とかぶちのめし回っただけあるわ。
「それでの、マサヨシよ。今のままだと、魔界にも神にも勝てぬじゃろうて。あの世界を救うため、本来お主の持つ正義の魂を蘇らせるため、清水正義の業の全てを、清算する時が来た。覚悟を決めよ、我が子よ」
なるほど、そういう事か。
過去との決別。
そうしなきゃ、あの世界は救えねえって事か。
ていうか正義の魂って……。
俺ヤクザな極道なんだが。
確かに転生前は、正義って名前だったけど。
「お主には、三つの試練がある。一つは、清水正義としての罪の清算じゃ。神殺し未遂は濡れ衣じゃから、それを差し引いた得得ポイント、約千年分の刑期を、地獄で受けてもらう、良いな」
千年って、いやいや。
終わっちまうだろ、俺が娑婆に出る前に。
あの世界が。
「案ずるな、千年分の刑期を1ヶ月に短縮してやる。まあ、お主の魂が耐えられるかどうか、賭けのようなものじゃな」
え? 千年の刑期を1ヶ月に短縮?
なんか嫌な予感すっけど、しょうがねえか。
やっぱりよ、懲役に行かねえと恥ずかしいわ。
俺はそれだけの事を、転生前にしでかした。
転生前、俺のせいで、不幸になった人間なんてゴマンといるし、散々人ぶっ殺し回ったし、女泣かせな事しまくったし、俺のせいで、あの世界に転生した愛する者達もいた。
俺のしでかした罪と業の全てが、転生先の異世界の善行だけで許されるなど、むしがいい話だし、少しでも男を上げなきゃ、あの世界のあいつらに合わす顔がねえからな。
それにこれは、親分からの命令を受けた、子分としての正式なお務めであり、試練だ。
放免祝いは、あの世界の救済と行こうか。
「ふむ、覚悟はできとるようじゃの」
俺の目を、親分がジロリと見つめる。
相変わらず、おっかねえ。
「へい、どうぞ裁いてやってくだせえ」
「うむ、これをやらんと、第二の試練にお主の精神が耐えられぬ。第二の試練、それは我の従兄弟の、秦広王からの、試練。お主が生んだ、迷える魂の救済、最後の業の清算じゃ」
最後の業……ニコの事か。
あいつの正体について、なんとなくだが、思い当たる節がある気がする。
あいつは、多分俺の……。
「そして、第三の試練じゃが……これは二つの試練が終わった後で、お主に受けるかどうかの、確認をする。良いな?」
「へい、わかりやした。それと親分、自分の前世の罪の清算についてですが、ヤミーの奴にやって貰えねえですか? あいつも冥界の神ですし」
「よかろう。あやつもこれで、一人前の神となるはずじゃろうて」
そして、俺が最初に裁かれた冥界の第五審判殿に赴き、俺は地獄行きの裁判を受ける。
「同志マサヨシ、いや清水正義、そこで制止し、閻魔王の裁きを待て」
俺を裁判の間に連れてきた牛頭の大悪魔が、被告人席の前に連れてきて、心無しか俺に、優しい視線を向けた。
そうだったな。
俺は、閻魔大王親分から盃貰ってるし、ここにいるのは、俺の身内みてえなものだ。
「ありがとうよ、牛頭の兄貴、手間をかけさせ申し訳ねえ」
俺は牛頭の兄弟分に頭を下げる。
すると、着物が擦れるような音が裁判官席の方から聞こえてきた。
ああ、そういえば最初こんな感じだったな。
「本法廷の裁判の開始を宣言する。面をあげよマサヨシ、いや清水正義よ」
「へい、グリムリーパーの兄さん、失礼しやす」
書記官や死神やってる、骸骨の兄さんに頭を下げた後、顔を上げた。
この人も、裁判の時に俺が若い時の日活ロマンポルノの日々を見せて、親指立てるくらい、お茶目なお人だったっけ。
そして、周りを囲むのは、冥界の鬼達や、俺の姿を一目見ようとやってきた、元魔界の悪魔だった神々達。
そして、駒魔犬の兄貴も、元の姿に戻って、俺の裁判の行く末を見守ってた。
「被告人、清水正義よ。我が凶悪罪人担当官の神界第五審判殿裁判官である、ヤミーこと閻魔王である」
ヤミーが、俺をまっすぐ見据えて、裁判官としての名乗りを上げる。
ああ、懐かしいな、このやり取り。
最初こいつと会った時、こいつにひでえ物言いしちまったし、俺を地獄送りにするなら、こいつにやって貰いてえ。
そんで、俺の刑期をさっさと終わらせる、どぎつい地獄へ、俺を放り込んでくれよな。
必ず戻ってくるからよ。
オラ、早く言えよ。
もう判決は決まってんだろ?
「うう、マサヨシィ……嫌じゃあ……お主の魂が消滅するなど……我は嫌なのじゃ」
「裁判官さんよ、俺の名はマサヨシじゃねえ。天下の大悪党にして極道者、6代目極悪組の組長、清水正義様よ。ホレ、さっさと刑を言い渡してくんね? 頼むぜ俺の神様よお」
ガキが、泣き入れやがって。
心配しねえでも、俺は帰ってくるぜ。
鉄砲玉とかじゃねえんだから。
そう、一度撃ったら二度と帰って来ねえ鉄砲玉って言えば、ヒットマンを意味するものだが、昔どうしょうもねえ、破門にするしかねえような、ボンクラにチャカ持たせて、男になって来いって鉄砲玉やらせたっけ。
その鉄砲玉の野郎、ビビって相手の幹部の命取ってこねえどころか、チャカ持ってサツ連れて戻ってきやがって、帰って来ねえ筈の鉄砲玉が戻ってきたって感じで、俺もパクられて懲役行ったっけか。
やっぱ俺みてえなのは、懲役行った方がいい。
全ての刑期を終わらせて、必ず戻ってくるぜ。
「う、うう。ひ、被告人……清水正義を、懲役千年、う、うああああああん」
「聞こえねえよ! 人様の大事な懲役だろ!? シャキッとして神らしく言えや!」
ヤミーは涙を拭き、法廷は一時ストップする。
「被告人、清水正義。懲役千年、地獄巡りとする」
ヤミーは涙を堪えて言い直した。
「へい、閻魔王様、わかりやした。それでは行って参りやす」
こうして俺は、第一の試練、清水正義が犯した罪を償いに、地獄巡りへと向かった。
あの世界の真の救済のために。




