第75話 難民
そうか、アスモデウス率いる魔王軍の攻撃準備が完了したって事か。
ちくしょう、これから宴会開いて飲んだ後、女共酔わせて、部屋に連れ込んでムフフな絵図描いていたのに悪魔野郎共め。
極悪組が全員集結し、アレクシアがアスモデウスに連絡を取り付ける。
そう、こいつは魔王軍にまだ所属しているから、あのポンコツをペテンにかけて情報を抜き出せる筈。
「ごきげんよう、アスモデウス閣下。ついに人類攻撃の準備が整ったわけですね、私は共和国連邦とは表向き和平を結び、情報収集中ですが、彼らは油断しているので、挟撃でも行いましょうか?」
「参謀本部大将! 貴様は軍を何だと思ってる! 報告を事前に私に入れよ! こちらからも幾度も連絡したのだぞ!」
ああそん時は多分、俺とドンパチやってた時か、風呂に入ってた時だろ? 出れるわけねえよ。
携帯みたいに着信知らせたり、留守電入れられる機能は、水晶玉にねえんだから。
「今は亡きベルゼバブ宰相が独自に計画していた、特別軍事機密の作戦中につき、すみやかな報告ができず申し訳ありません」
うは、しれっとかわしやがった。
味方にするとすげえ心強いなこいつ。
「まあ良い、貴様にも先ほど連絡ようとしたが、魔王軍総司令部が攻撃にあったのだ。奴らは共和国軍服に身を包み、空爆をしてきた。先に手を出したのは向こうである」
はあ?
なんじゃそら、そんな事してねえよ馬鹿野郎。
だいたい、俺達が今おめえらに手を出して、なんの得があんだよ。
俺はアレクシアに目で合図する。
「かしこまりました、因みに攻撃側の確認方法や確たる証拠などは収集されたので?」
「共和国軍服に加えて、飛行船に軍旗を確認した。戦端を開くには十分だろう」
軍旗だって?
軍を識別する代紋みてえなアレか。
くそ、これは多分ハメられたぞ。
やった野郎は、女神アテネと勇者ガイウスの、神界コンビの皇国に違いない。
くそ、あの野郎らに魔王軍総司部を攻撃して来いって煽ったのは俺だが、まさかこっちに擦りつけてきやがるとは、ナメた真似してくれる。
「かしこまりました。それでは、参謀本部大将として、ご意見いたします。こちらは目下情報収集中ではありますが、共和国内も混乱状況。第三者からの謀略の可能性も」
「大将、元帥命令だ! そんな確証が無い以上、共和国を敵勢力と断定し、貴様も総司令部へ招集を命じる! 以上!」
チッ、ポンコツが。
だがそりゃあそうか。
緊急時に、警察みてえに証拠云々調べて、裏取りしてから慎重に動く事なんか、基本的に極道や軍隊にはねえし、すみやかに情報収集してから、方針決めて、さっさとトップダウンで動かねえと、万が一見誤った場合の被害がでかい。
おそらく、ガイウスの野郎があの馬鹿女神を説得して、ガラス割りのノリで威力偵察しやがったんだ。
俺もよく、複数の対立組織が乱立するところに、他所の組織を装って撃ち込ませたが、あいつらそれをやりやがったか。
「マサヨシ様、私は急ぎ魔王軍総司令部に向かいますが、いっそどうでしょう? 魔王軍は混乱状態ですので、マサヨシ様の今の力で魔王軍に大損害与えるというのは」
お? そいつは名案だ。
やられる前に、やっちまおう。
俺もヤスを救済したお陰で、魔力や精神力が増したから、入れ墨が入ってなくても、魔王軍大幹部に勝てる可能性だってあるし、奴らが攻撃期限を切ってきたという事は、軍の攻撃体制を整えるのが24時間という事。
「いいね、さっそくカチコミに行くわ」
というわけで、俺は凍えそうな寒さを我慢して、精霊と風魔法の飛行魔法で氷の大陸まで赴く。
極悪組の奴らは置いてきた。
ガイウスの野郎らが、共和国に悪さしてくる可能性があるからな。
代理はロンとガルフに任せてあるし、多分大丈夫だろう。
「さあて、アレクシアと到着ずらしてるし、派手に撃ち込まさせて貰うぜ」
俺は天空に炎と土の魔力を充実させる。
ヤスとアレクシアが使ってた大魔法だ。
ていうか、これ魔力消費が激しすぎるぞ。
アレクシアの奴、化物だやはり。
座標はアレクシアが教えてくれた通りの場所。
行くぜ悪魔野郎共!
「流星群」
無数の隕石のような火の玉が、魔王軍総司令部方向に落下していく。
そして複数の、眩い閃光と共に大爆発を起こした。
衝撃波が幾重も地表を覆い、その後、何度も腹に響くような大音響がする。
すげええええええええ。
この魔法やっぱ威力すげええええ。
よし、帰りの飛行のための、魔力補給用の聖水も沢山あるから、もう一発。
すると、まるでテレビで見た湾岸戦争のように、隕石群を撃ち落とすための、対空用の火炎魔法が、バルカン砲のように連射され、隕石に撃ち込まれるが、構わず吹っ飛ばす。
「ハッハー、往生しろや! クソ野郎共!」
やべえ、楽しい。
よっしゃあ、のってきたわ。
最後にとっておきをブチかましてやるぜ。
湾岸戦争で思い出した事がある。
転生前に読んだ本で、世界の兵器特集なんてのがあって、確か、地中に築かれた地下施設もろともぶっ壊す、アメリカさんで開発された道具。
なんだっけか?
ゴルフのバンカーみたいな名前の。
ああ、バンカーバスターって奴だわ。
えーと、確か高空にでっかいミサイルの形した、長さ10メートル以上、幅1メートルくらいの鉄の塊作って、重さ30トンくらいか?
うわ、重!
魔力で支えるがきっついわ、こいつに冥界の封印魔法と火炎魔法を組み合わせた、冥界の炎を封じて、あとは、風の力を推進力で……。
いけおらああああああ。
「貫通爆弾!」
巨大な鉄の塊が、高空から音速の速さで、魔王軍総司令部の方向に向けて落ちていき、見えなくなった瞬間、ピカッと光る。
そして何かに誘爆して派手に吹っ飛ぶ。
「たーまやー! ハッハッハー! こいつを、ダンプの代わりに敵対組織の本部事務所にブチ込みてえって、妄想した事あるがよ、夢が叶ったぜ!」
さあて、帰るか。
あースッキリしたわ。
やっぱ、撃ち込みに行くのは最高に楽しいな。
おそらく、かなりの損害を与えた筈だ。
それに、さっさとトンズラしねえと、怒りに燃えたポンコツ女が、ぶっ殺しに来るだろうし。
入れ墨が無けりゃ、多分あいつには勝てねえ。
そう、ヤミーの力で発動する入れ墨。
ヤミーの奴、よりによって何で俺に……。
そして俺は、全速力で氷の大陸を後にした。
海を渡っている途中、水晶玉から連絡が入る。
コルレドからか?
風切音が通信に入らないよう、途中で空中で停止する。
「マサヨシだ、どうした?」
「大変です、兄貴。共和国連邦東部で、皇国の難民達が大暴動や略奪行為を起こしてます。武神隊や異端審問官達が対応中ですが、数が多すぎて苦戦中です」
ガイウスの野郎ら、動きやがった。
あいつら、魔王軍との喧嘩に乗じやがったか。
しかし、難民だと?
「数は? おおよそでいい」
「へい、共和連邦軍の観測によると、今現在暴動と略奪をしている連中は、1000人前後。さらに国境沿いには、少なく見積もって1万以上は……」
マジかよクソ、考えやがったな。
あの野郎らは、正規軍とか共和国連邦に送れば、神界と精霊界の協定違反になるから、皇国の貧民とか犯罪者を追いやって、その何人かに空気入れて扇動させやがったんだ。
こっちが軍でも投入して、鎮圧に回ろうもんなら、民間人を攻撃したって事で、あっちに大義名分与えちまって、戦争行為じゃなくて、あくまでも自国民保護とか言って、あいつらも軍とか投入してきてくるんだろ?
実話とかの週刊誌に載ってる、政治経済とかのコラムで読んだ事あるぞ。
ていうかよ……ふざけやがって!
軍人ならまだわかる。
軍隊の仕事は敵をぶっ殺すのが仕事だし、それで飯を食ってるから玄人よ。
極道ならまだわかる。
親分と盃結んで、喧嘩があれば、相手をぶっ潰すのは子分の義務だから玄人よ。
軍人も極道も一応、軍法や協定とか、極道の掟とかルールに沿って喧嘩する。
だが、戦争に素人のカタギ連中とか使うのはダメだろ!
あいつらヤクザより酷え。
神のくせに、人間を何だと思ってやがんだ!
だが、キレるなマサヨシ、冷静になれ。
奴らが皇国の代理の連中使うなら、こっちも代理を使うまで。
「おう、コルレド。極悪組と傘下のマフィア連中を現場に投入だ。俺もじきに向こうに行くから、喧嘩支度を、ガルフの野郎にするように言っておけ」
共和国連邦東部の国境地域、バクード。
かつて皇国との交易で栄え、人口50万の商業都市だったが、皇国が魔界の不死隊の攻撃で酷い有様になって戦乱状態となり、その関係で、難民が急増して半分不法占拠された街。
俺は、武神隊の前線基地に着くと、武神隊の怪我人が多数出ており、異端審問官達が回復魔法唱えまくって、夜戦病院みたいになってる。
そして水晶玉から連絡が入る。
「マサヨシ様、アレクシアです。攻撃は成功したようです。総司令部の損壊は約4割。魔王軍に多数の死傷者が出ています。それと、地下の司令指揮所は燃やし尽くされ、現在使用不可となっている状態です」
「そうかい、結構結構。やっぱバンカーなんちゃらはすげえな。で? 向こうさんどうする気よ?」
「戦力を整え次第、一転攻勢に動くようです。私にも、共和国連邦を王国騎士隊を使い、挟撃するよう命令が下りましたので、そちらに攻撃せざるを得ません」
ちくしょう、せっかく王国と和平協定結んだのに、こうなるか。
ならば、アレで行こう。
「あー、じゃあこうしようや。コルレドに伝えとくからよ、おめーさんら、適度に共和国西の国境の軍事基地に撃ち込みしとけや。そんで、適度にうちらの共和国軍を引かせるから、占領したって手柄たてとけばいいや。その隙に、俺が魔王軍ぶっ潰しとくから」
「なるほど、その手がありますわね。さすがマサヨシ様です」
とりあえずアレクシア達に、ガラス割りさせて時間を稼ぎゃいいや。
攻撃したことで王国の面子も立つし、共和国も大した被害は受けねえしよ。
後は適当なところで、ソフィア教王さんらに根回ししといて、教会側で調停させて、さらに時間を稼いで、その隙に魔王軍をぶっ潰して、アスモデウスを俺の女にしてやる。
あのポンコツ女、元帥とか言ってお高く気取ってやがるから、ジゴロのマサと呼ばれた俺が、徹底的に男をブチこんでやって、ひいひい言わせた後、俺の言う事しか聞けねえようにしてやる。
そして、極悪組やマフィア共を乗せた飛空艇団が到着する。
これで喧嘩の準備は整った。
総員、3000人って所か。
そしてロンの兄弟は、怒りで男泣きをしていた。
自分の国民が、難民に堕とされ、同盟国だった共和国への侵略の尖兵にされている事に。
そして、集結させた連中に檄を飛ばす。
「野郎共! 相手は皇国から送り込まれた難民集団だ! だが、あいつらは敵じゃねえ! 神界から送られた女神アテネと、自称勇者ガイウスとかいう野郎が陥れた可哀そうな連中。だからよお、自分の身を守る以外は、難民連中をぶっ殺すことを禁じる! いいな!」
「へい!」
「神だとか勇者とか気取ってやがるあいつらに、本当の正義を教えてやれ! 任侠道とは!?」
「弱きを助け、強きを挫く!」
「その通りだ! 皇国を俺の兄弟分に取り戻させる! それじゃあ喧嘩するぞ!」
よおし、決まったぜ。
やっぱり、俺超かっこいいな。
俺の熱い演説が終わり、喧嘩の準備が整った。
親分から冥界の代理として、絶対勝利の命令を受けているし負けは許されない。
それに、難民連中を俺がぶっ殺し回ちまったら、得々ポイントが大幅に下がるしな。
せっかくマイナスポイントが、2000ポイント台の大台に乗ったんだ。
これで、世界を救済すれば俺の男は上がり地獄の刑罰も免除よ。
そして、女共をコマしまわって、俺のハーレム帝国でもこの世界に作ってやるか。
へっへっへ、たまんねえなあ。
俺は得々ポイントカードを見やる。
マイナス691074……へ?
おいいいいいいいいいいいいいいいい。
なんじゃああああああああ、こりゃあああああああああ。
ちょっと待て、何だこれ、何だこれ。
何で桁が増えてんだよ、ふざけんな馬鹿野郎!
なぜだ? どこでヘタ打った?
とりあえず、カードの実績確認、なになに?
神への重過失傷害? マイナス700000ポイント?
はああああああああああああああああ。
なんじゃそりゃあああああ。
身に覚えがねえよ、なんなんだよこれ。
すると、兄貴が駆け寄ってくる。
「大変な事になったぞ、マサヨシ! 大王様がお呼びだ! お嬢様もご同行願います!」
マジか、こんな時に?
くそ、喧嘩の陣頭指揮を執りてえのに、これじゃあ。
「ロン、ガルフ、喧嘩の指揮任せてもいいか? 俺は親分からの呼び出しで留守にする」
「ああ」
「任せよ、兄弟」
そしてヤミーは俺を一瞬見て、うな垂れた。
まさかコイツに俺、何かしたか?
風呂場で、こいつの気持ちを知っちまったが。
でも俺は残念ながら、こいつの気持ちに応えてやることはできねえ。
だが、俺がお前を大切に思っている気持ちには、嘘はねえ。
この世界を救う、大事な俺達の神様だからな。
「行こうや、俺の神様よ」
俺は手を差し出し、ヤミーの手を握ると、駒馬犬の兄貴と共に、親分の元へ駆け付ける。




