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仁義なき異世界転生 ~勇者マサヨシの任侠伝~  作者: 風来坊 章
第三章 代理戦争
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第73話 舎弟 後編

 ヤスと俺はアレクシアの魂の中で対峙する。

 アレクシアの魂の中は、荒涼として雪が降り続ける、悲しい風景だった。

 年頃の女の子だったら、もっとかわいらしくて色んなことに花を咲かせるだろうに。


 ヤスは右目の眼帯も無く、若い時の姿をしてる。

 全盛期バリバリで、よく体が動いてた頃のあいつの姿に。

 さて、ここはアレクシアの魂の中だから派手なドンパチはできねえな。


 そしてこれは俺とヤスの決着の場だ。

 俺達ヤクザ者に相応しい決着……あれをやるか。


「アレクシア、すまねえな。コップと6面サイコロを2個イメージして、おめえさんが振ってくれよ」


「兄貴、あれをやるんですかい?」 


「馬鹿野郎おめえ、あれしかねえだろ? てめえ何年ヤクザやってんだよ。俺達博徒の、極道の決着って言えばアレだろうがよう」


 そう、俺達博徒の決着の仕方といえば博打だ。 

 古式にのっとり、丁半博打で決着つけてやる。

 こいつも好きだった、サイコロ賭博でな。


 花札の手本引きや、オイチョカブもいいが、やはり侠客の原点と言えばこれ。

 なつかしいよなあ。


 駆け出しのころ、事務所当番で暇なとき一緒に遊んだもんなあ、ヤスよ。

 こいつ最初弱くて、よくカスリとったけど、その金で色んなところで一緒に遊んだよ。

 途中から俺とほぼ互角の博才に目覚めて、勝ったり負けたりして楽しかった。

 親分なんてふんぞり返って、いつの間にかやらなくなっちまったけど。


「なあ、ヤスよ。いつ頃だろうな、俺達極道の一部がヤクザの本質忘れて、金しか頭になくなったのは」


「へい、やはりバブルがよくなかったんじゃねえですか? あれで金に狂っちまった渡世人は多かった」


 まあ、そうだよな、俺もその一人だった。


「そうだな、金稼いでくるやつが偉い、賭場なんか古臭いとか言い出す馬鹿が、俺含めて増えたのってその頃だよな。小難しい能書き垂れる馬鹿も増えたけど、俺達の本質は、八、九の札で張ればいいのに、一世一代の博打やって一枚引いた札が三でブタになる生き方。世間様からどうしようもねえ馬鹿な野郎だって、笑われるのが、本来のヤクザの生き方じゃねえか?」


「ヤクザにもいろんな生き方がありやすが、本質はそうかもわかりやせん。俺も学生の時、親から末は学者か大臣かなんて期待されてやしたが、俺は兄貴に惚れて、兄貴に俺の全部賭けました。今でも後悔はありません」


「へっ、うるせえよ馬鹿野郎、そんな俺をぶっ殺しやがったくせに。だがなあ、そんな馬鹿なヤクザの生き方だが、弱きを助け、強きを挫く、任侠の美学持って華を咲かせて、華のように散って死ぬ。それでよかったんだよ、俺達ヤクザ者は」


 俺達二人は笑った。

 そして、俺達の頭上にサイコロ二個と白金のコップが具現化した。


「マサヨシ様、今その場で魔法でサイコロとコップを作りましたが、どうすれば?」


「ああ、俺達が【ハイ、ツボ】って合図したら、【入ります】って言ってサイコロをコップの中に入れた後、サイコロ入ったままのコップを床に伏せてくれ。伏せたらコップを前後に三回くらい押し引いて回して、【張った張った、丁半ないか?】って聞いてくれや。そしたら、俺達が半か丁かどっちか言うから、その後【丁半揃いました、勝負】って言って、コップあげてサイコロの出目見せてくれ、いいか?」


「はい、わかりました」


 アレクシアは、頭のいい子だから一発で理解してくれたようだった。

 さて、この鉄火場には賭ける金はねえ。

 となれば、やることは一つだけよ。


「ヤス、わかってるよな? 丁半で負けたほうが出目の数だけぶん殴る!」 


 俺はヤスに、笑顔で右拳をガッツポーズの様にして見せながら言った。


「ははは、やっぱり兄貴はすげえや! 他のボンクラとは違う。最高に極道してて、かっこいいですよ兄貴」


「おう、魂と魂を賭けた意地の張り合いよ。あとよ、もしも俺が負けたら、アレクシアと一緒にこっちの極悪組を頼む。俺の神様とこの世界をおめえが代わりに救ってやってくれ、頼むよ」


「へい、わかりました」


 まあ俺が負けることはねえがな。

 そして、空気がひりつく様な鉄火場の空気へと変わる。


 いいねえ、懐かしい空気だ。

 これがヤクザ、これぞ極道、俺達が咲かせる魂の華として、これこそが相応しい。 

 俺達は、お互いに見つめながら気を充実させる。


「はいツボ!」


 俺達二人が、頭上のサイコロとコップに合図を送る。


「入ります、張った張った、丁半ないか?」


 アレクシアがツボ振り役で、丁半聞いてくる。


「丁!」


 俺が先に声を上げた。


「半」


 ヤスが答える。


「丁半揃いました、勝負」


 頭上のコップが取り払われ、出目が揃った。

 サイコロの出目は六が二個、ロクゾロの丁、合計一二発だな。

 俺の博運は最強よ、どんな鉄火場でも勝利してきたからな。

 こいつを除いてよ。


「おうヤス、面ぁ上げろ。歯ぁ食いしばれ、行くぜオラァ!」


 俺は合計一二発ヤスの頬ゲタを、魂ごとぶん殴る。

 すると、ヤスの記憶の断片が俺の脳内に浮かんできた。


 戦後の混乱期、官僚の父親は仕事で常に不在、母親は男作ってヤスの事など知らんぷりで、優しいお兄さんの家庭教師だけが、ヤスのただ一人の味方で、一緒に遊んでくれたり、勉強を教えてくれた幼い頃の日々。


 成績は常にトップだが、学校でいじめられてて、見返すために、大好きな家庭教師のお兄さんがやってた空手を始めたが、家庭教師のお兄さんはヤスを庇うように、車に轢かれて死んだ日の記憶。


 中学、高校では神童と呼ばれ、空手の大会で優勝するも、好きな女の子もいなく、恋もすることもなく、家に帰ると勉強と鍛錬だけの満たされぬ日々。


 そして東大の空手部に入り、部のエースで三年生で主将となるが、両親が離婚して父親から過度の期待をかけられ、プレッシャーで押しつぶされそうな日々。


 ある日、チンピラに絡まれていたところで助けた俺を、家庭教師のお兄さんの姿とダブらせて、俺に惚れた時の記憶。


 いつの間にか、俺の目に涙が浮かんできた。

 こいつも、かわいそうな人生を送ってきたんだなあと。 


 そして、また二人で博打を再開する。


「半」


 ヤスが答えた。


「丁!」


 俺は声を上げる。



「丁半揃いました、勝負」


 頭上のコップが取り払われ、出目が揃った。

 サイコロの出目は五と六のゴロクの半、今度は俺が殴られる番。


「兄貴、それでは失礼します」


「手加減するんじゃねえぞ? 本気で来いオラァ!」


 合計11発、俺はヤスの鉄拳を魂で受け止めた。

 一発一発が重すぎる。

 ちくしょう、これじゃあ俺の魂が持ちこたえられるかどうか……。

 だがなあ、こいつが外道に堕ちて歪んじまった原因は俺だ!

 それに舎弟だったこいつに弱い所なんか、見せられるかってんだ!


 そして、ヤスの記憶の断片がまた浮かんでくる。


 兄弟の盃を交わした俺とヤスの、忘れられない大事な思い出と、一緒に遊びに行っては朝まで飲み、夜の街で糞生意気なチンピラとか与太郎連中を、片っ端からぶちのめして金を取ってまわった、お互いチンピラだった時の、最高に輝いてた青春時代の記憶。


 喧嘩師ヤスの二つ名で、人斬りマサの異名を持つ俺と、敵対組織と抗争や縄張り荒らしに明け暮れる、わくわくするような喧嘩と冒険の日々の記憶。


 そして、恋と愛情もろくに知らなかったコイツが、いつの間にかその辺の男女がやるような、淡い恋心を俺に抱いちまって、俺への愛とヤクザとしての矜持との狭間で、悩み、苦しみながら、血を吐くような思いをして、こいつの心が徐々に歪みだした、悲しい記憶。


 そう、こいつがこっちの世界に転生してきた理由は、閻魔大王親分から聞いていた。


 男が惚れる男の中の男を目指し、男を売るのが極道でありヤクザ稼業だが、今まで女を好きになる事もなく、女の愛情など見向きもせず、男女の恋中のように本気で俺を愛して惚れちまった、可哀そうな野郎だった。


 俺の組織では、いや極道社会で同性愛行為は、みっともねえし、気持ち悪いし、男としての格好がつかねえ風紀良俗を乱す、恥ずかしい行いってことで、破門にする。


 だから、こっちの世界に転生する時、こいつは親分に条件を出した。


 今度こそ、兄貴を愛することが許される体へ、転生させてやってくださいと。


「おいこら? てめえ手加減してんじゃねえのか? 全然効かねえぞ! もっと気合入れて、てめえの思いをぶつけて来いよ、俺をなめてんのかオラァ!」


 俺は精一杯意地を張るが、あんな鉄拳受け続けたら、魂が消滅しちまう。

 だがなあ、一歩も引かねえぞ。

 こいつの魂が救えねえで、この世界が救えるかよ馬鹿野郎が。

 ヤスは、左目をこすりながら俺を見る。


 この野郎、俺の魂が消滅するとでも思ってんのか?

 あいにくだが、俺は絶対に負けねえ。

 素手ゴロでも博打でも勝利して、おめえの未練と邪気を払って地獄に送り返してやる。


 そして、三度目の勝負。


「半!」


 俺が声を上げる。


「丁」


 ヤスが答えた。


「丁半揃いました、勝負」


 頭上のコップが取り払われ、出目が揃った。

 サイコロの出目は、一と一、ピンゾロの丁。

 クソが、今日の流れはこいつの博運が上回ってるのか。


「おう、わかってんよなぁ!? ありったけの思いをぶつけて来いよ!」


 俺は、ヤスに右手で手招きしながら、魂を振り絞った大声を張り上げる。

 あと、一発か二発もらえば、俺の魂は消滅するかもわからねえ。


 けどなあ、ヤス。

 俺を殺したことを負い目に思ってるならよう、俺がその結果を塗り替えてやる。

 器量と頭は俺よりも上かもわからねえ。

 だが、気持ちだけは、気合だけはてめえには負けねえぞ!


「兄貴……もういやだよぉ……俺、これ以上兄貴のことぶん殴れねえ……もう勘弁してくれよ」


 ヤスの目からは涙がこぼれ落ちる。

 こいつも俺の人生を見ちまったか?

 だが、だからどうした? 

 今更、俺との喧嘩で情に流されて根性(イモ)引きやがったか?


 馬鹿野郎が、こんなことで泣き入れやがってこの野郎。

 チンピラからやり直せってんだ、ボケ。


「ビビってんじゃねえぞこの野郎! 俺をぶっ殺した時の気合見せろや! アレクシアやこの世界の極悪組に、恥をかかせる気かよう、この俺に!」


 こいつは、完全に負けを認めねえと、屈服しねえ男。

 未練を残すことは、地獄の刑期の邪魔になると親分は言っていた。 

 

「さあ、こいよ? てめえの魂ごと全部受け止めてやらあ!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 ヤスは、目に涙を浮かべながら拳を振りかぶり、一発、そして二発と俺の顔面を魂ごとぶち抜いた。


 すると、ヤスの記憶の断片がまた浮かんでくる。


 俺が6代目極悪組の組長に就任し、昇り方はどうあれ、こいつは若頭として感無量の思いで、盃事を見つめていた記憶。


 いつしか、金と女に狂いだした俺を、やり切れない気持ちでずっと耐えてきて、それでも俺の事をずっと思い続け、直参たちや舎弟たちに必死で説得しまわっていた記憶。


 だが、6代目極悪組を俺と自分の子供のように思っていたこいつにとって、最悪な事態を迎えた、組織分裂の絶望の中で陣頭指揮を執り、抗争で警察(サツ)に逮捕されて俺と離れ離れになり、刑務所の中で聞こえてくる、俺の暴虐非道の行いの数々。


 俺か、組織かの選択で、最後まで悩み続け、選んだ選択は、俺の子である6代目体制を生かすことを決心し、抗争終結のために、心の中で俺に詫び続けながら、俺に一服盛り、俺とコイツが根性の別れを神戸港で迎えた、魂が引き裂かれるような、深い後悔と悲しみの記憶。


「マサヨシ、やめるんじゃ! それ以上はお主の魂が消滅する!」

「マサヨシ様!」

「マサヨシ殿!」

「兄者、俺はどんな結末になろうがこの喧嘩、舎弟頭として見届ける!」

「親分負けるな!」

「僕たちの思いも込めます!」

「親分強い!」

「こいつより強い!」

「極悪組絶対勝利!」


 へ、うるせえギャラリーたちだぜ。

 まったく、しょうがねえ舎弟と子分、そして女達だ。

 

「なあ? ヤスよ、こいつら面白いだろ? 転生前、俺がブサイクな真似してクズ過ぎたから、ダメになっちまったけど、今回の極悪組は最強にして最高の組織よ!」


「へい……さすが兄貴です……」


 ヤスは涙を流しながら、頭を下げた。

 ヤスの表情の影がだんだんと離れて行ってるが、こいつは死を望んでいる。

 俺を殺した後悔の念……あまりにも強すぎる未練によって。


 適当なところで、こいつに冥界魔法を唱えて切り上げるつもりだったが、もう行き着くところまで行くしかねえな。


 そして久方ぶりに味わう博打の熱、ここで冷ますのは野暮ってもんだ。

 負けが込んでるが、最高に楽しいぜ。

 万が一ここで負けても、悔いはねえ。


「おう、アレクシア、サイコロ振れや」


「できません、もうこれ以上私には……」


「うるせえ! おめえ俺の女になるんだろうが! 俺に恥をかかせるんじゃねえ!」


 そして頭上のサイコロがコップに投げ入れられる。


「入ります……張った張った……丁半ないか?」


 アレクシアが涙声で、丁半を聞いてきた。


「半だ。オラ、さっさと賭けろよ?」


「もう、俺の負けでいいです……これ以上もう……」


「何だとこの野郎! おら、サッサと言えよ! てめえそれでも博徒か! 極道かこの野郎!」


「丁……」


 ヤスは、うなだれながら涙を流し、ぽつりと呟いた。


「それでこそ、俺の愛した一番の子分、そして最愛の舎弟だぜ」


 俺は笑顔を浮かべながら、ヤスを見やって肩を叩いた。


「丁半……揃いました……勝負!」


 頭上のコップが取り払われ、出目が揃った。

 サイコロの出目は、五と四のグシの半。

 合計九発か。

 俺の勝ちだ、おそらくこいつの魂はこれで消滅するだろう。


「ヤスよ、覚悟はできてるだろうなあ?」


「へい、おそらくこれが最後、永遠の別れになると思いますが、お願いします」


 ヤスは、涙を流しながら俺へ、笑顔を向けてくる。

 ちくしょう、いい笑顔をしやがるな。

 じゃあな、ヤスよ。


「行くぜ! うおおおおおおおおお」


 俺は、拳を振りかぶって渾身の右ストレートを繰り出した。

 ヤスに拳が当たる瞬間、こいつの最後の記憶の断片が、俺の脳裏に浮かぶ。


 俺の死後、極悪組七代目を襲名し、心が壊れちまったこいつは、俺以上の暴虐と非道を繰り返し、歴代最大最強にして最悪と呼ばれるまでに、変貌を遂げ、そして……そして……。


 俺はヤスの顔面スレスレで寸止めして、涙があふれ出てその場で崩れ落ちそうになる。

 俺達の極悪組が行き着いた末路とコイツの結末を一瞬見て、いたたまれぬ気持ちで俺は号泣した。


「兄貴、俺の負け分を取り立ててねえですぜ……」


「だめだよぉ、ヤス……俺もこれ以上おめえぶん殴れねえ……俺が一番愛してた舎弟を……もう殴れねえよ……」


 俺は、ヤスの体を抱きしめながら号泣した。

 結局この勝負、最後の最後まで決着がつかなかった。

 まったく、不細工な話だし、極道失格よ。

 ヤクザとしての矜持よりも、最後は舎弟への情が勝っちまうとはな。


「それだけ言ってくれれば、俺は満足です。こんな俺を愛してくれて、ありがとうございました」


 ヤスの顔が付きが穏やかになって、邪気が完全に消え去り、二人で抱きしめあった後、俺達はその場に座り込んだ。


「なあ、おめえ俺が死んだ後、組継いだんだろ? あの後、極悪組はどうなったんだ?」


 俺はうっすら感じ取ったが、こいつに直接確認しねえとな。

 こいつの口から言わせて、お互い転生前の因縁を断ち切るためにも必要な過程(プロセス)

 

「そうですね。俺が7代目に就任し、時間はかかりやしたが全国制覇しやした。東京の連中も、広島も九州も、全部平らげてやりましたよ」


 うわ、やっぱそうか。

 こいつすげえなやっぱり。

 ていうかよ。


「おめえ俺がくたばる前、すぐ後を追うとかカッコつけやがって、嘘ついたのかコラ?」


「すいません、マサヨシ兄貴が残した6代目体制を、死ぬ前に少しでもでっかくしようと思いまして。気がついたら、過去最大の巨大組織になっちまいました。だが、それがよくなかった」


「あ?」


 ヤクザは、縄張り(シマ)拡大してなんぼだ。

 だが、それがよくなかったとは?

 こいつの口から言わせてやるか。

 もしかしたら、この世界を救済するためのカギになる話かもしれねえ。


「組織がデカくなると、足の引っ張り合いやゴタつきが増えます。中央集権体制に移行しようと思いましたが、80過ぎた俺は半分ボケて狂っちまってて無理でした。そしてサツの締め付けも、より一層激しくなって、結局極悪組は四分五裂して引退したんです。その後裏社会は戦国時代を迎え、極悪組は消滅しました」


 やはりそうだったか。

 俺が見たイメージ通りだ。

 俺達が人生を捧げた極悪組は、時代の流れには抗えず消滅したのか。

 歴史上に存在した、アレクサンダー大王さんやチンギスハーンさんが築いた、大帝国の末路のように。


 まあそらそうだよ、手練れや、やり手の多い東京の連中なら、ワザと吸収されたフリして、内部から食い荒らす腹芸は出来るだろうし、九州や広島の連中も、根性者の集まりなんだから、力と金で従わせたとしても、そう簡単におとなしくする連中じゃねえだろうし、その隙に半グレ共が増長しだすだろうし、海外のマフィア共だって隙をついてくるだろう。


 サツだって、躍起になって潰そうとした極悪組が、勢力を拡大したとありゃあ、メンツにかけて全力で潰しにかかるだろうからな。


「そして引退後しばらくすると、噂が出回りました。俺が兄貴を事故に見せかけて殺したって。まあ、その噂は事実ですけどね。後はもう、お分かりでしょう? 俺は元極悪組の奴らにさらわれて、車椅子に乗ったまま、兄貴が死んだ神戸港に沈められました」


 そうだな、よっぽどうまく立ち回らねえと、引退後のヤクザの大半の末路は、悲惨なもんだ。


 借金まみれになって首括ったり、孤独に苛まれて一日中ボケっと過ごしたと思ったら、頭までボケて狂って死んだりな。


 あとは、恨みを買ってる奴は殺される。

 引退した極道は、カタギになったから殺しはご法度なんて掟も、今は昔。

 なぜなら、引退偽装して実際は、カタギのふりして美味い汁吸う奴もいるからな。

 だから引退後に、消された親分衆も、最近よく聞く話だ。


 会長職とか総裁になって、ある程度の影響力を組に残し、ビクつきながら余生を過ごして、こういうのも何だが、ぶっちゃけ晩節を汚して死ぬトップも多い。


 だから極道は、ある程度座布団を重ねたら、死ぬまで極道を張り続けなければならねえのさ。


 余生を満喫するヤクザなんて一握り、散々人様を苦しめ、世間に迷惑かけてたヤクザが、カタギさんのように、幸せな余生を送るなど、おこがましい話だ。


 まあ死んで、転生後の異世界で、極道してる俺が言うのもなんだけどよ。


「因果応報だな。神戸港の水温は冷たかったろ? あとは冥界で裁判受けて地獄行きって流れか?」


「はい、俺の場合長期1万年の焦熱地獄行きだったし、兄貴もこっちに来てねえし、往生しました」


 マジか、俺ですら再審で長期4千年相当だったのに、こいつすげえな。

 だが、せっかくだから、こいつに自慢してやろうかな。


「なんだよ、一万年とか小便刑じゃねえか。聞いて驚け馬鹿野郎、俺なんて懲役349京2413兆4400億年、無間地獄行だったぜ?」


「え!? マジですか! 何でそんな懲役刑に?」


 ヤスが目を見開いて驚く。

 そうだよ、普通はこんな京なんて単位の懲役付かねえらしいしな。


「おう、それな。あのヤミーって馬鹿が裁判したが、刑の計算間違えてんのと、俺が裁判で態度悪くしまくったからこんな懲役よ、ウケるだろ?」


 俺が言うと、ヤスが大爆笑する。


「やっぱり兄貴はすげえ。ていうか、あの黒いゴキブリみてえな小娘、やっぱぶっ殺したほうが良くねえですか?」


「馬鹿野郎! 義理が出来ちまったし、そんな真似できるかよ。しかも、あいつの兄貴閻魔大王様だぞ? そんでよ、実は俺閻魔大王様から、親子盃降ろしてもらったんだよ、すげえだろ?」


「すげええええええ、やっぱり兄貴はすげえや。ハンパじゃないですわ」


 そんな話をしながら、二人で若い時のように大爆笑しあった。

 そしてお互い見つめ合う。

 今度こそお互いの別れ、こいつは長期刑だからしばらくは会えねえな。


「よう、今度生まれ変わって娑婆であったらよ、いの一番に舎弟にしてやるからな」


「へい、それじゃあ勤めに行ってきやす。それまでにこの世界を救ってやってください。あと、アレクシアを、あの子をお願いします。なんだかんだ言って、俺の娘みてえな子なんで」


「ああ、幸せにしてやるぜ。それじゃあ、元気でな。奈落(ドロップ)


 俺はヤスとお互い右手を差し出し、がっちりと握り合う。

 そして、冥界上級魔法によりヤスの魂は、ゆっくりと沈み込むように堕ちて行った。


 あばよ、俺の愛する舎弟よ。

 そして、またいつかの来世で会おう。


 俺は、アレクシアの心から戻り、再びあの世界に戻る。

 アレクシアと抱き合ったまま、周りを極悪組の面々に囲まれた状態だった。


「お主ら……いつまで抱き合ってるんじゃ!」


 ヤミーが、思いっきり俺のケツを蹴飛ばすと、アレクシアと俺は蹴りの衝撃で吹っ飛ばされ、極寒の港から、二人して海に落ちた。


「ぶははははははは、マサヨシよ、水も滴るいい男じゃの! いい気味じゃ、あははははは」


 ……このドS野郎!

 やっぱり、このドSは、ぶっ殺すかこの場で!


「マサヨシ様、私に一言おっしゃってください。あの黒ゴキブリを葬って見せましょう」


 アレクシアが、どす黒い笑顔で俺に告げる。

 ああ、こりゃあ当分、この女共に往生する日々が続きそうだぜ。


 こうして俺は、ヤスの代理として動いていた、アレクシアのとらわれた心を救い、ヤスの魂の救済を果たし、前世の因縁を断ち切って、王国を救済した形となって、一つの代理戦争が幕を下ろした。


 だがこの世界どころか、神界、天界、精霊界、冥界、魔界とこの世界を巻き込む、新たな代理戦争の幕が上がろうとしている事に、まだ俺と極悪組は気がついていなかった。

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