表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仁義なき異世界転生 ~勇者マサヨシの任侠伝~  作者: 風来坊 章
第三章 代理戦争
72/163

第71話 舎弟 前編

 俺達は、約3か月ぶりに王国に帰還する。

 コルレドは同行したがっていたが、奴は共和国連邦の大統領様だ。


 万が一があるから、絶対連れて行かねえ


 それに俺は話し合いに来たわけじゃねえ、外道に堕ちた、俺の元最愛の舎弟にして子分の、ヤスに引導を渡しに来た喧嘩だ。


 皆には、この喧嘩の立会人になってもらう。

 俺とヤスの一対一の喧嘩だからな。


 ヤス……。


 あいつとは、前の世界で50年近く一緒に苦楽を共にした。


 初めて会った時はいつだっただろうか。

 

 俺が駆け出しの時で、野郎は事務所で盃貰う前で丁稚(パシリ)してた時だったかな?

 

 最初は丁稚のくせに、年上で生意気そうだったヤスをぶちのめした。


 なぜなら、こういう住み込みの小僧の教育は、末端の若衆の務めだったからな。


「何で、てめえみてえな野郎が、ヤクザやりてえって言いだしたんだコラ? おう?」


 俺はまだ未成年だったが、年が上のヤスに恫喝(クンロク)いれる。

 そう、こいつは22でヤクザやりてえって言って、入ってきたやつだった。


 聞くと、なんと東京大学を中退してきた、親が官僚様のおぼっちゃんだったようだ。 


 学校すらまともに通えなかった、俺からしてみりゃ不思議だった。


 今じゃ大学卒業して渡世に足を踏み入れるヤクザも珍しくないが、当時としては異色で、仮に東大中退でも、雇ってくれる企業なんてごまんとあるのに、なんでヤクザってな。 


「実は、僕は貴方に憧れて、この世界に足を踏み入れました」 


 何のことかわからなかったから、とりあえず一発くらわして訳を聞く。


 俺は覚えていなかったが、奴は東大の空手部だったらしく、190センチのガタイでパワーがあったため、部のエースで、全国大会なんかにも出てる野郎だった。


 そして地元が俺と同じで、ある日地元に帰ったら、組にも入ってねえチンピラに、目が合ったの合わねえだので、からまれた。


 奴は大会控えてたから、問題を起こしたくねえって思って、土下座して謝ったらしいが、ボコボコに殴る蹴るされる。


 そんで、ちょうど任侠映画かなんかを見て、意気揚々と映画のセリフを呟きながら通りがかった俺が、ヤスが殴る蹴るされてるところを見て、チンピラが天下の往来で、いきがってんじゃねえボケと思って、そいつらに、任侠映画のセリフ言いながら殴る蹴るよ。


 ヤスは、それで俺に惚れちまったらしい。

 大学辞めて、親に勘当されてうちの組に入ってきたようだった。


「覚えてねえな。まあいいや、おめえとは縁ができちまったし、面倒見てやるよ」 


 それが、ヤスと俺の出会いだった。

 

 俺は自身の左手、義指つけてはいるが無くした小指を見つめる。


 そう、あれは転生前に小指を無くした時の話。

 当時俺が組を持ったばかりの時、若い衆が東京の組織にさらわれて殺された。


 そりゃあ当然だよ。

 俺らシマ荒らし、してたもの。


 それが発端で、舎弟頭にしてたヤスが、東京の組織のお偉いさんを、殴り殺す事件を起こす。


 さらわれて始末された野郎は、俺のお気に入りの若衆だった。

 

 裏で敵対しているとはいえ、その組織とは本家が盃交わしていた関係だったから、俺は当事者である舎弟のヤス連れて、手打ちを視野に入れた交渉事に向かうが、もう向こうさんは俺達を殺す気満々よ。

 

 裏の世界ってのは、血のバランスシートってのがある。


 命のやり取りをして殺生した場合は、それに見合うだけの命が必要となる。


 ヤスがぶっ殺したのは、組織の中堅の組長。


 そして、それに見合う対価は、当時売り出し中だった俺の命ってわけだ。


 本家は、俺の報告聞いて俺の(タマ)がとられた段階で、それを大義名分に東京進出して抗争するつもりだった。


 あとで知った話だがな。


 そして、あれはかなりハードな交渉事だった。

 だって、俺の命取ること前提の交渉なんだもの。

 理屈なんて通じるわけねえだろっての。


 その時ヤスは、パンツに隠してたドス取り出して、啖呵切ったのさ。


「俺と兄貴は、いずれ極悪組、そして日本のトップになる器量だ! お前たちのような東京の三下の組長の命なんざ、屁でもねえが、俺の命が欲しけりゃくれてやる」


 と奴はドスを自分の首に向けて、兄貴、後は頼みますとか、やくざ映画みてえな台詞言いやがって、カッコつけたから、俺はドス取り上げてその場でヤスを殴る蹴るよ。


 もうね、向こうさん口をあんぐり開けてやがんの。


 何やってんだこのボンクラ共みたいな。


「すいやせん、ブサイクな真似ばかりで申し訳ねえので、俺の命と引き換えに、指で勘弁してもらいませんか?」


 俺はそう言うと、ドスで小指落とした。

 今は小指なんて、落としても金にならねえなんて言われてるが、当時は小指イコール自分の命と同じ。


 向こうさん、しまったって顔しやがったよ。


「てめえみてえな、若造の指なんかいらねえよ馬鹿野郎!」


「カッコつけてんじゃねえぞ、この野郎!」


 もう、向こうさん何なんだこいつらって言う目で、罵声浴びせてきたのね。

 

 そしたら、ヤスがそいつらボコボコにすんの。


「日本一の極道になる、兄貴の命と同じ重さの指じゃ不足か!」


 ヤスがもう、動けなくなった、相手の幹部を蹴り続けてんのね。


 その光景みて、俺大爆笑しちまったぜ。

 結局、向こうの若い衆が出てきて、大乱闘して全員ボコボコにしちまった。


 小指無くして、血が止まらなくて、痛えってのにさ。


 こうして、俺の指と引き換えに、東京の組織との大抗争はお流れ。


 それで、その話を聞きつけた、伝説の極道と呼ばれた本家の大親分の組長が、面白がって俺を呼びつけて、直参の盃を降ろしてくれた。

 

 今思えば 懐かしい話だよ。


「マサヨシよ、大丈夫か? 辛くはないのか?」


 ヤミーが、心配そうな顔して聞いてくる。


「辛いな、けどしょうがねえよ。俺が生んだ業だ」


 俺達は、首都デヴレヴィからはずれにある軍港に到着し、女王アレクシアが先頭に立って出迎える。


「よう、元気だったか?」


「お待ちしておりました、マサヨシ様。こちらの方々も前に拝見しましたが、マサヨシ様のお仲間ですね」


 アレクシアは、俺の極悪組のメンツを見やる。

 レオーネは目を伏せた。

 まあ、こいつの場合王国の大公だから、俺達が支配する共和国連邦にいたら、立場ないもんな。


「そう、舎弟が一名来れなかったが、こいつらがこの世界の極悪組の執行部よ! ニコ、若頭として挨拶しろ!」


 ニコがアレクシアに仁義を切る。

 その時のアレクシアの目に、一瞬浮かんだのは、嫉妬の情念の炎。


「どうだい? 転生前は廃れちまってたけど、うちの若頭はよくやんだろ?」


「ええ、可愛らしいですわね」

 

 なんだとこの野郎。

 こいつニコをガキだと思ってなめてんな。

 俺の若頭なめやがって。


「いやあ、転生前のおめえさんよりも、男気があって、よく働いてくれんだよ。親殺しとかしちまう、どっかのボンクラよりもよ」


 アレクシアの目に浮かんだのは、怒りの色で、ハンカチを取り出すと、右目をこすり始める。


 本来のアレクシアなら、笑って流すだろう。

 だが、この野郎反抗的な目をしやがって。

 やはりこいつ、ヤスが主導権を握ってる。


「そうですか、色々とお話を聞きたいですわ。歓迎いたしましょう、王宮へどうぞ」


 俺達は馬車で王宮へ移動する。

 馬車の中は、俺とヤスの二人きり。

 その間の街道は、騎士達全員が頭を下げてる。

 数十万、いや100万以上の数の騎士と、兵士達。


 村々からも徴兵しやがったな。

 てめえの虚勢のために、弱い立場の平民らも駆り出して、大物気取りやがって。


「よう、俺はよ喧嘩しに来たんだ。こいつら帰らせろや? 農作業とかあんだろうがよお」


「喧嘩? いつでも出来るではないですか? これは私のあなたへの誠意です」

 

 俺は馬車の中で立ち上がって、ヤスの前に立つ。


「いらねえよ、そんな誠意なんかよお! てめえ親だった俺に意見しやがって。なめてんのかこの野郎!」


 俺はヤスの頬を張り、美しくセットされた、髪の毛を引っ掴み、外に顔を出させた。


「こいつら見ろコラ! どっかの畑から連れてきた野郎らだろ! こんなくだらねえことでカタギ集めやがってコラ。てめえは極道としての、最低限のわきめえも出来なくなったのか!? ふざけんなボケ!」


 俺はヤスに怒鳴って、引っ掴んだ髪を放り投げるように馬車の中に転がす。


 アレクシア、いやヤスの、美しいプラチナブロンドがボサボサになり、目を伏せ、水晶玉で解散するよう指示を出した。


 アレクシアならしょうがねえが、ヤス。

 てめえなら話は別だ。

 

 徹底的にてめえの、極道としての面子やプライドを、ズタズタにしてから、喧嘩させてもらうぜ。


 王宮に着くと、早速晩餐会が開かれて、パーティ会場の席に着くと、貴族の女共が服を脱がされて、全裸のまま涙目でダンスを踊っていた。


 あまりにも悪趣味な光景に、レオーネは顔を伏せて、ヤミーは嫌悪感剥き出しの表情をする。


 舎弟頭のガルフは構わず酒を飲み、子分共がボケーっと、しながらその光景を眺めた。


「どうでしょう? マサヨシ様。転生前は、よく宿を借り切って、あなた様が好きだった催しです」


 ああ、懐かしいなあ。

 温泉宿を丸ごと貸り切って、スーパーコンパニオンのお姉ちゃんらかき集めて、色々と楽しいことを組の連中とやったもんだぜ。


 だがなあ、商売女なら別にいいが、こいつらカタギの貴族の女共だろう? ふざけやがって。


 俺はパーティのテーブルを蹴り上げて、ひっくり返し、啖呵を切った。


「てめえ、服着させて返せ馬鹿野郎! いちいち俺の癇に障ることしやがってコラ! けったくそ悪い! おめえら、部屋に戻るぞ!」


 俺は床に唾吐いて、会場を後にする。

 振り返ると、ヤスが体を震わせて、唇を噛み締めていた。


 どうしょうもねえ外道に、堕ちやがってるな。


 俺は用意された部屋の明かりを暗くし、闇に右目を慣らせながら、道具の手入れを行ない、水晶玉の通信は入れっぱなしにしている。


 組の連中には、何があってもいいように、完全武装をさせてな。


 すると、部屋のドアからノックがした。

 もうそのノックの仕方から、誰かはわかるぜ。


「入れ」 


 すると、下着姿のアレクシアが入ってきた。


「今日は、申し訳ありませんでした。私が夜伽をしますので、どうかお怒りをお静めください」


 おお、すげえなこりゃ。

 まるで天使様のような、可愛らしさだぜ。

 中身ヤスだけどよ。

 アレクシアなら抱いてやってもいいが、ふざけた茶番しやがって、この野郎。


「おお、そりゃあすまんな。それで、これはアレクシアが望んでいることなのか?」


 するとヤスはビクっとなって俺の目を見る。

 気がついてねえと思ったか?

 このマヌケが。


「なあ、アレクシア。俺とおめえが、こういう関係になって、愛を確かめ合うには、もうちっと、段取りとかムードとか、こいつみてえな邪魔が入らねえ方がいいだろ?」


 すると、ふいにアレクシアの右目から、涙が溢れ落ちる。


 どうやらあいつは、まだヤスに意識を全部、乗っ取られてはいないようだ。


「いつからですか?」


「選挙前日の時だ。てめえ、よく小難しい格言なんか使いやがってたな。この世界でうちらの国のことわざとか使うの、俺とてめーだけだろう? それでもう、ピンときたよ」


 俺がにやけて言うと、ヤスは笑い出した。


「やはり、マサヨシ兄貴はすげえ男だ。このクソのような世界で、あんた眩しく輝いてる。まるで昔のあの時のように、最高にカッコよくていい男になってますぜ」


 俺はヤスの回答を鼻で笑う。


「てめえは、どうしょうもねえ、最低の外道に成り下がってやがるけどな。俺をガッカリさせやがってこの野郎。いつからだ? いつからこの子の中で活動してた?」


 俺の質問にヤスは、とびきりの邪悪な笑みを浮かべる。


「このお嬢さんはね、物心ついた時から、意思薄弱で感情が乏しかった。上の兄弟達からも、イジメられてて、親はゴミのような目で見てた子だが、知能と魔法の才能はずば抜けてた。もったいねえじゃないですか? だから色々手を貸してやりました」


 だから、幼少期から悪魔野郎と戦えたのか。

 そして今のアレクシアが形成された。


「この子はね、全てを憎んでましたよ。生まれが立派でも、幸せとは限らねえ。だから、もっと自分の才能を活かせって、心の中で(ささや)いたんです。お前なら魔界を支配する魔王になって、この世界の連中を、見返せるって」


 アレクシアが魔王軍になった理由。

 それはこの世界への復讐。

 そういう事か。


「そして俺は兄貴が、転生していた事を知ってた。だからきっと役に立つと思ったんです。魔王軍を支配して、この世界を治めちまえば、兄貴は楽に世界を手にできて、救済できるとね」


 なるほど、人類だけを裏切ったわけじゃない。

 

 この子とヤスは、俺のために全てを裏切っていたのか。


 やはりこいつが描く絵図は違う。

 そして俺は知っている。

 おめえが何のために、転生したのかもな。


「そして俺はこの子にこうも囁いた。いずれお前の運命の王子様が現れて、愛してくれるだろうと。傑作でしょ?」


 ヤスが、アレクシアの事を嗤うと、アレクシアの右目から、涙が流れ出した。


「笑えねえし、つまんねえことばっかり言いやがってコラ。ふざけんなこの野郎! てめえ、人間を、この世界の連中をなんだと思ってんだ!」


 俺が啖呵を切ると、ヤスの顔が鬼のような表情に変わった。


「だったら、あんたが6代目になった時、何で俺や直参連中、枝の連中を、愛してくれなかったんですか! 死ぬ前まで女と金と保身ばっかで!」


 今度はヤスが俺に啖呵を切り出す。

 そうだな、そういえばそうだったよ。

 最低の外道だったな。


「悪かったと思ってるよ……」


 俺はふいに目を伏せ、頭を下げた。

 こいつの言い分は、なんら間違っちゃいない。


「6代目極悪組は、あんたと俺の子供みたいなもんだったのに……。どうして愛情を注いでくれなかったんですか……。なんで、この世界の連中ばっかり……」


 ヤスも目を伏せて、左目から涙を流す。


「決着をつけよう、ヤス」


 俺も涙目になって震え声で呟いた。

 そして今度こそ、お前の魂を救ってやる。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ