第69話 大統領
駒魔犬兄貴は、俺と勇者ガイウス、女神アテネのやり取りを閻魔大王親分に報告した。
今回の俺が作った大義名分は、かなり親分や俺に有利になるとの事。
特に、皇国でヤミーの気球が爆発した件。
あれは、神界的にアテネが非常にまずいという。
理由はどうあれ、アテネが勇者を転移させた影響で起きた、神殺し未遂。
俺は良くはわからんが、創造神さんの面子を潰したってことで、天界にいる大天使さんが総出で、女神アテナの親類縁者や交友関係全部に、調査が入っているとの事だが、時間がかかるらしい。
閻魔大王親分は、この件はあの女神を、誰かが担ぎ上げたやべえ案件だと思ってるそうだ。
そして、最近気がついた点がある。
魔力量が大幅に増してる。
転生前のお母ちゃん、清水正代を救って俺の業が消えたからか?
そういえば、おやっさんの死を看取った時も、魔力の増加を感じた。
だから、俺はレオーネを救えたんだ。
精神的にも物凄くタフになった気もするが、これが親分が言ってた、俺の業で引き寄せられた魂を救う事で、力になるという意味なのか?
そして、共和国議員選挙投票日まであと1日。
おそらく、選挙は勝ちだろう。
すべての議席が取れるとは思わないが、俺の票読みでは8割がた当選は確実。
王党派は大敗北を喫するだろぜ。
俺は一人、コルレドの選挙事務所の一室でくつろぎながら、各方面に水晶玉で指示を出したり、連絡を受けていたりしていた。
さて、あいつも多分寂しがっている頃だろうから、そろそろ連絡してやろう。
あいつ、転生前もそうだが俺が連絡寄越さねえでいやがると、すぐ拗ねやがる。
俺はアレクシアの水晶玉に、連絡入れた。
「ごきげんよう、マサヨシ様」
相変わらず水晶玉の着信に1コール鳴らねえで、出やがるのな。
「おう、元気か? そっちどうよ?」
「はい、少々忙しいですが、元気ですわ」
「や、やめてください大将閣下! 自分らは魔王軍を裏切るつもりじゃ……パン、パン」
ああ、色々忙しそうだな……。
なんか取り込み中みてえだわ。
いちいち、怖いんだよコイツな。
「なんか……忙しそうだから、また掛け直そうか?」
「申し訳ありません。クズの雑音が混じってしまったようで、こちらは順長にやっています。マサヨシ様も、共和国で色々順調なご様子ですね? 色々と話は聞いております」
へっ、こっちの動きは筒抜けか。
王党派のボンクラ共、コイツに泣きつきやがったな、きっと。
「まあ、そうだな。それと、話したい事がある。おめえと俺の仲だ、情報交換といこうや」
「はい、それではこちらから。王党派の皆さん、ヤキが回ってしまったようで、良からぬ事を計画中な様子。お気をつけください、馬鹿の考え休むに似たりですが、窮鼠猫を噛むと格言がございます。彼らテロを計画中ですわ」
なんだと? ヤクザなめやがって。
そんな真似したら、こっちも出るとこ出て、野郎ら跡形もなく消してやる。
「候補者達や、近しい人達、それに投票所等にお気をつけ下さい。異端審問官達を有効に使うと良いでしょう」
なるほど有効なアドバイスだ。
それにコイツ……。
まあいい、今度は俺の情報だな。
「じゃあ俺からは、神界から新たな勇者が出た。勇者ガイウスと、女神アテネ。あいつら、皇国乗っ取って、魔王軍総司令本部とか狙ってんじゃね? 知らんけどさ」
「まあ、マサヨシ様以外にそんな存在が。情報源はちなみにどちらから?」
「さあなあ? たぶん信頼出来る情報筋じゃねえの。例えば俺のバックにいる方とかさ」
文字通り喧嘩の時に、バックに入るからな。
あの泣く子も黙る、おっかねえ顔が。
「なるほど、アスモデウス閣下にお伝えしましょう。しかし閣下の事ですから、あなた様のおそばで、すでに状況を把握しているかも」
……なん……だと?
あの女、まさか。
俺はその場で両手を突き出して、何もない筈の空間をまさぐる。
「あ、あぁ……や、やめろ……ゆ、勇者め」
この感触とこの声。
しょうがねえなあ、ソフトタッチでっと。
すると、何者かが崩れ落ちる物音が目の前でする。
いいねえ、なかなかの反応をしやがるって、てめええええええ。
何でここにいるんだよおおおおおお。
いつからだ? いつから俺のそばにいやがった?
なんなのコイツ?
あれか、ストーカーか? ストーカーなのか?
全然気配を感じなかったし、怖いんだけどこのポンコツ。
まあいいや、俺と一戦交える気は今の所ねえようだ。
気配が消えたようだし。
俺は今すぐR18な一戦交えてえけどよ。
「チッ、マサヨシ様、いかがなさいました?」
今、通信先から一瞬舌打ち聞こえた?
すげえ寒気を感じた、鳥肌も。
「いや、なんでもねえ。アスモデウスによろしく。これは俺の独り言だが、多分かなり厄介な相手だろうし、マーラー不死隊の連中も、野郎の動向に探りを入れ始めてる」
「しかしなぜ、そんな情報を我々に? あちらも、人類を守るため送られてきたのでは?」
「ああ、それな。ほら、あれよ、これは仮定の話だ。俺が気持ちよくこの世界の救済に乗り出してたら、勝手に縄張りに入ってきて、荒らしまわった挙句に、俺の縄張りとシノギと手柄かっさらおうとかした奴いたらよ、ムカつくし、殺したくなってくるだろ? 今そんな感じ」
俺が答えると、アレクシアは大爆笑した。
よくわからんが、俺の例え話が笑いのツボに入ったらしい。
「まあ、それは殺したくなりますわね。私が行って、今から殺してきましょうか? この世界で勇者と名乗っていいのは、マサヨシあ……様ですし」
何? 「あ」って。
今なんか言おうとしたろ。
やはり、こいつ……。
「いいよ、俺が今度直接落とし前つけるから。さっさと、この選挙終わらして、おめえに会いに行くからさ、それまでちょっとだけな、待っててくれよ? じゃあな」
「はい、貴方が来るのをお待ちしております。それではごきげんよう、愛しています」
そう、待ってろよ、俺が必ずおめえを救ってやるからな。
さてっと、それじゃあ最後の仕上げと行くかな。
俺はコルレドが演説してる、中央広場まで赴く。
アレクシアから言われた通り、異端審問官達を厳重警戒させて。
俺は、教会に属しているから一応政治的中立って建前をとらなきゃあならん。
だから、この出会いは偶然よ、偶然。
あくまでもな。
「おお、そこにいるのは、私の旅の仲間のコルレドではないか」
俺は、あくまでも偶然を装い演説の壇上に上がる。
そして強化された魔力で、身体強化を用いて大声で演説した。
「素晴らしい演説だった。みなさん、私が今からする話を共和国中に伝えてほしい。このコルレドは、元々共和国の為に諜報員として働くも、無残に共和国に捨てられた男だった。しかし私と共に、彼は魔界の悪魔と戦った。弱き者を守り、人々の自主独立を守る、共和の崇高な不屈の精神と、善なる弱きを助け、悪しき強きを挫く任侠と呼ばれる素晴らしい精神性を持っている。私は、そんな彼の精神性に惹かれ、個人的に義兄弟の契りを交わした。政治的中立のため選挙に影響するため、話はこれまでとするが、今まで一緒に旅をしてきた私の個人的な意見としては、彼がこの共和国を導くに相応しい男であると思う! どうだろう? お集りの皆さま!」
俺の演説に、周りの有権者たちは拍手喝采、大歓声が上がる。
あとは、おめえの気持ちをみんなに伝えろ、男になれコルレドよ。
「ありがとうございます。このコルレド・コレイニ。決して人様に、褒められた生まれも育ちもしておりません。私は、現首長ピエール・コレイニの私生児として生まれ、娼婦だった母親が苦労したお金で士官学校に通わせていただくも、華々しい戦火も挙げられず、逃げるようにして王国で商人として活動をしていました」
周りの聴衆が、静かに聞き入る。
こいつ、人に取り入るようなべしゃりが、うめえからな。
「そして商社を開くも、王国の悪逆な貴族と共に、弱き者を虐げ、金の事しか頭になかった最低の男でした。けど、私はそんな自分がたまらなく嫌だった! ご縁がありまして義兄弟の勇者マサヨシ兄貴との旅で、私は弱い立場だった亜人達や、スラム街の孤児たちを救う事ができ、そして悟ったのです」
そうだったなあ、てめえは最初どうしようもねえクズだったよ。
だが俺のヤキに耐え、丁稚にして、男気を見せたから舎弟にした。
「この世界はこのままではいけない! もっと子供達に恵まれた教育を、そして誰もが自由に夢を語り合い、そして平等に豊かになれるチャンスを共和国にもたらしたい! 皆様、共和任侠党と、このコルレド・コレイニを、どうか男にしてやってください! なにとぞお願いいたします!」
演説が終わり、コルレドは聴衆に頭を下げる。
すると俺の演説の時よりも、周りの有権者たちから大歓声が上がった。
そして俺の傍には、静かに妾の息子の演説を聞いてた、ピエール・コレイニ。
拍手し、目に涙を浮かべている。
「勇者様、最後のあがきにと思い、あやつの命を狙おうとしましたが、やめさせました。一番期待もしておらず、謀殺に近い形で見捨てた私の子が、ここまでの男になっているとは……。この国を売り飛ばそうとした、愚かな私の時代は終わりで、次の時代はあの子が担うべきです」
少しは、この男にも良心とやらが残っていたらしい。
ピエール・コレイニは、涙を流しながらコルレドの元へとゆっくり歩く。
その時だった。
「王国に与するスパイの勇者の仲間めええええ」
奇声が聞こえた方向を俺が見ると、平民派党首ブリュワーズ率いる一党が、手にナイフを持ってコルレドを襲おうとする。
しまった、こいつらの所にも候補者たてたから、逆恨みか!
こいつらボンクラすぎるだろ。
王党派ばかりに目が行ってて、こいつらのテロの警戒を怠ってた。
俺はコルレドを守るために、身体強化魔法を最大限まで高めて武神隊と共に、蹴散らしながら身柄を拘束するが、何人かがコルレドの前にナイフを持って駆け寄る。
ちくしょう、今魔法を撃つと市民に当たるが。
だがやむを得ねえ!
俺は懐から、ピストルを取り出して両手に魔力を高めようとしたところ、ピエールがコルレドの盾となり、胸と腹をぶっ刺されてうずくまり、群衆から悲鳴が上がり、刺した奴らは全員武神隊に拘束される。
「どうして!?」
コルレドが悲痛な面持ちで思わずつぶやく。
「やっと親らしいことをしてやれた。この国を頼む」
ピエールはそのまま血を吐いて死んでしまった。
俺はコルレドの傍に近寄ると、コルレドは両拳を握り締めて涙をこらえていた。
まあ、大の男が泣き入れるのは格好はつかねえが、これは別よ。
「コルレドよ。実は俺もこの前、転生前に俺を生んでくれた、お母ちゃんの迷える魂に会ってよ、ガキみてえに抱き着いて泣き入れたんだ。親の死に目だ、泣き入れていいぞ」
「へい、すんません兄貴。お父さん、う、うおおおおおおおお」
こうして、この国から最高権力者の首長が二人消えた。
そして投票の結果、共和任侠党は150議席中、89議席を獲得し、この国の与党第一党になる。
平民派の奴らもテロを起こしたってことで、議席は全部没収。
一週間後の予備選で、新たに出した共和任侠党の候補者が9議席獲得。
ここに、無所属だった元共和派議員4名も加わり、150議席中102議席の過半数となった。
え? 平民派の首長のブリュワーズはどうしたって?
俺が自分のかわいい舎弟の、命狙った奴をただで済ますと思うか?
まあ、そういう事だ。
そして首長選挙は実施されなかった。
首長二人がいなくなった今、俺と、貴族派重鎮のルイ・ド・フィリップ、コルレド、オブザーバーって形でロンの兄弟が会談を行い、この国の新たな方針が決まる。
まあ、俺が案を出したんだが今後の共和国は、大統領制を敷く。
この国には三権分立だとか、憲法とかまだねえけど、いずれ実現させる。
議会長兼副大統領は、フィリップのジジイにやってもらおう。
そしてポートランド共和国初代大統領は、俺の舎弟のコルレド・コレイニだ。
任期は5年で、二選まで可能な事とする。
大役だが、がんばってほしい。
ま、世界救済後、そこの席に座るのは俺だけどなあ。
そうすりゃ、ちまちましたシノギなんかよりも、でかい金を動かせるしよ。
へっへっへ、たまんねえぜ。
そして、共和国連合は共和国連邦となり、亜人領域も連邦国家の一員として認めさせた。
ホビット国と、ドワーフ王国は、自治権を認めさせたから、体制はそのまんまだ。
エルフ王国に関しては、レオーネが王国の大公なので保留。
ただし、何が起きてもいいように、子分のブロンドの本名のグルゴン名義で、エルフ王国亡命政府を形だけでも共和国に作っておき、一連の件はフューリーの馬鹿にも認めさせた。
こうして、この大陸に議会制民主主義国家にして、超大国のポートランド共和国連邦が誕生。
何で精霊領域を、加えたというとよ、神界の勇者ガイウス対策だ。
この連邦に手を出すことイコール、神界と精霊界の協定違反となるからよ。
ざまあみやがれ馬鹿野郎。
これで王国、いやアレクシア……違うな、ヤスの野郎との喧嘩の準備が整った。
そして得々ポイントはマイナス4981ポイントを示している。
4981、祝杯よ。
そしてこの世界のど真ん中、連邦国家を実質支配するのは、俺達極悪組だ!
最後の仕上げとして、俺はフリーダムシティのアテナを模した女神像を吹っ飛ばす。
そして、メリアちゃんと俺の土魔法で、ドヤ顔でふんぞり返る、高さ100メートルのヤミーの像を、この世界の中心におっ建てた。
新たな国家樹立を、初代大統領にして舎弟の、コルレド・コレイニが宣言して演説する。
服は俺が仕立ててやった、濃紺のスーツでビシッとさせてな。
「皆さま、ポートランド共和国連邦の初代大統領コルレド・コレイニでございやす。私は、救世主の再来であるマサヨシ兄貴と共に旅をし、様々な出会いを通じて感じたことがあります」
この演説は、水晶玉を介して、王国と皇国含む全世界に中継させている。
神界の勇者ガイウスさんよお、喧嘩ってのはこうするもんだぜ。
大義名分は俺達にありだ!
「みなさん、神々が見捨てたこの世界は、実は見捨てられていなかったのです! 冥界におわす閻魔大王様、そして女神ヤミー様のご尽力により、美しく生まれ変わりつつあります。人間も亜人も精霊も共に手を取り合う共和の精神を持って、弱き人々を救い、悪しき魔界の勢力に立ち向かう、任侠道の精神に則り、ここに世界の希望たる連邦国家、ポートランド共和国連邦の樹立を宣言します!」
俺の得々ポイントは、マイナス3150、最高となる。
そして俺の極悪組は、ロンや教王ソフィアさんと特等席で演説を眺めていた。
「マサヨシよ、この様子を審判の休憩中だった、大王様に私の目を通じて中継したら、手を叩いて大爆笑されながら、お主の事を褒めておるぞ!」
駒魔犬の兄貴がはしゃいで尻尾を振り、コルレドの演説に合わせて遠吠えする。
一緒に演説を眺めていたヤミーは涙を流して、俺の手を握ってきやがった。
全くしょうがねえガキだ.
こういう時はよお、泣くんじゃなく笑えばいいんだよ。
すると、ヤミーは笑顔で笑い、俺は舎弟の晴れ姿にこう呼びかけた。
「いよ! 大統領!」




