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仁義なき異世界転生 ~勇者マサヨシの任侠伝~  作者: 風来坊 章
第一章 仁義なき異世界転生
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第6話 カチコミ

「なんで外道の貴様が僧侶なのじゃ‼ ハッ!? 貴様まさか僧侶に成りすまして不埒な悪行三昧を」

「ちげえよ、この野郎! 俺はこの世界で神に仕えてやがるんだ‼」


 俺は転生してからのいきさつをヤミーに説明する。


「どう考えても信じられん。貴様はどうせその服着て、悪だくみでも考えておるだろう!」

「考えてねえって言ってんだろうが! この野郎埋めちまうぞコラ‼」

「ほれ見ろ! 貴様やはり本性を隠しておったな外道めが!」 


 だああああああああ、くそめんどくせえ!

 全然話が先に進まねえ!

 いちいち説明するのもめんどくせえよこいつ。


 ていうか、こいつ閻魔大王様から俺が今何してるのかとか聞いてなかったのかよ?

 いや、きっと閻魔大王様は一から十までこいつに説明してる筈。

 だが、こいつの場合は頭スイーツだからきっと聞いてるふりして、道に迷ったに違いねえ。


「まあいいや。で? おめーさん、こっちにやっと来やがったけど、なんか手土産とか持ってきてんだろうな? こっちの世界はもうひでえ有様よ。まさしく仁義なんてねえクソみてーな世界だぜ。おめーさんや神様が嫌っちまうのも無理もねえ世界だ」


 俺は最悪の世界と言うと、核戦争とか何かで人が住めねーような世界を想像をしていた。

 もしくは、SF映画の宇宙戦争みたいに、人々が絶えず争いまくって星々が消滅するような世界とか、厳しい環境で人々が神に救いを求めるような、末法の世だとかを想像してた。


 だが、それは違う。

 俺がいた地球という星は、弱肉強食で常に生存競争。

 生物は向上心を持ち、進化しながら発展していき、そして人類が生まれるようになった。

 地球の人類の歴史も褒められたものではないが、人類の発展とは向上心にある。


 例えば、俺がいた日本でも、何かをしたい、生み出したいって人間が歴史上必ず出てくる。

 だから俺の元居た世界で、文明だとか科学だとか文化とか社会が発展した経緯がある。


 本当に最悪の世界と言うのは、世界が一度滅びかけても悔い改める人間がいない。

 自分たちの今の境遇を向上させようという気もなく、歴史も顧みようとしない社会。


 かろうじて、百年前に心ある人間たちが、神の奇跡を目の当たりにして教会なんかを作った。

 だが大半の人間は文句ばかりほざいて、誰も自分から何も動こうとしない。

 言うならば反省と向上心と創造性がない。


 身を守る道具や魔法や、知識のための本や文字なんかも一応はある。

 王国のような国家とか社会はあっても、芸術や文化なんかまるでねえ。

 だいたいこの教会のおやっさん以外は、人様に挨拶すらもろくにできねえ奴らと来たものだ。


 おはようございます、ありがとうございます、しつれいします、おつかれさまです。

 そんな基本的な挨拶なんか、この世界では聞いたことがねえ。


 俺がこの辺のモンスターをぶちのめして回ったり、おやっさんが教会の仕事で人助けとかしても 

 ――わかりました。

 くらいしか言わず、ありがとうございましたの感謝の言葉すら言いやしねえ。

 俺がいた地球では、ヤクザもんや犬猫ですら、人様に挨拶や感謝ができんのに何なんだろうな。


 しかも自分の言い分だけは一丁前気取り。

 人間同士助け合おうとか言う道徳的な精神も無い。

 何かが起きても人のせいや環境のせいばかり。

 いざ、自分の身に何かがおきやがると、俺の教会とかに助けてくれって泣きつきやがる。


 しかも、悪魔から世界を侵略されているというのに、人間同士がいがみ合いながら足を引っ張り、

 いざ救おうというリーダーが出てきても、出る杭が打たれるように潰される。

 まさしく、仁義もねえ最低最悪以外の何者でもねえ世界だ。


「そうじゃろう、そうじゃろう最悪なのじゃ。この世界には我が好きなスイーツすらないからのう」


 おいいいいいいいいい。

 俺が真面目にこの世界の事を長々と真剣に考えてやがるのに……。

 やっぱり頭の中はそれしかねえのかよおおおおおおおお


「さて、閻魔大王の妹たるヤミー様が、貴様のもとに来た目的は言うまでも無かろう。この最悪の世界を救うために貴様にある物を持ってきたのじゃ‼」


 こいつ、いちいち大物たれねえと死ぬ病気にでもかかっていやがるのか?

 まあ転生前の俺もそうだったが……。

 しかしある物ってなんだ?


「聞いて驚くな下郎め! 兄様から貴様のための贈り物、冥界製の対悪魔用の決戦兵器を持ってきたのじゃ‼」


 決戦兵器だと?

 さすが閻魔大王様だぜ、この俺のためにドーグ用意してくれたなんて、ありがてえありがてえ。

 しかし兵器ってなんだ? 機関銃(チャカ)か? 匕首(ドス)か? 爆弾(ダイナマイト)か?

 それともヤクザだった俺が、今まで見たこともねーような、すげえブツなのか?

 ええい、見てえ! 早く見てえぞ!!


「マジか! どんな道具(へいき)なんだよ! もったいぶらねえで早く見せてくれや‼」


 俺が催促するとヤミーは一旦席を離れる。

 そして執務室に置いてあった小汚い竹刀袋から、木でできた(しゃく)を取り出した。


「じゃんじゃじゃーん! この武器は魔力に応じて自分のイメージする強力な武器になるのじゃ!」


 ヤミーがしゃくを手に持つと、何やらおもちゃのバズーカみたいな形になる。

 いや、あのおもちゃみてーなバズーカが、もしも本物だったら……

 悪魔野郎なんざ一発で吹き飛ばせる道具かもしれねえ‼


「すげえじゃねえか! で、そいつをどうするのよ!」


 俺が言うとヤミーは、にこりとほほ笑みながら両手でバズーカを俺に向けた。

 へ?

 おいおいおい、何考えてんだコイツ……。

 俺の背中や脇の下から冷や汗がじわじわと流れ出す。


「試しに外道の貴様に打ち込んで、威力を見せようと思ってな、往生せい!」


 うあああああああ、マジかこいつ!

 やっぱり、あの世で俺がこいつにしたことを根に持ってやがったあああああああ。


「て、てめえ! まさかこの俺の(たま)取りに来やがったのかああああ」

「バーン‼」

「ぬおおおおおおおおおおお」


 俺は断末魔の叫び声をあげ、両手で頭を抱えて目をつぶっちまう。

 しかし、何も起きない。

 うっすら俺が目を開けると、ヤミーはバズーカを抱えたままだ。


「………へ?」

「ぷっ、あははははははは。なんじゃそのざまは! 大親分とか散々偉そうにしてたのに無様よのう。ねえ? 今どんな気持ちじゃ? どんな気持ちじゃ? ざまあないのう、あははははは!」


 ヤミーはバズーカの砲身を右手で真上の方に向けながら、左手で俺を指さして爆笑した。


「てめえこの野郎!」


 忘れてたぜ、こいつが人様を小馬鹿にして、そのざまを指さして笑うような、死の神にあるまじき最低のどSだってことを。

 俺は右手を差し示し、この馬鹿女にそのバズーカをしまうよう促す。


「わかったよ、もういいからさ、それしまえや、危ねえから……」


 すると俺が言い終わる前にカチリと音がした。


「あ? 引き金」


 ヤミーが小声で言った。 

 ばかやろおおおおおおおお、言わんこっちゃねえええええええ。

 俺はその刹那、この場から飛びのくように床にさっと伏せる。


 すると、執務室内がまばゆい閃光に包まれれる。

 大音響とともに、極太のレーザーのような光が、執務室の天井ごと教会の屋根を吹き飛ばした。


「どうしたのだ、マサヨシよ!」


 焦った顔をしながら、俺のおやっさんが、執務室のドアを開けて入ってきた。

 そりゃあそうだ、教会の屋根ごと吹き飛びやがったんだから。


「てめーこの野郎、この落とし前はどうしてくれるんだい!」


 俺が床に伏せながらヤミーに怒鳴りつける。

 だが、ヤミーは真っ青な顔をして、壊れた天井から見える暗黒の空を震えながら指さす。


「あん? なんだ一体よお」 

「空?」


 俺はおやっさんと共に、天井からのぞく空を見上げる。

 すると、暗黒だったはずの空の色が一瞬にして地球みたいな真っ青になり、空に浮かんだ赤い月だったものが、目がくらむようなまばゆい光を放っていた。


 そうか、あれは太陽だったんだ、この世界の。

 俺が思った瞬間、上空にあった青い月が突然閃光の様に瞬くと、一瞬にして三日月になった。

 そして次の瞬間、大音響の爆発音が空に鳴り響く。


 やべええええええええええ

 閻魔大王様の決戦兵器の威力やべえええええええええええ

 月が半分以上吹っ飛んでんじゃねえか!

 こんなもん、俺がもといた地球の核兵器以上の威力だぞ。


 俺は鼻水垂れ流し、恐怖しながらヤミーを見やる。

 するとヤミーは俺の方を向き、恐怖に怯えるよう震えながら呟いた。


「お、思い出したのじゃ……あの半分以上吹っ飛んだ星、魔界の前線基地があるところじゃ……う、うっかりやってしまったのじゃ。わ、わざとじゃないのじゃ……。」

「なにいいい、魔界にうっかり攻撃(カチコミ)かけちまっただとおおお」


 こうしてこの仁義なき異世界で、この俺マサヨシ様と、魔界との抗争(けんか)が始まった。

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