第65話 共和任侠党
俺達は、繁華街の被害を異端審問官達と確認をしたが、わかっているだけでも、死者2000人以上、重軽傷者3万人以上の被害が出ており、俺の大事な舎弟のエンリケも殉職しちまった。
不死隊の連中は、あれ以来襲撃は仕掛けてこない。
チャイ皇国のガイウスに、かかりっきりになっちまったんだろう。
武神隊については、隊長不在の為、後日適任者を充てるという事にして、俺たち極悪組は、傘下に入れたマフィア共と異端審問官達と一緒に、街の救護活動を行なっている。
この救護活動に、俺の縄張りの精霊領域から、亜人達を気球で呼び寄せ、ドワーフの金属加工技術、エルフの植物加工技術、そしてホビット達の道具作りや農産物など、亜人達の持つ技術が大いに役に立ってくれた。
そして、フューリーの力を使って、大量の清潔な飲み水も確保できたし、ロンの兄弟や近衛隊も協力してくれたしな。
そういえば、救護活動って言えば、震災を思い出す。
東日本の震災の時に、道路が寸断されていて陸の孤島になっている被災地とか、物資がなくて老人や子供が死にそうだとか聞いたら、もういてもたってもいられなくて、若い衆らがダンプに物資詰めて、勝手に救護活動なんかしやがったんだ。
「放射能や余震や津波が怖くて、極道やってられっか」
そう言って、枝の若い衆らが、鉄砲玉みてえに、被災地へ飛び出して行ったそうだ。
親である俺にも確認取らねえで、組の倉庫にあった災害備蓄品だとか、米とかもみんなかっぱらって行きやがって、現地で炊き出しとかしやがってなあ。
その時の俺は、金になんねえ事なんかしやがって、このボンクラ共がって、直参連中集めて叱ったけど、今思えば、あそこが俺の転生前の人生の、ターニングポイントだったかも知れねえ。
あの時の俺を見る、直参連中の怒りに満ちた顔と、ヤスの悲しそうな顔を、今でも思い出す。
枝の末端の子分連中の方が、よっぽど任侠してったってのに、俺は金の事しか頭になかった。
そして、半グレのガキら使って、被災地で火事場泥棒やシャブばらまいてきたような、枝の連中を、組に金入れてきたって、手放しで褒めてやったんだ。
子分達が造反し、俺の極悪組が血で血を洗う、内部抗争になったのは、その後すぐだった。
死んで転生して、任侠道やるようになって、俺はあの時の枝の若衆らや、子分達の気持ちが良くわかる。
困ってる奴らや弱者達がいるならば、損得関係なしに助けるのが、本来の任侠であり、仁義をわきまえた渡世人のあるべき姿だと。
そして、転生前の清水正義は、死ぬべくして死んだ、哀れな外道だって事もよくわかったよ。
だが、俺達が救助活動しているのを尻目に、議員連中は議会選挙や、その後の首長選も控えていやがったから、繁華街で札束バラマキながら、街の復興に尽力した自分に清き一票を、なんて抜かしやがる。
軍の連中も、てめーらが街に空爆とかしたくせに、悪魔やアンデットの被害を受けた、繁華街の救護活動なんか知らんぷりだ。
転生前、自衛隊とかがやってた、救護活動の意識の高さなんざ、この世界にはまるでねえ。
そして、教王さんの名代で、今回の悪魔襲来で死んじまった奴らの、追悼ミサなんかを、司祭である俺が繁華街中央広場でやってたら、馬車に乗った共和国議員が、自分に清き一票をとか、騒ぎ立てまくる。
ブチ切れた俺が、ミサの休憩時間中チャカ持って、例の映画よろしく、仁義をわきまえねえ野郎らに、撃ち込みに行こうとしたら、コルレドに止められた。
「兄貴、ちょっと待ってください。あいつら、さも自分らが、街を救ったような言い方してやすが、この街救ったのは兄貴なのは、みんなわかってますから」
「うるせえよ馬鹿野郎。俺が主催してる義理事やってんのに、あの野郎らぶち殺してやる」
「共和国選挙では、直接議員に暴力振るっちゃダメなんですって! 共和国民の投票で議員選ばねえと、この国が王国から独立した時の、理念が無くなっちまいます」
チッ、まあそうだな。
こいつの言い分は筋が通ってる。
一応、俺の世界にも公職選挙法なんてのもあったし、暴力で革命するとか、資本主義大好きな、ヤクザな俺の主義にも合わねえ。
「よう、コルレド。立候補予定の商人連中、何人集めたよ?」
「共和国籍持ってる連中かき集めて、議員が務まりそうなのを、自分含めて20人です」
足りねえなあ。
それじゃあ、過半数獲れねえ。
本当は俺が選挙に出たいが、教会の役職あるし国籍が王国だしな。
教会は一応、政治的中立って事になってるしよお。
王党派が71、平民派が38、貴族派が37、元共和派の無所属4の、計150議席が、共和国議会の議席で、王党派のマフィア5人は始末したが、まだまだ王党派の数が多いし、貴族派はほぼ固定票で議席数は変わらねえ事に加えて、絶対に王党派や平民連中とは組まねえ奴らだ。
仮に20議席とって平民派と連立組んだとしても、数の多いボンクラばかりの平民派のいいようにされるし、議会はグダグダのままで、議員間の首長選挙にも代表は出せねえ。
それじゃあ意味ねんだわ。
俺の意向が通らねえと、いつまで経ってもこの国はクソよ。
何より俺がフィクサーになって、世界救済後に美味しい思いができねえ。
となると……。
俺はミサが終わった後、水晶玉で傘下のマフィアの幹部共を呼び出す。
「おう、俺は一応教会司祭で、政治的中立性ってやつを守らねえといけねえから、選挙に出れねえけどよ、テメーらの中で表の事業で成功してる奴、選挙でろや。議員になったらおいしい思い出来るからよお」
こういう時、ヤクザと違って、表向きカタギの皮を被ってるマフィア連中は使える。
あっという間に100人ほど立候補者ができ、コルレド達と合わせて120名。
その中から、相手側からのネガキャンとかで使われそうな、評判が悪い馬鹿をはじく。
これで立候補者が100名、上出来だ。
さあて、ここで俺が裏で商人ギルド連中と設立した、地下銀行の出番だな。
製紙工場と印刷工場を買収してやる。
ついでに、貴族派の連中の所にも赴こうか。
俺は、マフィアとの抗争で助けてやった議員の紹介で、貴族派の首長と面会する。
首長ルイ・ド・フィリップ。
共和国の貴族派重鎮の爺で、こいつの親父は王国の侯爵家。
あのクソのような王国の王侯貴族にブチ切れて、革命起こした共和国独立軍と共に、独立戦争を起こして、共和国創設の立役者の一族。
しかしこいつら貴族派は、王国から分離独立して70年の年月が経った現在、自分たちが貴族出身という家柄を鼻にかけて、平民出身の市民を子馬鹿にして、軍と癒着してやがる連中。
こいつと交渉事で、俺の男を見せてやろう。
ヤミーも同席させる、こいつはこの世界を救う女神だからな。
それと若頭のニコと、当事者のコルレドもな。
「私に何の用だ勇者。王国との戦争も控えているから私は忙しい」
フィリップの爺さんは、安楽椅子に座ってふんぞり返ってやがる。
共和国軍の元将軍にして、貴族派閥のドン。
そしてこの世界の奴ら、一々上から大物垂れやがるから、ムカつくぜ。
「ああ、それですがねえ、うちのもんを100人ほど議員選挙に立候補させますんで。王党派や平民派の縄張りに」
「なんで、たかがそんな事をこの私に?」
察しが悪いジジイだなあ。
一から説明しねえと駄目のようだ。
「共和国の歴史と理念ってやつを、俺の舎弟のコルレドから聞きましたよ。そちらさんの政敵、ピエール・コレイニの妾の息子のね。まあ、向こうは認知してねえようだがな。こいつは、この国のダメっぷりと、あの王国のクソっぷりをよく知ってる。ガキの頃、元は娼婦だった母ちゃんが貯めた金で、苦労して軍の士官学校とやらに入って、諜報任務についていましたからね」
「で、そこのコルレドとやらがどうしたんだ?」
「ああ、それですわ。このコルレドを俺は男にしてやりてえんですよ。こいつは、今度の選挙で当選させて、首長にする」
コルレドはぎょっとした顔で俺を見やる。
そう、コルレドはこの国のてっぺんにしてやる。
こいつは世の不条理を知っている。
弱い奴らの苦しみをよく知っているからな。
平民のこいつが軍の士官学校を出ても、まわされた仕事は諜報活動のヨゴレ仕事。
共和国からいいように使われた挙句、旗色が悪くなった共和国軍部は、諜報員だったこいつを捨てた。
だが、こいつは挫けなかった。
諜報先の王国で有数のコルレオーニ商会を設立し、俺の舎弟にまでなった男だ。
兄貴分である俺が、こいつを男にしてやるのは当然よ。
「下賤な輩を議員、それも首長にとは、勇者の底が知れたな」
「何だと? ちょっと待てコラ? フィリップさんよお、こいつは優秀な諜報員だった。その諜報員を捨てて、王国のいいなりになって、共和の精神を捨てちまったのが、あんたらだろうが」
「なんだと? たとえ勇者であっても言ってよいことが……」
「違えとでも言うのかよ! あんた見て思い出したわ。俺がぶちのめしてまわった王国のクソ貴族達そっくりだ。あの野郎らも自分の家柄だけしか取り柄が無くて、平民連中を下に見てイジメてやがったもんなあ。あんたの親父さんは、それに義憤を感じて革命起こしたんじゃねえのかよ!?」
そう、この共和国の成り立ちは平民の少女に恋をした、こいつの親父さん、フィリップ公が、その恋人を無残にもなぶりものにしてぶち殺しやがった、貴族と王国に怒りを感じて、革命を起こしたのがそもそもの発端。
そして革命軍の指導者の一人は、その無残に殺された少女の兄で、共和国義勇軍の創設者。
今は亡き共和派の創設者だ。
「マサヨシよ、こいつらに何をっても無駄じゃぞ。こやつらはお主がいくら揺さぶりをかけても、自分たちの事しか頭にない連中じゃ。時間の無駄じゃから帰るかのう」
ヤミーが自分の爪を見やりながら、退屈そうに言った。
こいつは、神の能力で人の心が見える。
無駄足だったな、こいつらも潰してやろう。
「そういうわけだからよ、帰るわ。てめえら貴族派は、崇高な精神なんか無縁の、王国の貴族と同様の貴族主義のクソボケ連中と同じだろ。てめーの親父さんが好きになった、お母ちゃんもきっと、親父さんのフィリップ侯爵さんまとめて、今頃天国で三行半だろうぜ」
俺が言うと、フィリップの爺様の顔がみるみる真っ赤になり、目に涙を浮かび始めた。
まあそうだよな。
こいつの親父さんと、王国に殺されたお母さんまとめて、こいつの存在と、共和国そのものを全否定してやったんだから。
フィリップの爺さんは、全身を怒りに震わせて、俺の目を睨みつける。
「貴様ああああ、父と母を愚弄する気か!」
隙ができたな。
悪いが、つめさせてもらうぜ。
「愚弄してんのは、てめえだボケ! おうコラ? 共和の精神は弱き者を守り、人々の自主独立を守る精神だっけか? 全然できてねえだろうがよ! あんな王国のスパイみてえな王党派の売国連中にいいようにやられて、テメーらが今まで守ってきた、共和の精神を体現する共和派だって、王党派に潰されやがっただろうがよ!」
そう、コルレドの調査でわかったことがあった。
貴族派は、落ちぶれちまった共和派を支援していた。
自分たちの先祖が打ち立てた理念を残していた、共和派を保護していたのがこいつらだった。
「王国の支援は強力だった。軍にも内通者がいて、共和派議員と首長の暗殺を阻止できなかった」
フィリップは、そう言ってうなだれた。
そしてヤミーも俺を見てうなずく。
しょうがねえ野郎らだ。
じゃあ、俺が王国の代理のような野郎らと、代わりに戦争してやるぜ。
「お顔をお上げなせえ、フィリップさんよ。俺がこの国の共和の精神を救う。俺が新たに設立する政党は、共和任侠党だ。共和の精神、コルレドに引き継がせてやる。こいつにはそれができる」
俺は、貴族派の重鎮との交渉事を終えて、共和派の復活を提唱した。
あとは、やることは一つだ。
俺は極悪組の連中と、傘下のマフィア共を集めた。
「俺達は、この国に共和の精神を復活させ、任侠の精神に則り、この国に政党を打ち立てる。共和任侠党、それが俺達が作る政党の名前だ。善なる弱きを助け、悪しき強きを挫き、自主独立の精神が党の理念だ。敵は王党派連中、この国を王国に売り渡そうとする売国連中よ! これはデヴレヴィ・アリイエ王国との代理戦争だ! 選挙は絶対勝利、テメーら気合入れていけ!」
「へい!」
この選挙は王国との、ある意味代理戦争だ。
魔王軍幹部のアレクシア率いる王国の王党派と、この俺極悪組とのな。
そしてこの世界の連中に教えてやる、俺が本当の政治ゴロと社会ゴロをよお。
「マサヨシよ、お主選挙なんかできるのか?」
ヤミーが心配そうに俺に訊ねる。
「あ? 俺、マジでこの分野は得意だぞ? 俺が最強の武闘派ヤクザでもあり、最良のインテリヤクザだって言われた所以を教えてやんぜ」
俺が言うとヤミーが指さして大爆笑した。
「マ、マサヨシがインテリ。お主は我を笑い殺す気じゃろう。あははははははは」
くそ、腹立つわあ。
俺が転生前、何度地方議員や国会議員連中の選挙を助けてやったと思ってんだよ。
まあ、見てろよ。
この分野のノウハウは、土地転がし同様に知り尽くしてんだ。




