第63話 市街戦
「その話、詳しく聞かせろ」
俺はロンから、悪魔について説明を受ける。
その悪魔野郎の名前は、ストリゴイ。
おそらく、俺をつけ狙う魔界の特殊部隊、マーラー不死隊の野郎で、人間をアンデットに変えちまい、皇国の正規軍の4分の1近くが、コイツによって全滅したようだ。
アンデットに変えられちまった野郎は、生きる屍になるか、凶悪なアンデットに変えられちまって、ストリゴイの手先になる。
アンデットを早急に処理しないと、ネズミ算式に、アンデットが増えていき、特に人口密集地や大規模な軍相手だと、大きなダメージを受ける、厄介な悪魔。
「ロン、そいつの特徴や弱点とかなんかねえのか?」
「全身黒ずくめの悪魔で、外見はキザな伊達男だが、女のような喋り方をする。わかってるのは、対アンデット用の神霊魔法に、ミスリル製の武器と炎の光、雨や水に弱い」
ほう?
そいつはいい事を聞いたぜ。
俺は水晶玉を取り出す。
「異端審問官と武神隊各位、司教マサヨシから伝達だ! 敵は悪魔野郎で、手先はアンデット! 状況は市街戦! 俺が援護すっから、おめえらが何のために神父になったか気合見せろ! 以上!」
そう、皇国は教会の力が及ばねえから知らねえかもしれねえが、俺達教会の人間全員、対アンデット戦のスペシャリストよ。
ちょうど街も燃えてやがるから、精霊魔法で!
「フューリー人助けだ。力貸せ」
俺の髪と右目が青く変わる。
精霊魔法で大気中の水分の温度を低下させ、雨を降らし、対アンデット用の神霊魔法である、悪霊退散を組み合わせる。
「浄化の雨」
広範囲にアンデット弱体化の雨が降る。
「よし、ガルフはドワーフ兵団連れて異端審問官の援護。レオーネはエルフ達にミスリルの矢を装備させて、高い建物に登って上から街を見張れ。ニコ達は俺についてこい!」
「俺と近衛隊もサポートする。ストリゴイのやり口は、お前達よりも詳しい」
雨が降ってる間に、迅速に行動しねえと。
目標は、暴動が発生した繁華街の中心。
そこにウサンの野郎とストリゴイがいる筈だ。
「いくぜ野郎共!」
俺たち極悪組は行動を開始する。
今回の喧嘩は速さが重要。
アンデットを生み出す奴らを、さっさとブッ潰さねえと、被害が増す一方だ。
俺達は夜の街を駆け、ゾンビなどのアンデット化した、哀れな住人やマフィア共を排除しながら、繁華街の中心に向かう。
繁華街の地理は、マフィアや半グレ共をブチのめして頭に入っている。
しかし、店舗や路地裏から、どんどんゾンビ共が飛び出すように出てきて、逃げ惑う住人達もこれに混ざって混乱状況に陥っており、あちこちで泣き叫ぶ住人の声がするわ、異端審問官達の怒号が飛ぶわ、何かがぶっ壊れる音がするわで、場の空気にのまれそうになる。
そして、死んじまった親にすがりついてる、ガキの姿も……。
くそ、冷静になれ。
俺がビッとしてねえと、恐怖や怒りが子分達に伝染して、隙が生まれて喧嘩で勝てねえし、このマサヨシ様が陣頭指揮をとってんだ、負ける事は許されねえ。
だがよお、こんなもんを見せられて黙ってられるほど、俺の魂は腐ってねえぞ!
するとロンの兄弟が俺の肩を叩き、冷静になれと目で訴えてきた。
しかし、敵の野郎頭が回る。
昔、転生前に抗争に役に立つだろうって読んだ軍事本で、敵も一般市民も分からねえ混乱状態の、こういう市街地戦闘だと、取れる戦術も限定されるし、死角から襲撃を受けやすくなる。
魔界の特殊部隊だけあって、人間相手にどんな戦術が有効なのかってのを、知り尽くしていやがるな。
俺は魔法の水晶で、レオーネを呼び出す。
「レオーネ、エルフ達に高所から見張らせて、アンデットがいたら弓を撃ち込め! この喧嘩、高所にいるお前たちが、勝利のカギだ。中央広場に人影は?」
「敵アンデット、一体確認! 僧侶服も確認! 対象に間違いありませんマサヨシ殿!」
「よし、お前らは市街地で戦う武神隊やドワーフの援護射撃だ。何かあったら速やかに報告しろ!」
すると、共和国軍の飛空艇団も市街地上空にやってきた。
援護してくれるのか?
だが共和国軍の飛空艇船団から炎魔法が次々と撃ち込まれ、街のあちこちが焼かれて火の手が上がる。
あの野郎らああああああああああ。
ざっけんなボケ!
俺たちがいるってのに空爆なんかしやがって、街を焼き尽くしちまうつもりだ。
無茶苦茶しやがるぜ馬鹿野郎。
雨の効果が終わるまでに、悪魔野郎とウサンの野郎を見つけねえと、共和国軍の攻撃でアンデットもろとも、俺の仲間達が死ぬ。
「親分、オイラ達が守るから、前に行こう!」
「行きましょう」
「この喧嘩大事」
「速さ大事」
「極悪組絶対勝利」
ニコ達子分共が、鼓舞するように俺の背中を押してくれる。
コイツら、ガキのくせに腹が据わってやがるぜ。
さすが、俺の子分だ。
発生場所は繁華街の中央広場。
そこに奴らがいる筈だ。
俺達は中央広場に到着し、周辺を見回す。
「上だ! マサヨシ!」
ロンの声で、俺が見上げると、黒い影が猛スピードで、俺に向かって突っ込んできた。
これをロンが棒術で迎撃する。
すると黒い影は向きを変え、地面に着地する。
「フシュルルル、勇者めぇぇ」
ウサンだった。
僧侶服が真っ赤に染まり、上唇から鋭い牙のような犬歯が顔を覗かせ、20代のような顔付きに若返ってる。
通りで手配しても分からねえはずだ。
しかもコイツ、人間をやめちまったらしい。
「よう、元司祭さんよお! ストリゴイとかいうクソ野郎はどこにいるんだい?」
俺が声をかけると、猛スピードで俺の間合に飛び込んできて、牙を突き立てようとしてきた。
俺は木刀でウサンの胴を突いて攻撃をかわし、ロンと子分達で応戦する。
おそらく、強力なアンデット。
木刀に悪霊退散の効果を込めて打ち込みに行くが、動きが早い。
ならばコイツならどうだ!
「魔界の鎖」
ウサンの足に、鎖を巻き付けて動きを止める。
これで動けねえはず。
俺は懐からピストルを出して、散弾をぶち込みまくる。
しかし、ウサンは両手で鎖を引きちぎり、長く伸びた爪の攻撃を繰り出してきた。
「マサヨシ、コンビネーションだ! 旋風連撃を繰り出す!」
「おう!」
旋風連撃、あの竜巻みたいな技か。
俺はニコとドワーフ三兄弟に、目で合図し、ブロンドに左手でハンドサインを送る。
……いくぜ!
ガイ、マシュ、オルテは、大斧を持ってロンの繰り出した竜巻と共に正面から突っ込み、左右を囲む形で、俺とニコが木刀とナイフの攻撃で、ウサンの両脇腹目掛けてぶっ刺しにいく。
「馬鹿め!」
ウサンが上空に向けて退避した所に、ブロンドが、悪霊退散の効果を込めた、ミスリルの矢を弓で射って、野郎の眉間をブチ抜いた。
そして落下した所を、ロンの竜巻のような連撃で、ウサンの体を滅多打ちにし、中央広場の噴水まで吹っ飛ばした。
「うおおおお、水が! 体が溶けて……」
ウサンが噴水の水を浴びて、体から血煙を出しながら悶絶した所へ、俺は木刀を持って駆け寄り、眉間に突き刺さった矢に向けて、ハンマーの様に木刀を打ち込んだ。
とどめの一撃を受けたウサンの体が、血煙を吹き出しながら、消滅していく。
「勇者めぇ、だがこれでストリゴイ様はククク」
あん?
コイツ何を言って……。
その時、水晶玉から緊急連絡が入った。
「兄貴! コルレドですが現在、武神隊基地が襲撃されてやす! 共和国軍も出動しやしたが、これじゃあ全員やられちまいますぜ!」
しまった陽動だ!
野郎の狙いは武神隊基地と、教会本部か!
「マサヨシ殿! 教会本部方面から煙が!」
レオーネやエルフ達からも次々と、報告が上がってくる。
「敵の狙いは、俺達の住居だ! ヤミーに、メリアちゃんがやべえ!」
俺は風魔法の力で宙に浮く。
魔力消費が激しいが、事態は一刻を争う!
「ニコ、ブロンド、飛び方は教えたよな? 行き先は武神隊基地! ガイ、マシュ、オルテは水晶玉でガルフに連絡付けろ! 行くぞ!」
「わかった」
「親分」
「みんなを頼む」
ニコが空中でふらつきそうになるが、ブロンドが体を支えて、風の精霊魔法を使用する。
「親分、僕が精霊魔法で支えて加速します!」
ブロンドは、ニコを左手で抱えて追いつき、俺の体を右手で押すと、急加速して飛行する。
そして後ろを見ると、ロンのやつも棒を頭上で回転させて、ヘリコプターのように空中を移動する。
頼む、間に合ってくれ!
武神隊基地、訓練グラウンド上空に到着すると、武神隊の警備連中が、ストリゴイによってアンデット化されていた。
そして、上空を共和国軍の飛空艇船団が到着するが、何らかの攻撃を受け、爆発して炎上しながら、市街地方面に墜落していく。
「クソが!」
俺は、アンデット化された武神隊の隊員に、心の中で詫びながら、木刀で排除して基地内に侵入すると、隊長で舎弟のエンリケが、腹に大穴を開けられて横たわってる。
「エンリケのおじさん!」
「おい! しっかりしろ! 今直してやるから」
ニコが悲壮な顔をして、俺と一緒にエンリケまで駆け寄る。
コイツとは、王国で一緒に貴族をぶちのめし回った、大事な仲間でもあり舎弟だ。
絶対に死なせねえ!
俺は両手で回復魔法を当てるが、出血が酷すぎて、これじゃあコイツが。
「兄貴、ヤミー様達や……保護した孤児達はコルレドが教会本部へ避難させて……。自分は足止め成功しました……。色々、お世話に……ありがとうございまし……た」
「ああ、ありがとうよ」
俺は右手でエンリケのまぶたを閉じてやる。
この落とし前はつけてやるから安らかにな。
そして、木刀を手にして教会本部に向かう。
教会本部入り口前で、コルレドが傷だらけになりながら、両手で立ち塞がり、黒ずくめの悪魔と対峙していた。
俺は、身体魔法と風魔法で一気に加速し、悪魔野郎の頭目掛けて木刀の一撃を入れようとするが、悪魔は体を無数のコウモリに変化させ、攻撃をかわす。
「ウフフ、勇者マサヨシ君でしたわね。わたくしマーラー不死隊が一人、ストリゴイと申します」
黒い髪に黒のタキシードを着た、赤い瞳の伊達男風の悪魔ストリゴイが、オカマ口調でキザったらしいお辞儀をしながら、自己紹介を行う。
ニコとブロンドは、コルレドを庇うようにして、ナイフとレイピアを構えた。
「テメーこの野郎……この野郎テメー、よくもやってくれやがったな」
俺は木刀を八相に構える。
「おや? 一緒にいるのは、誰かと思えば皇帝陛下。これはこれは、お久しぶりです。性懲りもなく、私達魔界の悪魔にまた敗北をするため、勇者君と手を結んだのですか? 無駄な事を」
「悪魔め。余の皇国を蹂躙し、多くの臣と民を殺めた貴様の所業に、今夜こそ終止符を打つ」
ロンが槍術の構えをとると、ストリゴイは不敵に笑い、体を無数の蝙蝠に変化させて、教会本部へと侵入していった。
野郎、目的はヤミー達や教王さんの暗殺か!
おそらくその後、じっくり俺の命をとるという寸法。
なめやがって、クソ野郎!
すると、何かが回転するモーター音がした後、蜂の羽音のような不気味な音とともに、俺達に向けて無数の銃弾が撃ち込まれ、全員地面に伏せる。
「ぶひひ、先輩の邪魔はさせないブヒ。ここで会ったが百年目! 更なる改造を受けた、不死隊メカオークデーモン見参ブヒ!」
「てめー豚野郎! 何度俺の邪魔する気だコラ! どけこの野郎!」
この豚野郎、ボディが今度は黒光りしやがって、右手にガトリンクガンの魔法銃と、左手にバズーカのような凶悪な得物持ってやがるし、飛空艇団を撃墜しやがったのはこいつか。
右肩に付けてんのは、でっかい大口径のライフル?
スコープみたいな照準器つけてやがるし、テメー世界観考えろボケ!
そしてオークデーモンと共に、今度は全身に真っ黒い包帯巻いた巨漢が現れた。
「ほう、貴様が勇者か? クソ弱そうな野郎だな。俺の名前は不死隊のマミー! へっ、俺達に無様にやられ続けてる皇帝の馬鹿もいやがるな! おい新入り、気合入れて俺の援護をしねえとぶち殺すぞ!」
「ブヒ! お任せくださいブヒ!」
このドスが効いた声のでけえ悪魔、マミーとか言いやがったか?
身長が3メートル以上はあるし、すげえ筋肉ありそうなガタイしてやがる。
ちくしょう、不死隊の野郎ら俺の命をとる気満々だぜ。
すると、上空からガルフ達、ドワーフ兵団の奴らが空から降りてきた。
上空には一隻の共和国軍の飛空艇。
「兄者、ロンの近衛隊と異端審問官達に街を任せて、エルフ連中と共和国の飛空艇をかっぱらって、やってきたぜ! おらぁ、悪魔野郎! 極悪組舎弟頭ガルフ様とドワーフ兵団が相手してやるわ!」
ガルフは巨大な大剣の二刀流になり、炎精霊魔法でイフリートの姿に変化する。
そして、悪魔マミーと対峙した。
「くそ、炎魔法の使い手か! おい新入り、きっちり援護しろ! こいつらかなりできるぞ!」
「ブヒ!」
「任せたぜ、ガルフ。 ロン、それに子分共! ストリゴイを追って教会本部へ突入するぞ!」
俺達は教会本部に突入し、ロビーに入ると聖騎士隊が俺達の道を塞ぐ。
「どけオラ! このままじゃ教王様やヤミー達が!」
すると、聖騎士の部隊長が俺達を見てあざ笑い、全員が剣を抜いてきて、俺達を取り囲んだ。
「知った事か。我らは共和国議員の要請により、勇者の貴様の身柄を確保するのが任務なのだからな」
なんだとこいつら。
そうか、王党派議員は王国と繋がってやがるし、こいつら聖騎士隊は元々王国貴族。
ちくしょう、無茶苦茶な状況になってきやがった。
「それに勇者よ、貴様は我が父、ルイ・ド・モンワールを葬った。ここで貴様を打ち倒す」
くそ、こいつあの公爵の子供か。
まずいぞ、このままだとストリゴイにヤミー達が。
その時、一人の白銀の鎧に身を包んだ騎士が俺達の前に現れる。
全身鎧で、ブロードソードの持ち方からもわかるが、半端じゃねえこの騎士野郎。
達人クラスだ、間違いなく。
その時、騎士が兜のバイザーのような面ぽおを左手で上げた。
「聖騎士隊に告ぐ、教会枢機卿ラウール・ド・コルネリーアが命ずる! 武器を納めよ」
レオーネの親父さんだ。
まさか俺達を助けに来たのか。
「おじさま! いえ、コルネリーア卿。我らは王国の騎士! 共和国議員の要請で、勇者を拘束し、我らが女王、アレクシア様にこの勇者の身柄を」
「何だと貴様? 王国最強の騎士の一人にして、枢機卿の私の命令を聞けぬのか? 貴様たちは、教会聖騎士だ。この方は司祭にして勇者。教会の一員として我らが付き従うべきお方であるぞ?」
そうか、俺がレオーネとの結婚の申し出をしたから、身内として庇ってくれてるのか、ありがてえ。
「勇者殿、ここは私が聖騎士共を説得しますゆえ、早く教王様の元へ。女神様も、最上階へ孤児達と共に、向かわれました。それと、一つ貸しですぞ?」
へっ、抜け目のねえ親父さんだ。
こりゃあレオーネを貰った後、色々めんどくせえだろうな。
まあいい、恩に着るぜ。
俺達は、教会本部の最上階に繋がる階段を駆け上り、教王様の所に向かい、教王室のドアを蹴破り、広いドーム状の寝室のような教王室に入った。
すると教王さんが、ヤミーとメリアちゃんと孤児たちを庇って、天界魔法らしき聖なるバリアを張って、悪魔ストルゴイと対峙する。
「邪悪な悪魔よ、教会教王のソフィアが神の名の下に、子供達を守ります!」
「うふふ、かわいい女の子ばっかり。新人君に手土産で持っていこうかしら」
そして、俺の姿を見たヤミーの目に涙が流れ、ニコの姿を見たメリアちゃんが堪えきれず泣き出すと、俺の体が光り輝き、背中に閻魔大王親分の入れ墨が背中に入り、纏った着物がはだけた。
「マサヨシ、武神隊の皆が! みんな我達を守って……」
ヤミーの言葉で、瞬間的に俺の怒りが爆発し、拳を握り締めて悪魔ストルゴイに詰め寄る。
「勇者!? ばかな! あなたたちは不死隊の仲間が!」
俺は悪魔野郎が何か言い終わる前に、握り締めた拳をぶち当てぶっ飛ばす。
「オカマ野郎ぉ! てめーよくも俺の舎弟や、街の人間をやってくれたなあ! 女の子達も泣かしやがったその罪、背中の閻魔様に代わって、俺が裁いてやる!」




