第62話 勇者
俺は乞食ギルドに偽装した、チャイ王国のロン達浮浪者や、孤児達を武神隊基地の、大浴場で体を洗ってもらい、マシな服を着てもらう。
レオーネを呼んで、面通しさせたところ、やはりこいつはチャイ皇国の皇帝、ロン・ブラフン・チャイ・チャイーノで間違いないという。
俺がこの世界で勇者として活動する前、魔界や魔王軍に立ち向かい、世界の守護をうたっていた英雄でもあり、歴戦の戦士だった男。
その強さと名君ぶりは、皇国の中でも歴代最高と呼ばれ、数々の英雄譚に事欠かず、唯一の欠点は、顔のつくりがブサイクだってことくらいなもの。
てっきり俺は、暗殺でもされたもんだとばっかり思っていた。
だが、さすがの俺も自分の近くで、物乞いになってるとは思わなかったよ。
そして、髪を散髪してひげを整えると、威厳ある顔に変わった。
夜、極悪組の面々も揃い、今の皇国の現状についての情報を得た。
今の皇国は、1カ月前に突然勇者と名乗る男が現れ、瞬く間に国を乗っ取られたロンは、皇位の座から引きずり降ろされ、近衛隊を連れて亡命するも、平民派の議員の野郎らは、皇帝じゃなくなったコイツに、利用価値が無くなったと判断して放り出した。
今まで皇国の世話になっておきながら、いざという時、世話になった奴に対して、義理欠いてシカトするとか、この世界は本当に仁義ってもんがねえし、どうしょうもねえ。
その後資金もつき、現在は物乞いをしながら、孤児達を食わせていたという。
そして、王国側で勇者と呼ばれた俺の評判を聞きつけ、ずっと観察をしていた。
皇国では、俺の名前はまだ知れ渡ってねえようだが、共和国の東側の国境地域、皇国の亡命者や移民グループに支配されたエリアでは、平民派議員を通じて、徐々に知名度が上がり、皇国を現在支配する自称勇者に、俺の存在を知られて始めているのではないかとの話だ。
「今の皇国は、ガイウスって野郎が仕切ってて、そいつは勇者を名乗ってる、という事でいいのか?」
勇者ガイウス、それがもう一人の勇者の名前らしい。
「ああ、どこからやってきたのは、わからない。奴は美しい女と共に、皇国の最果て。この大陸の極東に現れ、民衆の支持を得て西へ進み、あっという間に内紛中だった各勢力を取り込んでいきながら、首都ブラフンに侵攻してきて、俺は皇位を奪われた。情けない話だ」
しかし、勇者だとふざけやがって。
俺が勇者って、言われてるだろうが馬鹿野郎。
ヤクザなめやがって偽物野郎が。
「おいコラ、ちんちくりん。勇者ってのは何人もこの世界に送り込めんのか?」
「神界法により、転生か転移させる人間は、担当神につき1名だけじゃ。そして神界法でも、担当神でしかこの世界に来れん筈。それに今までそんな話聞いたことがないわい」
ヤミーが答える。
とすると、俺以外の勇者が送り込まれたという事は、今のところないのか?
「マサヨシよ、一通り情報を得たら、私は大王様の所に赴き今の話を報告しよう」
駒魔犬の兄貴が、一応動いてくれるようだ。
そうだよな、念のため確認は必要だろう。
「あんたの見解はどうなんだ? 俺とガイウス、勇者に相応しいのはどっちよ?」
「民衆はガイウスを選ぶだろうな」
おいいいいいいいいいい。
ちょっと待てコラ、ふざけんな馬鹿野郎!
即答すぎるだろ。
待てよマサヨシ、キレるな。
せっかくこの、元皇帝の野郎が情報提供してくれているんだ。
「で、その野郎の特徴は?」
「王国の人間に似ているな。男女共に金髪で背が高く鎧を着込み、男の方はがっしりとした体型。歳はお主とそこの女神よりも上で、身なりは伝説で聞いていた、勇者と女神に相応しい」
なんだとこの野郎。
俺とヤミーの見た目が、そんなに勇者や女神っぽくねえか。
そりゃあ、俺も眼帯付けだしてガラが悪くなったかもしれねえよ。
ヤミーだって、多少は様になってきたが、まだまだ役不足かもしれねえ。
まさかヤス、アレクシアが俺らや皇国をはめるために送り込んだ、王国のスパイか?
ありうる。
あいつならやりかねん。
あいつの絵図の描き方はハンパじゃねえ。
「なんか他に情報とかねえのか?」
「そうだな、奴も剣の使い手だが、お前ほどじゃない。だが人心掌握や、頭脳、統率力、そして何よりカリスマ性と、魔法技術が常軌を逸している化物だ。おそらく王国のあの非道な王女、いや女王と同等以上の、恐ろしい男だ」
マジか厄介だな。
いくらこの俺が喧嘩が上手くて、外道共や悪魔野郎をどつき回ったとしても、俺には残念ながら、そのガイウスのように、一か月で大国ごと乗っ取れる程のカリスマ性はねえし、いくらアレクシアでも、こんなヤベエ化物は用意出来ねえはず。
魔王軍関係者か?
その線もありえない話じゃない。
実際、王国の女王のアレクシアは、幼少期から魔王軍とつながりがあった。
王国のアホの国王だって、アレクシアの作戦で魔王軍が化けてた事もあったし。
そして向こうも勇者を名乗っている以上、俺とぶつかる可能性が高い。
一応、念を入れといて確認した方がいいな。
「話はわかった。その、ガイウスは人間で間違いないんだよな?」
「間違いなく人間だ。皇国に現れた伝説のモンスター、キマイラやグリフォンの討伐も行い、連れの女には、魔王軍や悪魔を敵視しているような証言もあった。ガイウスの印象は、傲慢な野心家でもあり冷徹な男。そして勘だが、どこか人間に対して冷めてる印象がある。それに」
「それになんだい?」
「なんていうのだろうか、お前はどうしょうもない俗物の気がするが、ガイウスとは違い、人の世を愛し、世の為人の為に何かを成そうとしているような印象を受けた。赤い月に代わって、この世界を照らしだした太陽のような、この世界にはない輝きがある」
へえ、太陽さんの輝きね。
夜の世界、裏の世界でしか光り輝けなかったこの俺が、お天道様の輝きか。
「なあ、ロンさんよお? 俺はそんな高尚な人間じゃねえ。俺はよお、この世界に来る前は、悪行三昧をやってきて、子分にぶっ殺された外道の極悪人だ。そんな野郎が日の光の輝きとか、おこがましい話だぜ」
すると、ロンが俺に両手で掴みかかり、胸倉を引っ張り上げて顔を近づけた。
そして頭突きを俺にくらわし、体を揺さぶりかける。
「おい、勇者。マサヨシだったか? お前を勇者として期待して、助けられた民草は、そんな事なんてどうでもいい筈だ。伝え聞くところによると、王国の人間や、亜人達はお前が助けた民草達だろう! だから器量が知れると言われる!」
……器量だとこの野郎!
「うるせえ! 誰が小物だ馬鹿野郎! てめーだって英雄気取りだったくせしやがって、自分が救う国民置いて、逃げ回った野郎が、偉そうなこと言うんじゃねえ!」
俺も、ロンの胸倉を掴んで頭突きをくらわした。
「本当は死にたかった、我が皇国と一緒に! だが、それをしたら、今まで付き従った家臣たちの思いはどうなる? 無下にできなかったんだよ! そんな事がわからん奴が勇者か!? 人々を救い導く英雄か!? それで世界が救えるか!」
ロンは掴んでいる手を離して、俺の頬ゲタを右の拳でぶん殴る。
口の中が切れて、一瞬クラッと来たが、俺もロンの目を気迫を込めて見据える。
「お主たち! やめるのじゃ! 人類同士で争ってどうするのじゃ!」
ヤミーが咎めるが、俺は振り向いて言った。
「うるせえ! 男同士、腹の中のぶつけあいに口を挟むんじゃねえ!」
すると、舎弟頭のガルフがヤミーの肩に手を置き、首を振る。
コルレドは、俺達のやり取りを刻銘にメモを取っており、子分達が、俺達をじっと見据えていた。
「俺はこの世界に転生して、こんな世界クソだって思ってきたよ! 神々が見捨てて、救おうとも思わなかった、仁義もくそもねえ世界にはなあ! だがな可哀そうなガキらがたくさん泣いているこの世界を、任侠道を貫いて、男の意地を張って救いてえ! 勇者? 英雄? そんなもん、ヤクザな俺にはどうだっていいんだよ!」
俺は一筋の涙を流して、ロンのアゴに右フックを食らわす。
だが、ロンも踏みとどまって俺の目を真っすぐ見据える。
「勇者じゃないと言うのか! 貴様は!」
「そんなもん、この世界の連中が勝手に言ってるだけよ! 勇者マサヨシなんていい気になって名乗ってたが、性根はどうしょうもねえクズの極道のままだ! けどこんな俺を愛する男だ、兄貴だ、親分だって言ってくれてる奴らに、この世界で苦しんでる奴らに、かっこつけて、男の意地張ってこの世界を救う! 誰にも邪魔させねえ!」
左フックをロンの頬にぶち当てる。
そうだよ、ぶっちゃけ勇者や救世主なんて、俺にはどうでもいい。
これは意地の問題だ。
勇者なんてのは、名乗りてえ野郎に名乗らせておけばいい。
俺の邪魔する野郎はぶちのめす。
単純な話だ。
そしてしばしの間、俺とロンは見つめ合う。
すると、ガルフが近寄ってきて、酒瓶をドンと俺とロンの間に置いた。
「お互い、言いてえことを言いつくしただろ? 飲め! 二人共!」
そして、俺とロンは盃をお互いに満たし、同時に酒を飲む。
野郎、顔のつくりが、いかつい不細工な野郎のくせに、いい男だな。
気に入った、こいつとは盃をかわしてえ。
俺は転生前の極道だった時、政略盃をのぞいた、本当の意味での、五分の兄弟分盃なんか交わしたことはなかった。
今までの極道人生で、惚れこんで五分の盃交わしたいって思った男は、いなかったわけでもなかったが、舎弟や子分たち、特にヤスの野郎が猛反発をして、兄貴は上に立つ人間なんだから、自分ら以外のよくわからねえ野郎と、盃を交わしてもらったら困ると言われたことがあったっけな。
「フッ、決めたぞマサヨシとやら。その意地、このロンも手を貸そう」
盃を飲み干したロンが、ブサイクのくせに気持ちのいい笑顔で言った。
決めた、こいつとは五分の兄弟の契りを結ばせてもらう。
「おめえを舎弟にすると言ったが気が変わった。ロン、俺と五分の兄弟になれ」
すると、ロンが高笑いする。
「そんなことを、言いだした男なんて生まれて初めてだ。あいにく余……いや俺には兄弟姉妹はいないが、面白い男だ。いいだろう、その申し出を受けよう」
こうして、俺に初めての五分の兄弟分が出来た。
こいつが元皇帝だから交わした盃じゃねえ。
俺は、こいつの男気を惚れ、喧嘩が俺と対等に強くて世界を救うという同じ志。
そして外見はともかく、心根が心底いい男。
これで外見も腕っぷしも、俺以上に喧嘩強くてカッコいい野郎だったら、逆に俺が舎弟に下ってもいいとも思ったが、それはやっぱりできねえと俺の男が感じた。
こいつには負けたくねえと思う、好敵手というかライバルとしての思いがある。
こんなこと、転生前にはなかったことだ。
それくらいの、男。
英雄ロン・ブラフン・チャイ・チャイーノ。
これからは互いに兄弟として、死を二人が別つまで互いに支え合いてえ。
ロンと兄弟の契りを交わした時だった。
武神隊のエンリケが、血相を変えて俺を呼ぶ。
「マサヨシの兄貴、大変です! フリーダムシティ全域でマフィア達による大暴動が発生中です! 暴動の扇動者は、懸賞金をかけて行方を捜索していた、ウサン・クサイことマリオ・スパファミコ! 教会本部より緊急連絡があり異端審問官及び、聖騎士隊、武神隊に出動要請入りました! なお市民の犠牲者多数!」
「なんだと!」
ちくしょう、甘かった。
マフィア野郎共ナメてた!
あの野郎にまだそんな力があったのか?
グズグズしてられねえぞ、こりゃ。
「聞いたか? 野郎共。喧嘩だ」
俺たちは完全武装で馬車に乗り込み、ロンと近衛隊も現場に同行する。
そして嫌な予感がするぜ。
マフィア共は、基本的には議員と繋がり市民の上前はねて飯を食ってる連中だ。
そいつらが、市民を襲ってぶっ殺し回るとか尋常じゃねえことだし、マフィア野郎らにそんな根性はなかったはずだ。
俺達が繁華街に到着すると、至る所に炎が上がり、街の人間がぶっ倒れてる悲惨な状況だった。
すると、一人の男がフラフラしながら、こちらに向かってくる。
「市民の者か? ここは危ない! 避難を」
異端審問官が声をかけて近寄ると、ふらついていた男が、いきなり走り寄ってきて、異端審問官に噛みつき始めた。
「クソ、コイツは!」
ロンが走り寄り、噛みつかれた異端審問官もろとも、炎魔法をぶっ放し、焼き尽くした。
「何やってんだてめえ!」
俺はロンに詰め寄る。
「ダメだ、もうあいつは助からん! 俺の国でやられた時と一緒だ! マサヨシ、部隊を下げろ! 早く少数精鋭の部隊に切り替えるんだ! コイツは、悪魔の仕業だ」
なん……だと……。
こうして、単なるマフィアと極悪組との抗争から、俺と敵対する各勢力が入り乱れた、代理戦争の火蓋が切って落とされた。




