第53話 王国死闘中編
「透明化!」
俺は精霊魔法の水の力と、風魔法を使って体を透明化させた。
アスモデウスが確か使ってた、透明魔法だったが、魔力量をハンパじゃなく消費するので、今まで使えなかった魔法だったが、今の精霊化した俺ならば、なんとか一時間か二時間程度は持つはずだ。
そして、戦闘になってもいいようにアイテムも揃えて、木刀と小太刀を持った完全武装で、王宮に通じる、地下道から潜入を開始する。
身体強化や感覚強化も行い、万が一のために極力透明化も避けつつ、王宮地下に侵入した。
すると、地下の広い空間に出るが、鼻を突くような強烈な悪臭がする。
俺は、松明を取り出して、炎魔法で火を着ける。
すると、広大な地下室になっており、一人の男が鎖でつながれていた。
辺り一面、男が出したと思われる排泄物の臭いがする。
素っ裸にされて、手足の腱をぶった切られ、目を焼かれており、歯も舌もすべて抜かれて、体から悪臭を放つ状態で、髪もヒゲもぼさぼさだが、特徴的なカイゼル髭をしている事に気が付いた。
もしかしてこいつは……。
俺は、こいつの歯と舌を魔法で治療し、情報を引き出す。
男は怯えながら、王国の秘密を教えてくれた。
なんてこった、ちくしょう。
あの女やっぱり、やべえなんてもんじゃねえ。
人間の姿した外道が……。
そして話し終えた男は俺に、殺してくれと懇願する。
「ふざけんなテメー、今まで王国の連中苦しめてたアホのくせに。死ぬなら舌でも噛んで、勝手におっちね、クズヤローが」
俺が言うと、男は自分の舌を噛み切ってこと切れた。
そいつは、3年間監禁されて死にたくても死ねない、哀れな状態になっていた、この国の暴君にして、アホのデヴレヴィ・アリイエ10世だった。
そして俺は、何食わぬ顔をしてヤミーたちの元へと戻り、縁が出来てたロイヤルガード隊の隊長を金で買収し、ガード隊の大型飛行船を使い、舎弟共や子分達に先に脱出するよう指示をした。
ヤミーには悪いが、俺の入れ墨の力が必要な場合も考え、同行してもらう。
そしてレオーネは、やはり危険であると判断したから、エルフ騎士団と共に脱出させる。
これで準備が整った。
あとは、この哀れなデヴレヴィ・アリイエ王国を救済し、最後にあの外道の姫野郎に、俺の男気を叩きこんでやる。
そして、魔王軍将軍討伐の決行時刻。
俺とヤミーは王宮に入り、パーティ会場へ赴く。
すでに王女の何らかの命令が出されてるのか、参加した騎士団たちは腰に帯刀した状態で、王宮には奇麗どころの女共が集められ、騎士相手にダンスをする。
「マサヨシ様、お待ちしておりました」
アレクシアは、純白のとびっきりのドレスに身を包み、今夜俺と結ばれることを宣言する腹積もりか、まるでウェディングドレスのようだった。
「マサヨシ様のお連れ様は、どういたしましたか?」
「ああ、それな。俺とヤミーと騎士団の力で十分だと判断した」
俺が言うと、アレクシアの表情が一瞬焦った顔に変化し、すぐに笑顔に戻る。
「そうですか、ならば予定を変更させないと。それより、ダンスでもいかがでしょうか?」
アレクシアは頬を染めながら、俺にダンスのパートナーを申し出る。
いやだね、テメーの秘密を知っちまった今、願い下げだ馬鹿野郎。
「いや、結構だ。おいヤミーよ、俺と一緒に踊ろうぜ」
俺が手を取ると、ヤミーのやつ、顔を赤くしやがる。
マセガキが、俺はおめーさんに気なんてねえよ。
そして、ヤミーと一緒に、転生前社交ダンスで習ったワルツ踊りを披露した。
だが、いってえええええええええ。
ヤミーの野郎、踊りやすいようにゆっくりリードしてんのに、足踏みすぎだろ。
ブーツはアダマンタイトで覆われてるのに、めっちゃ痛えんだが。
なんだこいつの脚力?
ちくしょう、これから一戦交えようってのに、足の指と甲の骨が折れるだろ。
このガキ、閻魔大王親分の妹なのに、そのへん教育されてねえのかよクソが!
そう、転生前は芸事の一つができねえとってことで、シノギの合間に日本舞踊やったり、女目的でヤスと一緒に、社交ダンスを習ったのを思い出すが、こんなに人様の足を踏んでくる女は初めてだ。
アレクシアは、表情こそ笑顔のままだったが、持っていた扇子を握り、親指でへし折ると、どこかに姿を消してしまった。
少しやりすぎたか?
まあいいや、あいつなんかと踊るのなんざ御免被るしな。
そして、1時間が経過した。
「ここにお集りの皆さま! 私、デヴレヴィ・アリイエ王国の王女にしてアレクシア・アリイエ、今から重大なお話を宣言いたします! さきほど、王の間に赴いたところ、我が国の国王、デヴレヴィ・アリイエ10世が、悪魔の姿に変化し、ここに集まった方々を皆殺しにすると宣言しました! おそらく勇者様の命が目的ですが、今こそ、勇者様と王国騎士団全員の力で、悪魔を打ち倒すのです!」
アレクシアがパーティ会場に現れた。
ドレス姿が血まみれでボロボロになり、素肌を晒してかなり際どい格好になっており、身体強化を使い、この場にいた全員に大声で例の作戦を伝達する。
俺は、ヤミーに視線を向けると、ヤミーも決心する。
そして、フューリーの力で精霊化し、ヤミーの手を引いた俺が、アレクシアと共に先頭切って走り出し、王国騎士団の親玉連中も後に続く。
計画通りだと、すでにこの王宮は王国の騎士団、総勢1万近くが取り囲んでるはずだ。
俺は身体強化を使い、王の間のドアを思いっきり蹴破った。
「はあ?」
「え?」
「これは?」
「ちょ?」
突入した俺達は、声を漏らしあまりの光景にドン引きする。
魔王軍将軍バフォメットと思われる野郎の首が斬り落とされ、山羊のような顔した悪魔は、舌を繰り抜かれているようなのか、無言の涙目で俺達全員を見つめた。
「マサヨシ、こやつは……」
「ああ、わかってる。多分こいつは魔王軍将軍じゃねえ」
俺とヤミーは、小声で話す。
おそらくアレクシアのドレスの血は、こいつの返り血で、ボロボロのドレスはわざと自分で破ったに違いないだろう。
俺はあまりの茶番に思わず舌打ちする。
「咄嗟に襲い掛かられ、私も撃退に苦労しました。さあ勇者マサヨシ様、最後にとどめを」
「ああ、わかった。討伐の前に、ここにいる全員に王女様との問答を一つ」
いい機会だ、今集まっている奴らに王国の真実を話してやろう。
ただし、こいつは知能が化物だから応じるかどうかだが、切り札がある。
神通力で真実を見通すヤミーの存在だ。
「なんでしょうか? マサヨシ様」
「てめー、魔王軍の大幹部だろ? ふざけやがって何だこの茶番はよ」
俺が真実を口にすると、この部屋の連中全員が一斉にざわめきだす。
アレクシアの表情は変わりないが、こいつ面の皮が厚すぎるだろう。
ヤミーは、俺の顔を見て頷いた。
ビンゴだぜ、やはりな。
「勇者様、何の事でしょう? 私は……」
「しらばっくれてんじゃねえぞこの野郎! テメー人間のくせに魔界と手を組みやがって! テメーの正体は、おそらくベルゼバブ妖魔部所属で、そして悪魔バフォメットはもう、テメーがとっくの昔に消しちまってるだろ?」
すると、アレクシアの表情にわずかに変化する。
俺の推理に、ヤミーも頷いた。
そしてこの場には、おそらくあいつもいるはずだ。
「おうこら? てめーこの野郎、俺をなめてんのか、アスモデウスよお?」
アスモデウスが、透明化を解除して、顔を伏せてアレクシアの傍らに立つ。
なめられたもんだぜ、この俺様もよお。
「アレクシア参謀本部大将! 貴様、私が聞いていた計画と違う! どうして私の部下のシープデーモン大佐が、このような事になっているのか!」
このポンコツ利用されやがったのか。
チョロすぎだろ、元帥のくせしやがって。
ていうか、こいつの正体ばらしてやがるし、マジでポンコツだな。
「てめー、アスモデウス! こいつの正体知ってやがったんだな、このボケ!」
「ち、違う勇者よ。私が知ったのは、バフォメット准将の安否確認をしたところ、彼女がベルゼバブ閣下から極秘で任命された、魔王軍参謀本部大将と打ち明けられて。そして、このシープ大佐が撃退されて油断した、お前の手下と冥界の女神を幽閉し、お前の身柄を、私と大将で分け与え合うなどという計画、私は知らぬ」
「なんのことでしょうか? この元帥という人馬鹿ですわね、軍法会議にかけられますわよ?」
ああ、はいはい。
この茶番は、俺目当ての魔王軍大将が、同じく俺目当てのポンコツ元帥を騙し、何らかの方法でヤミーと俺の組員を人質にして、俺を戦闘不能にした後、神界と冥界の救済を断念させる計画ね。
どこまでこの俺をなめ腐ってんだこいつら!
そしてヤミーは、俺を見て小さくうなずく。
そう、アレクシアは幼少時代から人類を裏切っていた。
これはさっき死にやがった、王様が教えてくれた事実よ。
俺の推測も混じるが、幼少期より、桁外れな頭脳と戦闘センスを持ち、悪魔を撃退し続け、魔王軍准将も返り討ちにし、こいつの力に恐怖した参謀本部長のベルゼバブから、人間の身でありながら魔王軍の大将に、極秘裏に任命されたって所だろうな。
そして女王即位に邪魔な王子たちを、次々と暗殺したのもコイツ。
13歳で摂政になり、王を幽閉して国の実権を握りやがると、共和国と皇国の弱体化を計画し、王国による世界征服の後、魔王軍がこの世界を支配する予定だった。
俺という存在が表に出てくるまでは。
まあ、そんなところだろ?
俺が思うと、ヤミーも俺の方を見て頷いた。
ビンゴだな。
「ふざけんじゃねえぞ! このブサイク女共! テメーらみたいな性悪な不細工な女は大っ嫌いだ! 顔も見たくねえよ、死んじまえやクソボケが!」
「クッ、私だってこんな計画! お前にだけは! 大将よ、立案者の貴様が本作戦の指揮責任をとり、この勇者を撃退せよ! 魔王軍はこれより、勇者との協定を一方的に拒絶し、戦闘状態とする、以上!」
アスモデウスが唇を噛み締め、悔しそうな顔をしながら、透明化を使ってこの場から姿を消した。
そして、アレクシアは無表情のままだが、いきなり右目をごしごしとハンカチでこすりだしやがった。
ああ……この癖は……。
なんてこった、俺はこいつを知っている。
ちくしょう、どうしてこうなったんだ?
俺の目から、自然に涙が流れ出す。
「思い出したよ、アレクシア。お前生まれ変わりって信じるか? と聞いたとき、信じねえっていったよなあ?」
「ええ、それが何か? 今の話の流れに何か関係ありますか?」
アレクシアはさらに、強く右目をこすりだした。
こいつも気が付いている筈だ、俺にとってお前は大事な存在だってことは。
「ああ、おめえさんにある話をしてやろう。俺達は前世で深く愛し合っていた。俺とお前は、固く強い絆で結ばれて、俺はお前の事を一番大切に思っていた。お前が俺に運命めいたことを感じていたのは、そのせいよ」
「そうでしたか。やはり私と勇者様は結ばれる運命にあったんですね?」
アレクシアは、右目をこするのをやめて、俺に微笑みかけてくる。
だが、気が付いたところでもう遅い。
そうして俺は、最初にこいつに会った時に、なぜ気が付いてやれなかったんだ。
こんな外道に成り下がったコイツを……。
「そうだな、最後に俺達が前世で、どういう運命を辿ったと思う?」
「死があなたと私を別つ時まで、いっしょにいたのでしょうか? 前世であなたを殺した人間は許せませんが、あなたをずっと私は思い続け、生涯を閉じてきっと幸せだったんでしょうね」
ちがうよ、お前は幸せにはならなかった。
なれなかったんだよ、俺のせいで。
ちくしょう、涙が止まらねえ。
なんでよりにもよって、こいつがあいつなんだよお……。
「そうだよ、死が二人を別つ時まで、俺達はお互いを愛し合っていた。たとえそれが、俺を手にかけて、ヤクザ渡世の大罪を犯した、おめえさんでもその気持ちは、今も変わらねえ」
アレクシアは、ビクッとして硬直する。
そう俺を転生前に殺したのは、お前なんだよアレクシア。
「マサヨシ! それ以上は考えるのをやめるのじゃ! お主の心が壊れてしまう!」
ヤミーは涙目になって、俺に叫ぶ。
すると俺の体が光り輝き、親分の入れ墨が背中に入った状態になる。
考えるな? だめだな。
こいつには、言わなきゃならねえことがあるんだ。
「俺はお前を恨んじゃいねえよ。今になっておめえさんの気持ちがよくわかる。転生前、外道に堕ちていく俺が、どうしょうもなく嫌で、俺を愛していたからゆえに殺したんだろう? よくわかるさヤスよ」
ヤス、いや今は王国王女のアレクシアか。
ハンカチをまた取り出し、しきりに右目を激しくこすりだす。
そして、左目からは涙が溢れ出していた。
そうだったな、おめえさん普段は冷静沈着だが、あせり始めると失った右目をこするかのように、眼帯をハンカチで拭う、俺しか知らねえクセがあったもんなあ。
俺は、腰に巻いた帯から木刀を取り出し、アレクシアに向けた。
すると、木刀は俺が生前愛用していた、白樫の柄の長ドスに姿を変えはじめる。
そして着ていた着物をはだけた。
「俺もそうさ。こんなにどうしょうもねえ、外道に成り下がっちまったおめえさんなんて、もう見たくねえ! デヴレヴィ・アリイエ王国王女にして、魔王軍参謀本部大将、アレクシア・アリイエ! テメーの罪は全て、背中の閻魔様がお見通しよ! その罪、閻魔様に代わり俺が裁く! そしてヤス、俺がおめーの魂を救ってやるぜ!」




