第51話 盃
そんなわけで、翌日俺は、ドワーフ兵団とエルフ騎士団を引き連れて、ホビット国に帰還する。
ホビット国のロイヤルガード隊は、帰還しており、俺たちを乗せる気球の原理を利用した、大型飛空艇が待機していた。
とりあえず、俺もフューリーを体に憑依させ、ガルフとカランシアの婆さんと一緒に、ホビット国のビビッドさんに、土下座で詫び入れる。
今まで散々、略奪やら物資調達の名目で、迷惑どころか命をおとしたホビットもいたんだし、最低限それくらいはすべきだ。
俺が仮にホビット国の王様だったら、コイツらの命絶対に取ってるけど、ビビットさんが、今までコイツらのせいで亡くなった、ホビット達の墓に、謝罪するって事で仲直り盃に移行となった。
失った命は戻らないが、死者に敬意と哀悼の意は最低限、必要だろう。
そして仲直り盃の準備を進める。
それが終わったら、親子兄弟盃して新生極悪組結成よ。
そして、花が咲き乱れたホビット国の平原を借りて、儀式を執り行う準備をする。
コルレオーニは、俺を見つめていた。
そういえばコイツの連絡が無ければ、レオーネも死んでたかもしれねえし、エルフ王国を俺の影響下にすることも出来なかったな。
「おい、コルレオーニ。てめーボサッと突っ立ってねえで、こっち手伝え。てめーにも盃やるんだから」
俺がいうとコルレオーニは、驚いた顔をして、俺に駆け寄る。
「すいません、勇者様。実は自分、本名はコルレオーニって名前じゃねえんです」
あ? なんだそりゃ。
本名じゃねえってどういう事だよ。
そういえば共和国出身って言ってたな。
「わけを話せや」
「自分、コルレド・コレイニが本名で、コルレオーニは、王国で活動してた、商人名です。本当は色々話さなきゃなんねえ事があるんですが、その、アタシ……」
何か隠し事をしてやがるな。
俺はコルレオーニこと、コルレドの今までの行動を思い出す。
こいつは、そもそも王国の有力貴族の公爵にくっついてた商人。
その後俺のケジメに耐えて、逆に仲間に入れてくれと言ってきた根性者だ。
公爵邸で、情報工作が出来てた時点で、ただ者じゃなかった。
それに、この世界の最新技術のはずの、気球を簡単に操縦できたこと、コカトリス襲来時の、素人とは思えない咄嗟の身のこなし、そしてヘタ打ったら、殺してくれと申し出る命の粗末さ、よく考えれば、おかしいんだよこいつ。
何で今まで気付かなかった?
いや、こいつが気づかせなかったのか。
だいたいコイツの素性は読めたぜ。
多分こいつは……。
「てめー、共和国側の諜報員、スパイだろう?」
本名を名乗らず活動してるなんて、犯罪者とスパイしかねえからな。
俺も昔敵対組織に命狙われた時、暗殺計画には必ず情報を流してる野郎が組織内にいて、怪しい野郎の行動を探りいれたりだとか、生まれや地元の素性を辿ると、そいつは元々経歴詐称目的の渡世名だったりして、若衆時代からすでに別の組織の息がかかった、いわゆるスパイってのは実際あった話だ。
「へい、その通りです。でも、あの王女さんにスパイ網は壊滅させられ、自分は本国からも捨てられて、そのまま商人してました」
なるほど、つまり諜報員の素性隠すためにやってた、偽りの商売が本国に見捨てられた事で、商人がそのまま本業になり、例の公爵の件で、コイツの商社を燃やしてぶっ潰したから、どこにも行き場無くしたのか。
「ですから、勇者様に本当に仲間にしていただくなら、本名でお受けしたいんです。わがまま言って、申し訳ありません」
よし、筋が通ってやがる。
俺に隠し事してた件は水に流してやろう。
「なんだこの野郎、今まで隠しやがって水臭え。おめえは俺の舎弟になって、会計役やれ。おめえしか出来ねえ仕事だ、頼りにしてるぜコルレド」
俺がコルレドの肩を強めに叩くと、声を上げて泣き出した。
「おら、さっさと俺の手伝いしろ。そこに俺が用意した盃並べて確認しとけ。それと今度から俺を呼ぶときは、兄貴と呼べ。いいな?」
「へい、わかりました兄貴。俺、ここまで人に必要にされたの生まれて初めてで……」
こうして、商人コルレオーニ改め、共和国諜報員コルレドを俺の舎弟にした。
「それと、兄貴。お耳に入れておきたいことが」
コルレドが、そっと俺に耳打ちする。
その内容に俺は一瞬驚愕したが、それもしょうがねえ話だ。
亜人世界での戦いの最後の大仕事、俺の器量の見せどころか。
そして、手打ち盃。
ホビット王ビビットさんのテントで、執り行われた。
式典には、ヤミーが手書きで書いた神前の神、閻魔大王親分の名を書いた、半紙を掲げさせていただき、供え物を置く。
本当は細かい作法とか色々あるんだが、省略していいと俺は判断した。
中身が重要だから、今回の場合は特に。
ホビット側の出席者は、ビビットさんと王妃のリーゼさん。
ドワーフ側は、ガルフと息子の三兄弟。
エルフ側は、カランシアの婆さんと、子分にしたグルゴン元王。
ここに俺とヤミーが入り、盃事を行うが、ヤミーは俺の顔を心配そうに見る。
こいつも、何かを感じたようだった。
俺はヤミーを見て、心配するなと目で合図してうなずいた。
「それでは、仲直り盃を行いやす。仲直りの盃の仲裁人として執り行いさせていただきますのは、あたくし、若輩者ではありますが、勇者マサヨシと申します。ここにおられる各々方、様々な遺恨等あるやもしれませんが、その胸の中の遺恨をすべてを水に流していただき、仲直りの盃とさせていただきやす」
俺が宣言すると、リーゼ王妃さんの指示で、ホビット達が家畜の乳で作った酒を用意して、俺が土魔法で作った盃に酒を満たしてもらう。
「仲直りの盃の前に、あたくしの多大な粗相があったため、お集りの方々の盃全て、この勇者マサヨシが飲み干させていただきやす」
俺が言うと、リーゼさんがぎょとした顔になり、顔面蒼白になる。
コルレドから聞いていた情報通りだった。
リーゼさんは、元王国の商人の娘さんで、そのコネクションを利用して商人ギルドを通じて、ホビットの行商を行っており、この盃の前にあるものを入手していたのが、コルレドの調査で分かっている。
それは猛毒のモンスター、ダイオウフグの毒。
一滴だけで人間を何百人もぶっ殺せる、猛毒の劇物だ。
そう、リーゼさんは今まで自分たちを苦しめてた、ドワーフやエルフの奴らを決して許せなかったんだろう。
当然だ、こいつらそれだけのことをホビットに今までしてきたんだから。
「マ、マサヨシ様。どうか、おやめください。あなたは、我々を救っていただき……」
「それはできません。おいてめーら、盃全部俺の元に寄こせ!」
リーゼさんは言うが、それでは俺の気が収まらねえ。
こいつらは俺の舎弟や子分となる連中。
ならば、こいつらの今までの不始末は、親であり兄貴である俺が被ってやるのが当然よ。
すると、ガルフやカランシアの婆さんが気が付く。
「兄者、なんであんた!」
「勇者よ、お主まさか!」
「うるせえ馬鹿野郎! テメーらそれだけの事をホビットにしたんだ。ぶっ殺されても文句言えねえだろうがよ! だが、俺がテメーらの不始末、全部被ってやる! おい、ガルフの息子たちに、グルゴン! てめーらの親分になる男がどういう野郎か、しっかり目に焼き付けろ!」
それとフューリー、おめえさんにもな。
俺は、自身の体を精霊化し、フューリーの意識と同化する。
俺の黒髪が真っ青になり、瞳が青くなったのを、盃に満たされた毒入りの酒に映ったのを確認した。
そして精霊魔法の浄化の水と、神霊魔法の浄化の力を一気に高め、集められた盃を一気に飲み干した。
ぐおおおおおおおおおおお。
やべええええええええ。
やらなきゃよかった、マジで死ぬ。
喉が、胃が焼ける、血が逆流してきて回復魔法が追い付かねえ。
俺は意識の中で、憑依したフューリーと会話した。
「てめえフューリーこの野郎、もっと魔力の出力上げろ! 俺が死んじまうだろ!」
「む、無茶よ! 少しずつなら何とかなったけど、一気に飲むから」
「何だとこの野郎! てめーがやったことの尻拭いをしてんの誰だと思ってんだ! 人助けすんじゃねえのか? てめーも腹くくれボケ!」
くそう、回復が追い付かねえ。
意識がもうろうとしやがって駄目だ。
「うぼあ」
大量に俺はその場に吐血し、ぶっ倒れた。
ちくしょう、死ぬわこれ。
ヤミーが涙目になって駆け寄ってくるが、ちくしょうまだか。
「マサヨシ、なんでじゃ! なんで無茶を」
「馬鹿野郎……おめー、これも……弱きを……助ける任侠道よ……」
もし、エルフ連中やドワーフ連中の頭たちをこの場で暗殺したとしても、ホビット達を待っているのは、エルフとドワーフの復讐で、せっかく俺が全部手打ちにしたのが、また戦争になっちまう。
俺が助けた意味ねえだろ、そうなったら。
何より俺の格好がつかねえ。
「馬鹿者が……」
ヤミーが一滴の涙を俺に流した瞬間、俺の背中に親分の入れ墨が入った。
この状態になると、通常の倍以上の力を出せるが、どうもヤミーもコントロールできねえようで、こいつの気分次第ってのが、まったく嫌になるぜ。
そして一気に、治癒の水の精霊魔法と神霊魔法の出力を高めた結果、体の毒素が浄化される。
ああ、死ぬかと思った。
すると、ドワーフとエルフの亜人連中全員俺の前に跪いた。
「兄者、おみそれしやした! ここにいる亜人全員、兄者に今後も付き従うので、今後ともよろしくお願い申しますぜ」
ガルフが代表として、口上を述べる。
そして、俺はビビットさんとリーゼさんに向き直る。
「これを持って、俺がホビットの恨みを全て飲み込みやしたんで、水に流していただきませんか?」
俺が言うと、ビビットさんがうつむいて涙を流し、リーゼさんが泣き崩れて号泣した。
そして俺から涙があふれだす。
これは俺の涙じゃなくて、フューリーの涙だった。
俺の意識の中で、ホビットへ懺悔しながら大泣きしていた。
これにて、仲直り盃の儀は終了した。
今度は、俺の極悪組の親子兄弟盃の儀式よ。
新生極悪組の人事は、以下の通りだ。
総裁はヤミー。
もっとも、組長じゃねえから、組の運営には一切口出しはさせねえ。
閻魔大王親分がいる手前、やむを得ず作った役職よ。
カタギの企業と同じで、うるせえ創業者とかのジジイを、適当に会長職にして、神輿にするアレな。
最高顧問は、拒魔犬の兄貴にやってもらう。
色々俺との相談事や、閻魔大王親分とのやり取りに、子分らの面倒も見て貰わねえといけねえし、それなりの役職つけねえと兄貴の立場がねえ。
組長は当然俺、マサヨシ様よ。
俺の方針と決め事は絶対だ。
そうじゃねえと、この世界に任侠道は広まらねえからな。
次に執行役員。
舎弟頭は、ドワーフのガルフだ。
あいつは国王の経験があるし男気もある。
俺に何かあったら、経験活かして代貸で動いて貰わねえといけねえからな。
それと、ドワーフ兵団を指揮させる。
ドワーフ王国は、しばらくあいつのカミさんが取り仕切るようだ。
ガルフの野郎、魔王軍と喧嘩ができるって聞いて喜んでやがった。
舎弟兼会計監査役はコルレド。
コイツは組の会計役で、シノギの上がりや商人ギルドとの接渉役やら、地下銀行の運営に、今後の共和国側との交渉もやってもらう。
結構重要なポジションだが、諜報員の経験と商人の経験を、遺憾なく発揮してもらおうか。
若頭はニコだ。
まだ荷が重いかもしれんが、ヤスの転生体でもあり、男気があるこいつには、いずれ俺の跡を継がせる意味で、早いうちから上に立つのに慣れてもらう。
若衆筆頭だけど、当分俺にくっついて回らせて、色々仕込まにゃならんな。
ガルフの野郎もニコを気に入ってるようで、息子みたいに面倒を見ると言ってる。
若頭補佐はレオーニにやってもらう。
あいつは女だし、子分じゃねえが、並の男よりもはるかに役に立つ。
元々貴族だし、聖騎士で異端審問官達を率いてたから、上に立つのは慣れてる。
ニコとはあまり接点はなかったようだが、あいつは俺の息子のようなもんだから、おめえの息子でもあると思って、キチンと補佐してやれって言って聞かせたら、二つ返事で了解してくれた。
そして新たに設立した、エルフ太陽騎士団の指揮はあいつに任せる。
後は子分連中。
ガルフの息子の三兄弟。
ガイ、マシュ、オルテだ。
ガルフの息子なら、俺の息子よ。
ニコの弟分になるが、ニコとこいつらは仲がいい。
俺の修練を一緒にこなすうちに、気心知れた中になったようだ。
それと、元エルフ王のグルゴン。
名前を改めさせ、ブロンドの髪してるから、ブロンドって名付けた。
いわゆる渡世名ってやつだな
渡世名ってのは、芸能人で言うと芸名みたいなもので、例えば、親分から名付けられたりする場合や、本名バレたくないからってパターンとか、元の本名に迫力ねえからだとか、改名診断とかに凝って、渡世名を名乗るケースもあったり色々よ。
エルフ王国は、レオーネ不在の間はカランシアの婆さんに仕切ってもらおう。
そして、この世界の亜人の王族連中や、ニコのようなガキ共を直系の子分にしたのは、俺が世界を救った後、こいつらが大人になったら、この世界の中心を担うのは、各種族長の子息やニコのような、勢いのある奴らだ。
仮に俺が死んだ後でも、任侠道の精神は絶やしちゃならねえから、こいつら直系の子分には、徹底的に仁義を重んじ、困っていたり苦しんでいたりする人を見たら放っておかずに、自分の体を張って弱きを助け、強きを挫く、任侠道の精神を叩きこまねえとならねえと思った。
そのためには、俺の背中を見て育ってもらう。
俺の悪いところは真似してほしくねえけど。
そして、俺の舎弟と子分連中には俺が作った、菱に悪一文字が入った黒の羽織を着用させる。
レオーネは俺の女だから、特別に悪一文字が入った、かっこいい黒のマントを用意したら、あいつすげえ喜んで、一生大事にすると言いやがった。
でもそれ、汚れたら新しいの作るし、ボロくなったら捨てていいぞ。
そして、親子兄弟盃の儀をホビットのテントを借りて実施する。
口上と媒酌人はヤミーにやってもらおう。
こいつは神だし、俺達は神の名の下に任侠道を行う、正義の集団だからな。
「えーゴホン。そのしゃ、盃は親分、子分、兄弟の盃のち、契りを結しゅぶ盃である! マサヨシについては、そ、その盃を気持ち飲み干し、舎弟分になりゅ奴らは、兄、舎弟の契りをむしゅぶ盃ゆえ、三口半で飲み干し盃を懐中に納めよ! こ、子分についてはいかの修行にも耐え抜いて、立派な男となる決意があるならその盃を、い、一気に飲み干し、懐中深く納めよ!」
……野郎! 大事な口上かみかみじゃねえか。
メモ渡しただろうがこの野郎。
神だけにかみかみとか、ウケ狙ってんのか?
ぶち殺すぞ馬鹿野郎。
「皆の衆相違ないか?」
「ありやせん!」
こうして各々が盃をかわし、新生極悪組は結成された。
「よし野郎共! 早速だが、デヴレヴィ・アリイエ王国首都デヴレヴィで、これから魔王軍将軍との喧嘩だ! 各自、準備し終わったら喧嘩しに行くぞ!」
俺が宣言すると、歓声が上がった。
そして準備が終わり、アレクシアが宣言した1か月の期限を間もなく迎え、極悪組の面々と、ドワーフ兵団、そしてエルフ太陽騎士団の全員が、大型飛行艇に乗り込む。
その時、ニコを追いかける女の子の姿が見えた。
ホビット国の王女、メリアちゃんだった。
「おい、ニコ。あの子は断っても意地でもおめーについてくるだろう。うちのお客分だ、若頭として責任もって、お客分の面倒を見てやれ。あと俺が教えた口上で、仁義切れ」
「わかった、いや、わかりました親分」
ニコはメリアちゃんに向かっていくから、俺は後ろからついていく。
「ホビット王国王女、メリアさんに相違ありませんか?」
ニコにはきちんと、仁義を教えてやっている。
まずは、好きな女の子でやってみな。
「はい、ホビット王国王女メリアです」
「お控えなすって、お控えなすって! 手前、極悪組マサヨシ親分のもと、若衆頭を務めさせていただきます、ニコと発しやす! 若衆頭と申しても、現在修行中のしがなきものではありやすが、こんなところで出会ったのも何かの縁、よろしければあっしとご一緒に世界を救う旅、ご一緒にいかがでござんすか?」
「はい、喜んで」
うまくできたじゃねえか、あの野郎。
そういえば、最近背が伸びたか?
あの野郎も成長期だもんな、しょうがねえ今度あいつに見合う服を仕立ててやるか。
仁義なき世界で、仁義を切った子分を見届けた後、俺は王国首都に出発した。
ようやく、一家を作ってパーティーメンバーが出そろった感じですね。
そして第二章もそろそろ数話で終了し、第三章へ




