第49話 筋道
精霊王フューリーは怒り狂い、トワの泉の水位を高め、水がどんどんあふれ出す。
そして溢れた水は津波となって、火災を消し、大森林のすべてを飲み込み込んでいく。
幸いにして大火災は消火されたようだが、このままだとまずい!
俺はアレクシアを見やる。
「こいつ、今まで戦ったどんな奴よりも、はるかにやばい! はっきり言って神の力だ! 直接戦闘は死を意味する! アレクシア、早くホビット国の全員を避難させろ! このままだと、ホビットの集落にも津波がやってきて、ホビット達やロイヤルガード隊も巻き込まれる! 早くしろ‼」
俺が焦って言うと、サイコ王女は水晶玉で連絡をはじめる。
このまま水があふれ続けたら、亜人領域だけでなく、ヘタすりゃ大陸全土に洪水の波が覆いだし、俺が救うはずの世界が滅んじまう。
それに直接戦闘ができねえなら、交渉で解決するしかねえ。
俺が転生前極道だった時、交渉事でここまで相手がブチ切れてる場合は、相手を説得してなだめようとするのは、逆効果。
むしろある程度、怒りを吐き出させたところで、一気に一転攻勢……。
あれ?
転生前の記憶が、思い出せる。
おい、昔のことが鮮明に思い出せるぜこれ!
破門とけたってことか? 親分が大丈夫って判断したのか?
協定違反の件はどうなったんだ?
その時、エルフの婆さん、カランシアとエルフ王が俺の前に立つ。
「怒れる精霊の王よ。我らエルフ、もうあなたに付き従うことはできませぬ! 生きとし生けるもの全てが、あなたに振り回され、美しかった世界が地獄に変わる過程を見てきました。もう私には耐えられませぬ! 今こそ、あなたの横暴を食い止める!」
そして、ガルフとドワーフ達が俺の前に立つ。
「偉大なる精霊王よ! このガルフの喧嘩の相手として不足ねえ! 兄者と俺、種族は違えど思いは一つ! ドワーフ兵団と、わが身に宿る、精霊イフリートの力を使って、この喧嘩絶対勝利だ! 負けることは許されねえ!」
ニコとメリアちゃんが二人で手を取り合い、俺の前に立った。
「すべての命のため、あなたを止める! 私はニコとこの世界を守りたい! 母たる精霊の王、私の残り短い命が尽きようとしても、この思い、私はホビットを代表して成し遂げる!」
「オイラ、この子を絶対に守る! 絶対に死なせやしない! 男は女に格好をつけるために生きてるんだって親分から習った。だったら好きな女の子のために、格好つけてオイラ男になるんだ!」
そしてレオーネが俺の前に立った。
「哀れな精霊の王よ! 騎士道精神と任侠道の名の下に、今までの非道、今こそ断罪の時!」
最後にアレクシアが俺の前に立つ。
「無様な精霊の王、勇者様と私の前にひれ伏し、散華なさい」
ちくしょう、こいつら。
絶対に勝てる相手じゃねえのに、俺が格好をつけなきゃならなくなるじゃねえか。
これじゃあ交渉事に移れねえよ、だが。
ビビってんじゃねえ、勇者マサヨシ! ここが俺の男の、任侠道の見せ所だ。
「邪悪な精霊王フューリーよ、弱きを助け、強きを挫くこの勇者マサヨシ様が相手だ!」
俺が宣言すると、泉の水がフューリーを飲み込み、数100メートルの姿の人型になって、俺達を見下ろし、悲しげな咆哮を上げる。
「何でアタシをみんな拒否するの! 許さない、アタシはアタシを拒絶する、全ての存在を許さない!」
フューリーの絶叫に、全員が恐怖する。
ああ、やべえよ、これ絶対勝てねえパターンだ。
たぶん転生前の俺だったら、一歩引いて勝てる可能性ができたら喧嘩しただろう。
だがよお、舎弟や子分、そして女の熱い思いに応えられねえで、何が親分だ馬鹿野郎!
絶対に負けねえ、俺はこの世界で任侠道を貫くために転生したんだ!
「行くぜ!」
俺は、先頭切って風魔法と身体強化で飛び出し、小太刀と木刀の攻撃を試みる。
だが相手は水、物理攻撃は一切無効。
「おめえら、魔法攻撃に切り替えろ! こいつに物理攻撃は一切通じねえ!」
皆、あらゆる魔法を唱えるが、焼け石に水。
全然効果が無いどころか、精霊化したガルフや、カランシアの攻撃にもビクともしない。
火や風では太刀打ちできねえようだ。
「マサヨシ様、私が突破口を開きます! ドワーフ王は炎の精霊の力を高め水を蒸発させて、エルフの長老は風の力で、蒸発した水蒸気を吹き飛ばせば!」
アレクシアが振り返り、俺に告げた。
なるほど、炎で水を蒸発させて、風で水蒸気を吹き飛ばせばいいのか!
「ガルフ、おめえはイフリートの力で水分を蒸発させろ! エルフの婆さんはその後、風の力で蒸発した水蒸気を吹き飛ばせ。本体が出現した段階で、俺が決める!」
ガルフは全身を発光させ、水分を一気に蒸発させる。
カランシアは、その水分を風の力で吹き飛ばした。
アレクシアとレオーネ、そして俺達は、むき出しになったフューリーに直接攻撃を試みる。
だが、超高圧の放水が女たちを襲う。
「レオーネ、アレクシア! てめえこの野郎!」
水を遮るために、メリアちゃんが土の精霊魔法で防波堤を作りだし、追撃は何とか防ぐことが出来た。
俺は、フューリーに魔法の一撃を加えようとする。
だが、俺の体は水に包まれた。
まずい、これでは俺は窒息死する。
「なんで私をみんな拒否するの! 人間がアタシに勝てるわけがないのに!」
何だとこの野郎、ヤクザなめやがって。
だが、この水に包まれて緩やかに窒息する感じ……。
くそ、俺がまるで転生前に死んだ時と同じ状況だ。
やべえ、ビビっちまって体が動かねえ。
ちくしょう、だめか。
俺が思った時、アレクシアが俺に体当たりするかのように身代わりになる。
「アレクシア、おめえ王国の王女だろう、無謀な事しやがって!」
俺が叫ぶと、どことなくアレクシアは悲しそうな顔をして俺を見る。
そして、吹き飛ばされたレオーネが、風魔法を連発する。
「人間め! 人間め! どうしてアタシの邪魔をするの!」
フューリーは超高水圧の、ウォーターカッターを連発し、森の木々がなぎ倒される。
この野郎、人間をなめやがって。
人と人との思いが、俺達の思いが、どれほど強いか見せてやるぜ!
俺は、右手と左手の、炎と炎の魔力を最大限高める。
「てめーに、人間の思いをぶつけてやるぜ! くらえ、水蒸気の爆発」
俺が魔法を唱えると、フューリーの水分に触れた高温の炎が水蒸気爆発を起こした。
野郎の水の体が吹き飛ばされるが、フューリーはほぼ無傷で、巨大化した水の手で、俺の体を包む。
いや、俺だけでなくこの場にいる全員を窒息させる気だ。
「大津波!」
フューリーは、技の名前を叫んだ。
この場にいる全員が、怒れるフューリーの体に取り込まれた。
「なんで、なんであたしに逆らうの! アタシを受け入れられないなら、みんな死んじゃえ!」
くそ、窒息しちまう。
反則級の強さだ、この野郎。
その時だった、俺の体がまばゆい光に包まれ、閻魔大王様の入れ墨が入る。
そして、フューリーが持つ全ての魔法の効果が打ち消された。
「閻魔大王! いやよ、犯罪者として裁かれるなんて絶対に嫌あああああ」
フューリーが、着物がはだけた俺の背中を見ると、あの野郎怯えた声を出した。
そして、空から落ちてきた俺を支えるものがいた。
あのちんちくりん、ヤミーだった。
「馬鹿野郎テメー、やべえ状況なのに、何しに来やがったんだ」
俺が言うと、ヤミーは両手を離して俺を地べたに放り投げ、咳払いする。
この野郎、相変わらずどSのままかよ、可愛げがねえガキだ。
「神界法の規定により、我の懲戒処分とお主の追放処分は、神界の創造神様と、冥界の兄様によって取り消されたのじゃ! あやつも兄様と創造神様の力で弱体化しておる!」
マジか、親分が向こうで手を回してくれたのか。
ありがてえ、これで心置きなく喧嘩ができる!
俺の木刀は、全長150センチを超える、鍔の無い大太刀のドスに進化していた。
握ると、不思議と重さを感じない。
「積もる話はあとだ! おめーさん来てくれてありがとよ!」
俺がヤミーに礼を言うと、ヤミーは顔を赤らめてプイと目をそらしやがる。
まったく、あいかわらずこのガキかわいくねえ。
そして、水を纏ったフューリーに振り返り、刀を差し向けた。
「精霊王フューリー、テメーの罪は俺の背中の閻魔さんが全てお見通しよ! この世界の亜人達を今まで苦しめてきた罪、そして非道! 閻魔さんに代わり俺が裁いてやるぜ」
俺は風魔法で宙を浮き、数100メートルの高さまで一気に上昇した。
この状態になると、通常よりも倍以上の出力が出せる。
野郎をやっつけるには、あの馬鹿でかい水の体が邪魔だ。
ならば!
「行くぜこの野郎、転生前に薬丸示現流のビデオを擦り切れるまで見た、この俺様の必殺技だ!」
そして、空中で俺は薬丸示現流の構えをとる。
八相の構えから、刀を天高く掲げて、フューリーの水の体に一気に振り下ろした。
「一の太刀を疑わず、二の太刀は負け、極意、蜻蛉切り!」
地面に向けて、風魔法を使って一気に落下するようにぶった切る。
そして、妖怪海坊主のようにでかい体の中央にいる、フューリーの元まで落下した。
俺はフューリーを見やると、まるで泣いてるガキだった。
「チッ」
俺は、舌打ちしながら刀の軌道を変えて、フューリーをぶった切らないように、地面に向けて、水の巨体を一刀両断すると、水の水位も下がり始め、津波も収まった。
この蜻蛉切りは、元々俺がやってた古流剣術の技じゃねえ。
俺の居合道や古流剣術の趣味を通じて、義理事で仲良くなった九州の親分衆の一人が、俺にプレゼントってことで、薬丸示現流や二天一流の極意や、型とかの鍛錬方法のビデオを、何本もくれたのよ。
俺も嬉しくなって、お礼にってことで、九州で流通してねえ新品の裏ビデオを、子分に命じてその親分のところに、数年がかりで何万本も送りつけて、儲けの3割はうちで、あとはそちらさんのシノギの足しにしてくれって言ったら、向こうさん喜んで、台湾や韓国とかに輸出したり、博多や北九州辺りでシノギにしてたっけ。
80年代や90年代前半は、あれとビニ本でぼろ儲けできたもんな。
すべての精霊魔法の効果が打ち消され、泣いているフューリーの体が地面に落下した。
俺は残りの魔力を使って、一気にフューリーの元へ駆け寄り、体を受け止める。
「なんで! 何で人間がアタシを助けるのよ! さっさと殺しなさいよ!」
「うるせえ馬鹿野郎! ガキを斬る趣味はねえ! てめーとはこれから交渉事だ」
そう、これから俺はこいつに認めさせなきゃならねえことがある。
喧嘩ってのは始めるのは簡単だが、収めるのは難しい。
亜人達への落とし前、絶対につけてもらうぜ。
俺とフューリー、そしてヤミーが泉のほとりで交渉事を開始する。
立会人は、ドワーフからはガルフ。
エルフ側は、カランシアの婆さんと、エルフ王グルゴン。
ホビット代表としてメリアちゃんと、今後の勉強のためにニコを同席させる。
人間の王国側からの立会人として、サイコパス王女も同席させた。
「で? 精霊王フューリーさんよ、今回の落とし前どうつける気なんだい?」
「はあ? 何それ。アタシ悪い事してないもん!」
フューリーの憤怒と悲しみの感情が収まり、ただの不貞腐れたガキになってた。
「マサヨシよ、我が兄様から聞いておる。この世界が歪み、魔界が侵攻し、人間と亜人の関係を分断し亜人どもめが苦しんでいたことは、こやつの仕業じゃと。そして、悪魔達とも通じておった極悪人じゃ」
うわぁ、こいつ見た目がガキのくせに、極悪すぎだろ。
こいつのせいで、この世界が仁義なき世界になっちまってたってことか。
ヤクザな俺でも引くわ、それ。
「へえ、おめえさんのせいで俺は、仁義もくそもねえ、このろくでもねえ世界を救済する羽目になっちまったのかい? で、おめーさん、何で人間を憎むのよ? 理由あるんだろ、言ってみろや」
フューリーは押し黙る。
こいつが、ここまで人間を憎むには理由があるはずだ。
そこが今回の交渉事のカギとなるはず。
「おいコラ、黙ってんじゃねえよ。テメーこれだけのことやっといて、ふざけてんのか馬鹿野郎」
気迫を込めて、俺はフューリーを睨みつける。
こいつには是が非でも理由をしゃべってもらおう。
「人間が……」
「あん?」
「人間のために地球を救ったのに、アタシの事、みんなで気味悪がって、怖がって誰も口にしなくなって、歴史からも忘れ去られて……あんなに大好きだったのに」
俺は瞬間的に血が上り、ブチ切れた。
たかがそんな理由で、一つの世界をここまでぶっ壊しやがったのかと。
「ふざけんなこの野郎! てめーが散々体張って? 人間助けてやったのに、報われなくて泣き入れて? 人を憎んで? この世界がこんなことになって? いい加減にしろ馬鹿野郎!」
「あんたに何がわかるのよ! 今まで人間の事が大好きで、精霊界と人間のためにアタシがどれほど」
「ああ? ぶっ殺されてねえだけましだろうがよお! いい機会だ、ここにいる奴らに、転生前の俺の素性を教えてやるぜ。俺はよお、地獄送りになる筈だった極悪人よ。俺のいた組織ヤクザは、昔は世のため人のために活動しててよお、俺はその組織のために体張って、愛する子分達を守るために努力して、ヤクザのてっぺん取ったんだ。だが、最後は世間様から暴力団って憎まれて、最愛の子分からぶっ殺されちまったよ!」
俺が言うと、フューリーが絶句した。
奇しくも、俺とコイツの境遇は似たようなもんだった。
だが、俺はこいつと違って、なぜそんな羽目になったのかよく自覚している。
「どうして俺がそんな羽目になったと思う? それはよお、社会や世間様の事全然考えずに、悪事に手を染めまくって、子分達を苦しめたり、今までぶっ殺した奴らや、不幸にした女子供がごまんといたからよ。それが転生前の、清水正義っていう自業自得の極悪のヤクザ者だ。てめーもそうだろうが!」
フューリーは、今までの自分の行いを思い返したようだ。
そして、ガキの様に泣き出し始めた。
「ぷっ、あははははは。こやつ泣き出しおった! 外道のくせに今更後悔しても遅いわ」
どSのガキが、フューリーを指さして笑い始めた。
頼むから、ちょっと黙っててくれよ。
交渉事、ヘタ打つじゃねえか。
「マサヨシ様が、そんな極悪な方とは思いませんわ。それを言えば私の方が」
アレクシアは、俺の話を神妙に聞いているようだった。
まあ、そうだよな。
俺もワルだったけど、あんたそれを、はるかに超えてる化物だもの。
そして俺はため息を吐いた。
「立会人が口出してんじゃねえ。黙ってろ」
とりあえず、俺はこいつらを黙らせて、話を続ける。
「それでよお、俺は転生前の人生を恥じて、第二の人生を、生前出来なかった任侠道やって、人助けのために費やそうと思ってんだ。それが俺の、けじめの取り方だ。おめーさんはどうすんだい?」
「わからない、どうすればいいかなんてアタシわからない。精霊界にはもう、居場所ないし」
何だとこの野郎。
最低限のケジメの取り方も知らねえのか、このガキ。
これじゃあ、多分俺の若い衆のほうが優秀だな。
「おいニコ! このガキにおめーさんなら、どうしてほしいよ?」
俺はニコに話を振る。
本当は俺が全部決めてやってもいいが、こいつは俺の後継者だ。
そして、こいつだったら今ここにいる全員が望んでる答えを出すだろう。
「メリアちゃんの呪い解いてほしい。今まで苦しめた人達に謝ってほしい」
上出来だ、わかってんじゃねえかこいつ。
筋道がよ。
「おら、聞いての通りだ。さっさとあの女の子の呪いを解いて、ここにいる亜人連中の代表全員に、地べたさんに手をついて詫び入れろ。そのうえで俺の今から言う条件、全部のめ」
フューリーは、地面に跪いて両手を地面につけて、土下座するように頭を下げた。
「ごめんなさい」
こうして、俺の亜人領域での激闘は終わった。
あとは後始末だ。




