第48話 憤怒
マサヨシが、怒れる精霊王フューリーと邂逅する前の話。
精霊王フューリーは、仁義なき世界における、神界と精霊界の協定違反の告発文を書き上げると、創造神及び大精霊元老院宛に提出し、すでに事情を全て知る大精霊達は、これをしぶしぶと受理し、創造神付き大天使長兼神界特別監察官室長のミカエルを、神界と精霊界の狭間にある特別法廷に召還する。
そして、特別法廷に被告神である閻魔大王が出廷した。
彼は、冥界の上級神であり、死者の審判を司る、冥界第一級審問官であるが、自分が被告になる事は神として初めての事であり、新鮮さを感じて薄ら笑いを浮かべて出廷する。
閻魔大王は審判長席にいる、大天使長ミカエルに微笑みかけ、被告神席に座った。
その他審判席に座るのは、名だたる大精霊兼神の称号を持つ者たちであり、閻魔大王と目が合うと、申し訳なさそうに会釈し、閻魔大王は彼らに怒りを押し殺し、深々と頭を下げた。
そして、憤怒の顔をしてフューリーが告発者席に姿を現した。
彼女の放つ精霊のオーラは、心が壊れ、邪悪に染まり切っており、神々や大精霊でも勝てるか怪しい、恐ろしい憤怒の赤黒い力をまとっている。
その力は魔界の王達でも太刀打ちできず、創造神が発生を意図できず出現した、伝説の邪神じみており、仮に倒せるとしたら最上級神クラスか、伝説クラスの大魔王だろう。
そして閻魔大王を見ると、今にも殺さんばかりの視線を送るが、閻魔大王はフューリーを見ると、先ほどまで激務に追われていたためか、退屈そうにあくびをすると、フューリーがブチ切れる。
「ちょっと、なんでこの元大魔王は協定違反しといて、こんなにふてぶてしいの! なんならあの時の地球での大戦の結着でもつけてやるわよ!?」
フューリーが憤怒の表情で叫び声をあげると、閻魔大王は鼻で笑った。
あの時は、泣き叫ぶ子供のようで哀れだったから、捨て置いてやったと言わんばかりに。
すると、ミカエルが審判長席の机に小槌を振り下ろし、すさまじい音と共に法廷が静寂に包まれた。
「告発者の精霊フューリー殿、我々審判席が、発言を許可してから意見を述べてください。法廷への侮辱になりますが、よろしいのですか?」
無表情でミカエルが告げ、フューリーが腕を組み、閻魔大王を睨みつけながら告発者席に腰掛ける。
閻魔大王は、その様子を憐みの目で見つめていた。
彼はフューリーの壊れた心に向き合うには、それ相応の対応が必要であると認識する。
「それでは、神界及び精霊界による特別法廷を開廷いたします、告発者は告発文をどうぞ」
ミカエルが告げると、フューリーは咳払いし告発文を読み上げた。
「被告神閻魔大王は、あたしの領域に、薄汚い人間の勇者を送り込み、勇者と一緒に、勝手にあたしの部下の精霊を傷つけ、あたしの管轄するホビット、ドワーフに手を出しました。協定違反で非常に不愉快なので、精霊界代表の告発者として閻魔大王を協定違反により、裁きを与えてください、終わり」
ミカエルは、告発文の失笑をこらえ、大精霊達も呆れ顔になり、閻魔大王は特大のため息を吐く。
「被告神、閻魔大王。自己の弁護もしくは、代理の弁護神も召還できますが、いかがいたしますか?」
「いらぬ。自身の弁護の為、発言してもよろしいかの? あと自由討論の許可を」
「許可します」
ミカエルの許可をとり、閻魔大王は呆れた顔つきでフューリーを見据える。
「その件はのう、我があの世界救済の創造神様のご許可をいただき、担当神は我の妹じゃ」
「え?」
フューリーが絶句する。
あの悪魔達からは、そんな情報など一言も聞いてない。
「それでの、お主勘違いをしているようじゃが、どこからの情報じゃ?」
閻魔大王は、真実を見通す神通力を持っている。
すでに、フューリーはこの法廷に閻魔大王を呼んだ時点で、敗北は決定していた。
「さあ、知らない。黙秘権よ、黙秘権」
フューリーはシラを切るが、閻魔大王は神通力で、全てを見通した。
フューリーが、かつて美しかったあの世界を分断させた事、魔界の侵略を黙認した事、人間を虐げた事、私心で眷族のホビット達を滅ぼそうとした事、エルフの滅びも黙認し、これを楽しんでいる事、そして今回の悪魔達との接触。
――この精霊、魔王配下の悪魔と通じおって、我と神界をはめおったな! それにこやつのせいで、あの世界が哀れな事に!
閻魔大王は赤ら顔が、みるみるうちに憤怒の色に染まり、顔中に血管が浮き出る。
「審判長殿、前もって言っておくが、我の神通力に基づく発言の許可と、法廷内で多少声を荒げてしまうやもしれぬが、よろしいかの?」
閻魔大王がミカエルを見やると、どうやらミカエルも事情を察したようで、すでに法廷の結審は決まっていたが、背後関係も知りたいため、あえて知らないふりして閻魔大王の発言を認める。
「認めます。それでは、被告神にして冥界第一級審問官殿、発言をどうぞ」
「それでは結論から言うわい。我の妹は、協定違反の可能性があるため、現在冥界にて懲戒処分中。人間の勇者については神界、及び冥界から力のはく奪の後、追放処分とした。創造神様の決済もいただき、精霊界にすでに我ら神界の不始末を通知済みじゃが、何か問題でも?」
「な!?」
フューリーは絶句し、大精霊がいる審判席を見やる。
そして、大精霊たちは一斉に首を振った。
この法廷の裁判は、精霊であるフューリーからの告発があったので、形式上の手続きとなっただけであった。
「それでは、本法廷は神界及び精霊界協定違反の嫌疑不十分として被告神、閻魔大王の無罪判決を下します」
ミカエルは判決を言い渡すと、裁判長席から離れて、大精霊達が座す審判席に移る。
そして、大精霊達が閻魔大王の被告席の後ろに全員整列し、一斉に審判長席に向いて跪いた。
フューリーは、裁判が終了した筈なのに、なぜ審判長が審判席へ、大精霊達が被告席へ移動をしたのか、わけがわからなかった。
「それでは私は、審判長席から退席し、審判席に移らさせていただきます。次の告発の手続きの前に、告発神席に、上級神にして冥界第一級審問官の閻魔大王殿、被告席に大精霊元老及び精霊フューリーが、席を移動した後、審判長席に創造神様を迎え、神界及び精霊界協定違反、魔界幇助罪の裁判を行います」
「え? 次の告発? 私が被告? なんで、なんでそうなるのよおおおおおお」
閻魔大王は告発神として、憤怒の顔で叫ぶフューリーの前に立つ。
「おい、邪魔じゃ。精霊の姿をした邪悪な犯罪者めが。お主の席はあっちじゃ」
閻魔大王は、フューリーの魂が凍てつくような憤怒の表情で彼女を見据え、被告席を指さす。
フューリーは、顔面蒼白になり被告席へ移る。
すると、審判長席に一筋の光が照らしだすと、法廷内の全員が跪いた。
「ああ、いいよ、一々跪かなくても。面倒だし、こっちは時間なくて忙しいから。それで、閻魔大王はこの馬鹿達に言うこと言って、さっさと終わらせてくれるかな? 君も大事な業務で忙しいだろうし、ミカエルも暇じゃないし。こっちはもう事情把握してるから告発文は読まないで結構」
創造神が面倒くさそうに、不機嫌かつぶっきらぼうに、法廷全員に告げる。
これは、我らが主がたいそうお怒りであると、法廷全員が思い恐怖する。
「かしこまりました、それでは発言のご許可を得ましたので、この冥界第一級審問官である閻魔大王が、凶悪犯フューリー及び、精霊界の協定違反を糾弾いたします」
閻魔大王は、すうっと息を吸い、額に神の第三の目が見開き、精霊王フューリーの罪を断罪する。
「凶悪犯め! 我らが創造神様を裏切り、神界と我を貶めるため、魔界と手を結んだ精霊の恥さらしめが! 我の神通力で魔界の悪魔と接触し、吹き込まれたのはわかっておる!」
「ち、違う! あいつらが勝手にやってきて」
「やかましい! サタン王国の子悪魔達なのは、言わんでもわかっとるわ!」
フューリーは、自分の心と記憶が読み取られている事に恐怖する。
閻魔大王は、魔界の大魔王時代、こんな能力は持っていなかったはずなのにと。
「貴様の邪心は、全てお見通しじゃ! 人間を憎むあまり、エルフを使ってホビットを虐げて滅ぼさんとし、ホビットと人間の間に出来た子達に呪いをかけて、その生を弄ぶとは言語道断! 恥を知れい!」
閻魔大王はフューリーが行った、ホビット達への非道も見抜き、罪を糾弾する。
「だ、だって、あいつら私を、精霊の王の私を軽んじるから!」
「ふざけるな貴様! 尊き命を、生命を何だと思っておるのか! 許せん、冥界第一級審問官の名において、貴様の非道、絶対に許すわけにはいかん!」
フューリーは、閻魔大王の気迫に恐怖する。
「貴様は、あの栄華を誇った美しい世界を、自分の私心のために、人間を貶め、数々の精霊達を追放し、眷属達を苦しめ滅ぼさんとし、魔界の侵略を黙殺したばかりか、あろうことか手を組みおって! 創造神様の裁きをうけるがよい!」
閻魔大王が、法廷が揺れるばかりの大声量で憤怒の表情で、精霊フューリーの罪の糾弾を始め、告発すると、フューリーが涙を流し、声を上げて泣き始める。
「私、悪くないもん。もう戦いは嫌だったの。人間を救ったのに、人間達はあたしを怖がって忘れ去られて、あんなに大好きだったのに、みんな私の話を聞いてくれなくて、う、うああああああああん」
閻魔大王の神としての能力。
彼の声には犯罪者を裁く際、邪悪を断ち切る、破邪の浄化作用があり、フューリーはもはや憤怒の精霊王ではなく、泣き叫ぶ幼子のような哀れな精霊となっていた。
そして、閻魔大王は大精霊達に向く。
「貴様らも貴様らじゃ! かつて英雄と呼ばれるも、哀れにも心を壊した娘を捨て置きおって! 貴様らそれでも精霊界の大精霊か!? 我とかつての大戦で、矛を交えた者もおるみたいじゃが、貴様ら全員の責任じゃ! この娘とあの世界の不始末をどうつける!? これは神界へ対する、魔界と与した精霊界の重大な協定違反行為じゃ!」
大精霊たちは全員うなだれ、創造神の裁きの沙汰を待つ。
「もうそのへんでいいよ。ぼくの言いたいことは全部、君が言ってくれた。これは、フューリーの罪というより、精霊界全体の責任だからね。で? 君らどうするのこれ?」
創造神が、大精霊達に問いかける。
「どうするんだと聞いておるんじゃ!」
閻魔大王は、大精霊たちに憤怒の表情で問い詰める。
もはや、言い逃れできる状態ではなく、創造神の沙汰が下るのを待つばかりであった。
その時フューリーは、自分の領域の森が燃やされ、住処である泉に危機が迫っている事を、探知した。
「ああ、森が! 泉が! 私の王国がみんな消えてしまう。あたしの居場所まで奪わないでえええ」
フューリーが、叫びながら特別法廷から飛び去った。
「あやつめ!」
閻魔大王は、自身の力を使い、フューリーを拘束しようとする。
しかし、閻魔大王を光のカーテンが遮った。
「行かせてあげなさい。だいぶ弱体化したし、あの子の始末は人間達と亜人達に任せよう」
「かしこまりました」
閻魔大王は、審判長席の創造神に頭を下げる。
「君のお手柄だ。ぼくは創造の神だが、あらゆる次元宇宙すべてを見通せるほどの力はない。ぼくがこの法廷に赴いたときに、例の大戦で生じた、あの子の憤怒の力を消して、本来生まれ持つ力を復活させた。今回の件が発覚してなくて、あれ以上フューリーの邪な憤怒の心が増大していた場合、ぼくはあの子を邪神認定していたからね」
閻魔大王含む全員は、一気に背筋が冷える。
魔神または邪神は、神界法で三類指定となり、大魔王をも超える神界最重要危険指定となり、全ての神々や精霊が邪神対応に乗り出さねばならない。
そうなっていたら、あの世界は地球で起きた大戦の再現となり、疲弊したあの世界は、確実に滅び去っていた。
「あとこれ、精霊界全体の責任問題だから、あの世界救済に精霊界は全面バックアップする事。それと、例の協定違反の嫌疑晴れたから、閻魔大王はあの勇者と妹の処分を解いてあげて。彼は今、危ない所だから急ぎで。じゃ、帰る」
審判長席を照らしていた光が消え去った。
大精霊達は、今回の創造神の寛大な処置に頭を下げていた。
「ふむ、それでは急ぎ、我が妹をあそこに送らなければなるまいの。フューリーの沙汰は、あやつらがつけてくれるじゃろうて」
閻魔大王は、ヤミーの所まで赴く。
ヤミーは自室にて、兄を待っていた。
彼女は、兄が邪悪な精霊の王を断罪し、自分をあの世界救済のために、再び送り返してくれる事を信じていた。
「待たせたの、妹よ。準備は良いか?」
閻魔大王の声に、ヤミーはうなずく。
「マサヨシは、現在危険な状態におる。お主は神の力を解放し、あやつとこの世界を救うのじゃ」
「ヤマ兄様、ヤミーをあの世界へ送って下さい。我はあそこで神としての任務を終えてないし、マサヨシのやつ、我がいないと何もできない、手がかかるアホだから」
ヤミーの言葉に、閻魔大王は、妹の成長を見てとれ喜んだ。
神の自覚や、責任感が育まれつつあると。
そしてあの哀れにも、邪神になりかけていた精霊を倒し、救ってやれるのは、マサヨシと妹かもしれないと思いながら、仁義なき世界の大森林トワの泉に、ヤミーを送り込んだ。
次回、亜人領域のラスボス戦




