第44話 ヤマの思い出
どうしてこうなった?
俺が目を覚ますと、ホビット国はあの王女のロイヤルガード隊が占拠しており、ホビットの集落周辺を、100名の騎士たちが取り囲んでいた。
どうやら、俺から連絡が3日間ないからって、あの王女、自分の精鋭部隊の騎士隊を、気球の原理を応用した、飛行船で送り込んできたようだった。
騎士団全員が、ミスリル鎧とミスリル製の武器を身に着けて、俺が持ってるピストルの量産品を配備された、王国最強精鋭部隊らしく、その隊長の野郎がこういった。
「教会大司教にして、勇者マサヨシ殿! 我ら栄えあるロイヤルガード隊の二個中隊、王女殿下の命令で、勇者様の護衛任務に命じられました。ホビット国と同盟を結び、ドワーフ国を支配に置いた件は、従者のレオーネ・ド・コルネリーア様より、すでに伺っております。つきましては、お目覚めになったご様子なのでご命令をお願いします」
あのさ、俺いつの間に教会で大司教に出世してやがんのよ?
これ役職的に教会のナンバー3クラスだろ?
極道で言う所の……?
あれ、ちょっと待て。
おいいいいいいいいいいいいい。
ちょっと待て、転生前の記憶が全然思い出せねえ!
昔、ヤクザのトップで子分に殺されたって事くらいしか認識できねえ!
覚えてんのは、冥界でのやり取りと、この世界の知識と記憶だけだ。
そうか、俺は閻魔大王親分から破門されて、サポートが打ち消しになっちまったんだ。
やべえよ、前世で培った知識が丸ごとすっ飛んでやがる。
ちくしょう、まずいぞ。
おそらく、ヤミーの力も制限されてて、入れ墨状態にもならねえ。
冥界魔法も使えねえぞ多分。
「勇者様! ご命令を!」
「うるせえこの野郎! 別の考え事してっからちょっと待て。ああそうだ、おめーらは、ホビット国の守護を命ずるっていうか、ホビット達に粗相しやがったらぶっ殺すし、それと今この俺に話かけんじゃねえ、ぶん殴るぞ! 以上!」
青い顔をしながら、ロイヤルガードの隊長は無言で敬礼してどっかに行った。
まあ、俺にヘタ打ったら、あの王女に何されっかわかったもんじゃねえしな。
すると、狛魔犬兄貴を先頭に、ヤミーたちが駆け寄ってきた。
「マサヨシ、3日も目を覚まさぬから心配したのじゃぞ!」
ああ、悪かったな。
ちょっと親分から呼び出されて、説教受けてたわ。
それと、ヤミーには言うことがあったな。
「ヤミーちょっと、来てくれ。最優先にすべき大事な話だ」
ヤミーは小首をかしげ、俺は仲間たちから離れて二人きりになる。
そして、今の俺の現状と親分からの話を伝えた。
「な、なんでじゃ! そんな無謀なことをしたらお主の身が……」
そんな事はわかってるよ。
しょうがねえじゃねえか、俺がヘタ打ったんだから。
けど、別れの前にこいつに言っておかなきゃならねえことがある。
「心配すんなって、別に自殺願望があるわけじゃねえ。それに久々に、おめーさんはお兄さんや見知った奴らのいる、実家帰ってゆっくり休んで、うめえスイーツでも食って来い。それとよ、色々ありがとな」
俺が笑いながら言うと、ヤミーは涙を流して抱き着いてきた。
「いやじゃああああ。もう少し我はお主と一緒にいたい!」
わがまま言いやがって馬鹿野郎。
またな、ちんちくりん。
次に会う時があれば、おめーさんの装備でもドワーフに作らせといてやる。
それに、精霊王フューリーとエルフ連中を何とかしねえとよお。
ホビット達がかわいそうだし、ニコが悲しむ。
「じゃあな、お土産用意して帰って来いよ」
俺は軽くヤミーの頭を撫でてやった。
するとヤミーの体が徐々に光に包まれていき、あいつはこの世界から消えていった。
そしていつの間にか、しっぽ丸めた兄貴が、俺のそばにいた。
「兄貴は帰んなくていいんすかい?」
若干涙目になった俺が言うと、兄貴は柴犬のくせにため息を吐く。
「マサヨシよ、私も冥界に帰ったら、誰がお前の状況を大王様に伝えるのだ?」
「そういやそうですわ。でも俺破門されてるけど、兄貴は臣下のままじゃね?」
すると、更にくそでかい特大のため息を、兄貴が吐いた。
「私も、冥界の役職と、臣下の任を解いていただいた」
マジか、俺のために、兄貴もそこまでしてくれるなんて。
「兄貴、愛してるぜ!」
俺は兄貴を抱き寄せ、感激のあまり、ほっぺたに頬ずりして、キスしまくる。
すると、兄貴が前足と後ろ足を犬かきするみてえにして、ジタバタする。
「うわ、馬鹿、よせ! 離せ苦しい、噛みつくぞ愚か者が!」
俺が兄貴とじゃれ終わり、俺は仲間たちの元に戻り、今の現状と今後について話す。
舎弟にしたガルフの野郎は、俺達をドワーフ王国で歓迎すると言って、一応ヤミーの許可をとった後、ゴンゾウ隊の野郎ら連れて、一旦国に帰ったらしい。
それに今の俺は、転生前の知識を無くした半端な状態だから、ドワーフ国に行って装備品を調達しねえと、まず間違いなく精霊の加護があるエルフ達にぶっ殺されるだろう。
さて、出発前にと。
本当は連絡とか、したくねえんだけどしょうがねえ。
俺は水晶玉で、アレクシア王女に連絡した。
「勇者様! お体の方は大丈夫ですか? 私、いてもたってもいられず、王国最強のロイヤルガードの半分を派遣しましたが、ご迷惑だったでしょうか?」
ああ、それな。
王国最強部隊の隊長さんとやら、青い顔して今頃部下連中に通達出してるだろうぜ?
おめえさんに、びびってさ。
しかし相変わらず、呼び出し音もしねえで通信に出るよ、この姫。
怖いんだけど、こいつ。
「まあ、なんとか体の方は大丈夫さ。さすがに死ぬかと思ったけど、ドワーフ王国の王は、俺の舎弟にしたから。あとはエルフ連中と、精霊王を何とかするだけだね」
「そうですか、さすが勇者様ですわ。こちらは、色々と仕掛けが順調に進行していますのでご安心を」
ああ、こいつが考える仕掛けとかエグイだろうなあ。
同情するぜ、魔王軍の悪魔野郎らには。
「それとさ、相談なんだけどちょっといいか」
俺は今の現状をアレクシアに説明する。
転生前の知識が思い出せねえこと。
俺が閻魔大王様やヤミーから、神の援助を受けられないこと。
精霊王フューリーの情報。
そして、ドワーフの情報とホビットの情報など。
「申し訳ありません、私が精霊の領域に勇者様を行かせてしまったばかりに……」
すると、通信先からチャカって銃の作動音がする。
あれ? もしかしてこれ、責任感じちゃったやつか。
頭脳が化物のこいつですら、改善策浮かばなかった詰んでるパターンか?
ていうか、おい、待て馬鹿!
「き、気にすることねえって、すべて、すべて俺の考え通りだ! あんたに全然落ち度はねえからさ」
俺が冷や汗かきながら言うと、向こうで何かをゴトって置く音がする。
この姫まじで怖いんだけど。
今、責任感じて死のうとした感じだよな。
「ぐすん、それならいいですが、まずいですわ。マサヨシ様、ドワーフ王国で装備を整えてください、最優先に。強力な武器などが必要ですし、エルフの国にはドワーフ達を同行させるといいでしょう。いや、ちょっと待ってください、この状況であるならば……」
お、何か思いついたようだ。
こいつ頭おかしいけど、頭脳は抜群だしな。
せいぜい、俺の役に立ってもらうとしようか。
「私が今、思いついた案ですが、エルフの戦力を分散させ各個撃破しましょう。エルフ王国の戦力は不明ですが、数が減るにこしたことはありません。まず、ロイヤルガード一個中隊を4小隊に分けて大森林に向かわせてください。彼らは優秀ですので、対ゲリラ戦闘の部隊運用は任せて結構です。残りの中隊は、ホビット国の護衛をさせましょう。そして、同時進行でドワーフ王国の精鋭を除く全兵団を、山脈からエルフ王国に侵攻させてください。あとは装備を整えた勇者様率いる精鋭が、エルフ王国奥深くに侵攻し、首脳陣や国王を暗殺して、精霊王とドワーフ王を面会させ、コンタクトをとれば……」
あのさあ、そんな矢継ぎ早に言われても理解が追い付かねえよ。
要するに、周囲を囲んでエルフ王国ごとぶっ潰すって話だろそれ。
そしたら、舎弟や子分にする予定の奴らと、女もまとめて殺しちゃうだろ。
それじゃあ、意味ねんだわ。
女子供をぶっ殺すのは、冥界で閻魔大王様に誓った、任侠道に反するからな。
「ああ、それ却下な。舎弟や子分にする奴らが減る。それだったらよ、もっとこう嫌がらせみてえにして、あいつらをどこかに誘き寄せる方法とかねえかな?」
俺も何となく思い付きで、アレクシアに訊ねてみた。
くそ、転生前の知識があったら、嫌がらせの方法なんてごまんと思い浮かぶのに、この状態だと俺もいい案が浮かばねえぜ、ちくしょうが。
「あ、ちょっと待ってください。それならばいっそのこと……。うふふ、数日ください、私いいことを思いつきましたわ。それでは準備もありますので、勇者様は先にドワーフ王国へ向かって下さい」
アレクシアからの連絡が切れた。
何だ、いい事って?
怖いんだけど、絶対ろくでもないこと思いつきやがっただろ。
大丈夫かなあ。
とりあえず王女から続報が入る前に、ドワーフ王国に行こうか。
俺達は、ホビット国に一旦別れを告げ、ドワーフ王国へ続く山脈へと向かった。
レオーネとコルレオーニは、万が一に備えて撤退できるように、ホビット国に残した。
何かあれば、水晶玉で連絡がつく手筈となっている。
ビビット王様は、心配してたが王国最強部隊が守ってるから、一安心だろう。
魔王軍だって、正面切って精霊界側の領域に喧嘩しかけてこねえだろうし、エルフ連中も、あの装備が整った騎士団相手にはかなり手こずる筈だ。
俺はホビット達がこしらえてくれた大型のリュックサックに、色々な品々を入れて、平原を超え、ドワーフ達の待つ山脈へと足を運んだ。
そして、山脈入り口の切り立った崖のような所に、俺とニコと兄貴は辿り着く。
登山かあ、転生前にやったことあると思うけど、記憶とか全く思い出せねえわ。
きっとろくでもねえことだった気がする。
だが、俺が不安な顔するとニコも不安がるからなあ。
すると、俺達の後を追いかけるようにして走ってくる女の子がいた。
ホビット国の王女のメリアだった。
「メリアちゃん、危ないから来ちゃだめだって。オイラ達に任せて戻った方がいいよ」
ニコが心配しながらメリアちゃんに説得している。
俺もニコに同感だ。
こっから先は、命の保証がねえし、ホビットの集落にいたほうが安全だ。
「私、出来るだけ長くニコと一緒にいたい。あと1年しか生きられないなら、マサヨシさんとニコの役に立ちたい」
彼女は緑の瞳を輝かせ、ニコと俺に言った。
決意は固いようだ。
女の子にここまで言わせたら、しょうがねえ話だ。
この子の決意を無下にしちまったら、俺とニコの男としての面子に関わる。
「ニコ、心配すんじゃねえ。おめーは女の子からここまで言わせたんだ、命に代えてもこの子を守ってやれ。あとは親の俺が何とかしてやる」
俺が言うと、兄貴がしっぽ振りながらメリアちゃんに飛びついて、ぺろぺろと顔をなめだす。
「マサヨシよ、私がいることも忘れるなよ」
兄貴は俺に振り返って言った。
さすが兄貴だ、あのちんちくりんと違って多少は空気を読める。
「この動物、初めて見る。かわいい」
メリアちゃんが笑いながら、兄貴とじゃれ合ってる。
しかし、女の子と犬の組み合わせって絵になるなあ。
すさんだヤクザな俺の心も癒されるぜ。
「うん、この子はオジキって名前なんだ。犬って動物だよ」
おい、ニコよ。
この人、いやこの犬はオジキって名前じゃねえよ。
俺の兄貴分で、おめえは俺の子分だから、あっちはおめえの伯父貴な。
まったく、その辺の教育もしてやらねえと。
「そうなんだ。オジキ君、よろしくね」
ほらあ、この子も勘違いしてるし。
まあ、兄貴もまんざらじゃなさそうだし、もういいや。
しかし、この崖どうするかなあ、女の子連れて上るのも危ねえし。
まともに上っても、半日はかかるだろ。
すると、メアリちゃんの魔力が上昇して、俺達のいる地面が一気に隆起する。
「土精霊の鼓動」
すげえ、パワーだ。
この子マジで魔法の天才だわ。
俺達は、隆起した地面に乗って、山脈中央洞窟に続く山の中腹まで登ることが出来た。
そして、俺達はドワーフ王国へ足を踏み入れた。
転生前、主人公は山で何しに行ってたんでしょうね
芝刈りかな?




