第40話 喧嘩殺法
翌朝、俺はホビット国のビビットさんの紹介で、ホビットでも魔法に長けた連中の、教育を担当することとなった。
あとは、レオーネやニコの野郎も訓練に参加させる。
すると、ニコの方を遠くから見つめる、王女のメリアちゃんの姿が見えた。
ありゃあ、完全にニコの野郎に惚れてやがんな。
俺はホビットの見た目が全然わかんねえから、とりあえず全員に色違いの帽子をつけることとする。
赤い帽子がブラット。
青い帽子がマゾット。
緑の帽子がグリッド。
こいつらの魔法の実力は、なかなかのもんだった。
特に精霊魔法に、魔界魔法をプラスすると、広範囲で高威力の魔法をぶっ放せる。
なるほど、俺も精霊魔法とやらを使えるようになりてえものだ。
だが、俺とレオーネが模擬戦を行うと、こいつら全然魔法を撃ってこねえ。
魔法は自分たちの生活を、豊かにするもので人に向けるものでないと、教育されてるからだという。
まあ、確かにそりゃあそうだ。
誰だって喧嘩するのは面倒くせえし、平和に金儲けしたいってのは、日本の国家だってそうだったし、ヤクザだってそうよ。
だが、相手からやられたら、やりかえす力がねえと、なめられたままだ。
ドワーフ連中が略奪しに来るのも、エルフ連中が気まぐれで、こいつらの所有してる鷹に弓矢を射って、ホビット連中をぶっ殺して回るのも、こいつらホビットがなめられてるからだ。
というわけで、俺はビビット王様の許可をとり、農作業に支障が出ねえ程度に、ホビットの男衆も女衆も関係なく、ヤクザ直伝の喧嘩殺法訓練に移行する。
まず試しに、赤帽子のブラットに剣やナイフを使わせたら、てんで駄目だった。
もう何をするにもドンくさくて、ドーグ使った喧嘩はこいつらに向いてねえ。
ならば、武術取り入れた素手ゴロの喧嘩や、護身術の方がいい。
あいつら農作業で鍛えてるから、力はあるし運動音痴ってわけでもねえ。
そういうわけで、こいつらに教えるのはボクシングと柔術。
蹴りは、沖縄空手から、こいつらに向いてるものをチョイスする。
まあ俺自身、素手ゴロが得意かって言ったら、ヘタじゃねえ程度。
そこまで上手くもねえ達人未満で、素手ゴロが強いのは、俺の子分にごまんといた。
特にヤスの喧嘩は、見事なものだった。
あいつ、ガタイや筋肉の塊の、化け物じみたフィジカルに加えて、素手の喧嘩のセンスの固まりのような奴で、盛り場でプロレスラーや、空手家、力士連中に、プロボクサー相手でも、ボコボコにして土下座させるくらい、滅茶苦茶強いからな。
それでいて、俺の言いつけを守って格闘技の習熟と鍛錬にも余念がなかった。
ついた二つ名が、喧嘩師ヤスだもの。
この俺、人斬りマサとの名コンビで、いくつの組織の縄張り荒らしたか。
現役の極道で、若い頃のヤスに勝てるのは、手練れが多い、東京の粋な組織連中や九州の根性者連中でも、難しいいんじゃねえかなあ?
沖縄の極道連中なら、ヤス相手でもいい線行けるかもしれん。
刑務所で仲良くなった兄弟いわく、あの野郎ら、琉球唐手の使い手がかなり多くて、世界最強の米海兵隊相手でも、タイマンならぶっ飛ばしてノシちまうんだから、すげえよ。
でも、広島ヤクザは除外な。
あいつらの喧嘩は、殺し合いで何でもありだから。
普通喧嘩って言うのは、外交の手段であって殺しが目的じゃねえし。
そこら辺、九州と広島の奴ら違うんだよな。
奴ら喧嘩自体が目的で、特に広島の連中は殺しに躊躇がまったくねえもの。
九州の奴らの喧嘩も派手だが、行き過ぎないよう、人情で一歩踏みと止まってる感じね。
でも、広島ヤクザは全然違うからな。
今は県内の広島ヤクザが一塊になって、落ち着いてるけど。
けど、一歩でも余所者が奴らの縄張りに入ろうものなら、その凶悪性を身をもって知る事になる。
フィクションで面白おかしく描かれてるけど、あいつらマジで容赦ねえから。
何でもありで、広島の中での喧嘩だったら、あいつら多分日本一だと思う。
義理事で広島行くとき、カープファンと地元の極道と揉めるなってのが鉄則だし。
日本最強の極悪組をうたってた、俺が言うのもなんだけど。
そしてヤクザの喧嘩で、使えるのが素手ゴロよ。
転生前は、サツの取り締まりが厳しくて、何かって言うと暴対法や銃刀法違反やら、何やらでブタ箱にぶち込まれちまうから、武器を持たねえで腕っぷしが強ければ言う事ねえ。
特に、俺の喧嘩の場合、長ドスとかの道具専門だったから、相手をぶっ殺せば、持凶器の殺人罪で長期刑は確実だし、道具持って集合しただけで、凶器準備集合罪でパクられるし、拳銃もって撃ち込もうなら、銃所持罪に発砲罪なんかも加えられ、それで何人かぶっ殺した場合は計画的犯行とか、サツや検事から因縁つけられ、死刑だってありうる。
俺達ヤクザ連中の抗争と、過激派のアカ連中がテロとか、学生運動とかで、無茶苦茶やったから、こうした法律が厳しくなった。
でも素手での喧嘩だったら、相手を殴れば暴行罪、怪我しても傷害罪、万が一でも殺しちまっても、傷害致死罪とかになる可能性があるし、相手も殴り返してくれば、やった方もこれらの罪が適用される。
サツ連中がよくやる手口、相被とかいう奴で、喧嘩両成敗でパクる方法よ。
これやられると、人数いて組織力ある極悪組と違って、他の中小規模の組織連中は、組が疲弊していずれ俺達の軍門に下ることになる。
そして、一番いいのが、相手がドーグ持ってて、煽って攻撃させて、自己または他人生命と身体の防衛って大義名分でこっちが素手で、軽くぶちのめすパターンな。
いい弁護士雇えば、正当防衛つく場合だってあるし。
つまり、素手の喧嘩は、道具使って殺人罪になるよりも、小便刑になってお得なのさ。
それに、素手の喧嘩に負けたってなれば、俺や幹部連中の掛け合いで有利になるし、相手も負い目感じて自分たちの恥となるから、強くも出られねえ。
だから、俺とヤスのコンビは極悪組最強って言われた。
組織で座布団が上がるのも当然の話さ。
そして俺は、ホビット同士、パンチやケリが当たらねえ程度に距離とって、二人一組にして、顎を引いて脇を締めた、ジャブ、ストレートのワンツーパンチを何度も反復練習をさせ、慣れたところで今度は、沖縄空手の基本、前蹴りや横蹴りの反復練習だ。
対面で組ませたのは、いざという時の喧嘩相手への恐怖心を減らすため。
初日はこんなものでいいだろう。
明日以降から、少々手荒だが、実際に打ち込み稽古にすればいい。
そしてやはり、才能を発揮したのはニコだった。
こいつ、ボクシングと空手に向いてる。
センスがあるやつってのは、一発でわかるからな。
チビだが、技のキレやスピードが滅茶苦茶速い。
そして何よりも、技の呑み込みのスピードが、他の奴に比べ段違いだ。
やっぱりこいつ、ヤスの転生体かもしれねえな。
そして、ヤミーも暇そうだったから、ニコと組んで稽古してる。
ニコほどじゃねえが、パンチも蹴りもなかなかいい線行ってる。
このガキら、思ってたよりも素手の喧嘩強いぞ。
こいつらと比べれば。
俺は蹴りを放って、ずっこけてるアホの子のレオーネや、へろへろパンチしか打てねえ、コルレオーニを見やって、特大のため息を吐いた。
こうして、一日目は無事終わり、夕方以降は自由時間とした。
そして俺は、レオーネと体密着させて、日が落ちるまでムフフな柔術の訓練よ。
騎士には、一応組み合った甲冑術みたいのはあるが、柔術ほど洗練されてない。
特にこの世界の騎士連中は。
それに元々、柔道や柔術は日本の戦国時代に編み出された殺人術よ。
お侍さん同士が、相手転ばせて短刀で首を獲るってやつ。
俺がこの格闘技を好んだのは、ドスの喧嘩で有利になるからだった。
シノギが忙しかったのと、俺が最も得意とする居合道や、古流剣術、例えば柳生流とか武神流の方にはまってて、柔術は黒帯レベルとまではいかなかったが、投げ技と極め技は、俺のドスの技術との相乗効果で、かなり抗争で使えた。
地面が平原の野原だから、投げても極めても多少安全でいい。
レオーネに教えたのは、一番実戦で使える大外刈りと、足払い。
ある程度試したら、今度はレオーネにもやらせてみる。
そうすると、俺がレオーネに押し倒される形で技が決まった。
うん、自然な感じでいけたな。
あとはこいつを抱き寄せて、唇と唇を……。
「うぎゃぁ!」
俺はわき腹に衝撃を覚え、レオーネと共に吹っ飛ばされた。
「あはははははは、いいのうこの蹴り技! 実戦的じゃ。のう? 爺や」
「お見事でございます、お嬢様」
ドSのちんちくりんが、俺を指さして笑ってやがった。
兄貴もしっぽ振って喜んでやがるし、酷い奴らだぜ全く。
こいつに蹴り技教えるんじゃなかった。
そして夜、俺はビビット王さんから呼び出された。
もしかして、稽古の仕方が悪かったのだろうか?
ヘタ打ったか?
「なんでございましょうか? 自分、何か不都合なことしましたか?」
「実は、娘のメリアに、あなたの仲間のニコ君が、あまり仲良くすると、あの子やニコ君がいずれ悲しむことになるので、あなたの方から説得してください」
「え? 何でですかい。あいつは俺の子分だ。あいつを悲しませるような真似はしたくねえ。理由を、聞かせてもらってもよろしいですかい?」
俺が聞くと、王様は娘のメリアちゃんの事を話し始めた。
ホビットの平均寿命は、人間よりもやや長い、100歳から120歳。
彼女は、ホビットと人間のハーフで、伝え聞くところによると寿命が短く、平均寿命が15歳でだいたいが亡くなっちまうとのことだった。
そう、14歳の彼女は、後1年で寿命を迎えることになる。
これは大昔に、精霊界の精霊王さんからかけられた呪いという話で、人間と交流して、精霊の文化と掟をおろそかにした、ホビットへの罰だという。
そして、この世界で精霊王さんと交信できるのは、エルフ王国が支配する、トワの大森林奥地にある、精霊の泉で、20年くらい前はホビット達が農作物を捧げることで、エルフは精霊の誓いやら、精霊王との交信をホビットに許可していたらしい。
しかし、エルフ達の王が変わったおかげで、ホビットを人間と交流する精霊界の裏切り者、というレッテルを貼り、以降は泉に近づけさせるどころか、ホビットを狩の対象にまでしているという。
俺は精霊王と、エルフにブチ切れそうになる。
文明を発展させ、他種族の交流を持つのが、何が悪い!
俺の世界では、そうやって歴史を積み重ねて社会は発展していったのに。
そんなんだからこの世界は、仁義もねえ、人に思いやりもねえ、人と人とが互いに助け合うこともできねえ、クソのような世界になっちまってるんだと、怒りがわいてくる。
どうやら、俺がここで任侠道を広めるには、こいつらを何とかする必要があるようだ。
すると、後ろから気配がした。
俺が振り返ると、ニコとメリアちゃんが 今の話を聞いてたのか、涙を流していた。
メリアちゃんが大泣きして、ニコはホビット王のテントから駆け出した。
俺は慌ててニコの後を追う。
あの野郎、ガキのくせに足が速い。
だが、俺の方が体力があるので、ようやっと俺はニコに追いついた。
山脈に近い、平原のど真ん中で、俺はニコの手を引っ張り向き合う。
「てめえ、今の話聞いてやがったのか?」
「親分、オイラあの子助けたい! だから、この山超えてエルフ達脅して、精霊王やっつけんだ!」
涙を流しながら、ニコが言うので、俺は野郎のほっぺたを張った。
「男がめそめそするんじゃねえ! てめーだけでどうこう出来る問題じゃねえだろうが! 俺が何のためにいると思ってんだ? 俺はてめえの親だぞ馬鹿野郎。ガキが背伸びする必要ねえ、親の俺や仲間たちに助けてもらって、頼ればいいんだよ」
俺はそれだけ言って、ニコを抱きしめた。
子が困れば、親が出て行って、助けてやるのが極道であり任侠道だ。
時代が移り変わろうが、社会が変化しようが、古の昔から続くヤクザとして、親分としての最低限果たすべき義務であり、伝統よ。
俺が死んだ令和の世の日本の極道や、転生前の俺ときたら、そういった伝統を捨て、金や欲目に走ったから、おかしくなっちまって、子分から見捨てられたり、世間様から冷たい目で見られたり、俺がぶっ殺される理由になったんだ。
だから俺は、この世界を救うため、自分の任侠道の理想を体現するため、この世界に新生極悪組を結成することにする。
邪魔はさせねえよ、悪魔だろうが神だろうが、精霊だろうが、たとえ俺の親分である、閻魔大王様であってもな。
俺は一度決めたことは、成し遂げなきゃ気がすまねえんだ。
誰にも邪魔はさせねえ。
しかし、仮に世界を救えたとしても俺もいずれ死ぬ。
だが俺がこの世界で成した任侠道を継ぐのは、ニコのような男気があるやつじゃねえと、いずれ転生前の極悪組と同じ運命を辿るだろう。
ニコが成長したら、跡目はヤスの転生体であるこいつだ。
そして、転生前の俺も、さっさとヤスに組を譲ってやればよかった。
そうすれば、ヤスも俺をぶっ殺したという親殺しの大罪を犯さなくてよかったはずだ。
転生前の過ちは絶対に避けねえとな。
俺が、決意すると、平原で聞き覚えのある叫び声がした。
「うおおおおおおおおおおお! ワシを怒らせたやつはどこのどいつだあああああ。このドワーフ王、ガルフが八つ裂きにしてくれるわあああああ!」
あの野郎、約束は三日後だって言ったのに、もう来やがった。
マジでドワーフの奴ら短気すぎるぞ!
人が大事な決断してんのに、空気読めバカヤロー。
「ニコ、親分命令だ、ちょっと待ってろ。俺があのうるせえ野郎をぶっ飛ばす」
俺はニコにその場にいるよう命じ、ドワーフ王の元へ向かう。
予定が狂ったが、ちょうどいい。
あの野郎を、さっさとボコボコにして俺の舎弟にしてやる。
次回、41話 男の意地
続きます




