第2話 掛け合い
そんなわけで、俺は閻魔の裁きをこれから受けるわけだ。
若い時から悪行三昧、盗みや嘘偽りは数知れず、人斬りとも言われ、直接殺した奴らも数知れず、間接的に死に追いやった人間も含めると3桁は下らねえ。
他にも、シャブも容認し、賭博や闇金融で借金地獄に追いやった人間や、風俗に沈めた女も数知れず。
老人から金をむしり取る、おれおれ詐欺も子分に容認したり、うちの組が恐喝して潰した企業や店舗なんてごまんとある。
俺や俺の組織のせいで人生を壊した人間は4桁、いや5桁以上いるだろう。
口では任侠だ極道何て言ってやがるが、ヤクザなんかクズの人生だよなと、自嘲気味に思いながら門をくぐり、閻魔の裁きの間に入る。
建物の中は、長く広い廊下で、石を積み上げた無骨な造りとなっており、俺は牛頭の野郎に前を歩くようせかされた。
廊下を歩くと、大きな広間のようなところに出る。
どうやらここが、俺に裁きを下す閻魔大王の大法廷らしい。
法廷を取り囲むかのように、牛の頭や馬の頭をした奴らや、赤や青に黒い肌の、頭に角を生やした鬼共が、俺を見るなり睨みつけるような眼差しを向けた。
人生のうち何度か裁判を受け、刑務所送りになったこともある俺でも、あの世の審判の異様な光景には、つっ立てるだけでも気が引ける。
だがここでなめられたら終わりよ。
俺は、周りの野郎らを、気合で睨みつけてやった。
「罪人よ、そこで制止し、閻魔王の裁きを待て」
俺を裁判の間に連れてきた牛頭が、被告人席であろう、ちゃぶ台にも似た石造りのテーブルの前に連れてきて吐き捨てるかのように言った。
さらに辺りを見回すと、石の壁に妖しく紫色に火が光るロウソクがともされており、正面の最上段には、閻魔が座るだろう裁判官の大きな席が一つ。
その下の席は、骸骨姿の死神のような書記官が鬼共に何やら口頭で指示をしている。
この世の裁判所と明らかに違う点と言えば、検察官や弁護士に用意された席がなく、後ろにあるはずの傍聴席もない点に俺は気が付く。
つまりよ、判決はもう決まっていて、俺を弁護する弁護士もねえってことだ。
傍聴席もねえとなると、よく俺がやった手口だが、裁判官や裁判員の家族を調べて脅し上げ、傍聴席に子分共を呼び、裁判へ圧力をかけると言った方法も使えねえってことか。
「頭が高い、顔を伏せて正座せよ、罪人」
後ろにいた牛頭が、床がそろばんみたいに凹凸のある台の上に正座させる。
ちくしょう、ここには人権なんてねー、裁判を受けるだけなのにすげー苦痛だぜ。
俺が拷問のような床に座らせられて頭を下げて待っていると、着物が擦れるような音が裁判官席の方から聞こえてきた。
いよいよ、俺を裁く閻魔大王のお出ましってわけだ。
古代より言い伝えられ、あの世で悪人を裁くというこの神に魅せられ、背中に閻魔大王の入れ墨を入れるヤクザもいるくらい有名な神。
この俺も、入れ墨背負うなら、竜か閻魔大王か若い時に悩んだほどだ。
まあ、結局入れ墨もいれねーで死んじまったがな。
「本法廷の裁判の開始を宣言する。面をあげよ罪人」
抑揚のない声で書記官の骸骨が告げ、俺はこれから自分を裁く閻魔に対し、おそるおそる視線を向けた。
「⁉」
まじかよ、おいおいコイツは驚いた。
裁判官席に座っているのは、青白くも見える白い肌で、前髪をぱっつんと一直線上に切られた黒髪に、王と刻まれた金の小さな冠。
そして額に小さな二本の角を生やし、黒い瞳に目鼻立ちが整った、喪服のような着物を着た14~15くらいの年の、小柄で美しい少女だった。
「被告人、清水正義よ。我が凶悪罪人担当官の神界第五審判殿裁判官である、ヤミーこと閻魔王である」
なんとも可愛らしい声に、思わず俺はずっこけそうになる。
「さて、こやつは……住所不定無職で69歳じゃったかの? 書記官」
「いえ、被告人は確か、地球の日本という国の暴力団と言われる犯罪者です」
骸骨の書記官が、すぐさま閻魔の問いに訂正を入れる。
住所不定無職の暴力団じゃねえよ、このガキが。
サツや検事も取り調べで調書まくとき、そういう物言いするが、この俺は渡世人、日本の極道の頂点に立つ6代目極悪組組長、清水正義様だっての。
「なんじゃその目は? 我の姿がそんなにおかしな姿をしておるのか? 答えよ罪人」
おっといけねえ、こんなちんちくりんな、ヤミーとか言うガキが、閻魔大王だなんて思わなかったぜ……。
なんて言ったら裁判の心象最悪となって、ヘタ打ったら極刑を受けちまうから、あなた様の姿が見眼麗しく、腰を抜かしそうになりましたと言おうと思った。
「このちんちくりんのガキが閻魔だと? 偉そうに上からモノを言いやがってボケ」
おいいいいいいいいい、ちょっと待て、なんで思ってることを口にしちまったんだ俺は。
「ほう? 貴様は我の姿がちんちくりんのガキと申したか」
閻魔王ヤミーは無表情のまま、俺の目を見つめていった。
完全に俺を見下し、まるでゴミを見るような目だ。
「我は兄の閻魔大王ことヤマ兄者の様に、いちいち罪人の嘘偽りに対し、舌を引き抜く過程が面倒くさくてな。この法廷では、貴様のような罪人が真実のみ述べるようにしておるのだ」
マジかよ、俺の得意技の嘘八百な大物たれもできねえってことか。
ていうか、このガキは閻魔大王じゃなく、閻魔大王の妹?
「こんな三下のガキに、天下の極悪組6代目であるこの俺を裁かせるなんざ、噂に名高い閻魔大王の器が知れるぜ」
だあああああああああああ。
また俺は思っていることを口に出して言ってしまった。
「おい、書記官。この罪人は我と兄である閻魔大王を侮辱した。書き記し、量刑を加算せよ」
ヤミーが骸骨の書記官に告げると、書記官は手元にある羊皮紙のようなものに万年筆で今のやり取りを記載したのが見えた。
うおおおおい、やべえよこの裁判の行方。
ちくしょう、どうする?
このままじゃ思っていたことをすぐにペロっちまって、量刑とやらが加算されちまう。
こうなったら少しでも裁判の心象をよくするしかねえ。
「閻魔王よ、この俺は今まで幾度も虚言を用いて、悪行三昧をしでかした。だから、このベロ引き抜いて、今までの罪のけじめの一つとしてえんだが、いいか?」
今の言葉に嘘はねえ、俺の嘘八百で騙された人間はごまんといる。
それに、この裁判で思っていることを口に出しちまう以上、俺の舌は邪魔だ。
「ぷっ、あはははは、面白い奴だ。この法廷でけじめと称して自分から己の舌を抜いてほしいなどと申したのは、貴様が初めてじゃ」
閻魔王ヤミーは可愛らしい声で笑う。
ていうか、何が笑いのツボにはまったんだよ、人様がこれから自分の舌を抜かれんだぞ?
イカれてんのか、この小娘は。
俺は思ったが、すぐに手で口をふさぎ、言葉が出ないようにする。
「うむ、それでは警務官はこやつの舌をぬいてやるがよい」
後ろにいた牛頭が立ち上がり、俺の前に立つと、毛深い手で俺の口に手を突っ込み、直で舌を掴むと、そのまま俺の舌をぶっこ抜いた。
いっっっってぇぇぇぇ!
口の中から血が湧き出し、若い時に小指をけじめで切り落とした時や、ヒットマンに鉛玉ぶち込まれたり、歯医者で親知らずをヤブ医者に抜かれた時と同じくらいの激痛がした。
だが、ヤクザである以上、声を上げて痛みでのたうち回るなどカッコ悪い真似はできねえ。
俺は痛みをこらえ、無言でヤミーの方を向く。
これで自分が思っていたことを口にすることもなくなったわけだ。
「ほほう? のたうち回ると思ったのに、罪人にしては見事な根性、褒めてつかわそう」
ヤミーは俺を見ると、可愛らしい顔で微笑む。
ていうか何が褒めてつかわそうだ馬鹿野郎、上からモノを言いやがってこのクソガキが。
だいたい、50年以上も渡世人を送ってきたこの俺が、こんなケジメ程度で小者みたいに、のたうち回ったりするかってんだ。
「それでは、貴様の審理に入るとしよう。書記官、閻魔帳ソフトを入れて、パワーポイントの映像を」
ヤミーが骸骨の書記官に指示すると、書記官は机の上にパソコンとプロジェクターを置き、審判室の柱のロウソクの火が一斉に消える。
薄暗い中で鬼共は、プロジェクターのスクリーンのつもりだろうか、法廷の壁に大きな白い和紙のようなものを張り付けだした。
ていうか、あの世でもパソコンを使ってんのかよ?
ヤクザの幹部会やサツの取り調べでも、パソコンを使うようになってきたが、どうやらあの世でもIT化とやらが進んでいるらしい。
「今から映すのは、貴様の人生の悪行の数々である。ざっと、70年分ほどあるが、今まで犯してきた罪、本法廷で明らかにし、貴様に刑罰を下す証拠資料とする」
ヤミーが告げると、俺が生まれた日から最後を遂げた日まで、映像を流し始めた。
……まず上映時間が長え、長すぎる。
70年分の人生を上映し、俺が悪事を働くところでいちいち映像を止め、時には巻き戻しを行い、書記官の骸骨がその状況を記録すると言った形で進められた。
「この外道は生かしてはおけねえ、叩き斬ってやるって、あはははは、面白すぎじゃろ。外道は貴様だろうにのう」
俺が過去起こした抗争事件で、いちいち映像を止めてヤミーは馬鹿にしたように、若い時の俺を見て指さして笑う。
一方、舎弟や子分共を世話する人情味があるシーンや、俺と女共の甘いシーンになると、外道が気色悪いなどと言いながら、映像をスキップしやがった。
それでいて、俺がヘタ打って苦悩し、人生の壁にぶち当たっている大事な場面では、頬杖をついて和菓子のようなものを口に入れては、時折あくびまでしていやがる。
ちくしょう、この手に拳銃でもあったら、あの小娘にぶち込んでやりてえ。
「おお、かっこいいのう。俺は日本中の極道をまとめ上げ、いずれは首領にまで上り詰めてやる……キリッ。ってあははははは、貴様、結局その野望半ばで、その大口を垂れた子分に殺されるのに、カッコつけすぎじゃろ」
中年時代の俺が、舎弟から子分に杯直しをしたヤスに対し、己の野望を打ち明ける大事な場面を指さして、いちいち小馬鹿にしてきやがった。
サツの取り調べでもこんな屈辱受けた事ねえのに。
この小娘……。
間違いない、物凄く性悪で正真正銘のドSだ。
俺の人生を、映画かドラマの様にツッコミを入れた挙句、侮辱した後に笑いだす様は、どう考えても極度のサディストのドSに違いない。
ていうか、閻魔大王はじめとした神話に出てくる冥府の神様は、どんな罪人の魂だろうが平等に、そして無慈悲に刑罰を下すイメージだったんだが、こいつ死者の魂を冒涜しすぎじゃねえか。
ああ、今すぐ裁判官を変えてもらいてえ………。
こんなドSの性悪小娘なんかじゃなくて、こいつの兄貴の閻魔大王に裁かれたほうが、良かったんじゃあねえか。
ようしわかった、そっちがそうくるなら俺にも考えがあるぜ。
俺は右手を上に掲げ、挙手する。
「なんじゃ、外道め。何か意見があるようじゃの」
ヤミーは指を弾き鳴らし、俺の舌を元通りにする。
「すいやせん、裁判官様。俺の人生、20年6か月12日午前1時30分20秒で、俺が敵対組織の親分の、見眼麗しい娘を嘘偽りで騙したシーン、飛ばして記載してませんぜ」
俺の発言に、書記官の骸骨の野郎、アゴが外れんばかりのリアクションをする。
この野郎、気が付きやがったか。
「よし、書記官。そのシーンまで映像をスライドし戻すのじゃ」
「えぇ……その……よろしいので?」
「骸骨野郎が、余計なこと言うんじゃねえ、さっさとそのシーンを流しやがれってんだ」
俺は声を荒げて骸骨野郎を煽る。
「ええい、被告人の言のとおりにせよ。裁判を厳正に進めるためじゃ!」
書記官の骸骨は、しぶしぶパソコンのマウスを操作し、そのシーンまで映像を右クリックすると、映像が一瞬で巻き戻る。
若き日の俺と女が絡み合う映像が再生された。
「あぁ、だめよマサさん……。あたしはあんたの敵対する組の娘よ、優しくされても大事なことは言うもんですか」
「へっへっへ、馬鹿野郎、おめーさん、口ではいやいや言いながら、しっかりと大事なところは女らしくしてるじゃあねえか」
そう、そのシーンは敵対組織の娘を、若い時にジゴロと呼ばれた俺がコマして、相手の親分の情報を聞きだすため楽しんでいる映像だった。
お茶の間で、日活ロマンポルノを高画質かつ大音量で流したような、気まずい空気が法廷内で流れ出し、地獄の鬼共はそのシーンを食い入るように見つめる。
「あばばばばばばばばば」
ヤミーは奇妙な声を漏らして顔を真っ赤に紅潮しながら、映像を一瞬見た後目をそらす光景に、俺はほくそ笑んだ。
地獄の閻魔とか言われてやがるくせに、見た目は年相応のガキらしく、色恋沙汰にはうぶらしい。
「この先が、肝心なシーンですぜ。あのあと、この女に敵対組織の親分の野郎の居場所を吐かせるんですが、なかなか時間かかっちまい、俺の男が試されることに……」
「もうよい! 映像はストップし、書記官は退席して別室にて映像を基に、その罪を調書に記載せよ!」
ヤミーは書記官に命じると、書記官の骸骨が一旦法廷を退席し、しばらくした後法廷に戻ると、ヤミーに見えないよう、俺に親指を向けてサムズアップする。
「いやー、残念でしたわ。アタシがどんだけ悪い男かってえのを、閻魔王様に見てもらう機会でしたのに。他にも、21年1か月11日ころの夜の映像なんて、女3人を同時に相手し……」
「警務官! こやつの舌をぬくのじゃああああ‼ 今すぐ執行せよ‼」
ヘタ打って裁判の心象が最悪になっちまったが、小生意気なあの小娘の面白おかしいうぶな顔を見れて、ベロを再び抜かれた俺は満足だった、
そして俺の人生の最後の場面、一番の子分だったヤスがこの俺に引導を渡す場面で、改めて俺は自分の今までの行いを恥じた。
先代の親分を追い出して、金と女に狂いだし、子分共から銭を巻き上げて内部分裂させた挙句に、一番信頼していた子分から外道呼ばわりされて殺されるという場面だ。
まさに、自業自得としかいいようがない。
俺の体が神戸港に沈められ、今までの行いを悔い改めたところで映像が終わった。
「ホント、クズの最後はいつ見てもみじめじゃの」
うるせえ馬鹿野郎。
てめーみてーな小娘に言われなくたってわかってんだよ。
「さて、我のストレス発散の娯楽はこれくらいにして、今までの悪行三昧の因果応報で惨めに情けなく殺された貴様に、閻魔王たるヤミー様が量刑を言い渡すから心して聞くがよい」
この小娘大物たれながら、人様の人生を娯楽呼ばわりしやがったぞ?
ていうかストレス発散って、やっぱりこいつ私情で魂を裁いているドSのクズ神じゃねえか。
「書記官、こやつの調書と我の計算尺を我に寄こすのじゃ」
電話帳を何冊も重ねたような分厚い羊皮紙の束がヤミーの机に置かれ、神話で描かれた閻魔大王が持つと言われるしゃくをヤミーに両手で差し出す。
ヤミーがしゃくを持つと、しゃくはそろばんに姿形を変えて、俺の悪行をまとめた調書を一枚一枚めくっては、そろばんをはじきだす。
おいおい、俺の人生の上映会が終わったら、今度は小娘のそろばん教室かよ。
判決が出るまであとどれくらい待てばいいんだ。
――そして気の遠くなるような時間が過ぎ去り、ようやくヤミーはそろばんをはじくのをやめ、くそでかいため息を吐いた。
この馬鹿小娘が、ため息つきたいのはこっちだってんだ。
「それでは被告人、清水正義よ、これより判決を下すので心して聞くがよい」
やっと判決かよ、まあ判決がどうあれ俺の地獄行は間違いないだろうが、時間かかりすぎだろこいつ。
「被告人、清水正義に懲役349京2413兆4400億年、無間地獄送りとする」
ん?ちょっと待ちやがれ、今なんつった?
一、十、百、千、万、億、兆ときて京……。
おいいいいいいいい、なんだそのくそ長い懲役はあああああああ。
ふざけんなよ馬鹿野郎、そりゃあ生まれてこのかた約70年間、悪さばかりしてきたがよ、なんだよ京って、今まで生きてきて、そんな数の単位聞いたことがねえよ。
だいたい349京年って、宇宙が誕生してから130億年とか言われているのに、俺が刑期を終えて娑婆に出る頃には、人類どころかヘタすりゃ宇宙が終わってんじゃねえか。
「あー、そろばんやって疲れたわい。さっさと神界に帰って、仕事終わりに流行りのスイーツでも食べに行くかの」
野郎ぉ……!
俺にトンでもねー年数の懲役言い渡しといて、頭の中はスイーツしかねえのかよ?
この頭スイーツの小娘が!
「なんじゃ? 何か言いたそうじゃの? 舌を戻してやるから最後に何か申してみよ」
ヤミーが指をぱちりと鳴らすと、俺の舌がもとに戻った。
ちくしょう、懲役が何年だろうが、どうせ地獄送りには変わらねえし、この頭スイーツに文句をつけなきゃ、俺の気が収まらねえ。
今までおとなしく正座していた俺は、片膝をつき身を乗り出して啖呵を切る。
「それじゃあ、言わせてもらうぜ。俺はこう見えて悪行以外にも、若い頃に色々と人助けもしているんだ。そんな俺に情状酌量の余地とかねえのかい? このちんちくりんの頭スイーツさんよお、コラァ!」
俺の切った啖呵に、眉をピクリと動かしたヤミーは、怒りでプルプルと震え出す。
「なんじゃ貴様、また我を侮辱しおって、やはり最初に我と兄様を侮辱したから最高の刑期に処して正解じゃったわ‼」
こいつ……!
テメーが侮辱されたからって理由で、俺にそんな極刑言い渡しやがったのかよ。
「なんだよ、やっぱおめーさんは頭スイーツのちんちくりんの小娘じゃねえか。さっきも人様の人生を指さして散々笑いものにしやがってよ、てめーそれでも死者の魂を管理するっていう閻魔大王の妹かい⁉」
俺は目に力をこめ、ヤミーを睨みつけながら、気合を入れる。
こうなりゃヤケよ。
どうせ長期刑で地獄に行くのなら、他の懲役囚になめられねえためにも、閻魔と掛け合いして言い負かしてやったというために、箔をつけてやる。
俺は今までどんなヤクザだろうが、刑事だろうが、お偉い政治家様だろうが、掛け合いで風下に立ったことはねえんだ。
この清水正義様の気合と掛け合いと啖呵、とくと見やがれ、この頭スイーツ小娘閻魔が。
「な、貴様この閻魔をまた侮辱する気か? 貴様は極刑だ、無期懲役! 二度と地獄から出してやらんぞ‼」
馬鹿小娘が、さっきの判決を覆して、俺に無期懲役なんか判決出しやがって。
これじゃあ、掛け合い相手に付け入る隙を与えているようなもんだ。
掛け合いとは、いかに自分の男気を見せて、相手の言い分の隙を突き、自分が優位に立つというヤクザならではの処世術と言える。
これがうまくできねえ野郎は、一生底辺の三下ヤクザとして、親分から金ぴかのバッジもつけさせてもらえず、ヤクザとしての日の目を見れねえ。
「おい、小娘。てめーこの俺に349京年なんて懲役出しといて、今度は無期懲役だとコラァ‼ おめーさん、さっきから言ってる事が二転三転してやがるが、全然筋が通ってねえ‼」
俺はヤミーに早口でまくし立てる。
自分が不利な状況を覆すためには、相手の主張の言葉尻をとり、細かい仕草も見逃さず、いかにして相手の隙をつけるかが肝心なところよ。
そして、たとえ9対1で不利な状況でも、1分の勝機があれば逆転するため突き進む。
これは掛け合いに、自分と組織の名誉や命がかかっているヤクザでしかできない、いわば男としての器量が試される場だ。
「あの世の法廷とやらは、罪人をストレス発散とやらで笑いものにして、法律関係なく気分で裁くつもりなのかい⁉ てめーそれでも地獄の閻魔かこの野郎‼」
言葉に詰まったヤミーを、更に俺はまくしたてる。
掛け合い相手のヤローに、考える暇を与えねーのがこの俺、清水正義様よ。
そして俺の啖呵に、ヤミーの顔色が一気に真っ青に変わった。
どうやら、あの世の法律で裁かず気分で裁いているという啖呵に、ヤミーは唇を一瞬かみしめるしぐさをしたのを俺は見逃さなかった。
よし、ここが勝機よ、一気に行くぜオラ。
「やっぱそうかい。テメーじゃ話にならねえ‼ 兄貴の閻魔大王連れて来いやコラァ‼」
掛け合いは、言い返さずに沈黙したほうが負けってもんよ。
「沈黙は金」なんて格言があるが、俺から言わせると沈黙は相手の言い分を肯定し、屈服した負け犬共の戯言にすぎねえ。
「うるさい、うるさい、うるさい! 冥界上級神の兄様にかかれば貴様など、貴様など‼」
あーあ、てめーの兄貴分や親分に頼った時点で、この掛け合いは俺の勝ちだぜ。
なぜなら、自分に自己解決能力はねー馬鹿ですと宣言しているようなもんだ。
「へへへ、そうかい? お目にかかりてーなあ、その閻魔大王様によ。もっとも、今の件で兄貴が尻拭いで来ても、テメーも、テメーの兄貴も面子も丸つぶれだろうがなあ?」
俺がとどめの一言を畳みかけるように言うと、ヤミーは顔を涙目にして、頬が紅潮して長い沈黙の間があった。
よし、勝ったぜこの掛け合いに。
ざまあみやがれってんだ、頭スイーツの小娘が。
「貴様、また兄様を侮辱する気か‼ ええい、警務官。さっさとこの罪人めの舌を抜き、無間地獄に放り込むのじゃ‼」
ヤミーが涙声で俺の後ろにいた牛頭に命じる。
さて、これからその無間地獄とやらで牢名主にでもなって、懲役共に今のやりとりの自慢でもしてやるかな。
その時、ヤミーの裁判官席後ろの空間がぐにゃりと歪み、一人の大男が姿を現した。
身の丈が3メートル以上あるだろうか、赤い衣を着て頭に王冠を被り、赤ら顔に口髭が1メートル近くありそうな、ヤクザの俺がビビるくらいの眼力がある強面の大男だった。
「ヤマ兄様‼」
「閻魔大王様‼」
ヤミーが振り返り、骸骨の書記官、そして鬼や牛頭たちが大男の方向に一斉に土下座して跪く。
やべえよ、いかついにもほどがある。
俺のイメージ通りの、死者を裁く神としての威厳やたたずまいには、さすがは閻魔大王だなと思った。
そこの頭スイーツの小娘と違って。
「一同、楽にせよ」
閻魔大王の命令で、骸骨の書記官や鬼共が一斉に立ち上がるが、姿勢は直立不動のままで、まるで、義理事で親分衆をむかえる、若衆たちのようだ。
「我が妹よ、そなたがなかなか神界に戻ってこぬから、また職務をサボって菓子でも食べているのではないかと心配して途中から様子を見ておったら、何じゃこの体たらくは」
閻魔大王の口調は静かだが、俺の魂の底に響くような声色でヤミーに説教を始めた。
「違うの、違うの! この罪人が兄様を侮辱し、騒ぎ立てるので、それを鎮めるのに手間取ってしまったからなの‼」
ちょ、ちょ、ちょっと待てよ、てめーが適当にこの俺に判決を下したことが原因なのに、何をシレっとぶりっ子ぶって俺のせいにしてやがるんだ。
「そもそも、なんじゃこの判決文は。このような子悪党に349京年の無間地獄行などという、長期の極刑がつくことからしておかしいのじゃ。さてはヤミーよ、また計算間違えとるな」
おいいいいい、ちょっと待てええええ。
なんで、計算もできねーようなガキに裁判官なんかやらせてるんだ。
ていうか、天下の極悪組6代目の清水正義様を子悪党呼ばわり?
おかしいだろうがコラ。
「そこの罪人、こやつめの説教が終わるまでちょっと待っておれ。わしが計算し直す」
閻魔大王は俺に振り返り、俺を見て言った。
その瞬間、俺の体は反射的に立ち上がって直立不動の姿勢となり、魂の奥底から怖気が走る。
「へい、わかりやした」
一瞬で格の違いを感じた俺は、閻魔大王に頭を下げて正座すると、閻魔大王はヤミーに懇々と説教を始めたのだった。
さて、この小説を御覧の紳士淑女の皆様方。
作者の風来坊章と申します。
魅力的な女性キャラっていざ書くと難しいですね。
さて、このヤミーという名のヒロインについて。
はっきり言いましょう。
優れてるのは容姿だけで、神としても女性としても未熟です。
例えば、私が好きな作品の一つ、この素晴のヒロインの1人の女神アクアのように、時折見せる神としてのプライドと力の数々と慈愛の心。
彼女にはまだそんなものありません。
女といえば、口説かずにいられない主人公のマサヨシも、彼女をボロクソに言ってます。
仮にもヤクザの大親分だったマサヨシは、極道の世界で生き残るため培った、人を見る目は確かなのです。
彼女は慈悲や慈愛の精神という女神として最低限のものさえまだない未熟者です
そんな彼女がどれだけ成長できるか、私も作品を通じて自分が成長する意味でも、描いて見せたいです。
このヤミーの他にあと2人くらいメインのヒロイン考えています。
ご期待に添えるようがんばります。




