第28話 兄貴
お控ぇ成すって、お控ぇ成すって!
そちらにいらっしゃるお兄さん方、お姉さん方、お控えなすって!
小説家になろう軒下を借り、遅ればせの仁義、失礼さんでござんすが、これよりあげます言葉のあとさき、間違えましたら御免なすって!
これより軒下三寸を借り受けまして、転生前、転生後の稼業、仁義、発します。
手前、生国は、戦乱渦巻くアルフランド大陸の北端、デヴレヴィ・アリイエ王国、西の最果て、潮騒の香りがする、デーバ町となりやす。
その更に外れにありやす、海沿いの教会において、僧侶としての修行三昧の日々を、送ってはおりやしたが、憎き魔界の悪魔に滅ぼされ、故郷と育ての親全てを、失いやした。
以後は閻魔の姫に導かれ、惚れた女と子分等を引き連れ、東へ東へと任侠道の旅の途中。
転生前の性は清水、名は正義。
日本最大最強の極道を、恥ずかしながら自称しておりやしたが、自業自得の因果にて、愛する子分に外道と呼ばれ、引導を渡され、以後あの世におわします、閻魔大王様の親子杯を頂戴し、現在も修行の日々にござんす。
転生後の性は無く、名はマサヨシと申しやす!
人呼んで、誰が名付けたか勇者マサヨシ!
兄貴分、一家等まだ持ちませんが、以後お兄さん、お姉さんのお引き立て、よろしくお願い申し上げやす。
このカエル顔の貴族野郎、やっと見つけたぜ。
ヤミーに小汚ねえ手で触りやがって。
俺が兄貴から、ケジメつけられるだろうがボケ!
そう、あれは二週間前の事だった。
俺がロンド村を離れて、街道沿いのそこそこでかい、ギーナって名前の町で、馬車を止めて俺とニコの服を見繕おうとしたのさ。
俺の一張羅の神父服はビリビリだったし、子分のニコの野郎も、小汚ねえ格好してるしな。
レオーネも同行させて、会計払わせる為に、この町一番の反物屋に行ったんだが、全然センスのいい服置いてやがらねえのな。
この仁義なき世界の、文明レベル舐めてたわ。
文明はあるが、文化なんて全然ねえの。
で、比較的マシな、虫モンスターから吐かせた絹糸で出来た、反物をそこそこ買って、ニコには多少マシな町人用の服を見繕い、今度は素材屋に行ったわけよ。
すると、行商人とかハンター共に、王都の冒険者達がすげー集まってて、賑やかだったんだ。
なんでも、この世界じゃ素材屋で、モンスター共の素材や肉を売っ払って、手っ取り早く金にした方がいいらしい。
行商人共は、商人ギルドなる組織を世界中で結成し、冒険者ギルドとかいう組織と組んで、世界中のこうした素材で売買して生計を立ててる連中のようだ。
まるで俺達極道のシノギみてえだよな。
王都に行ったら、そいつらの親分見つけ出して、無理矢理にでも、この俺の舎弟にしてやらねえとな。
え?
なんでってそりゃあ、あれよ。
俺は世界を救う為に、勇者やってんだぜ?
つまりこの世界そのものが、俺の縄張りよ。
なのに、この勇者様に無断で商売かけてやがって、縄張り荒らしだろうよ。
俺が転生前、極道だった時なんて、縄張り荒らしなんかしやがった野郎は、ただじゃおかなかったが、今は舎弟にしてやると言う考えに至っただけ、丸くなったってものだ。
だからこの俺様がそいつら舎弟にして、そいつらは今後、俺の為に尽くしてもらう。
当たり前だよなあ?
それでその素材屋、なかなかのブツがあったわけよ。
まず魔力向上と、相手の魔法を軽減する、竜の目玉で出来た結晶を、数珠繋ぎにしたブレスレットだろ?
金色で、光が当たると七色に見えるって代物で、行商人脅し上げて、偽物じゃねえってのを確認取ったから間違いねえ。
値切って40%オフで買ってやった。
生前俺がつけてた最高級品腕時計がねえ今、コイツが俺に相応しい。
あと、植物モンスターから抽出した、対斬性や炎耐性やら抗菌性、消臭性に優れた染料な。
これにはピンと来たぜ。
本で読んだ、藍染の原料みてえだなって。
これで俺が転生前愛用してた、格好柄の着物が出来るわけよ。
あとは帯の素材だが、これも植物系モンスターの素材を使わせて貰おう。
流木みてーなモンスターの一部があるが、コイツを煮立たせて何色になるかは知らんが、後でコイツも絹織物に漬けこんでやろうかな。
え? どうやって着物作るかって?
そりゃあれよ、このマサヨシ様は転生前、オフクロから虐待とかネグレクトされてたから、服の補修はてめーでやるしかなかったわけだ。
俺こう見えて、料理と裁縫はプロ顔負けよ。
あと刑務所の作業で慣れたもんさ。
かの悪名高い、犯罪者の大学院と呼ばれる、再犯者しか収容されねえ府中刑務所。
そこのヤクザものしかいねえ、サムライ工場で作業やってた俺にとって、裁縫なんざそこらの女よりも得意なのさ。
次に、羽織りの素材だが、異端審問官が使ってる、魔法耐性がある黒の生地を利用させてもらうから別にいいや。
どうせボロくなったら捨てる使い捨てだが、白の絹糸で綺麗に、俺の生前の組の代紋、菱に悪一文字でも入れてやろう。
あとは靴だな。
靴はいいやつが欲しい。
極道者の器量は、靴に出ると言っていい。
駆け出しで三下のチンピラだった時、世話になった兄貴分から、靴だけはいいの履いて、綺麗にしとけと習った。
ただでさえ俺達ヤクザもんは、世間様から足下見られるような稼業についてるんだから、足下だけは綺麗にしておけってよ。
とりあえず、頑丈でワニのような爬虫類モンスター、クロコダイルの黒皮を素材屋で仕入れた。
ほんとは、着物に合う足袋がいいが、荒事が多くなるから、軍隊で使うブーツの方がいいな。
ほら、歴史上の人物の坂本龍馬さんも、粋な着物にブーツ履いてたって言うじゃねえか。
あとは靴磨き用に、黒の漆みてえな素材も買っておこう。
コイツで顔が映り込むくらい、ピカピカに磨いてやるとしよう。
次に俺は、防具売ってる金物屋に行った。
ちなみにこの王国に、武器屋なんて存在しねえ。
武器屋の存在はファミコンRPGの基本だろうに、王国じゃ反乱の原因になるから、隣国の共和国じゃねえと武器売ってねえんだと。
つくづくこの世界は終わってやがる。
まあ俺のいた日本もそうだったけど。
売ってるのはナイフと包丁くらいなもんだから、一応俺はそれもレオーネに買って貰った。
ニコやちんちくりんの護身用の道具になるしな。
で、そこの金物屋に、鉄板仕込んだブーツ作るよう言ったところ、中古の鋼の鎧のスペアが余りまくってるから、それを元に皮を貼り合わせて作ってくれると言う。
しかしレオーネには結構無理させちまったかな?
俺があいつを見やると、ドヤ顔でもっと色々買ってもいいとか言ってやがったから、道具屋で薬草やら聖水やら、通信用水晶とか買ってやると、俺を見て嬉しそうな顔をしやがった。
コイツ、悪いヒモ野郎とかの男に騙されて、色々見栄で金使って、破産するタイプの女だなと俺は思ったが、よかったな。
俺みてえな男に早いうちに目をつけられてよ。
俺も早くシノギ見つけて、オメーに見合ういい服沢山買って……。
いや、この世界はドレスとかのセンスも、イマイチだから、俺が今度仕立ててやったほうがいいな。
俺の靴が出来上がるまでの間、素材を持って異端審問官から借りた裁縫道具で、反物とか組み合わせて、俺用の着物を作る。
まあ馬車の移動中は、暇だからずっとこれでもやるかな。
ところで、ヤミーの姿がねえが、どこほっつき歩いてんだあのチンチクリンは。
「おい、ニコ。ヤミーのやつ見なかったか?」
「見なかったよ親分。あのおねーちゃん、また一人で町の広場でお花見にいったかも」
やはりコイツは使える。
子分にしてよかったぜ。
口の利き方がなってねえが、コイツが背が伸びるくらいには教育してやろうか。
ガキはこれくらい勢いと元気があるくらいがちょうどいい。
俺は思い、ヤミーがいる広場に向かった。
すると、ヤミーの着物に入りこもうとして、尻尾振ってじゃれやがる、一匹の犬ころがいやがった。
中型犬、て言うか俺がいた世界の、黒毛の柴犬じゃねえかあれ。
「おい、ヤミー? なんだその犬っころ?」
俺がヤミーに聞くと、犬がこっちに向かってきやがる。
「おい、人間! 貴様お嬢様に呼び捨てとは何事だ!」
「!?」
なんだこのワン公?
喋りやがったぞ。
しかもハスキーボイスで。
柴犬のくせに。
この世界の犬は人様に口が聞けるのか?
ていうか畜生のくせしやがって、人様に向かって、なんだその口の利き方は?
「なんだ? 犬っころのくせに生意気なヤローが。てめー、鍋の具材にして食っちまうぞコラ」
無論俺に犬なんか食う趣味はねえ。
そんなもん食うのは、戦後の闇市の野蛮な広島ヤクザくれえなもんだ。
中華圏や東南アジアでは、食べられてるそうだけど、生憎俺にそんな食文化はねえ。
しかもいっぱしにこの柴公、人様にメンチ切って唸り声上げやがる。
「貴様、人間の若造のくせに生意気な! 地獄の炎で燃やし尽くしてやろうか?」
「なんだこの犬っころ! 上等だやってみろ!」
俺が啖呵を切ると、柴犬が巨大化し、獅子にも似た、神社にある狛犬のような化け物に姿を変える。
体高5メートルで、黒の体色に、額に白い角が2本あり、タテガミと尻尾の先に紫の炎を宿して、口からゴジラのような青白い炎が見える。
なんだ?
このワン公、化け物じゃねえか!
やべえ、アスモデウスより魔力持ってそうだ。
ああ、やっぱ今の無し、前言撤回。
これ、俺が逆に焼き殺される流れだわ。
「爺、やめるのじゃ! お座り!」
ヤミーが命令すると、元の柴犬の姿に戻って犬らしく俺の前でお座りする。
「ヤミーよ、このワン公……。じゃなかった、このお方どこのどちら様で?」
「口の利き方に気を付けろ小僧! 私は閻魔大王様の忠実な配下にして、お嬢様のお世話係を担当している拒魔犬であるぞ!」
マジかよ、親分の家臣かよ。
ていうか家臣でも、どのレベルのクラスよ。
俺だって、盃を親分から賜ってるんだ。
「失礼しやした。アタシはヤミー様とこの世界の救済の任についておりやして、この前、親分より盃をいただきやした、マサヨシと申しやす。拒魔犬様は、親分から盃いただいてるんで?」
俺が口上を述べると、犬っころはいつの間にか、俺の盃より2回り程でかい、銀色の餌入れ容器のような盃を口に咥えて放り投げて見せた。
ていうか、あれ餌入れだよな?
「なんだ貴様? 大王様から盃を頂戴したばかりの分際で、臣下序列五位、公爵の私に向かってナメてるのか?」
やべえええええええええええ。
犬の姿してんのに、俺の兄貴分だったあああ。
しかも、結構上の人だったこれえええ。
逆に、俺がこの人から詰められるパターンじゃねえかよおおお。
ちなみに極道の兄弟盃には種類がある。
基本は、自分にとって、兄弟分に相応しいという事で、個人的に盃を交わすパターン。
それにも格があって、同格なら五分の兄弟分となり、互いを兄弟と呼ぶ。
4分6分、3分7分くらいでは、格下は兄貴と呼ばねばならない。
完全に主従関係が出てきて、2分8分くらいの関係だと、格下は兄さんって呼ばなきゃダメだろう。
まあ、若い時の俺とヤスの関係、組が一緒で、お互い惚れたのなんだので結んだ盃が、それに当たる。
そんで組同士が縁もゆかりもねえ、互いに違う場合、例えば俺が若い時に、刑務所で知り合って仲良くなった野郎の場合は、外兄弟となるわけさ。
刑務所いた時、兄弟になった沖縄の野郎は、朝が弱くてよ。
同部屋だった俺が、毎回起こして作業服着せての面倒見てたら、自然に兄貴と弟分の関係になったから、よく二人で日曜の余暇時間に将棋指しながら、コマした女の話とか、格闘技の話とかで盛り上がったもんさ。
あと俺が関東の組織と結んだ、政略盃もその範疇の範囲に入るだろう。
それと、自分の兄弟の兄弟は自分にとっても兄弟だ、という発想もある。
これは回り兄弟というもので、俺は良く喧嘩の大義名分作るために使ったが、生憎俺は博愛主義者じゃねえから、喧嘩が終わったら素知らぬ風で知らんぷりよ。
あとメジャーなのが、暖簾分けの兄弟って言って、極道の世界では、同じ組の場合は、先に親分から盃を貰った人が兄貴分となる。
同期で入った奴らは五分の兄弟で、その兄貴分が先に10年以上前とかに盃貰ってて、なおかつ組の役職とかについてた場合や、一目置かれる古株の場合、若頭以外の三下は、兄さんって呼ばなきゃボコボコにされるだろうな。
この暖簾分けの兄弟がくせ者で、人間やっぱり相性ってのがあって、クソムカつくド低脳なマヌケ野郎でも、兄貴と呼ばねばならないから、兄貴呼びしてても関係最悪というのは、極道じゃよくある話よ。
まあだから、組織内で座布団増やそうと、競争意識が湧いて、みんな切磋琢磨するんだけど。
なぜなら極道の世界は、座布団が上がれば、年下年上関係ねえ実力主義社会だから。
その辺は、芸事や格闘技の段とかの世界に通じるところあるな。
そしてこの、拒魔犬の兄貴は、暖簾分けの兄弟になる。
ていうか、なんでこの世界に来たんだこの人。
閻魔大王親分の許可とかとってんのか?
「しかし爺やよ、兄様はよくお主をこっちに寄越したの。お主だって色々あっちで仕事あるじゃろうに」
「あ……。いえ、いえいえこの狛魔犬! お、お嬢様のお力になりたく、馳せ参じた次第で」
ヤミーが聞くと、兄貴はどもりながらちょっとテンパってる。
ああ、これはアレだ。
無断で、この世界にやってきちゃった口だ。
ケジメつけるのこの人だったわ。
「失礼しますが、拒魔犬の兄貴、いや兄さん、さすがに親分に許可取らねえとまずいんじゃ……」
「貴様、私に意見するとはいい度胸だな?」
うわぁ、面倒くせえ。
俺この人、いや犬と仲良くやってける自信ねえ。
それに面倒くせえから、もう兄貴呼びでいいや。
「まあよいわ、よく来たな爺や。あと、マサヨシは我を幾度も窮地を救ってきた。そのように上から押さえつけるのは、我も好きではない」
よし、珍しくナイスアシストだヤミー。
「ほう? 少しは使えるやつらしいな小僧。お嬢様に話しかける許可を私が与えよう」
「へい、兄貴も、よろしくお願いしますぜ」
俺がこんな話をしていると、ニコがこっちに走り寄ってくる。
「あ、親分。お姉ちゃん見つかってよかったね。うわー可愛い犬。ちょっと撫でていい? オイラ犬見るのはじめてなんだ」
おいいいいい、やべえってその人、いや犬は。
ニコやべえから離れてろ。
「なんじゃこの小童は? 私がそんな珍しいか」
「すごーい、毛皮がふわふわで本当にワンって泣くんだね」
ん?
ニコにはこの犬が言ってる言葉はわかんねえのか?
ていうか普通に、そこらの犬みてーにわしゃわしゃ撫でてるけど、全然大丈夫っぽいな。
「おい、ニコ。この方は俺が仕えてる神様の家臣の人だから、オメーさんはとりあえず伯父貴って呼んどけ」
「うん、わかった。オジキ! よろしくね」
いや、わかってねえだろニコよ。
オジキはこの方の名前じゃねえ!
この人、いやこの犬は俺の兄貴だから。
で、お前は俺の子分だから、向こうは伯父貴な。
粗相とか絶対すんなよ。
「小童め、馴れ馴れしいが、撫でられるのは嫌いでない。もっと撫でるが良い」
よかったぜ。
この方もまんざら話が分からねえ人でもねえようだ。
いや犬だけど。
すると、町の男衆や冒険者やハンター共が、武器担いでこっちに向かってきた。
ヤベー、兄貴が変身したところ見られたか?
おめーらやめとけ!
この人も、一応閻魔大王親分に仕える、神っぽいからぶっ殺されるぞ!
「おい、兄ちゃんら。この村を定期的に襲ってくるドラゴンが来るから、オメーたち早く隠れてろ!」
何?
ドラゴンだって?
ドラゴンって確か、この世界でも上位のモンスターじゃねえか。
ヤベーな、ズラかるか?
いやここは一つ。
「おめーらこそ帰れ! 俺はこの世界を救うためにやってきた、勇者マサヨシ様よ! ドラゴンくれー、俺が退治してやるぜ!」
俺は木刀を天高く掲げる。
決まった!
俺超カッケー。
「やべえよ、このガキが噂の勇者だったら、ドラゴンの素材やら、討伐金のわけ前減るじゃねえか。野郎共、さっさと狩に行くぞ!」
町の男衆や冒険者やハンター共は、町のそばの山へと向かっていった。
チッ、こいつら俺がかっこいいところ見せてんのに、なんだそのシラけた反応は?
本当にこの世界の奴らはクソムカつくな。
すると村の広場に、いきなり緑青色の鱗をした、真っ赤な翼の体長10メートルの、西洋画に出てくるドラゴンが現れた。
「キシャアアアアアアアアアアアア」
耳をつん裂くような、大音響の雄叫びをドラゴンが上げる。
これ巨大化したオークデーモンより強いかも。
すると山に向かった、ハンターや冒険者共が走ってこっちに向かってくる。
ドラゴンはスウっと息を吸うと、灼熱のブレスで奴らを焼き尽くした。
「ぎゃあああああああああ」
あっという間に10人以上が炎に包まれる。
やべえは、さすがドラゴン。
今は生存者を助けるよりも、こっちの身を守る方が先だ。
「ニコ、ヤミー! 町に戻ってレオーネ達と住人の避難だ!」
「マサヨシは?」
「俺はここで、兄貴と一緒にドラゴンを食い止める。なあに、いつもの事よ」
ヤミーとニコが町へ行こうとすると、ドラゴンが灼熱のブレスを繰り出そうとする。
「水切り」
俺はドラゴンの片翼を、得意の水魔法で切り飛ばす。
すると、ドラゴンが悲鳴を上げた。
よおし!
こいつはオークデーモンと違って、再生能力がねえはずだから、楽なもんだ。
あとは俺の最強魔法の稲妻でぶっ殺してやるぜ。
俺が魔法を繰り出そうとすると、上空からドラゴン共が次々広場に降り立つ。
「ヘ?」
アレ?
数が3頭に増えてるんだけど……。
これ仲間とか呼んだアレか?
って、やべえええええええ。
さすがにこの数は無理だあああああ!
死んじまうよこれ、どうすれば。
あ!
俺は拒魔犬兄貴を見やる。
「オラ! トカゲ野郎共! この方を何処のどなたと心得やがる! 冥界におわす閻魔大王親分の一の家臣、拒魔犬様だぞ馬鹿野郎! 兄貴、頼んます」
「ふむ、是非もあるまい」
兄貴は変身し、巨大な魔獣に姿を変える。
よおし、これなら上手くいく。
神界法とやらで、二回、サポート以外で力を使うと、罰則で力を失う。
だが裏を返せば一発だけなら、ぶちかませるという事。
あとは切り札として、兄貴には最後の一発をとってもらって、魔王軍にぶちかませば、この世界は救済よ!
するとドラゴン達が、兄貴の姿に恐れをなして空に逃げようとした。
さすが、兄貴だ。
一発も撃たねえで勝っちまうなんて。
ドラゴンなんで兄貴がいれば、雑魚モンスターに変わりがねえ。
「よし、兄貴さすがです! あの野郎ら逃げて行きますぜ! ありがとうございやした、あとはウチらも怪我人の手当てに!」
だが兄貴は炎の力を溜める。
「ヘ?」
俺は呆気に取られ、呆然と眺める。
まさかこの人、いや犬は。
「兄貴、ダメです! 神界法もありやすんで、兄貴の力は最後までとっといてくだ……」
「逃さぬ! 地獄の火炎」
轟音と共に、兄貴の口から放たれた、青白い極太のビームが、空を飛ぶドラゴン3頭を一瞬で蒸発させた。
うわぁ……。
強いとかそういうレベルじゃねえ。
だがもう一発残しとけば、戦略兵器クラスの技で、魔王軍にぶちかますか、脅す材料にすれば。
「キシャアアアアアアアアアアアア!」
山の方から大音量の雄叫びがした。
見ると、さっきのドラゴン達の10倍以上ある、黄金に光り輝く、怪獣みてーなドラゴンが、姿を表した。
俺も、教会の文献で見たことある、伝説のグレートドラゴン。
この世界の人類では絶対に勝てない、天災クラスの神話級の化け物。
どうやら、さっきのドラゴン達の親らしい。
そりゃ、自分の子供が殺されれば怒り狂うよ。
やべえぞ、ここはとりあえず体かわして、兄貴説得して一旦退避しねえと。
「兄貴、次に力を使えば神界法違反でヤベー事に! 一回逃げやしょう! ヤミー達も心配ですし……」
「小癪なトカゲが! 貴様のような雑魚など、神竜や魔界の竜共と比べたらクズ同然! 私の得意技で葬ってやろう!」
話聞いてねええええええええ。
俺のせっかくの絵図があああああ。
ていうかよ。
さっきから嫌な汗が止まらねえ。
やべえ、何かわからんがやべえのが来る!
もういいや、知らねえ!
俺は言ったからな、ダッシュで近くの岩の影に隠れて……。
「地獄の豪炎」
兄貴が得意技をぶちかます前に、俺は全速力で走ったあと、近くの岩の影にダイブした。
耳を塞ぎ、地面に伏せ、口を半開きにして衝撃に備える。
すると、山の方向が一瞬ピカっとした後、一瞬遅れて、今まで聞いたことがねえような、大音響と共に、俺の体は岩ごと吹き飛ばされた!
「ぬわあああ、やべえってレベルじゃねえ!」
俺はボールみたいに地面に転がり、山の方向を振り返った。
すると空高く、真っ黒な巨大なキノコ雲が立ち上り、山は完全に消滅して、体長100メートルを越すグレートドラゴンが、舌を口から出して動かなくなってた。
これ、水爆並の威力だろ……。
俺の体もかなりダメージを受けていた。
衝撃波で、鼓膜や内臓もダメージ食らって脂汗が出る。
目や鼻や耳からも血が流れてるようで、顔面がドクドク脈打つ。
「な? なんじゃと!? 私の体が化身の犬の姿に変わって戻れぬ! 小僧、貴様なぜ神界法の事を、私に思い出させなかった!? これではこの世界を救うまで私の力が戻らぬ」
だから言ったじゃねえかよ。
ダメだ、この兄貴ボンクラだわ。
今すぐ冥界に帰って欲しい……。
すると、グレートドラゴンがピクリと動き出す。
「キシャアアアアアアアアアアアア」
最後の力を振り絞るように雄叫びを上げた。
アレで死なねえとか、この世界のモンスターも大概だよな。
もう本当に嫌になるぜ。
このクソッタレな世界はよお。
俺は木刀を持って山の方向へ駆け出した。
距離にして、約1500メートル。
ちくしょう、地味にダッシュで走るのキツイ距離だが、毎日走り込んでた俺にとっちゃ、こんなのキツイうちに入らねえ!
そして、なんとか山があった巨大なクレーターまで辿り着くと、起き上がろうとするグレートドラゴンの、巨大な頭に木刀を打ち込みまくる。
「てめー、ふざけやがって馬鹿野郎! せっかくの絵図が台無しじゃねえかトカゲ野郎が! 死んじまえクソ野郎!」
俺が木刀で滅多打ちにすると、気つけになって逆に起き上がろうとする。
ちくしょう、ここはアレに賭けるしかねえ。
俺は両手を天高く掲げる。
右手で超振動の風を、左手で大気中の水分を摩擦させ、上空から炸裂させる全魔力を使った、俺の今の最強魔法。
すると上空が真っ黒の雲で覆われて、魔法がいつでもぶっ放せる状態になった。
「稲妻!」
俺はグレートドラゴンに両手を振り下ろすように、稲妻魔法を打ち込んだ。
強烈な稲光がグレートドラゴンに直撃すると、ビクンビクンと痙攣しだす。
よし、あとはトドメ!
俺はドラゴンの首目掛けて、鞘から取り出したブレードソードを突き刺し、2メートル以上ある太さの首を、力を振り絞って掻き切った!
「はあ、はあ、畜生! これでくたばらなきゃ、もう知るか!」
俺はドラゴンの首を滅多刺しにする。
そして身体は、竜の返り血で真っ赤に染まる。
これを幾度も繰り返すと、もうグレートドラゴンが動き出すことはなかった。
その様子を、異端審問官共から回復魔法で回復した、ハンター共や冒険者に、町の男衆が見つめる。
「うおおおおおおおおおおお!」
「ワオォォォォォン!」
俺がブレードソードを天高く掲げて、兄貴も駆けつけ、勝どきと遠吠えを上げると、辺り一斉に歓声が沸き起こった。
「マサヨシィ!」
「マサヨシ殿!」
ヤミーとレオーネが、俺に飛びつくように抱きついてきやがった。
気持ちは嬉しいが、もうクタクタよ。
俺の男もたちゃしねえや。
「おい貴様ぁ、私の手柄だぞ! これでは私が負け犬の遠吠えのようではないか!」
チッ、負け犬の兄貴がなんか言ってやがるよ。
俺、神界法について言ったよな?
もう用無しだから、冥界に帰ってくれや。
俺は今から、グレートドラゴンの素材の切り取りと、行商人共とのシノギで忙しいから。
「うるさい! 爺や、お座り!」
兄貴がヤミーにお座りさせられてやがる。
ざまあねえぜ、俺もタメ口で、ただの兄貴って呼ぶからな。
グレートドラゴン討伐、王国中に俺の名前が知れ渡り、ドラゴン斬りの二つ名が俺に付く事になった。
そして、街道沿いでモンスター退治やゴミ屑の貴族野郎をぶちのめしながら、王都に向けて順長に俺の旅が進んでいた。
だが、俺の一張羅が完成しようとしてた時、あの事件が起きた。
大物貴族と悪徳商人による、ヤミーの誘拐事件だった。
兄貴です。
可愛がってください。




