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仁義なき異世界転生 ~勇者マサヨシの任侠伝~  作者: 風来坊 章
第二章 王国死闘編
29/163

第28話 兄貴

 お控ぇ成すって、お控ぇ成すって!

 そちらにいらっしゃるお兄さん方、お姉さん方、お控えなすって!


 小説家になろう軒下を借り、遅ればせの仁義、失礼さんでござんすが、これよりあげます言葉のあとさき、間違えましたら御免なすって!


 これより軒下三寸を借り受けまして、転生前、転生後の稼業、仁義、発します。


 手前、生国は、戦乱渦巻くアルフランド大陸の北端、デヴレヴィ・アリイエ王国、西の最果て、潮騒の香りがする、デーバ町となりやす。


 その更に外れにありやす、海沿いの教会において、僧侶としての修行三昧の日々を、送ってはおりやしたが、憎き魔界の悪魔に滅ぼされ、故郷と育ての親全てを、失いやした。

 

 以後は閻魔の姫に導かれ、惚れた女と子分等を引き連れ、東へ東へと任侠道の旅の途中。


 転生前の性は清水、名は正義。

 

 日本最大最強の極道を、恥ずかしながら自称しておりやしたが、自業自得の因果にて、愛する子分に外道と呼ばれ、引導を渡され、以後あの世におわします、閻魔大王様の親子杯を頂戴し、現在も修行の日々にござんす。


 転生後の性は無く、名はマサヨシと申しやす!

 

 人呼んで、誰が名付けたか勇者マサヨシ!

  

 兄貴分、一家等まだ持ちませんが、以後お兄さん、お姉さんのお引き立て、よろしくお願い申し上げやす。

 このカエル顔の貴族野郎、やっと見つけたぜ。

 ヤミーに小汚ねえ手で触りやがって。

 俺が兄貴から、ケジメつけられるだろうがボケ!


 そう、あれは二週間前の事だった。

 俺がロンド村を離れて、街道沿いのそこそこでかい、ギーナって名前の町で、馬車を止めて俺とニコの服を見繕おうとしたのさ。


 俺の一張羅の神父服はビリビリだったし、子分のニコの野郎も、小汚ねえ格好してるしな。


 レオーネも同行させて、会計払わせる為に、この町一番の反物屋に行ったんだが、全然センスのいい服置いてやがらねえのな。


 この仁義なき世界の、文明レベル舐めてたわ。

 文明はあるが、文化なんて全然ねえの。


 で、比較的マシな、虫モンスターから吐かせた絹糸で出来た、反物をそこそこ買って、ニコには多少マシな町人用の服を見繕い、今度は素材屋に行ったわけよ。


 すると、行商人とかハンター共に、王都の冒険者達がすげー集まってて、賑やかだったんだ。


 なんでも、この世界じゃ素材屋で、モンスター共の素材や肉を売っ払って、手っ取り早く金にした方がいいらしい。


 行商人共は、商人ギルドなる組織を世界中で結成し、冒険者ギルドとかいう組織と組んで、世界中のこうした素材で売買して生計を立ててる連中のようだ。


 まるで俺達極道のシノギみてえだよな。

 王都に行ったら、そいつらの親分見つけ出して、無理矢理にでも、この俺の舎弟にしてやらねえとな。


 え?

 なんでってそりゃあ、あれよ。

 俺は世界を救う為に、勇者やってんだぜ?

 つまりこの世界そのものが、俺の縄張り(シマ)よ。

 なのに、この勇者様に無断で商売(シノギ)かけてやがって、縄張り(シマ)荒らしだろうよ。


 俺が転生前、極道だった時なんて、縄張り(シマ)荒らしなんかしやがった野郎は、ただじゃおかなかったが、今は舎弟にしてやると言う考えに至っただけ、丸くなったってものだ。

 

 だからこの俺様がそいつら舎弟にして、そいつらは今後、俺の為に尽くしてもらう。

 

 当たり前だよなあ?


 それでその素材屋、なかなかのブツがあったわけよ。


 まず魔力向上と、相手の魔法を軽減する、竜の目玉で出来た結晶を、数珠繋ぎにしたブレスレットだろ?


 金色で、光が当たると七色に見えるって代物で、行商人脅し上げて、偽物(バッタもの)じゃねえってのを確認取ったから間違いねえ。

 

 値切って40%オフで買ってやった。

 生前俺がつけてた最高級品腕時計(パテックフィリップ)がねえ今、コイツが俺に相応しい。


 あと、植物モンスターから抽出した、対斬性や炎耐性やら抗菌性、消臭性に優れた染料な。


 これにはピンと来たぜ。

 本で読んだ、藍染の原料みてえだなって。

 これで俺が転生前愛用してた、格好柄の着物が出来るわけよ。


 あとは帯の素材だが、これも植物系モンスターの素材を使わせて貰おう。

 流木みてーなモンスターの一部があるが、コイツを煮立たせて何色になるかは知らんが、後でコイツも絹織物に漬けこんでやろうかな。


 え? どうやって着物作るかって?

 そりゃあれよ、このマサヨシ様は転生前、オフクロから虐待とかネグレクトされてたから、服の補修はてめーでやるしかなかったわけだ。


 俺こう見えて、料理と裁縫はプロ顔負けよ。

 

 あと刑務所(むしょ)の作業で慣れたもんさ。

 かの悪名高い、犯罪者の大学院と呼ばれる、再犯者しか収容されねえ府中刑務所。


 そこのヤクザものしかいねえ、サムライ工場で作業やってた俺にとって、裁縫なんざそこらの女よりも得意なのさ。


 次に、羽織りの素材だが、異端審問官が使ってる、魔法耐性がある黒の生地を利用させてもらうから別にいいや。


 どうせボロくなったら捨てる使い捨てだが、白の絹糸で綺麗に、俺の生前の組の代紋、菱に悪一文字でも入れてやろう。


 あとは靴だな。

 靴はいいやつが欲しい。

 極道者の器量は、靴に出ると言っていい。

 駆け出しで三下のチンピラだった時、世話になった兄貴分から、靴だけはいいの履いて、綺麗にしとけと習った。


 ただでさえ俺達ヤクザもんは、世間様から足下見られるような稼業についてるんだから、足下だけは綺麗にしておけってよ。


 とりあえず、頑丈でワニのような爬虫類モンスター、クロコダイルの黒皮を素材屋で仕入れた。


 ほんとは、着物に合う足袋がいいが、荒事が多くなるから、軍隊で使うブーツの方がいいな。


 ほら、歴史上の人物の坂本龍馬さんも、粋な着物にブーツ履いてたって言うじゃねえか。


 あとは靴磨き用に、黒の漆みてえな素材も買っておこう。


 コイツで顔が映り込むくらい、ピカピカに磨いてやるとしよう。


 次に俺は、防具売ってる金物屋に行った。

 ちなみにこの王国に、武器屋なんて存在しねえ。

 武器屋の存在はファミコンRPGの基本だろうに、王国じゃ反乱の原因になるから、隣国の共和国じゃねえと武器売ってねえんだと。


 つくづくこの世界は終わってやがる。

 まあ俺のいた日本もそうだったけど。

 売ってるのはナイフと包丁くらいなもんだから、一応俺はそれもレオーネに買って貰った。


 ニコやちんちくりんの護身用の道具になるしな。

 で、そこの金物屋に、鉄板仕込んだブーツ作るよう言ったところ、中古の鋼の鎧のスペアが余りまくってるから、それを元に皮を貼り合わせて作ってくれると言う。


 しかしレオーネには結構無理させちまったかな?

 俺があいつを見やると、ドヤ顔でもっと色々買ってもいいとか言ってやがったから、道具屋で薬草やら聖水やら、通信用水晶とか買ってやると、俺を見て嬉しそうな顔をしやがった。


 コイツ、悪いヒモ野郎とかの男に騙されて、色々見栄で金使って、破産するタイプの女だなと俺は思ったが、よかったな。


 俺みてえな男に早いうちに目をつけられてよ。


 俺も早くシノギ見つけて、オメーに見合ういい服沢山買って……。


 いや、この世界はドレスとかのセンスも、イマイチだから、俺が今度仕立ててやったほうがいいな。

 

 俺の靴が出来上がるまでの間、素材を持って異端審問官から借りた裁縫道具で、反物とか組み合わせて、俺用の着物を作る。


 まあ馬車の移動中は、暇だからずっとこれでもやるかな。


 ところで、ヤミーの姿がねえが、どこほっつき歩いてんだあのチンチクリンは。


「おい、ニコ。ヤミーのやつ見なかったか?」


「見なかったよ親分。あのおねーちゃん、また一人で町の広場でお花見にいったかも」


 やはりコイツは使える。

 子分にしてよかったぜ。

 口の利き方がなってねえが、コイツが背が伸びるくらいには教育してやろうか。


 ガキはこれくらい勢いと元気があるくらいがちょうどいい。

 

 俺は思い、ヤミーがいる広場に向かった。

 すると、ヤミーの着物に入りこもうとして、尻尾振ってじゃれやがる、一匹の犬ころがいやがった。


 中型犬、て言うか俺がいた世界の、黒毛の柴犬じゃねえかあれ。


「おい、ヤミー? なんだその犬っころ?」


 俺がヤミーに聞くと、犬がこっちに向かってきやがる。


「おい、人間! 貴様お嬢様に呼び捨てとは何事だ!」


「!?」


 なんだこのワン公?

 喋りやがったぞ。

 しかもハスキーボイスで。

 柴犬のくせに。

 

 この世界の犬は人様に口が聞けるのか?

 ていうか畜生のくせしやがって、人様に向かって、なんだその口の利き方は?


「なんだ? 犬っころのくせに生意気なヤローが。てめー、鍋の具材にして食っちまうぞコラ」


 無論俺に犬なんか食う趣味はねえ。

 そんなもん食うのは、戦後の闇市の野蛮な広島ヤクザくれえなもんだ。


 中華圏や東南アジアでは、食べられてるそうだけど、生憎俺にそんな食文化はねえ。


 しかもいっぱしにこの柴公、人様にメンチ切って唸り声上げやがる。


「貴様、人間の若造のくせに生意気な! 地獄の炎で燃やし尽くしてやろうか?」


「なんだこの犬っころ! 上等だやってみろ!」


 俺が啖呵を切ると、柴犬が巨大化し、獅子にも似た、神社にある狛犬のような化け物に姿を変える。


 体高5メートルで、黒の体色に、額に白い角が2本あり、タテガミと尻尾の先に紫の炎を宿して、口からゴジラのような青白い炎が見える。


 なんだ?

 このワン公、化け物じゃねえか!

 やべえ、アスモデウスより魔力持ってそうだ。


 ああ、やっぱ今の無し、前言撤回。

 これ、俺が逆に焼き殺される流れだわ。


「爺、やめるのじゃ! お座り!」


 ヤミーが命令すると、元の柴犬の姿に戻って犬らしく俺の前でお座りする。


「ヤミーよ、このワン公……。じゃなかった、このお方どこのどちら様で?」


「口の利き方に気を付けろ小僧! 私は閻魔大王様の忠実な配下にして、お嬢様のお世話係を担当している拒魔犬(こまいぬ)であるぞ!」


 マジかよ、親分の家臣かよ。

 ていうか家臣でも、どのレベルのクラスよ。

 俺だって、盃を親分から賜ってるんだ。


「失礼しやした。アタシはヤミー様とこの世界の救済の任についておりやして、この前、親分より盃をいただきやした、マサヨシと申しやす。拒魔犬様は、親分から盃いただいてるんで?」


 俺が口上を述べると、犬っころはいつの間にか、俺の盃より2回り程でかい、銀色の餌入れ容器のような盃を口に咥えて放り投げて見せた。


 ていうか、あれ餌入れだよな?


「なんだ貴様? 大王様から盃を頂戴したばかりの分際で、臣下序列五位、公爵の私に向かってナメてるのか?」


 やべえええええええええええ。

 犬の姿してんのに、俺の兄貴分だったあああ。

 しかも、結構上の人だったこれえええ。

 逆に、俺がこの人から詰められるパターンじゃねえかよおおお。

 

 ちなみに極道の兄弟盃には種類がある。


 基本は、自分にとって、兄弟分に相応しいという事で、個人的に盃を交わすパターン。


 それにも格があって、同格なら五分の兄弟分となり、互いを兄弟と呼ぶ。

 

 4分6分、3分7分くらいでは、格下は兄貴と呼ばねばならない。


 完全に主従関係が出てきて、2分8分くらいの関係だと、格下は兄さんって呼ばなきゃダメだろう。


 まあ、若い時の俺とヤスの関係、組が一緒で、お互い惚れたのなんだので結んだ盃が、それに当たる。


 そんで組同士が縁もゆかりもねえ、互いに違う場合、例えば俺が若い時に、刑務所(むしょ)で知り合って仲良くなった野郎の場合は、外兄弟となるわけさ。


 刑務所いた時、兄弟になった沖縄の野郎は、朝が弱くてよ。


 同部屋だった俺が、毎回起こして作業服着せての面倒見てたら、自然に兄貴と弟分の関係になったから、よく二人で日曜の余暇時間に将棋指しながら、コマした女の話とか、格闘技の話とかで盛り上がったもんさ。


 あと俺が関東の組織と結んだ、政略盃もその範疇の範囲に入るだろう。


 それと、自分の兄弟の兄弟は自分にとっても兄弟だ、という発想もある。


 これは回り兄弟というもので、俺は良く喧嘩の大義名分作るために使ったが、生憎俺は博愛主義者じゃねえから、喧嘩が終わったら素知らぬ風で知らんぷりよ。

 

 あとメジャーなのが、暖簾(のれん)分けの兄弟って言って、極道の世界では、同じ組の場合は、先に親分から盃を貰った人が兄貴分となる。


 同期で入った奴らは五分の兄弟で、その兄貴分が先に10年以上前とかに盃貰ってて、なおかつ組の役職とかについてた場合や、一目置かれる古株の場合、若頭(かしら)以外の三下は、兄さんって呼ばなきゃボコボコにされるだろうな。


 この暖簾分けの兄弟がくせ者で、人間やっぱり相性ってのがあって、クソムカつくド低脳なマヌケ野郎でも、兄貴と呼ばねばならないから、兄貴呼びしてても関係最悪というのは、極道じゃよくある話よ。


 まあだから、組織内で座布団増やそうと、競争意識が湧いて、みんな切磋琢磨するんだけど。


 なぜなら極道の世界は、座布団が上がれば、年下年上関係ねえ実力主義社会だから。


 その辺は、芸事や格闘技の段とかの世界に通じるところあるな。


 そしてこの、拒魔犬(こまいぬ)の兄貴は、暖簾分けの兄弟になる。


 ていうか、なんでこの世界に来たんだこの人。

 閻魔大王親分の許可とかとってんのか?


「しかし爺やよ、兄様はよくお主をこっちに寄越したの。お主だって色々あっちで仕事あるじゃろうに」


「あ……。いえ、いえいえこの狛魔犬! お、お嬢様のお力になりたく、馳せ参じた次第で」


 ヤミーが聞くと、兄貴はどもりながらちょっとテンパってる。

 

 ああ、これはアレだ。

 無断で、この世界にやってきちゃった口だ。

 ケジメつけるのこの人だったわ。


「失礼しますが、拒魔犬(こまいぬ)の兄貴、いや兄さん、さすがに親分に許可取らねえとまずいんじゃ……」


「貴様、私に意見するとはいい度胸だな?」


 うわぁ、面倒くせえ。

 俺この人、いや犬と仲良くやってける自信ねえ。

 それに面倒くせえから、もう兄貴呼びでいいや。


「まあよいわ、よく来たな爺や。あと、マサヨシは我を幾度も窮地を救ってきた。そのように上から押さえつけるのは、我も好きではない」


 よし、珍しくナイスアシストだヤミー。


「ほう? 少しは使えるやつらしいな小僧。お嬢様に話しかける許可を私が与えよう」


「へい、兄貴も、よろしくお願いしますぜ」


 俺がこんな話をしていると、ニコがこっちに走り寄ってくる。


「あ、親分。お姉ちゃん見つかってよかったね。うわー可愛い犬。ちょっと撫でていい? オイラ犬見るのはじめてなんだ」


 おいいいいい、やべえってその人、いや犬は。

 ニコやべえから離れてろ。


「なんじゃこの小童は? 私がそんな珍しいか」


「すごーい、毛皮がふわふわで本当にワンって泣くんだね」


 ん?

 ニコにはこの犬が言ってる言葉はわかんねえのか?


 ていうか普通に、そこらの犬みてーにわしゃわしゃ撫でてるけど、全然大丈夫っぽいな。


「おい、ニコ。この方は俺が仕えてる神様の家臣の人だから、オメーさんはとりあえず伯父貴って呼んどけ」


「うん、わかった。オジキ! よろしくね」


 いや、わかってねえだろニコよ。

 オジキはこの方の名前じゃねえ!

 

 この人、いやこの犬は俺の兄貴だから。

 で、お前は俺の子分だから、向こうは伯父貴な。

 粗相とか絶対すんなよ。


「小童め、馴れ馴れしいが、撫でられるのは嫌いでない。もっと撫でるが良い」


 よかったぜ。

 この方もまんざら話が分からねえ人でもねえようだ。


 いや犬だけど。


 すると、町の男衆や冒険者やハンター共が、武器担いでこっちに向かってきた。


 ヤベー、兄貴が変身したところ見られたか?

 おめーらやめとけ!

 この人も、一応閻魔大王親分に仕える、神っぽいからぶっ殺されるぞ!


「おい、兄ちゃんら。この村を定期的に襲ってくるドラゴンが来るから、オメーたち早く隠れてろ!」


 何?

 ドラゴンだって?

 ドラゴンって確か、この世界でも上位のモンスターじゃねえか。

 

 ヤベーな、ズラかるか?

 いやここは一つ。


「おめーらこそ帰れ! 俺はこの世界を救うためにやってきた、勇者マサヨシ様よ! ドラゴンくれー、俺が退治してやるぜ!」


 俺は木刀を天高く掲げる。

 決まった!

 俺超カッケー。


「やべえよ、このガキが噂の勇者だったら、ドラゴンの素材やら、討伐金のわけ前減るじゃねえか。野郎共、さっさと狩に行くぞ!」


 町の男衆や冒険者やハンター共は、町のそばの山へと向かっていった。


 チッ、こいつら俺がかっこいいところ見せてんのに、なんだそのシラけた反応は?

 

 本当にこの世界の奴らはクソムカつくな。


 

 すると村の広場に、いきなり緑青色の鱗をした、真っ赤な翼の体長10メートルの、西洋画に出てくるドラゴンが現れた。


「キシャアアアアアアアアアアアア」


 耳をつん裂くような、大音響の雄叫びをドラゴンが上げる。

 これ巨大化したオークデーモンより強いかも。


 すると山に向かった、ハンターや冒険者共が走ってこっちに向かってくる。

 ドラゴンはスウっと息を吸うと、灼熱のブレスで奴らを焼き尽くした。


「ぎゃあああああああああ」


 あっという間に10人以上が炎に包まれる。


 やべえは、さすがドラゴン。

 今は生存者を助けるよりも、こっちの身を守る方が先だ。


「ニコ、ヤミー! 町に戻ってレオーネ達と住人の避難だ!」


「マサヨシは?」


「俺はここで、兄貴と一緒にドラゴンを食い止める。なあに、いつもの事よ」


 ヤミーとニコが町へ行こうとすると、ドラゴンが灼熱のブレスを繰り出そうとする。


水切り(カッター)


 俺はドラゴンの片翼を、得意の水魔法で切り飛ばす。

 すると、ドラゴンが悲鳴を上げた。


 よおし!

 こいつはオークデーモンと違って、再生能力がねえはずだから、楽なもんだ。


 あとは俺の最強魔法の稲妻(ライトニング)でぶっ殺してやるぜ。


 俺が魔法を繰り出そうとすると、上空からドラゴン共が次々広場に降り立つ。


「ヘ?」


 アレ?

 数が3頭に増えてるんだけど……。

 これ仲間とか呼んだアレか?

 って、やべえええええええ。

 さすがにこの数は無理だあああああ!

 死んじまうよこれ、どうすれば。

 

 あ!

 俺は拒魔犬(こまいぬ)兄貴を見やる。


「オラ! トカゲ野郎共! この方を何処のどなたと心得やがる! 冥界におわす閻魔大王親分の一の家臣、拒魔犬様だぞ馬鹿野郎! 兄貴、頼んます」


「ふむ、是非もあるまい」


 兄貴は変身し、巨大な魔獣に姿を変える。

 よおし、これなら上手くいく。

 神界法とやらで、二回、サポート以外で力を使うと、罰則で力を失う。


 だが裏を返せば一発だけなら、ぶちかませるという事。


 あとは切り札として、兄貴には最後の一発をとってもらって、魔王軍にぶちかませば、この世界は救済よ!


 するとドラゴン達が、兄貴の姿に恐れをなして空に逃げようとした。


 さすが、兄貴だ。

 一発も撃たねえで勝っちまうなんて。

 ドラゴンなんで兄貴がいれば、雑魚モンスターに変わりがねえ。


「よし、兄貴さすがです! あの野郎ら逃げて行きますぜ! ありがとうございやした、あとはウチらも怪我人の手当てに!」


 だが兄貴は炎の力を溜める。


「ヘ?」


 俺は呆気に取られ、呆然と眺める。

 まさかこの人、いや犬は。


「兄貴、ダメです! 神界法もありやすんで、兄貴の力は最後までとっといてくだ……」


「逃さぬ! 地獄の火炎(ヘルファイア)


 轟音と共に、兄貴の口から放たれた、青白い極太のビームが、空を飛ぶドラゴン3頭を一瞬で蒸発させた。


 うわぁ……。

 強いとかそういうレベルじゃねえ。

  

 だがもう一発残しとけば、戦略兵器クラスの技で、魔王軍にぶちかますか、脅す材料にすれば。


「キシャアアアアアアアアアアアア!」


 山の方から大音量の雄叫びがした。

 見ると、さっきのドラゴン達の10倍以上ある、黄金に光り輝く、怪獣みてーなドラゴンが、姿を表した。


 俺も、教会の文献で見たことある、伝説のグレートドラゴン。


 この世界の人類では絶対に勝てない、天災クラスの神話級の化け物。


 どうやら、さっきのドラゴン達の親らしい。

 そりゃ、自分の子供が殺されれば怒り狂うよ。

 やべえぞ、ここはとりあえず体かわして、兄貴説得して一旦退避しねえと。


「兄貴、次に力を使えば神界法違反でヤベー事に! 一回逃げやしょう! ヤミー達も心配ですし……」


「小癪なトカゲが! 貴様のような雑魚など、神竜や魔界の竜共と比べたらクズ同然! 私の得意技で葬ってやろう!」


 話聞いてねええええええええ。

 俺のせっかくの絵図があああああ。


 ていうかよ。

 さっきから嫌な汗が止まらねえ。

 やべえ、何かわからんがやべえのが来る!

 もういいや、知らねえ!

 

 俺は言ったからな、ダッシュで近くの岩の影に隠れて……。


地獄の豪炎(ヘルフレアー)


 兄貴が得意技をぶちかます前に、俺は全速力で走ったあと、近くの岩の影にダイブした。


 耳を塞ぎ、地面に伏せ、口を半開きにして衝撃に備える。


 すると、山の方向が一瞬ピカっとした後、一瞬遅れて、今まで聞いたことがねえような、大音響と共に、俺の体は岩ごと吹き飛ばされた!


「ぬわあああ、やべえってレベルじゃねえ!」


 俺はボールみたいに地面に転がり、山の方向を振り返った。


 すると空高く、真っ黒な巨大なキノコ雲が立ち上り、山は完全に消滅して、体長100メートルを越すグレートドラゴンが、舌を口から出して動かなくなってた。


 これ、水爆並の威力だろ……。


 俺の体もかなりダメージを受けていた。

 衝撃波で、鼓膜や内臓もダメージ食らって脂汗が出る。

 目や鼻や耳からも血が流れてるようで、顔面がドクドク脈打つ。


「な? なんじゃと!? 私の体が化身の犬の姿に変わって戻れぬ! 小僧、貴様なぜ神界法の事を、私に思い出させなかった!? これではこの世界を救うまで私の力が戻らぬ」


 だから言ったじゃねえかよ。

 ダメだ、この兄貴ボンクラだわ。

 今すぐ冥界に帰って欲しい……。


 すると、グレートドラゴンがピクリと動き出す。


「キシャアアアアアアアアアアアア」


 最後の力を振り絞るように雄叫びを上げた。

 アレで死なねえとか、この世界のモンスターも大概だよな。


 もう本当に嫌になるぜ。

 このクソッタレな世界はよお。

 

 俺は木刀を持って山の方向へ駆け出した。

 距離にして、約1500メートル。

 ちくしょう、地味にダッシュで走るのキツイ距離だが、毎日走り込んでた俺にとっちゃ、こんなのキツイうちに入らねえ!


 そして、なんとか山があった巨大なクレーターまで辿り着くと、起き上がろうとするグレートドラゴンの、巨大な頭に木刀を打ち込みまくる。


「てめー、ふざけやがって馬鹿野郎! せっかくの絵図が台無しじゃねえかトカゲ野郎が! 死んじまえクソ野郎!」


 俺が木刀で滅多打ちにすると、気つけになって逆に起き上がろうとする。


 ちくしょう、ここはアレに賭けるしかねえ。

 俺は両手を天高く掲げる。


 右手で超振動の風を、左手で大気中の水分を摩擦させ、上空から炸裂させる全魔力を使った、俺の今の最強魔法。


 すると上空が真っ黒の雲で覆われて、魔法がいつでもぶっ放せる状態になった。


稲妻(ライトニング)!」


 俺はグレートドラゴンに両手を振り下ろすように、稲妻魔法を打ち込んだ。


 強烈な稲光がグレートドラゴンに直撃すると、ビクンビクンと痙攣しだす。


 よし、あとはトドメ!


 俺はドラゴンの首目掛けて、鞘から取り出したブレードソードを突き刺し、2メートル以上ある太さの首を、力を振り絞って掻き切った!


「はあ、はあ、畜生! これでくたばらなきゃ、もう知るか!」


 俺はドラゴンの首を滅多刺しにする。

 そして身体は、竜の返り血で真っ赤に染まる。

 これを幾度も繰り返すと、もうグレートドラゴンが動き出すことはなかった。


 その様子を、異端審問官共から回復魔法で回復した、ハンター共や冒険者に、町の男衆が見つめる。


「うおおおおおおおおおおお!」

「ワオォォォォォン!」


 俺がブレードソードを天高く掲げて、兄貴も駆けつけ、勝どきと遠吠えを上げると、辺り一斉に歓声が沸き起こった。


「マサヨシィ!」

「マサヨシ殿!」


 ヤミーとレオーネが、俺に飛びつくように抱きついてきやがった。


 気持ちは嬉しいが、もうクタクタよ。

 俺の男もたちゃしねえや。


「おい貴様ぁ、私の手柄だぞ! これでは私が負け犬の遠吠えのようではないか!」


 チッ、負け犬の兄貴がなんか言ってやがるよ。

 俺、神界法について言ったよな?

 もう用無しだから、冥界に帰ってくれや。

 俺は今から、グレートドラゴンの素材の切り取りと、行商人共とのシノギで忙しいから。


「うるさい! 爺や、お座り!」


 兄貴がヤミーにお座りさせられてやがる。

 ざまあねえぜ、俺もタメ口で、ただの兄貴って呼ぶからな。


 グレートドラゴン討伐、王国中に俺の名前が知れ渡り、ドラゴン斬りの二つ名が俺に付く事になった。


 そして、街道沿いでモンスター退治やゴミ屑の貴族野郎をぶちのめしながら、王都に向けて順長に俺の旅が進んでいた。


 だが、俺の一張羅が完成しようとしてた時、あの事件が起きた。


 大物貴族と悪徳商人による、ヤミーの誘拐事件だった。

兄貴です。

可愛がってください。

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