第27話 悪代官
ワシの名前は、ルイ・ド・モンワール。
このデヴレヴィ・アリイエ王国の交通の要所、王国第三の都市イムールの代官にして、王家より公爵の地位を代々賜ってる、今年55になる門閥貴族である。
ワシは先祖代々よりの言い伝えを順守し、いついかなる時も先祖伝来のミスリルの白銀鎧を着込んでおる。
女と事に至る時か、寝る時以外は欠かさず身につけよと、常在戦場の我が家の家訓じゃ。
我が家は、代々武門誉なる騎士の家系で、長男は王家の近衛隊、栄えあるロイヤルガード中隊長として、次男は教会にて聖騎士隊副隊長の任に就いておる。
ワシも若い時は、先祖代々より受け継がれし大槍を持って、王国から分離独立した共和国連合の裏切り者たちの多くの首を獲り、アホ……じゃなかった、デヴレヴィ・アリイエ10世陛下より、名誉勲章を受章したものじゃ。
そして、ここイムールには、長男が預けたワシのかわいい孫達が離れの屋敷に暮らしておる。
ああ、ワシの麗しの双子のジャンとルイーズ。
お前たちの将来のための蓄財だったら、ワシはどんなことだってしよう。
我が家が今後も安泰であるためなら、薄汚い商人どもの話などいくらでも言いてやってもよい。
この前も近隣の村を潰して、商人と大農場を作る予定であったのに、農民どもめ雑多な農具で立ち向かってきおって。
我が誉なる赤十字騎士隊で蹴散らして、村長とその家族もろとも見せしめに、馬の牧草を背負わせて火を着けて、踊るように殺してやったわ。
処刑には幼子もおったかもしれんが、生かしておくと一揆の原因になる、不穏分子のダニじゃ。
我が領地で、反乱を起こした村長のクズめを恨むがよい。
領民の農奴のゴミクズ共が、ワシに逆らうからこうなるのじゃ。
そして、3代、4代先まで家の安泰を図るため、蓄財はせねばならぬ。
あの憎き、アレクシアが女王になる前に。
元々王位継承権が、最下位の王女の小娘め、王子様達が不幸にも全員急逝してからというものの、調子に乗りおってからに。
共和国連合と東方皇国に和平など結びおって。
これでは我ら栄えある貴族の戦場が失われ、我が家の様に、貴族が武芸で身を立てることが、できなくなるではないか。
そして代々、我ら公爵家がどれだけ王家に貢献したのかを、まるでわっておらん!
本来ならばワシの長男のクロードは、ロイヤルガード中隊長など、腕に覚えのある貴族であれば、誰でもなれるような役職ではなく、ガード隊の隊長こそふさわしい。
我が学友にして最良の友である、教会枢機卿コルネリーア卿も、もっとはっきりあの王女に言ってやればいいものを。
じゃが、コルネリーアも大変そうじゃしなあ。
一人娘で花のように美しかったレオーネ姫が、女だてらに武芸かぶれになって、我が次男がおる聖騎士隊に入隊して、男顔負けで活躍しとるらしい。
かわいそうに、あの子も男子に生まれておれば、よかったものを。
どんなに活躍してもいずれ女めは、家庭に入り社交場にて夫を盛り立て、武芸もできなくなる。
女に生まれて不憫な話じゃ。
その一方で、アレクシアの小娘は、教会の異端審問官などという平民の畜生共の集まりに、我ら門閥貴族への捜査権なども与えおって。
これでは何かにつけて、異端審問官より難癖付けられ、教会より沙汰が下り、お家取り潰しの材料になるではないか。
あのアホ陛下も陛下じゃ!
小娘に丸め込まれて、甘すぎるアホめ。
我ら貴族から、戦費名目で金を出させるだけ出させて、散々蓄財しおってからに。
女が政治や公務に口出しおって、ろくなことにならんのは歴史が証明しておる。
そう、女は感情で動く生き物だから、最後の最後で選択を誤るのじゃ。
100年前、救世主磔事件に関与したのが、伝え聞くところ女じゃしの。
しかし、アホの陛下も御年60。
世継ぎはもう難しいお年であるから、ますますあの小娘が調子に乗ってしまう。
侯爵連中も王都で小娘に飼いならされとるし、困った話じゃ。
ああ、どこかに、あの小娘めをやっつける男はおらんかの。
やっつけるといえば、最近風の噂で救世主の再来、勇者なるものが出現しおった。
その勇者が、王国の街道沿いにある村や町で、ロクでもない貴族の恥さらし共や、モンスターをやっつけながら、王都まで向かってきておるという。
さらにドラゴン退治や悪魔討伐もしておるようで、風の噂では最上級悪魔を撃退し、魔王軍と停戦させたとか聞いたが、さすがにそれは眉唾じゃろう。
その容姿は、黒い髪に黒い瞳で、10代の小僧の年齢ながら、武芸と魔法に秀でた優秀な戦士らしく、同じく黒い瞳に黒い髪をした、少女の女神を連れとると聞く。
ワシも是非一度、勇者とやらと、武芸者同士のお手合わせしたいものじゃ。
おっと、そろそろ来る事じゃな。
今宵は、奴隷商人めが何やら麗しの美少女を攫ってきおったとか水晶で聞きおったから、その娘とムフフフ。
すると、部屋をノックする音がした。
「お代官様、商人コルレオーニでございまする」
「入れ!」
なんじゃ、こやつじゃったか。
娘はまだかのう。
ワシが部屋に入るよう促すと、薄汚い小男めが手もみしながら部屋に入ってきおったわい。
さっさと商談とやらを終わらせて、お楽しみといきたいところじゃて。
「ヘッヘッへ、お代官様、ご機嫌麗しゅう。例の農場ですが、あの月が無くなり、マンドラゴラよりも、良質な野菜めが沢山とれるようになりました。これを大量に生育して売り捌き、このコルレオーニめは、お代官様と大儲け出来ますでしょう」
「なんぼ、儲かるのじゃ」
御託はいいから、結果を言わんかい。
これだから、下賤な者は困るのじゃ。
「へい、これより奴隷共も作業に従事させますゆえ、大規模プランテーションとなると、資産は2年後以降に、今までの倍以上は毎年入ってくるかと」
「そうかそうか。悪くないのう。奴隷めの食事を減らして睡眠させず働かせれば、もっと稼げるじゃろうて。他の村も潰して、奴隷に身を落とさせ、奴らに家畜でも育てれば、さらに収益が上がろう」
「へへえ、お代官様の赤十字騎士団のお力をお借りすれば、さらに滞りなく進みます。それとお代官様、ここは交通の要所でありますので、是非とも我がコルレオーニ商会への、ご商売の許可をいただきたく」
「なんじゃお主。行商の許可なら、王家の許可も必要じゃし、困った話になるのう」
商人め、物を頼むのなら頼み方があろう。
王家の許可などどうとでもなる、ワシとお主が大好きなアレじゃ、アレ。
「へへえ、例のキャンディは用意させていただいておりますので、何卒これで」
コルレオーニが、ようやっとワシが大好きな色とりどりのキャンディという名の瓶詰めの、宝石や金銀を、ワシの執務机の上に出してきおった。
「そうじゃ、そうじゃ、このキャンディじゃ。お主も悪よのうコルレオーニ」
「いえいえ、お代官様様ほどでは」
ワシと商人は高笑いする。
これで我が家は三代先も安泰と言うものよ。
「ほれ、今日の商談は終わりじゃ! お主の所属する商人ギルドのものが、さらってきたという、麗しい美少女と今夜は忙しくなるので、お主はさっさと帰れ」
「へへえ、例の件は何卒よしなに」
下賤めが。
それは、もう少し焦らしてお主のため込んでる財を吐き出させてからじゃ。
「ご領主様、例の娘を連れて参りました!」
ワシの赤十字騎士団の団長が、きおったか。
奴隷商人め、褒めてつかわそう。
「入れ! おお! これはなんと!」
団長めが、絶世の美少女を連れてきおった。
黒い瞳に黒い髪、透き通るような白い肌に、今まで見たこともない黒のドレスを着ておる。
年の頃は14かそこらと言ったところか?
どこぞの異国の亡命貴族の娘かのう。
ぐへへへ、たまらんのう。
早くドレスを脱がしてやりたい。
今宵は、こやつをかわいがってやろう。
「おお、苦しゅうない、苦しゅうない。ちこう寄れ娘よ」
ワシは優しく騎士団長が連れてきた娘っ子に声をかけてやる。
亡命貴族ならば、辛い思いをしてきたのじゃろうて、ワシが慰めてやらんと。
「なんじゃヒキカエルめが! 我の事を誰と心得るのじゃ! 下郎めが」
なんじゃコイツ?
自分の立場を全然理解してないのう。
ワシの事を、下等な両生類呼ばわりしおって。
「ぐふふ団長よ、酒と飯をもて。小娘にも飯をたっぷり食べさせ、今宵は二人きりでたっぷり楽しむのじゃからのう」
「ははあ!」
騎士団長は、ワシの部屋から出て行った。
さあて、その前にちょっとつまみ食いでもしてやろうかのう、ぐへへへ。
「なんじゃ気色悪い笑い声をしおって! ヒキガエルめが!」
……小娘が!
あのドレスの帯が邪魔じゃな。
結び目解いて帯回しでも楽しもうかの。
すると、娘はワシを見て特大なため息を吐く。
「どうしょうもない外道じゃの。冥界の神、閻魔大王の妹たる、神の我に対して無礼者め」
ん?
なんじゃこやつ。
今、自分の事を神とか言わなんだか。
まあ気のせいじゃろ
「ぐへへへ、さあドレスの帯でも脱がすとするかのう」
ワシは娘の帯に手をかけようとする。
「きゃあ! 我に触れるな下郎! 我に触れていいのは兄様か爺やか、マサヨシだけじゃ!」
やはりこの小娘、どこぞの亡命貴族の娘か。
しかも、この初々しい反応!
さては男を知らぬな。
「グフフ、良いではないか、良いではないか」
ああ、たまらぬのう、この反応。
すると娘は振り返り蹴りを放ってきおった。
小娘の蹴りなどワシに……。
「おぶろあ!」
その瞬間、ワシの下腹部周辺に、内臓に激痛と衝撃が走り、一瞬呼吸が停止し、吹き飛ばされ部屋の壁に衝突した。
「ぐぬぬ、なぜ……」
この娘、武芸のたしなみでもあるのか?
いや、武芸なんて生優しいものじゃ……。
ワシは、壁にしこたまぶつけた頭に触れる。
すると、べったり血が手に。
そして蹴られた箇所は?
ワシは尻餅をついたまま、鎧を見た。
すると、蹴られた箇所になんとヒビが!
ぬおおおおおおおおお。
今の小娘の蹴りで、我が家伝来のミスリルの鎧にヒビが入っておる!
これでは先祖に申し訳がたたぬ!
手打ちにしてくれよう!
「きゃああああ、変態! 助けてぇぇマサヨシィィィ!」
その時、部屋の窓が一瞬光ったような?
気のせいかの。
「ご領主様! 大変でございます!」
騎士団長がノックもせず入ってきおった。
無礼者め、斬り殺すぞ!
「なんじゃ、取り込み中じゃ!」
「屋敷の周りを異端審問官共が!」
なんじゃと!?
ワシは慌てて窓の外を見る。
すると、松明を持った異端審問官共が屋敷を取り囲んでるではないか。
「であえー! 者共であえー! 異端審問官共を一人残らず殺すのじゃ!」
「ははあ!」
騎士団にあやつらの相手をさせよう。
後で適当に、教会には取り繕うて、この場は裏門から小娘を人質にして、さっさと逃げるが勝ちじゃ。
ワシの槍がない今、こやつらめを滅ぼすのはなかなか骨がいる事じゃし。
「娘よ、こっちに来るのじゃ!」
ワシは小娘の手を引き、一刻も早く屋敷から抜け出そうとした。
この廊下の奥の隠し扉で、なんとか外へ……。
「ぎゃあっ」
「曲者め! グォ!」
なんじゃ、我が逃走方向で悲鳴が……。
「ひとつ、人の世の生き血をすすり、 ふたつ、不埒な悪行三昧、 みっつ、醜い浮世のゴミを、 退治してくれよう、勇者マサヨシ」
若い男の声?
賊めか?
「マサヨシ!」
娘が嬉しそうに賊の名を呼ぶ。
な、なんなんじゃ一体?
我が騎士団が床に倒れておる。
すると、廊下の奥から、今まで見たこともない、細身の長剣を下段に構えた男が出てきた。
なんじゃあの羽織と服は?
黒の羽織りに、黄金色の帯に、濃紺の見たことのない服を着ておる。
この小娘のドレスと似てるような。
首からかけてるのは、ストールじゃろうか?
なんなんじゃ、この男は。
「一度、やってみたかったんだ、この口上。世のワルを、ぶった斬りにいくこの感じ、最高だぜ」
すると男はニヤリと笑い、魔法の水晶玉を取り出す。
「おいニコ、金目の物。じゃねえや、証拠品の首尾はどうだい?」
「うん、親分。高そうな槍とか宝石入った瓶とか、まとめてかっぱらってきた!」
「馬鹿野郎オメー、教えただろ。かっぱらうとか盗むなんて言葉じゃなくて、証拠品として押収した、だ。間違えんなよそこんとこ」
「うん、親分」
賊は通信を切り、ワシらに向き直ると、着てた服の上半身をはだけるようにして脱ぐ。
いや待て、黒い長髪に、黒い瞳。
世の女共が振り向くような、容貌の顔立ち。
もしやコイツ!?
「やい、この悪党が! テメーの悪行三昧は、全てこの背中の閻魔様がお見通しよ! 今からケジメの時間、たっぷりと後悔させてやるぜ」
男が背を見せると、背中に、憤怒の神の身姿が描かれておった。
西洋風異世界なのにあえて和服に
次回、新キャラ登場
ヤクザを主題にしてるなら、欠かせないキャラです




