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仁義なき異世界転生 ~勇者マサヨシの任侠伝~  作者: 風来坊 章
第一章 仁義なき異世界転生
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第24話 修羅場

 どうしてこうなった?

 俺の絵図(プラン)では、魔王軍と一時的に停戦(てうち)になった筈。

 そして停戦中に、人類のワル連中を一人残らずぶっ潰す。

 後は力を付けた後、さっさと魔王軍もぶっ潰して世界を救済。

 そんでもって、そこの激マブ女も頂いちまうって寸法だったのに。


 何でヤミーの奴、聖騎士と異端審問官連れてくんだよ。

 馬鹿じゃねえのこいつ。

 せっかくの手打ちが、明後日の方向になるだろうがよ。


 けどよくよく考えれば、ヤミーは俺の身を案じてこいつらに声かけたんだ。

 こいつに落ち度はねえし、責めるのはいささか酷な話。


 問題はこいつら、異端審問官(マヌケなサツ)と、男装した貴族(アホ)女。

 だいたい何で、俺が交渉事やってるときにこいつら審問官(サツ)が近く通んだよ。

 まるで全員で風魔法唱えて、全速力でこっち来た感じじゃねえかよ。

 もうそこからして意味わかんねえよ。

 空気読めよバカヤロー。

 この手打ちが失敗したら、この場で全員皆殺しで人類滅ぶんだぞマヌケ共が。


 ああ、帰りてえ。

 こんな野蛮な仁義なき世界じゃなくて、文化的で秩序ある日本に帰りてえよ。

 俺の世界じゃ、抗争相手との和解や手打ちっつたら、他所の組の仲裁人が入る。

 警察(サツ)連中にも全部話通ってて、一席設けて両手打で盃交わしてお互い水に流す。


 その後、縄張りか最低でも賠償金を頂くって感じでさ。

 俺も散々抗争(ドンパチ)やったし、仲裁人も務めたことなんて腐るほどあったぜ。


 けど、このクソみてえな世界には、そうした様式美なんかありゃしねえ!

 もうほんと、この世界は命がいくつあっても足らねえよ。

 俺また死んじまうっての。

 

「勇者マサヨシ殿を誘惑する悪魔よ、貴族である私の剣のサビとなるがいい!」


 レオーネの奴、アスモデウスに喧嘩売っても絶対無理だっての。

 この女、見た目は激マブ女だが魔王軍総司令官なんだぞ。

 ていうか、なんで俺の事いちいちチラ見して、頬染めやがるんだ。

 

 三つ編みやめて、ブラシ入れたように髪サラサラにしてるし。

 しかも前に会った時はもっとこう、険のあった顔つきだったが、何この変化?

 心なしか明るい感じになって、すげえ俺好みにマブくなってる。

 

 あ……。

 ま、まさかあの時、心肺停止してたこいつを助けたからか?

 それで俺に惚れちまって、異端審問官(マヌケなサツ)共連れて来たんじゃ。

 もしかして、元凶は俺かああああああああああ。

 

「何だと人間風情め滅ぼしてやる! 勇者は魔王軍総司令官の私のものだ!」 


 この魔族の女に至っては、俺の体をチラ見てきやがるし。

 完全にこいつ、俺のことを欲望のまま自分のものにする気だ。

 そのために、張り切って人類滅ぼそうと考えてやがる。

 ていうか、すでに手打ちの話がもう無かったことになってねえこれ?

 だあああああああ、やっちまったよこれえええええええ。

 ヘタ打ったあああああああ。


「人間と魔族のブス共は騒がしいのう、マサヨシは神たる我の所有物じゃぞ?」


 このドヤ顔のガキに至っては、もはや何を言ってるのか意味がわからねえ……。 

 ていうか、レオーネが女っていつ気が付いたんだこのガキ?

 そんでいつから俺は、おめーさんの所有物になったんだよっての!

 俺の親分は閻魔大王様で、おめーは元々オマケみてえなもんだろうが!

 

 やべえよ、ガキのたわ言はともかく、この修羅場の原因作ったの俺くせえ。

 女泣かせと言われた俺が、まさか女に泣かされるとは。

 この世界と魔界の手打ちの前に、目の前の女共なんとかしねえと世界が滅ぶ。


 だがこの男マサヨシ、転生前にこんな修羅場なんざ何度も潜り抜けてんのよ。 

 手打ち式の当日、式の最中に親分同士がドスとチャカ向けあって喧嘩再開しやがって、仲裁人の俺の面子丸つぶれにしやがったから、キレた俺が双方の組ぶっ潰した、不細工な事もあったじゃねえか。

 

 あと若い時に、俺を巡って喧嘩してた女共の修羅場なんて腐るほどあっただろ。

 仕方ねえ、ここは一つ俺が仕切らせてもらうぜ。


「ヤミー、封印魔法を解く場合の呪文教えろ」


 俺はヤミーに小声で聞く。


解放(ダミッ)じゃ。どうして今そんなこと聞くんじゃ?」


「俺に考えがある。お前はいつでも逃げれるように、隙見て馬車に行っててくれ」


 俺が言うとヤミーは頷くと、そっと物音立てずにこの場所を離脱する。

 こいつも最初に比べて、だいぶ素直になったもんだ。

 あとはもうちょっと、口の悪さが治ればいいんだが。

 よし、じゃあまずはアスモデウスに。


「アスモデウスさんよお、これは俺が描いた絵図じゃねえ。約束通り、魔王軍と人類側は一時停戦! 解放(ダミッ)。あとは、そこの便所に例のもんあるから、さっさと持ってきな!」


「勇者め! お前の策略にのるもんか! お前の話なんか信用できるか!」


 ちくしょう、このポンコツ野郎。

 この異端審問官(マヌケなサツ)共来たの、俺の仕業と完全に思い込んでやがる。


「マサヨシ殿! 我ら聖騎士と異端審問官、いつでもこの女悪魔めを一網打尽に!」


「レオーネ殿、私が討伐したはずの豚のような大悪魔が復活し、ここに加勢してくるやもしれません! 審問官の方々を連れ、村の広場方向へ! 首が無くなってますが油断できません!」


「いえ! この太陽の聖騎士レオーネは、勇者様の守護を優先します!」


 ああああああああああ、なんなのこいつらはあああああ。

 人の話を聞いてくれよ頼むからあ。


「おーい、審問官さーん! 豚の悪魔が今動き出したのオイラ見たぞーーー」 


 その時、ガキの声が便所の裏からした。

 俺が見ると、こげ茶色の髪したガキがこっちを向いて手を振ってやがる。


 村長のガキだったニコの野郎じゃねえか!

 あのガキどっかのちんちくりんと違って使える!

 ナイスだぜ、おめーさん。


「レオーネ殿、もはや一刻の猶予もありません! 早く審問官の方々を!」


 俺は演技で、わざと焦った振りしながらレオーネの方を向いて言った。

 ヤクザと役者は紙一重ってな。


「マサヨシ殿は?」


「この大悪魔めは私が抑え込みます! どうかご武運を!」


「勇者殿、どうかご無事で! ご武運を!」


 よし、異端審問官(マヌケなサツ)達連れて村の広場方向へ行きやがった!

 あの女意外と素直でチョロイぞ!

 これで俺の悪魔討伐の証明になりやがるし、あの豚の体を見分すんのに時間がかかるはず。


 さて、問題はこのポンコツ魔王軍総司令官のアスモデウスか。


「すまねえ、総司令官さんよお。邪魔が入って不細工なことになっちまい申し訳ねえ。今更こんなこと言うのも何だが、俺を信用して一時停戦としましょうや」


 俺はアスモデウスに深々と頭を下げる。

 理由はどうあれ、交渉事に邪魔が入った原因は俺だ。

 さっきまで有利に進んでいたのに、不細工な話だぜまったくよお。


「いいや、信用できない! 私を安心させた隙に、滅ぼす気であろうが!」


 ちくしょう、そうなるわよなあ。

 これ、血を見ねーと収まらねえ流れだ。

 こいつ満足させる手土産、今のところあの豚公の首くれーしかねえよ。

 今更あんな豚公の首差し出しても、収まらねえだろこれ。


 俺の世界だと、交渉決裂で泥沼の戦争(けんか)になっちまうよこれ。

 完全に意地を張っちまってるこいつを信用させんのは、何か仕掛けがいる。


 どうするよ?


 このままじゃあ、ヤミーやそこのニコのガキ、レオーネ達や村人がこのアスモデウスにぶっ殺されちまって、俺がこの世界で成したはずの任侠道の成果が全部消えちまう。


 だがそんなことは俺が認めねえ。

 この俺は、一度決めたことは絶対にやらなきゃ気がすまねえ。

 こんな不細工な結末なんざ願い下げだ馬鹿野郎。

 

 いや、待てよ。

 

 俺は自分の左手の小指を見た。

 転生前と違ってきっちりついてやがるなあ。

 まったく、しょうがねえ話だぜ。


 俺は右手に持っていた木刀を放り投げる。

 

「勇者め、今更敵意のないフリをしても信用せんぞ!」


「なあ、司令官さんよお、今から剣抜くけど、おめーさんには向けねえから信用してくんねえか? 頼むよ、俺のケジメだ」


 俺は言いながら、右手で腰に差したブレードソードを引き抜く。

 そして、腰かけてた岩からゆっくりと立ち上がった。


「勇者め、何をする気だ! まさか私とここで一戦交える気か?」


 ポンコツが何か言ってやがるが、俺はそれを無視する。

 そして左手の小指を横向きに、前に突き出しアスモデウスに掲げて見せる。


「転生後も失っちまうとはな。17年間ありがとよ、俺の新しい小指(エンコ)ちゃん」


 右手のブロードソードを振りかぶって、俺は左手の小指を落とした。

 小指の切断面からは、血が勢いよく溢れだして地面に滴り落ちる。


「な!?」


 アスモデウスは困惑し、絶句した。

 そして、いってええええええええええええ。

 これ何回やっても、くそ痛えよおおおお。

 だが顔に出すな、声も出すな俺、相手になめられちまう。 


 普通は血止めしてから、出刃包丁とかで一気にやったり、氷で指冷やして感覚鈍らせてから、ハンマーとノミ使って飛ばすんだが、そんなこと言ってらんねえもんなあ。


 俺はブレードソードを、かっこつけてくるりと回転させた後で鞘にしまう。

 地べたに落とした左手の小指を右手で拾い、持っていたハンカチで包んだ。

 そしてハンカチに包んだ指を、スッとアスモデウスの前に差し出す。


「すまねえな、アスモデウスさんよお。これを俺の誠意だと思って、便所に放り込んだオークデーモンの首と併せて、魔王軍と人類側との喧嘩は一時停戦として貰えねえですかい?」


 アスモデウスは、俺の顔をじっと見た後、ハンカチに視線を落とす。


「き、貴様自分の体の一部を!? 何のつもりだ! まさかこれも……」


「つべこべ言うんじゃねえ! この勇者マサヨシ様が、小指まで落としてそっちに誠意を見せてやがんのに、因縁(アヤ)つけやがんのかこの野郎! これで手打ちだ! 反故にすんなら魔界滅ぼすまで徹底的にテメーらやっちまうぞ馬鹿野郎!」


 アスモデウスは、俺がとった行動と啖呵に気圧され、しぶしぶ俺の小指を受け取った。


「お前が言うヤクザとは頭のおかしい集団なのか? 我々魔界の風習だと、自分の体の一部を相手に送り付けるのは、その相手を呪って意のままにするという古の呪いだぞ?」


「何だとこの野郎! てめーヤクザ舐めてんのか馬鹿野郎! 俺の誠意の指受け取ったんだから、さっきの話は全部ん吞んでもらうぞ!」


 俺が言うとアスモデウは、小指を軍服の胸ポケットにしまった。


「一時停戦の件は了解した。ではこの大陸より南にある、人も住まぬ氷の大陸で、我が獣騎軍は臨時の総司令本部を設立する。停戦終了後は勇者マサヨシよ、我ら全軍をもってお前の相手をしてやろう」

 

 よし、一時停戦成立だ!

 これで当分の旅の目的は、任侠道邁進しながら人類のワル連中をどつき回れる。


「おう、いいぜ! そのうちその小指取り返しに来るからよ、テメーは俺の指持ってパンツでも洗って待ってろ馬鹿野郎が! どうせ俺が勝ったら、そのパンツも後で脱いでもらうんだしなあ?」


 俺が笑いながら言うと、アスモデウスは顔を真っ赤にして豚野郎がいる便所に向かう。


「あ、アスモデウス閣下! ぶひいいいい申し訳ございませぬ、あの勇者めに」


「うあっ! 臭い! 気持ち悪い! オークデーモン、勇者の話によると補給任務を放棄し、我が軍の評判を落とすような真似をしていたようだな? 新基地で貴様を待ってるのは軍規違反の軍法会議だ!」


「ぶひいいいいいい、何でえええええええええ?」


 あばよ豚野郎、どうやら俺のケジメの後は、あの激マブの仕置きみてーだ。

 せいぜい、強く生きるんだなボケ。


 そしてアスモデウスは宙に浮き、俺をチラ見した後、薄汚れた豚野郎の頭を掴んで猛スピードで空の彼方に消えていった。


「あんちゃん! 指が!」


 心配そうに見ていたニコが俺のもとに駆け寄ってきた。

 俺のけじめの一部始終を見ていたみたいだが、一言も騒がず黙ってやがって。

 やっぱりこいつは根性がありやがる。


「気にすんな、たかが指一本で世界が守れれば安いもんだ」


 俺は右手でニコの頭を撫でてやる。

 左手は神霊魔法で治癒したが、切断した小指は元に戻らねえようだった。


「マサヨシ!」

「マサヨシ殿ぉ!」

「勇者様!」


 ヤミーや他の連中が俺の方に駆け寄ってきた。

 どうやら、あのアスモデウスが飛び去ったのを目撃したみたいだった。

 

 ああ、くそがめまいがしてきたぜ。

 ヤミーとこの世界で再会してから、ずっと戦いっぱなしだったもんな。

 さすがの根性者の俺も、無理がたたって立ち眩みがしてくるぜ。

 だが、気を失っちまう前に、最後はこの俺様らしく格好つけねえと。


 俺は、足元に落ちた木刀を拾い天高く掲げた。


「勇者マサヨシの名の下にここに宣言する! 魔王軍とは一時停戦となった! この世界に神のご加護があらんことを!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」


 俺の宣言に、この場にいた全員から歓声が上がった。

 

 決まった!

 俺すげーかっこいいぜ。

 まあ、俺のようないい男がやると様になるからな。

 そして、そのまま俺は仰向けに倒れ込んだ。

 

「マサヨシ! お主指が!」


 ヤミーは小走りで駆け付け、小指の無い左手を見て狼狽して涙目になっていた。

 おめーさん初めて会った時、ベロ二回も抜きやがったくせにそんな顔すんなって。

 ちくしょう、意識が遠のいてきたわ。

 ヤミーよ、おめえは泣いてるツラよりも、笑ってた方がいい。

 

 俺は思いながら、転生前に一度死んだ時と同様、意識が暗闇に包まれた。

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