第17話 俺の車
俺は夜のアルフランド大陸、デヴレヴィ・アリイエ王国街道を馬車移動する。
ああ、俺が運転するこの馬車?
異端審問官に神の御導きって言って詐欺かけて貰ってやった。
俺も渡世人になる前の15の夜に、ヤクザ者の高級車やサツのパトカーを盗み……おっと、拝借したことがあるけど、やってる事が転生前と全然変わってねえのな。
この肉体が若いからなのか?
あんまり悪さしたら得々ポイントに響くから気を付けねえと。
それでも俺の得々ポイントは、多少マシになってやがって、マイナス8930ポイントから、マイナス8390ポイントになってた。
嬉しい事に、悪魔野郎には多少残虐な事しても、マイナスはつかねえみてえだ。
どんだけ神に嫌われてんだよなあ、魔界の悪魔野郎どもは。
それと、悪魔退治と人助けはやはり得々ポイントを大きく稼げる。
これから、任侠道をまい進する予定のこの俺にとっては幸先のいいスタート。
しかしマイナス8390、ヤサグレとかよお。
ポケベルのごろ合わせかってんだよ馬鹿野郎!
やさぐれハートの子守歌でも歌っちまうぞっての。
そういやポケベルって言えばさ。
俺も昔、シノギに欠かせねえから使っていたが、あれすぐなくなったよな?
携帯とかが普及しだす頃になってよお。
一家持ってた時、若い衆に組の金でポケベル持たせてやってたっけ。
あれは確か、俺が直参になった時に若頭にしてやったあいつ。
そう、ヤスの野郎のアイデアだったな。
仕事や抗争で、情報を管理できるから重宝した。
ただし若衆の中にはポケベル鳴らしても、全然公衆電話かけ直してきやがらねえボンクラもいた。
報告、連絡、相談は極道の基本的な心構えなのに。
まあそれは、カタギさんの社会にも言えるが。
だが俺は優しく、一度目は子分の不始末は笑って許してやった。
ほら、失敗は誰にでもある事だし、これはしょうがねえ。
でも二度目はポケベルが鳴らなくて歌わせながら、バリカンで丸刈りよ。
親分の俺の話を聞いてねえってことだし、これもしょうがねえ。
三度目は俺の部屋で、灰皿アタックから始まり、木刀背負わせたっけ。
何度もヘタ打つ馬鹿は、体で教え込まなきゃ教育にならねえからしょうがねえ。
さすがに四回連続でヘタこく奴はあまりいなかったな。
四度目だけに、死を連想したかもしれねえ。
けど、そんなことくらいで殺しゃしねえよ、可愛い子分なんだから。
指か金は取るかもしれねえけど。
だが、そういうボンクラに限って警察の世話になりやがるから、今まで使ってた番号を変えなきゃならなくなって、ヤスの野郎と往生したもんさ。
しかし運転って疲れるよなあ、馬でも車でもよ。
俺も若衆時代は、親分の運転手やボディーガードになって男を売ったもんだが、ヤクザは車持ってて運転がうまくねえと務まらねえ稼業だ。
親分や兄貴分、そして姐さん連中を送り迎えしたり、縄張りの巡回したり、商売の種を探すのは、やはり車がねえと話にならねえ。
特に親分付きの運転手やると、エリートコースなんて極道社会で言われるが、これは親分が何の商売してて、どこの親戚組織連中と仲良くしてて、親分の極道としての心構えを直で学べるのと、他の組織の親分衆からの覚えもよくなる。
それともう一つだけいいことがあって、金のねえ若衆時代に乗り回せねえような超高級車とかに乗れて、世間様に優越感も感じられる点も挙げられる。
ただし、運転手兼ボディーガードは、多分若衆の中で一番きつい仕事だと思う。
まず生活リズムを親分に合わせなきゃならん。
それで常に気を張ってるから、睡眠不足は当たり前。
義理事とか親分衆の会合に出向くことがあるから、運転ヘマして遅刻すると親分に恥かかせたって言って、ヘタすると簡単に小指がすっ飛ぶ。
あと優しい親分ならいいが、常に血に飢えてる俺みたいなイケイケの親分の運転手やろうもんなら、運転中のトラブルも多くなるし、運転ミスっただけで容赦なく後部座席から、罵声浴びて殴る蹴るよ。
あの時は、教育とはいえ若い衆に悪いことしちまったなあ。
それに、俺の若衆時代はカーナビなんかなくて、道を間違えることも許されないし、抗争中なんて相手から常に付け狙われる危険だってあるし、親分付きだからサツのマークも無茶苦茶厳しくなる。
だから、極道でも腕っぷしが強くて頭がいい野郎しか、運転手にならねえのさ。
だが、最近の親分衆は金にシビアなのと、銀行やサツのマークで、安物の国産車しか乗らねえから、当然親分よりもいい車に乗るなんて、舎弟や子分共に許されるわけもなく、センスのねえ中古車のボロ車しか乗れねえのはかわいそうな話だし、夢がねえ。
俺が極悪組の代紋継いだときは、常に最新型の防弾付きで軽く億超える、黒の最高高級車のファントムにして、内装いじってホイールやエンブレムも真っ金々にするだろ?
そうすると、直参連中や二次三次連中も、俺よりグレード下の高級車、ベンツやらBMWやらアストンマーティンに乗れたりして、俺もいつかあんな車乗りてえって、末端の若衆に夢を持たせてやれんのさ。
俺のファントムなんて、ナンバーからして気合入ってて、陸運局の野郎脅して神戸ナンバーのヤクザの「や」の117(いいな)にして、足すと9のカブナンバーだったなあ。
一回だけ悪ノリして「や」の5910(ゴクドー)とかナンバーをいじったら、俺の側近のヤスがすっ飛んできて、サツに馬鹿にされるのと、小物に見えるんで勘弁してくださいって頭下げられてやめたっけ。
まあ、そんなんだから俺の組が財政難になって、内部分裂起した挙句、子分のヤスからぶっ殺されて、こんな最悪な仁義なき異世界に転生する羽目となったんだが……。
そんな話はどうでもいいや。
風魔法で追い風にしてやっているとはいえ、一晩中馬の野郎どもを走らせてやがるから休ませねえと。
馬車の荷台にはヤミーが寝てやがる。
黙ってれば、寝顔だけはかわいい天使みたいな女学生に見えやがる。
実際は、性悪のメスガキで閻魔だけど。
しかし、よおアレだわ。
ケツがいてえええええええええええええ。
ちくしょう、ケツが、ケツが擦れていてえよ、馬鹿野郎!
馬が動くたびに泣きが入りそうになる。
あれか? 転生前に女共泣かしまくった罰なのかこれ?
乗馬って無茶苦茶根性いるな、この世界の道のつくりも雑だし。
はっきり言って、後ろに口うるせえ親分乗せてた方がまだましだ。
まあ、後ろで寝てるのはちんちくりんの、口うるせえ元神のガキだが。
ああ、もうだめだわ、いったん休憩するしかねえ。
いくらこの俺が根性者って言っても、流石に夜通しの馬車の運転はキツイ。
かといって、せっかく寝てやがるヤミーを起こして運転させるのもなあ。
「!?」
道の前方に何かいやがる、距離にして500メートルか?
松明の数は、1、2、3、4、5。
人間か?
だが、時間はそろそろ夜明け前の一番暗い時間。
異端審問官の検問?
いや、そんなわけねえよ、あいつら多分まだデーバの町だ。
ああ、嫌な予感がするな。
こんな時間に街道で待ち構えてるとか、ろくな連中じゃねえ。
ホント最低な仁義もねえ世界だぜ。
モンスターか? 悪魔野郎か? 盗賊の類か?
雑魚モンスターならいいなあ、ケツが痛いし楽な相手がいい。
俺は馬車のスピードを弱め、徐行運転をする。
すると、松明がスピードを上げて迫ってきやがった。
あの速さ、走ってくる人間だ。
距離にして、あと200メートルくらいか。
「おらぁ! 止まれやこの馬車野郎‼」
「ヒャッハー、教会の馬車だから金目の物積んでそうだぜ!」
あー、盗賊だったわ。
けど俺が異端審問官共とのトラブルで、どさくさまぎれに拝借したこのブロードソードだと、うっかりあいつらぶっ殺しちまって、得々ポイントがマイナスになっちまうし、かといって例のあの木刀は、荷台に置いてあるから、どうしたもんかなあ。
まずは、あの野郎らの様子を見て、やばくなったら魔法使って振り切るか。
俺は馬車のスピードを落として馬の動きを止めた。
そして松明を持った盗賊たちが姿を現した。
1、2、3、4、5、6、ん? 10人以上いやがる。
やべえな、馬車で轢いちまって逃げたほうがよかったかもしれねえ。
こっちにどんどん近づいてきやがるぜ。
ヘタ打ったか?
「おい、これ異端審問官の紋章入りの馬車だぜ?」
「やべぇよ、あいつらに手を出すの」
よっしゃ、腐っててもこの世界のサツだけはあるぜ。
このまま帰ってくれるといいんだが。
「どーしたんじゃ? マサヨシィ。なぜ馬車を止めたんじゃ?」
だああああああああ、最悪のタイミングで起きやがったよこの馬鹿。
頼むから、二度寝でもしてくれよ後生だから。
「おい、今さあ若い女の声がしなかったか?」
「マジか、こりゃあいただくしかねえなあ」
「へっへっへ、久々に楽しむか」
うわぁ、あいつらヤル気満々だよ。
若い女って言っても、毛も生えてねーような見た目14くらいのガキだぞ?
「どうして馬車を止めるんじゃマサヨシ? あ、なんじゃあいつらは!」
げ!
この馬鹿、馬車の荷台のホロめくって姿現しやがった。
せっかく俺がハッタリで、中に聖騎士いるぞってカマそうと思ったのに。
「ヒュー、ガキだが上玉じゃねえか!」
「馬車の運転手しかいねえし」
「運転手も弱そうな僧侶のガキだ」
「やべえよ、殺しと女回すの楽しみでしょうがねえ」
盗賊共がゲスな笑い声をあげた。
「あん? 今なんつったこの盗賊野郎共」
このマサヨシ様をぶっ殺して、ヤミーをヤッちまうだ?
一瞬で怒りの炎のような感情が頭の中で沸き立つ。
それを冷ますような、凍てつく木枯らしが心に同時に吹きすさぶ。
うん、俺をなめくさってぶっ殺そうとするならまだ我慢は効く。
転生前は良くある話だったから。
だが、俺の連れのガキも一緒に酷い目に合わせて?
それも年端もいかねえようなガキで楽しもうとかいうよお。
こいつらのゲスな根性は無理だわ、無理。
こういう奴らを許せるほど俺は人間出来てねえし。
今までそんな外道ら生かしてた記憶もねえし。
もういいわ殺そう。
ついでに金目の物でも持ってたらそれも頂こうか。
ぶっちゃけ、金策に困っていたし。
ポイント下がろうが知るか。
「おい、馬車の荷台に隠れてろ。それと外は絶対に見るな、お願いだから」
ヤミーは俺の声に振り返ると、俺の顔を見てビクリと震える。
俺の強烈な怒りと、凍てつくような殺気を感じたみたいだ。
一瞬怯えた表情をした後、俺に対して憐みの表情となる。
――そんな顔で見ねえでくれよ、おめーさんを守るためだって。
俺は思いながら、騎乗したまま鞘から剣を引き抜いた。
そして、無言で盗賊野郎共にニラミを利かせる。
「おい、あのガキ」
「ああ、目がやべーな」
「人殺しの目だ」
今更勘図いてもおせえよバカヤロー。
全員生かして返す気はねえんだから。
「どうするよ? 金目の物あんまり積んでねえように見えたぜ?」
「割に合わねえよ、見なかったことにして帰ろうぜ」
さあて、どいつからブチ殺してやろうかな?
前方の3人、右から順番に殺るか。
いや真ん中の野郎を叩き斬ったあと、返す刀で右、左でもいいかな?
「あのガキ、こっち薄ら笑いで見て剣持ってやがる」
「あいつやべー、こっちにかかってくる前に逃げちまおう」
俺は剣を握り締め、飛び掛かろうとした時だった。
右横から、白の木刀がスッと視界に入る。
振り返ると荷台のヤミーが、涙目になって首を振りながら木刀を俺に手渡そうとしてた。
わかったよ、使えばいいんだろこっちを。
俺はブロードソードを素早く鞘に納めると、ヤミーから木刀を受け取る。
さあて、ショータイムの始まりだ!




