第15話 どろぼう
「聖騎士様があああああああ」
「こんなこと上に報告できないしどうしよう?」
「こう見えてこの人、デヴレヴィ・アリイエ王国伯爵家のたった一人のお世継ぎなのに……」
「俺達教会から破門されて、この人の親に殺されてしまうかも」
「貴様らのせいだぞ神父見習い、貴様の妹がこの方を挑発するから!」
ガタガタうるせえ! この三下共が!
おっちんじまったもんはしょうがねえだろうが。
だって、事故だぜ事故。
俺達のせいでもなく、あんたらのせいでもねえ、この貴族の自業自得だよ。
「んふふふふふ。おっといかん。ぷくくくくくく」
俺はふいにヤミーを見やると、手で口を塞いで笑い出すのをこらえてやがった。
本当にコイツ、死の神にあるまじき性悪さだ。
いくら自業自得のアホとはいえ人が死んでるのに。
「おいヤミー、良くねえクセだぞそれ。あと冥界魔法で蘇生とかできる、例えば【黄泉がえり】みたいな、気の利いた便利な魔法とかねえのか?」
「アホかお主。そんな魔法あれば我も苦労せんわい」
だよなあ、そんな便利な魔法は神霊魔法上位にしかねえよなあ。
ダメもとで手を上げて聞いてみるか。
「すいませーん、異端審問官様の中で蘇生魔法とか使える方はおりませんか?」
「いたらとっくに使ってるわ見習いが! 司教以上ならともかくここには正神父しかおらん!」
チッ使えねーなこいつら。
この貴族の馬鹿親とやらに、全員殺されちまえよ役立たず共が!
俺はレオーネの無残な亡骸を見つめる。
ていうかこのアホは喧嘩中に勝手に死んじまいやがって。
俺に喧嘩売って突っかかった挙句、勝手にすっ転んで頭の打ちどころが悪かったなんて死因、雷にでも打たれて死んじまったようなもんだよな。
ん? 雷? いやちょっと待て、雷か。
今までイメージしたことが無くて使ったことがねえけど、もしかしたら……。
くそ、もっと早く思い出してたらおやっさんにも使えたのに!
「異端審問官様方、この神父見習いマサヨシならば聖騎士様を蘇らせる事ができるやもしれません」
俺が手を上げて言うと、審問官共がどよめき出した。
「見習いが蘇生魔法?」
「いや無理だろ?」
「司教様達でも使い手あまりいないのに」
「いや、あの男ならもしや」
ウダウダうるせえな、男のくせにこいつら。
とりあえず、このレオーネの身柄をテントに移そう。
それに、万が一失敗して死体が黒焦げになったらまずいしな。
最悪の場合、パニック起したこいつらに命取られる可能性もある。
俺はレオーネの体を持ち上げ、右肩に担ぎ上げた。
「マサヨシよ、そこの亡骸をどうするつもりなのじゃ?」
ヤミーが小声で俺にひそひそと聞いてくる。
「俺に考えがある。おめーさんは教会から俺達の荷物用意して、いつでも逃げられるようにしとけ」
俺が言うとヤミーはこくりと黙って頷く。
このマサヨシ、この世界で博才と幸運がどれだけあるか試させてもらうぜ!
俺はテントに入り、レオーネを仰向けに寝かせた。
「さて、このアホの心臓が止まっておおよそ5分ほど。確かこれを過ぎると生存確率がグンと減る」
そう、俺がこれから試すのは心肺蘇生法よ。
意外とこれをマスターしているヤクザもんは多い。
なぜなら、抗争中に目の前で親分や兄弟子分がやられて死にかけたらどうする?
絶対必須だよな、心肺蘇生と応急手当は。
あと、日頃の運動不足や不摂生で心不全したりする親分衆は多いし。
だから日本全国の極道組織は、いざって時のためにAED(自動体外式除細動器)を買って事務所や親分の家とかに置いてるし、若衆のみならず親分も心肺蘇生法をマスターする必要があるわけよ。
昔は消防の奴らサツと違ってチェック甘くて、若い衆や幹部連中に、上級救命講習をこっそりうけさせたり、各組に一人くらいの割合で応急手当普及員講習なんかも、組の金で受けさせたこともあったな。
確か、何だっけカーラーの救命曲線だっけか?
のんびり思い出してる暇はねえ、心臓マッサージにこの小僧の鎧が邪魔!
それと電気使うから鎧全部脱がすぜ、男の裸なんて見たくもねえが。
「!?」
鎧の下の黒のアンダーウェアから、二つのふくらみと突起が出てきた。
こいつは驚いた、このガキなんかおかしいと思ってたら女か?
しかもアホのくせして、色気むんむんのいい匂いもしやがる。
よし、救助のためだ、アンダーウェアを少し胸までまくらせてもらうぜ。
よっしゃ、よっしゃ、ついてるぜ俺様。
あの性悪ヤミーと違って胸もそこそこありやがるし、女救うのも悪くねえし役得役得っと。
じゃあ、指さしで安全呼称からスタートだ!
「周囲の状況ヨシ!」
「女の発育ヨシ!」
「俺にヨシ!」
そんで確か気道確保して、マッサージは鳩尾から指二本上あたりで、両手重ねて胸骨圧迫!
圧迫の間隔は、日本全国のお子様たちの正義の味方のマーチだったよな?
今の俺にぴったりのテーマだぜ、リズムに合わせて行くぜオラァ!
「そーだ♪ 忘れないで生ーきーる喜び♪ 愛と、勇気だけが任侠道~♪」
よし、30回以上圧迫した後、だいたいここで人工呼吸のマウストゥマウスよ。
この世界での俺様のファーストキッスが、アホで性悪女なのは癪だが。
人命救助よ、人命救助、俺のいた世界では刑法の違法性阻却事由で緊急避難行為ってやつさ。
へへへへ、行くぜコラァ。
レオーネと俺との唇が重なり合う。
よし、唇と唇が触れ合う久しぶりのこの感触、気持ちいい。
じゃねえよ! このアホの鼻つまんで二回息を吹きかけるんだ。
よし、胸が膨らみやがったし、肺に空気が行った。
俺の気分も最高にハイってやつだぜええええ。
あとはもう一度胸骨圧迫しながら魔力を高める。
「マ、マ、マサヨシ君♪ やーさしい極道♪ いーけみんなの夢、任侠道~♪」
よし、心臓マッサージを中止するのは本来良くねえが魔力を集中。
魔力のイメージは左手に空気中の水分、右手に超振動の風!
この部屋の水の分子を、風で摩擦させて俺の体通じて電力を高める!
ぬおおおおおおおおおおおおおおおお。
やべえええええ、出力高すぎた、早く放電しねえと俺が死んじまう!
あばばばばばばば、確か左が右鎖骨あたり、右が左肋骨周辺で、ちょうど心臓を挟み込む形で。
「自動体外式除細動!」
バスン!
衝撃音と共に、レオーネの体が真上に15センチ以上跳ね上がった。
ふいー、死ぬかと思ったぜ。
これで、心房細動が一時的にフラットになって正常なリズムになるはず。
よし、ここで心臓マッサージと人工呼吸をもう1セットよ。
そして体力を消耗した俺は何度か心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。
ちくしょう、俺の体力消費が思った以上に激しい。
次に使う機会がもしもある場合、その辺考慮しねえと人助けの前に俺が死ぬ。
何度目かの人工呼吸で、俺の肺にレオーネの息が逆流してきた。
「ゲホッ!ゲホッ!」
「ぶはっ、よっしゃあやったぜ! 心肺蘇生成功だ!」
しかし、このアホむせてせき込んでいやがるが。
意識なんてすぐには戻らねえだろうし、今の内トンズラすっか。
「お、お前は!」
げっ、もう目を覚ましやがった。
普通は最低でも昏倒か、脳への一時的な意識障害、最悪植物状態になるのに。
この世界の奴ら、あんな環境で育ったためなのか頑丈にできてやがんのか?
「!?」
あ……。
何かに気が付いたかのように、レオーネから冷や汗が吹いてるぞ。
レオーネは自分の右手の4指でそっと唇に触れてやがる。
やっべえ、俺との人工呼吸の感触残ってやがったか?
今度は自分の胸の中央に左手を当ててるな。
まあ、胸骨圧迫って結構力入れてやんねえと駄目だから。
そりゃあ俺が胸に触れた感触も残るよな。
そして、鎧をすべて脱がされたのにも気がついたようだ。
青い瞳から一瞬にして光が失われて死んだ目になってるよあいつ。
放心状態になってるのか?
なんか気まずいっていうか、これまずい雰囲気だよな。
こいつ確か平民を人間じゃねえ、ゴミクズみてーに下に見てたし。
そしてこの状況、何かされたって勘図いている筈。
ていうか、この反応見るに、こいつも俺と同様ファーストキッス?
いやな予感がする。
すげー嫌な予感がビンビンする。
昔若い時に浮気が女にバレて、包丁で腹刺された時と似た嫌な予感がする。
するとレオーネは涙を流しながら、唇から舌を突き出し口を大きく開けた。
やべええええ、こいつ舌噛んで死ぬ気だあああああ。
せっかく、俺が生き返らしたのに意味ねえええええええ。
ちくしょう、考えてる暇はねえ!
俺はレオーネの赤毛の三つ編みをグイっと左手で掴んで俺の顔に引っ張りこむ。
そして、右手で奴の頭をそっと抱えるように引き寄せる。
あと舌を噛もうとした上アゴが閉じないように、俺の唇でレオーネの口を塞ぐ。
0コンマ5秒の早業よ。
「んぅぅぅぅぅぅぅん、んんんんんん!」
あいてててててて、思いっきり背中に爪立ててきてやがったこの女。
よし、かくなる上は俺の超絶秘奥義のサクランボ結びテクニックで!
そして約20秒が経過した。
レオーネは、今度はトロけた顔して、放心状態となっている。
俺は優しくレオーネの頬をそっと両手で触れて、彼女の青い瞳を見つめてささやいた。
「生きろ、そなたは赤い月から生まれ変わった太陽の如く美しい」
よし決まった、転生前に女と見に行ったアニメを元にした口説き文句。
これで、こいつに大きな隙ができた。
「ご安心ください、あなたの美しさは私しか知らぬゆえ、ではおさらば!」
レオーネの鳩尾に、当身をくらわし昏倒させ、後は鎧を着させて終了っと。
俺が全てを終わらせテントを出る。
すると心配そうな顔をした異端審問官達がテントを取り囲んでいた。
あっぶねえ、こいつらに中に入られてたら危うくぶっ殺されてたわ。
あのレオーネとか言う女、以外にも人望はあったんだな。
「聖騎士様は?」
一番年長の審問官が聞いてきたので、俺は右手でテントをめくる。
「成功です! ただし意識混濁が見られるため安静が必要です」
「成功だあああああああ、いやっほおおおおう」
「あの見習いもしかしてすごい奴なんじゃ?」
「まさかとは思うが救世主様の再来?」
現金な奴らだぜ、さっきまでレオーネの親から殺されるってビビってたくせに。
まあいいや、この審問官共の今のノリなら詐欺にかけられそうだ。
「申し訳ございません審問官様方、神の御導きの啓示がありました。馬車を1台お借りいたしますが、よろしいでしょうか?」
「持ってけ見習い、いや我らの勇者! 君に神のご加護があらんことを!」
「あなた方に神のご加護があらんことを!」
よし、やっぱりあいつらやっぱり馬鹿だ。
ところで荷物まとめるように言ってたヤミーはどうした?
「おーい、ヤミー! ちんちくりんどこいったー」
すると、思いっきり後ろから蹴りを食らった俺は、ずっこけそうになる。
振り返ると頭陀袋と木刀、そして俺が旅に必要だってかき集めた手提げバックを持ったヤミーだった。
こいつ体が小さいくせに、人間状態でも意外と力が強いのかもしれないな。
「ぷっ、うふふふ、あはははは今の顔! いい顔じゃなあ我好みじゃ!」
この野郎、俺に無様なツラさせやがって、いるならいるって言えよクソガキが。
まあいいか、こいつらしいぜまったく。
俺はニコリと笑みをヤミーに浮かべると、ヤミーもはにかんだ笑みを浮かべた。
俺は魔力を回復させて、馬に風魔法でまたがり、ヤミーの手を引き荷物と一緒に馬車に乗せる。
でも、馬なんて確か俺が転生前に、たわむれで組所有の牧場で何度か乗っただけだが、多分何とかなるだろ。
へへ、盗んだ馬車で走り出す17の夜か。
得々ポイントが下がってるだろうなあ。
転生前の15の夜に、ヤクザ者のキャディラックをがめた時に比べりゃマシだけど。
いや、今回は盗んだわけじゃなく詐欺だっけか?
まあいいや、実際後ろにいるちんちくりんの神の啓示なのには違いねえ。
無罪、無罪。
「蘇生成功したようじゃのマサヨシよ! しかしどうやったのじゃ?」
「転生前に覚えた技使ったのさ」
「なんじゃ技って」
ガキには、まだ早い技だよバカヤロー。
そして俺は馬を走らせ、この仁義なき異世界の生まれ故郷を出発した。
「お前には教えてやんねえ、見ろよ夕日だぜ?」
「おお、奇麗じゃのう。我この世界で初めて見るけどいいものじゃ」
こうして、俺とヤミーの世界を救う旅が今始まりを告げた。
乙女の大事な「もの」を盗んでしまった事には一切気が付かずに。




