第13話 ガサ入れ
ちくしょう、どうしてこうなった。
傍らにいたヤミーは、俺を不安そうに見つめるが、この町にやってきた異端審問官共の動向を観察するため、今はこいつに気を使っている暇がない。
異端審問官共は聖騎士様をいれると総勢20名くらいで、調査と称してただでさえ悪魔がぶっ壊した教会を、あちこちをひっくり返しまくってさらにぶっ壊してやがる。
悪魔襲来に関する証拠品収集とか、事件現場を保全するとか全然考えてねえのな、このアホ共は。
外には、他の者が立ち入りできねえよう、ご丁寧にロープで封鎖して、審問官共は人様の教会の敷地内に、俺の許可なく勝手にテントみたいなのを、あちこちにおっ建てやがる。
そして馬車とか、勝手に人の敷地内に何台も止めやがって無茶苦茶だぞこいつら。
あん畜生、畑にまで馬とかいれやがって、おやっさんや俺が育ててた作物を勝手に食わせてやがるし。
そして一番でかいテントに、お高く気取りやがってる聖騎士様、確かレオーネとか言う小僧が入っていった。
ていうか、テントの建ってるほうはおやっさんや町の連中埋葬したところなんだが……。
「聖騎士様、審問官様、あの辺りには悪魔の犠牲になった神父様や町の人々を埋葬して……」
「神父見習いが我々に意見するとは身の程を知れ!」
俺は異端審問官の野郎に、頭を思いっきりはたかれる。
ちくしょう、こいつらぶち殺してえ。
あの辺りには町の連中やおやっさんを埋葬してるって説明したのに、こいつら本当に教会の連中かよ。
ていうか、こいつら俺がいた世界の警察と違って、捜索入る時に裁判所が発行する令状とかも見せやがらねえし、人権意識とか刑法とか刑事訴訟法だとかを遵守する姿勢もまるでねえというか、そういう法律の概念すらねえんだろうな。
「すいません、町の人達から微量ながら布施していただいた品々もありますんで、どうかご容赦を」
俺が言うと、審問官共は動きをぴたりと止めて、俺にその品のありかを聞いてきやがったから、俺は旅の準備で教会内に置いてあった品々をやつらに差し出す。
すると、町の連中が身に着けていた衣服や金目の物をこれ幸いと、審問官同士で取り合ってやがる。
日本のサツが優秀だったってのを、この仁義なき異世界で嫌というほど思い知らされるぜ。
よくものを知らねえアホ共や、外国組織連中が警察なんてチョロイなんて言ってやがるが、俺達ヤクザが敵対組織よりも神経を使うのが、そのサツの動向よ。
そりゃあ、俺達渡世人も口では警察なんて大したことねえよって言ってるが、実際は違う。
はっきりいって、俺がいた日本の警察ほど優秀な警察はねえと思う。
まず、こいつらのように賄賂が通用しねえ。
そりゃあ、中には俺たちヤクザが弱み握って金で手なずけたクソ馬鹿もいたが、大半の警察官には賄賂は通用しねえどころか、それを口実に逆にこっちをパクってきやがるからな。
あいつら給料安いくせに、自分の仕事に誇りと使命感とやらをもってやがるから全然融通が利かねえ。
それと情報収集能力が、俺達ヤクザよりも1歩どころか10歩くらい上回ってやがる。
例えば、新しく組に若い衆を組に入れたとする。
そうすると、どこからともなくこいつをチェックする、俺達専門のマル暴刑事が沸いて出てきて、身元洗ってコンピューターのデータベースに放り込んで管理しちまうんだ。
あとはその若衆に対して、おまわり達が徹底的に嫌がらせという名の職質だとか、捜査して埃が見つかればブタ箱にぶち込んじまうって寸法で、捕まるのが若衆だけならいいが、暴対法で使用者責任やらの法律を駆使して、親分衆までパクっちまうからあいつらやべーのさ。
あと、個々のおまわり達の能力がハンパじゃなく高い。
基本公務員の試験合格してくるような連中だから、馬鹿はいねえ、マヌケはいるが。
日本で起きる凶悪事件の検挙率が高いのは、社会的に大きな事件を解決できねえと、サツの連中の評判が落ちやがるから、面子のために優秀な刑事連中を集めて捜査本部って言う帳場を開く。
大きい事件だと、何千人っていう人数動員して徹底的にしらみつぶしに捜査するし、DNA解析やら画像分析、指紋やら足跡収集など、個々のおまわりたちの能力がハンパじゃないんだ。
はっきりいって、俺たちヤクザが真似しようともそんなもの無理よ無理。
あと、戦闘力が無茶苦茶高い。
ヤクザは喧嘩が強くねえとなめられるから、俺もシノギの合間に時間作ってボクシングやら柔術、得意の居合道や古流剣術とか習ってたし、若い衆にも教育の一環で武術を奨励してはいた。
暴力を奨励する気はまったくねえが、自分が殴られたら相手を殺すくらいの気合を持ち合わせてねえと、ヤクザ稼業はやってけねえからな。
ま、そんなだから世間は俺達を暴力団って呼ぶんだろうが。
だが、日本のサツはそれをはるかに上回ってやがる。
そこらにいる交番の下っ端のおまわり連中でさえ、柔道か剣道の初段以上は確実に持ってる根性者だ。
そんな連中をさらに強くするため、しょっちゅう稽古してて武道大会開いたりしてやがる。
あと、あいつらが使う逮捕術だとか銃火器の訓練にも余念がない。
そして警察は、自分たちの若衆達を機動隊とか言う武装警察にみんな放り込んじまって、徹底的にイジメぬいてマシーンのように仕立て上げ、俺達ヤクザがなんか抗争事件起こしたら、その機動隊がすげー数で押し寄せてきやがるし、その中から選抜された、特殊部隊とかいう殺し専門の連中が何100人もいるんだ。
俺の極悪組でさえ、殺し専門の連中が数十人いればいいくらいの規模なのに、馬鹿馬鹿しくなるぜ。
それに俺達ヤクザの総数は、義理事や状回しから察するに2、3万弱くらいで、カタギに偽装した連中や関係者も含めると最大10万はいるとは思うが、日本の警察の総数は30万だから勝てるわけがねえ。
まさに、国家暴力団桜田門組とはよく言ったもんだ。
転生前、俺クラスの極道ともなると、金と女好きの政治家連中を丸め込んで、サツに圧力とかかけてたが、近年じゃそのやり方も通用しなくなってきてるし困った話だぜ。
そんなわけで、俺達ヤクザは日本のサツの怖さを嫌って程知ってるし、分析には余念がねえが、半グレとかいう半端者のガキらや、外国の国際犯罪組織なんかは日本のサツをどこかなめてやがるけど、そのうちサツの怖さを嫌って程思い知らされるだろうなあ、俺達みたいに。
そんな日本のサツ連中と比べると、この審問官連中なんかはっきりいって隙だらけの雑魚だな。
付け入る隙をもっと見つけるためにも、こいつらの動向はよく確認しなきゃ。
「マサヨシよ、我のせいで余計な手間が増えてすまなかったの」
ヤミーが俺に小声で話しかけてきやがった。
「何も言うんじゃねえ。おめーさんのせいじゃなくて、俺の考えが甘かった。とりあえず今の状況を打開するのを考えてるから、おとなしくしてろよ」
俺は小声で返した。
人様に謝れるようになるとは、こいつも少しは可愛げが出てきたな。
「神父見習い、そこの小娘は何者か?」
ああ、早速来たよ審問官の職質が。
職質はビビって目が泳いだらおしまいよ。
特に日本のサツ連中なんてマヌケそうに見えて、そいつのしぐさや言動をよく見てやがるからな。
優秀なおまわりになると、カマかけてきたり言葉巧みに誘導してくるから絶対に侮れない。
「この旅の娘は、悪魔襲来前、教会に相談事に来ました。彼女も一連の事件の目撃者の一人です」
「黒い髪に黒い瞳をしておるな。神父見習いとよく似た顔立ちだが、何か関係があるのか?」
「いえ、彼女は生き別れの兄を探しているとの相談事でしたので、私も出自が孤児かつ未熟ゆえよくわからなかったことから、この教会で神父様が身柄を預かっておりました」
俺が答えると、審問官共が大爆笑した。
「神父見習いの未熟者め! おそらく生き別れの兄とはお前のことだぞ? この町の神父は優秀でそのことを見抜いておったかもしれぬな。そんなこともわからぬのだから、見習いのままなのだ」
そんなわけねえだろ馬鹿野郎共が。
ああこいつら殺してえ、一人残らずぶっ殺してえ。
「娘よ、お主も生き別れの兄が見つかってよかったなあ。我らに感謝するといい」
ああ、審問官の余計な一言でヤミーの顔がどんどん不貞腐れてきやがった。
頼むから、今は耐えてくれよ。
俺だっておめーが妹とかまっぴらごめんだし、この状況は俺も辛いんだからよ。
「しかし神父見習いのくせに、悪魔を撃退したとは信じがたいな。その状況を聖騎士様が知りたがっておるから、あちらのテントで聖騎士様へ報告するように」
よし、やっぱこいつら全員馬鹿だ。
さて次は聖騎士様の相手か、面倒くせえな。
「ちょっと、待っててくれな。馬鹿の親玉と話してくるから」
俺のささやくような言葉に、ヤミーは小さくうなずく。
そして、聖騎士レオーネのいるテントに近づき一礼した。
「神父見習いマサヨシです! 私めにお話があるとの事なので参上いたしました!」
「入れ!」
何が入れだ、偉そうにしやがってこの小僧なめやがって。
俺は思いながらテントの中に入った。
聖騎士レオーネは腕組しながらテントに用意された椅子に座ってる。
こいつら聖騎士は、この世界の王侯貴族共の子弟に、教会がしぶしぶ用意したポストだ。
その中から優秀な人材を、教会のエリートとして引き抜いて、重要ポストにつけるのさ。
日本で言うところの、キャリア官僚みたいなもんか。
そして、俺は白の鎧を着たこいつの容姿をさりげなく確認する。
若いな。
この小僧の年頃は、転生後の俺よりも一つか二つくらい上だろうか?
だが声変わりしてねえような、ガキっぽい声をしてやがる。
ヒゲも生えてねえから、もう少し若いかもしれん。
やや長めの赤銅色の髪を三つ編みにして、背丈は俺より少し低いから170センチ前後。
この俺様ほど美形じゃねえが、俺がいた世界じゃアイドルや役者でもいけるツラだな。
もう10センチ身長が高ければモデルができそうな、女と言っても通用しそうな中性的な顔立ちだ。
「神父見習いよ、悪魔討伐の状況について説明せよ」
「はい、黒い影のような悪魔で、炎魔法と鋭い爪で私に襲い掛かりました」
「ふむ、ここ西の辺境で目撃情報があった、我らが行方を追っていた中級悪魔に間違いない」
あの悪魔野郎おおおお、サツが来やがったのはテメーの仕業かああああ。
やっぱ、コンクリ詰めする前に殺しとけばよかったぜクソが。
「私と審問官全員でも苦戦が予想される悪魔を、お前はどのように撃退したのか?」
「魔法と神の奇跡です」
「ほう? 私のような貴族出身ではなく、お前のような見習いの雑魚に奇跡か?」
なんでこの世界の奴らはいちいち上から大物垂れやがんだ。
ていうか、これ話を聞きに来たってより取り調べだよな?
人様をつっ立たせたままにしやがって、サツの取り調べでも椅子に座らせてコーヒー出てくるぞ。
「確かに、もし本当なら奇跡かもしれぬ。お前のような平民出のクズが倒せるとは到底思えぬし。あの悪魔は我らの手によって倒されるべきなのに、我らの手柄を邪魔だてしおって、死ねばよかったのに」
……この野郎!
いや、落ち着け俺、キレるなマサヨシ。
話を合わせろ。
「なんだその目は? 何か不満か?」
「いえ滅相もございません。生まれつき目付きが悪いのと、読書のし過ぎで目が悪いのでご勘弁を」
この野郎、勘が鋭いな。
表にいる審問官連中よりも多少手強いみてえだ。
「平民出のクズが読書など無駄なことを。それで悪魔撃退はいかようにしたのだ?」
「はい私めの魔法と奇跡も起こり、裏の井戸へ追いつめ、土魔法を駆使して生き埋めにして殺しました」
「平民出のくせに土魔法とは生意気め。この場で殺してやろうか?」
殺してえのは俺の方だよクソ野郎。
俺はおやっさんしか教会を知らねえが、異端審問官共といい、こいつといい、存外教会組織もダメかもわからんな。
「どうもお前の話は信用できん。いい機会だから、どちらが上か外で貴様の実力を試してやろう」
「いえいえ、レオーネ様。私めが貴方様に勝てるわけもなくご気分に障りましたらご勘弁を」
俺はその場に跪き、土下座をする。
何が貴族だこのボケが。
上等だこの野郎、てめーのその奇麗なツラをボコボコにしてやろうか?
「いや、私は決めたのだ。神に愛される【勇者】は、代々枢機卿を家から出している、司教補のこの私に相応しいと思わんか?」
あん? おめーさんの信じてる神様の一人なら、そこの外で不貞腐れてるガキだぞ?
何が神に愛されてるだよ馬鹿野郎、この世界はとっくに神から見放されてんのに。
勇者とかどうでもいいから、さっさとタイマンはろうぜ小僧が。
「それでは僭越ながら、このマサヨシ。レオーネ様とのお手合わせを精一杯務めさせていただきます」




