第12話 サツが来る
翌朝、俺はこの世界の故郷デーバ村を離れるための準備をしていた。
旅で使用する、必要最低限の物を教会や町からかき集め、教会の礼拝堂でチェックする。
いくら俺が根性者とはいえ、荷物持って女連れで危険な旅をするとなるとキツイ。
次の町か村に着くまでに必要な、最低限度の荷量にしないと、いざと言う時迅速な行動が出来なくなる。
ヤミーはと言うと、飯はきちんと食べているようで、ポンチョ着て頭陀袋持って旅支度しようという気にはなっているから、あいつはあいつなりに旅への腹は括ってやがるようだ。
まだ俺に、口一つきいてこねえけどよ。
まあ、旅の間は嫌でもお互い助け合わなきゃならねえし、そこら辺はいいだろ。
そして僧侶服はそのまま着ていく。
これから任侠道をまい進する俺が、神父としての活動なんてする気はねえが、俺は教会本部で末席とはいえ僧侶見習いとして登録されているから、今後はこの世界の教会からサポートが受けられる筈だ。
組織のサポートがある無しはでかい。
極道社会もそうだが、組織の後ろ盾がないと、いざという時に非常に困る羽目になる。
例えば刑務所に入るにしたって、組織の人間かそうじゃないかで大きく違い、中に同じ組織の人間がいるのといないでは、待遇面がまったく違ってくる。
刑務所には俺も何度か入ったが、あそこは社会との関係が断たれ、好きな時に好きなこともさせてもらえねえような厳しい環境。
懲役の作業中に用足すにも、風呂入るのも、懲役同士で仕事上の作業工程話すのでさえ、刑務官先生の許可いるし、何をするにも団体行動で、いちいち班ごとに行進させられ、わき見でもしようものなら即懲罰よ。
そんでヘタ打って懲罰房なんかにぶち込まれると、後ろ手に革手錠されて、寝る事や飯食う事にも許可がいるようなそんな厳しい世界……地獄やこの世界よりゃマシだが。
けどそらそうだよ、社会で好き勝手に悪いことした連中を、世間から隔離する矯正施設なんだし。
一般の受刑者、特に一匹狼のような職業泥棒や、詐欺師に加え、日本と縁もゆかりもねえ外国人犯罪者や、今まで刑務所なんか縁がなかった連中にとって、苦痛以外の何物でもねえだろう。
その、一癖も二癖もあるような無法者連中をまとめるのがヤクザというわけさ。
組織力あるから、暴動でも起こされたら刑務官先生連中も、ひとたまりもねえわけよ。
そして、こういった懲役のヤクザ者同士の結束は強い。
俺も親戚組織の連中や、組は違えど仲良くなった兄弟から、色々世話になったり、助けあったりした。
あと受刑者には暗黙の階級があって、一番トップはヤクザ、その次は腕の立つ凶悪犯や政治家や思想犯に有名人、後はその他大勢で、底辺がヤクザだって嘘こいた奴や、元サツの半端者に、女を何度も強姦したり下着泥するような変態のピンク野郎で、最下層が子供相手に酷いことした外道以下のクズ共。
特に幼女だとか赤ん坊とか、社会が温かく見守る子供達に酷いことした奴らなんて許せねえだろ?
誰だってそう思う。
ヤクザな俺もそう思うし、社会もそう思うしこれは当たり前の感情だ。
そういう時には刑務所で必殺仕事人よ。
組織力でそんなクズを消すか廃人にしちまう。
俺も刑務所でその指令を子分に飛ばしてたし、刺激に飢えてる受刑者にとって最高の娯楽だしな。
この世界のお貴族様には、そういう連中が沢山いるから、ゆくゆくは俺がけじめつけてやる。
まあ、そういう事するにも組織力は必要不可欠さ。
あと、自分の縄張りの外で活動する時もそうで、俺も若い時に東京の繁華街で活動した事があった。
組織の後ろ盾があれば、その場所の縄張りの連中と揉めても、看板背負ってるかそうじゃねえかで相手との対応がまったく違って来る。
ほら、例えばあれよ。
俺は何処何処組の、何某親分から盃貰ってる若い衆よって啖呵切るやつ。
これはいわばヤクザの身分保障であり、組織が大きければ大きいほど、その組織の親分の名前が業界で通っているほど効力を発揮する。
若い奴は知らねえかもしれんが、時代劇の水戸黄門の印籠みてえなものって思ってもらっていい。
だが組織の後ろ盾無しに縄張り荒らしてりゃ、相手からぶっ殺されても文句は言えねえけど、俺はそれ狙いで偽装して破門した若い衆送って、わざと喧嘩の口実にしたこともあったな。
それに組織に属してれば、得られる情報力がまったく違ってくるから、せいぜい利用させていただくとするぜ。
おっと、その前に教会本部に今回の一連の件を報告しなきゃ。
俺はおやっさんの部屋まで行くと、魔法の水晶を操作する。
だがどうやってやんだっけ?
電話やFAXみてーに、ボタンなんてねーしな。
試しに手を触れてみよう。
「パスワードを入力してください」
おいいいいいいい。
おやっさんセキュリティ意識高えよ!
パスワードとかわかんねえええええ。
とりあえず、手で触れると文字が浮かぶ。
どうする?
まずはこの町の名前を入力すっか。
「あと2回間違えると、水晶は砕けます」
だあああああああ、間違えたあああ。
しかもセキュリティ無駄にすげえよコレ。
じゃあ今度はおやっさんの名前を。
「あと1回間違えると、水晶は砕けます」
やべえええええ、下手打っちまうううう。
ちくしょうが、これでダメならあとは知るか。
「マサヨシっと!」
俺の名前を入力したらメニューが開いた。
涙が出てきそうだ。
おやっさん、愛してるぜ。
しかしスマホみてーな操作板だなこれ。
転生前は見栄でスマホ使ってたフリしてたけど、老眼で文字盤見えねーし、間違い電話かけまくったから、ムカついて叩き壊したっけ。
そしたら、一番の子分のヤスが金無垢でダイヤ散りばめたガラケーにしてくれたんだよなあ。
あのヤロー、今頃俺を殺した後は現世で何してやがんだろう。
まあ、そんな事は置いといてとりあえず、連絡先はと……。
面倒くせえ、リダイアル表示押してみるか。
「ああん素敵な方。あなたも朝からこういうの好きなんでしょう? 今から私のパンティを……」
艶のある声の女と会話がつながり、俺は通話を即切りした。
おいいいいいいい。
おやっさんの意外な秘密知っちまったよコレ。
知りたくなかったよおおおおお。
さっきの感動返せ馬鹿野郎おおおおおお。
まあいいや、昔俺の若い衆がシノギでやってた、ツーショットダイヤルまがいは置いといて、教会本部に報告しねえと……あったコレか。
「教会本部です、そちらの所属とお名前を」
本部の受付嬢にかかったようだ。
「デーバ町神父見習いのマサヨシです! 緊急事態発生しました! 至急悪魔対応本部へ取り次ぎを!」
俺はワザと焦ったフリしながら通信する。
まあ、もう緊急事態は昨日終わってるがよ。
ヤクザと役者は紙一重とはよく言ったもんだ。
「落ち着いて! 何が起きましたか!?」
よし食いついた。
「町に悪魔が襲来して撃退に成功しましたが、神父と町の人達が全滅しました! 私も重症を負い、旅の少女も保護を求めてます! 悪魔に関する重要情報も得ました! 至急取り次ぎを!」
嘘は言ってねえ。
実際その通りの状況だった。
「おお神よ、なんたることが。すぐに対策部署へ取り継ぎますので少々お待ち下さい!」
保留用の不気味な讃美歌みてーな音楽が流れる。
そこは俺が元いた世界と同じなんだな。
「教会本部大司教ウサンだ。話は聞いた。悪魔を撃退したとは本当か?」
俺が貧乏ゆすりしながら待ってると、中年のオヤジが通信に出た。
大司教か、かなりのお偉いさんだな。
俺の所属する教会は、大司祭たる教王がトップで、その下が司祭または枢機卿。
後は大司教、司教、司教補、正神父、神父、そして神父見習いとなっている。
大司教クラスだと極道だと直参本部長クラス、カタギの会社だと本社の部長クラス相当か。
「はい、本当です。黒い影のような悪魔です。シャドーデーモンと名乗り、鋭い爪と火炎魔法を使って町の人達や、神父様を……」
「おお神よ。しかし見習いが撃退とはにわかには信じられぬが、もしも本当なら神父見習いから正神父、いや司教補にせねばなるまいな」
いきなり階級飛び越えて出世しちまったよ俺。
まあこの教会もヤクザと同様実力主義だが。
「して、お主が手に入れたという重要情報とは?」
「はい、悪魔共の首魁はルシファーと名乗る大悪魔で、4つの軍団を率いていると言われる情報です。そして空にあった青い月は悪魔の前線基地であったとの情報も」
あの悪魔には悪いが、早速情報を利用させてもらうぜ。
俺の今後の旅路と将来と安全の為にな。
あとは、近隣へ悪魔連中の情報収集をするって適当なこと言って俺の旅路のスタートよ。
「素晴らしい情報だ! 救援だが案ずるな見習いマサヨシよ。デーバ町の神父から空の色が変質し、赤い月が変容した件で、【神の奇跡】として認定するよう報告がなされておった。しかし我らが教王様や枢機卿殿は、これが悪魔による仕業との疑いが捨てきれなかったため、王国西域で活動する、聖騎士率いる異端審問官たちがそちらに向かっている」
え? 異端審問官!?
「見習いマサヨシは、異端審問官達の調査活動に協力し、今回世界で起きた変異を調査せよ。私とお主に神のご加護があらんことを」
大司教からの通話が切れてしまった。
神ねえ、その神なら今は俺にふてくされて、話もしてくれねえよ。
しかし異端審問官かあ、まいったぞこりゃあ。
異端審問官とは、教会でも最大勢力の連中で、世界各地の王侯貴族や市民への捜査権限を持ってる。
場合によっては教会本部の許可なく即席裁判や、刑の執行も認められる教会の暗部。
そして、強引な捜査や拷問で、世界各地で冤罪疑惑起こしたり、貴族との癒着も問題となってる連中。
ってサツじゃねえかよこれええええええええ。
くそ、魔界を攻撃して捜査に乗り出すような奴らなんかいねえと思ってたけど、この世界にいたわ。
あんな評判最悪なやつらと関りができちまったら、俺がこの世界で任侠道を貫くことなんか無理だ。
よし、ここは適当な理由をつけて身柄かわすしかねえ。
ほとぼり冷めたところで、教会にはもっともらしいこと言って、かわしときゃ問題ねえだろう。
俺は魔法の水晶を持ち出すと、ヤミーのもとへ向かう。
「おい、ヤミー! やべえことになった。今すぐこの町から出るぞ!」
俺が声を掛けると、ヤミーは一瞬こっちを向いた後、プイと顔を明後日の方向に向ける。
めんどくせえ、やっぱりくそめんどくせえぞこいつ。
すったもんだする事、小一時間が経過した。
俺は強引にヤミーの手を引いて荷物まとめて教会を出ようとした時だった。
教会のドアが蹴破られ、真っ黒な僧侶服着た異端審問官連中と、真っ白の中世風の鎧着た聖騎士のヤローがずかずかと土足で教会に入ってきた。
「教会本部聖騎士隊所属の、レオーネ=ド=コルネリーアである。神父見習いマサヨシよ、教会本部からの情報で調査と救援に参った!」
……帰ってくんねえかな。




