第9話 武器
新しくなった世界で俺は日課の朝のランニングに出る。
今日はいつものひのきの棒の他に、折角だからヤミーが持ってきた、笏を袋に入れて肩掛けていた。
東の空がうっすら明るくなってくる。
転生した世界で俺が見る初めての夜明け。
町の連中、前はただ息を吸って生きてるだけの、死んだ目をしてた奴らだったが、空が変わっただけであんなに喜んで涙を流してやがった。
正直言って嬉しかったし、もっと助けてやりてえと思った。
なんせ俺は任侠道を貫くために、弱きを助け、強気を挫くためにこの世界に来たからな。
俺は気分が上がってペースを上げようとした。
すると後ろからゼーゼー息を上げながらヤミーが俺のランニングについてくる。
「ま、待つのじゃああ、貴様足が早すぎるのじゃあああああ」
ヤミーがバテバテになって、今にも足がもつれそうになりながら、小走りでついてくる。
教会近くの岬から、朝日がゆっくり登り、海を赤く染める。
「なんだ、普段冥界じゃ朝日が見れないなんて言ってやがったから、見てえってついてきたのはお前だろうが、どうだ綺麗だろう?」
「なんでそんなにテンション高いんじゃ、歩けば良かろうに!」
俺は一旦走るのをやめて立ち止まってヤミーを見やった。
「そういやオメーさんに、言っとかなきゃならなかった」
「なんじゃ、また我を馬鹿にする気……」
俺はヤミーが何かいい終わる前に、深々と頭を下げる。
「ありがとう、オメーさんが来てくれて助かった。いや、俺だけじゃねえ、この世界の奴らも」
「え?」
俺の感謝の言葉に、ヤミーが目をパチクリと瞬きする。
まさかこの俺から感謝の言葉なんか出るのを思ってもみなかったんだろう。
「俺よお、イキがって任侠道貫きてえって転生したけど、くさっちまってた。いや、くさってたのは転生前からだ。転生前でも転生後でも、環境や人のせいばっかで、人や社会や世界を恨んでて……」
ヤミーは俺の顔をジッと見てる。
俺の言葉が信じられねえ顔で、嘘を言ってんじゃねえかと疑っている顔だ。
思えば、こいつもかわいそうな娘だ。
神として生まれ、好き勝手やって、目にする人間は裁判の間に来るようなクズばかり。
人様から感謝される事なんかなかっただろう。
この俺も同じよ。
だから……。
「だからよお、義理ができちまったからよ、この世界と一緒に、おめーさんも助けてやるぜ」
俺は、手に持ってたひのきの棒を握りしめる。
すると、空気も読まねえでヤミーの足元に湧いて出てきた、骸骨のモンスター、スケルトンの頭蓋骨目がけて振り下ろした。
頭蓋骨が粉砕されたスケルトンは、全身が砂の様になって消え去った。
「せっかくいい感じで人が話してるときによ、俺の縄張りに毎回毎回湧いてきやがって、ムカつくんだよ馬鹿野郎‼」
次々土から湧いてくる、スケルトンや腐った死体に、俺はひのきの棒を振り下ろす。
こいつらが今日も沸いてくるってことは、まだこの世界が救済されてないという事だ。
すると、今まで使い倒してきたひのきの棒がぽきりと折れる。
モンスターは、後5体。
俺は、右手に炎をイメージし、左手に風をイメージした。
「熱風」
俺が魔法を唱えると、モンスター共が炎に包まれた。
こいつら不死系モンスターに効果抜群の技で、炎の出力を中程度にして突風を起こすだけで敵全体を攻撃出来て魔力を節約できるから、お得な魔法。
もっとも、人家の前や屋内で使えば火事を起こしちまうから町じゃ使えねえが。
「後ろじゃ!」
ヤミーが俺の後ろを指さす。
振り返ると、いつの間にかスライム共が沸いている。
合体でもされるとめんどくせえ。
もう一発、熱風を放つと、スライム共は砂の様になって消え去った。
「すまねえ、助かった」
「べ、別に我は貴様を助けるために言ったのではない。その、貴様がやられるとただの人間になった我の身が危ないからじゃ」
素直じゃねえヤローだな、めんどくせえ。
まあいい、それと……。
「なあ、ヤミーよお。いい加減俺を貴様だとか外道とか呼ぶのやめてくれねえか? 犬猫にだって名前はあるんだぜ? 俺には、この世界で名付けられたマサヨシって名前があるんだ。それにヤクザもんの清水正義はもう死んじまってるし、頼むよ」
「わかったわい、その……マサヨシ」
よし。
ようやっとこの俺を名前で呼びやがった。
あと、もう一つ試したいことがあった。
それは、俺が背中に背負った笏が、どんな武器になるかという興味だ。
ヤミーが持った場合、一見するとおもちゃのバズーカみたいな、ふざけた外見の戦略兵器だったが、俺が持つとどうなるんだろう。
俺は笏を取り出すと、魔力を込める。
すると、笏は白い光を放って姿を変え始めた。
「!?」
出てきたのは、白樫で出来たような白い木刀だった。
………ひのきの棒と変わんねえじゃねえかあああああああああああ
ちくしょう、銃とか剣とか期待したのに、木刀かよおおおおおお
しかも観光地で売ってるやつ見てーに、ご丁寧に柄に手彫りみてーにマサヨシって入ってるし。
いや、でもすげえ武器かもしれねえぞ。
試しに俺は、その辺の岩に向けて木刀を振りかぶって叩いてみた。
ガツン!
「あイテ!」
俺の右手に痛みとしびれだけが残り、岩は傷一つついてなかった。
やっぱただの木刀じゃねえかああああああ。
ちくしょう、こんなもんモンスターをどつきまわすくらいにしか使えねえ。
「ぷっ、あはははははははは。マサヨシよ、何をやっておるのじゃ? 新しいギャグのつもりかの」
くそが、ヘタ打っちまったか。
俺は顔面から火が出るくらい恥ずかしくなって、木刀を袋に戻した。
「それと、マサヨシよ。お主は世界を救うなどと大望を述べておったが、どうする気なのじゃ?」
そう、そこが問題だ。
世界を救うと口で言うのは簡単だが、問題はどう行動するか。
だが、俺も転生前は清水正義の名前で日本の極道社会でその名を轟かせた男。
清水……清水……お? そうだ。
「そこなんだよ問題は。だから、ここが大陸の北端で一番西にあるならよ、東に東に旅して人助けしながら名前を売る。道中で悪さするモンスターや悪党どもをどつき回して男を売る作戦よ、どうよ?」
江戸時代にいた東海一の大親分、「清水次郎長」が成り上がった方式で行く。
この大親分も、もとは無名の無宿人で、東海道を旅して、男を売りながら子分を作り、東海一の大親分としてその名を轟かせた。
任侠道の原点でもあり、この俺と同じ「清水」という名を持っている。
俺が手本にするには、最適の名親分だ。
「マサヨシよ、頭大丈夫か? それでは何年も何十年もかかるのでは?」
「うるせえ、そうと決めたらおやっさんに頭下げて、これから旅支度よ! 教会に戻るぜ」
俺は意気揚々と旅支度をしに協会に戻る。
だが、俺が戻ると教会がひでえ有様にぶっ壊れていた状態だった。
「マサヨシよ、これは一体?」
ヤミーは不安そうに俺を見やる。
ちくしょう、どうしてこんな事に?
おやっさんは、無事なのか?
「おとうさーん!」
俺は大声で叫びながら、教会に駆け寄ると、教会の前でおやっさんが血まみれになって倒れている。
その光景を見て、一瞬頭が怒りで沸騰し、冷静さを失いそうになる。
こんなふざけた真似をされて、黙っていられるほど俺は人間ができてねえ!
すると、俺に向かってラジオのノイズのような不快な声がした。
「くっくっく、見たぞ。お前たちが、魔界を攻撃したところを……私は見たのだ」
朝日に照らし出された教会の影から、真っ黒い影のようなものが姿を現す。
影はだんだんと実体化し、人型の真っ黒い悪魔へと姿を変えた。
「我が名は魔王軍、地上攻撃隊が一人、シャドウデーモンである。この町はすでに私の手中に落ちた、残すは貴様らだけだ」




