第五章 魔族の喧嘩3
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(いつ以来だ……この高揚感は?)
そう胸中で呟き、真治は着ぐるみの中で荒々しく笑みを浮かべる。
壁に叩きつけられた衝撃で、全身に確かな痛みが疼いていた。痛覚を覚えた脳みそが警戒を促してくる。全身に満たされていく緊張。キリキリと引き締められていく筋肉。噴き出したアドレナリンに、意識が焼かれて溶けてしまいそうだ。
だがその感覚こそが心地よい。
(ずっと退屈だった。どいつもこいつも弱っちくて話にならねえ。勝つことが分かってる喧嘩ほど詰まらねえものはねえ。充足感がまるでねえんだよ)
天然チート。何とはた迷惑な資質だろうか。誰もかれも弱者に変えてしまう。強制的に自らを最強に押し上げてしまう。弱い者イジメなどしたくない。自分はずっと――
対等の喧嘩がしたかったのだ。
(ようやく巡り合えたってわけだ。全力をぶつけてなお、足りるか分からねえ相手が)
神経を最大限に集中させて、正面の相手を鋭く見据える。黒髪を肩口で切り揃えた、赤い瞳を持つ女。頭に生やした三角耳。背後で揺れる黒い尻尾。黒のロングコートに包まれた女性らしい細い体。だがそこに湛えられた戦力は、屈強な男をも遥かに凌ぐ。
マリーズ・ケルベロス。
こちらの攻撃を受け止めた両腕を脇に下ろし、マリーズが赤い瞳を鋭利に細めていく。
「……本当に私に勝てると思っているのか?」
「ああ?」
構えを崩さずに訊き返す真治。マリーズが苛立たしそうに鋭く舌打ちをする。
「闘争を本質とする戦闘特化の魔族。ケルベロス。私はその一族を束ねる長であり、最強のケルベロスだ。その私に、無名の魔族である貴様ごときが勝てるはずがないだろ」
鋭い牙を剥いて吐き捨てるマリーズ。凶暴な眼光が瞬く彼女の赤い瞳。そこには一片の迷いの色もない。自身の言葉を心より信じているのだろう。
或いは――信じようとしているのか。
「……下らねえよ」
マリーズが表情を歪める。不快な気配を見せた彼女に、真治は呆れて嘆息した。
「ケルベロスだとか、一族だとか、そんなこと関係ねえだろ。ネームバリューで喧嘩してんじゃねえんだ。いま喧嘩してんのは誰だ? 俺とテメエじゃねえのか? 流王真治とマリーズ・ケルベロス。この二人のどっちが強えか決めよってだけだろうが?」
さらにまた表情を歪めるマリーズ。その彼女に構わず、真治は口調を強めていく。
「俺が喧嘩してえのはケルベロスなんかじゃねえ。テメエ自身だ。マリーズ・ケルベロスなんだよ。詰まんねえ話で喧嘩を中断させてねえで、さっさと掛かってこいよ」
「……貴様に……貴様らなんかに……」
赤い瞳を憤怒の色に染め上げて――
「ケルベロスとして生きてきた私の、何が分かるというんだ!」
マリーズ・ケルベロスが駆ける。
それと同時に、真治もまたマリーズへと駆け出した。急速に縮まる二人の距離。真治とマリーズが同時に右拳を突き出す。互いの拳が衝突し、圧迫された空気が周囲に弾けた。
マリーズの拳を受けた衝撃が、踏みしめていた地面を砕く。真治は歯を食いしばると、足をさらに踏み込んで、マリーズの拳を押し返そうとした。だがここでマリーズがさっと身を引く。つんのめり体勢を崩す真治。マリーズが両拳を頭上に掲げ――
こちらの背中を強かに殴りつけた。
「――ぐっ!」
背骨が折れるほどの衝撃を受け、顔面から地面に叩きつけられる。肺が潰されて息が詰まるも、すぐさま体を横に転がした。こちらの頭部を掠めて、マリーズの踵が地面に打ち込まれる。爆ぜる地面に冷や汗を掻きつつ、左腕を伸ばしてマリーズの足首を掴む。
「――な!?」
地面に体を転がしたまま、左腕を振るいマリーズを地面に叩きつける。背中を地面に叩きつけられて、マリーズの唇から空気の漏れる音が鳴る。真治はすぐさま立ち上がると、マリーズの足首を掴んだまま、右拳を振り上げた。足首を掴まれたマリーズは身動きができない。そう考えていた真治だが――
直後に視界がブレる。
マリーズが足首を掴まれたまま体を捻じり上げ、掴まれていない足でこちらの側頭部を蹴りつけてきたのだ。想定外の反撃を受けて、マリーズの足首から手が離れる。たたらを踏みながら体勢を立て直す真治に、起き上がったマリーズが迫りくる。
「うぉおおお!」
咆哮を上げながら、マリーズが右拳を突き出してくる。真治は瞬時に覚悟を固めると、正面からマリーズに接近した。マリーズの拳が眉間に突き刺さる。ぐらりと意識が揺れるも何とか耐え抜き、大きく足を踏み込んでそのままマリーズに体ごとぶつかった。
着ぐるみの大きな体では繊細な体捌きができない。ならば逆にその体格を生かして、マリーズの体を抑え込む。密着さえすれば力で負ける気はしなかった、のだが――
「おお!?」
足が宙に浮いた。マリーズが背中を反り返らせながら、こちらの体を抱え上げたのだ。典型的なプロレスの技。バックドロップ。マリーズの怪力で頭部から地面に叩きつけられては、さすがに無事では済まない。
真治は上下逆さまの体勢で、咄嗟に両脚をぐるりと回転させた。振られた両脚の遠心力により体をスピンさせて、こちらを掴んでいるマリーズの両手を強引に振り払う。さらにそのまま空中で体を捻じり、真治はマリーズの背後にダンッと両足から着地した。
ぎょっと表情を強張らせるマリーズ。自身の妙技に我ながら感心しつつ、真治は無防備なマリーズの背中を蹴りつけた。弾かれたマリーズの体が地面を転がり、だがすぐにまた体勢を立て直す。ダメージはさほどないらしい。その事実に興奮がさらに高まる。
「まだまだ行くぞコラアアアアア!」
「――チッ! 舐めるなああああ!」
互いがまた接近して拳を突き出す。こちらの頬にマリーズの拳が打ち込まれると同時、こちらの拳がマリーズの頬を叩く。互いが殴られた衝撃に一歩後退して、すぐにまた大きく足を踏み込む。そしてまるで示し合わせたかのように、互いが右足を振るい互いの脇腹を蹴りつけた。苦悶に息を吐き出しながら、互いが地面を転がり距離を空ける。
「――っ……もういっちょ行くぞオラアア!」
「――っ……しつこいんだよ貴様はあああ!」
すぐさま立ち上がり接近。また互いの拳が互いの顔面を叩く。首から上がなくなるほどの衝撃。だが今度はお互いに後退などせず、地面に根を張り踏みとどまった。そしてそのまま何度も拳を振るう。技術もクソもない。ただ意固地になり殴り合う。口から血を吐こうと、顔面が腫れ上がろうと、攻撃の手を休めない。防御をかなぐり捨てた――
原始的な喧嘩だ。
「どぅらあああああああああ!」
「このぉおおおおおおおおお!」
互いが拳を打ち上げて、互いの顎を同時にかち上げる。互いの体が浮き上がり、そのまま十メートルほど後方へと放り出されて、背中から地面に落下した。
荒い息を吐く。肋骨を痛めたのか、呼吸するたびに鋭い痛みが胸に走る。だがさほど気にならない。そのような些末な痛みよりも、全身に叩きこまれた痛みが、大きな波となり脳に押し寄せているからだ。真治は焼けるような息を繰り返し吐きながら――
「――くっ……ふ、はは……ははははははははははははははは!」
声を上げて笑った。
「……何が……そんなにおかしい」
舌打ち混じりの声が聞こえた。真治はひとしきり笑うと、ごろんと体を転がしてうつ伏せとなり、腕を伸ばして上体を起こした。膝に力を込めて、フラフラと体を揺らしながら立ち上がる。頭を振って眩暈を払い、真治は背後に振り返った。
視線の先には、膝を震わせながら立つ、マリーズの姿がある。
荒い息を吐きながら、赤い瞳を鋭く尖らせるマリーズ。その彼女の瞳には、未だ萎えることのない闘志が瞬いている。それを理解して、真治は荒々しく口元を曲げた。
「そりゃあ笑うさ。こんな楽しい喧嘩をしてんだぜ? 面白くねえわけがねえだろ?」
「……イカれているのか。貴様は?」
「テメエは違うってのか?」
真治のこの一言に、マリーズが息を止めるようにして沈黙する。ギラギラとした凶暴な眼光を輝かせている赤い瞳。その奥を覗き込むように見据えて、真治は言葉を続けた。
「詰まらねえわけがねえよな? じゃなきゃよ、あんな真正面からの殴り合いになんざ応じねえだろ。楽しんでんだよ、テメエも。だったら笑っちまえばいいだろうが」
表情を固めたまま、マリーズがこちらを睨み据えている。楽器を掻き鳴らしながら闘技場をパレードする人形。喧嘩を遠巻きに見つめている野次馬。それら視界に映る雑多な情報を排除して、真治はただ一心に、マリーズの表情の変化を見つめていた。
マリーズがゆっくりと息を吐き――
「……ケルベロスは闘争に生きる魔族。ゆえに闘いをこよなく愛している」
ふっと小さな笑みを浮かべた。
「……だから分からない。この戦闘における昂ぶりが、ケルベロスゆえの本能なのか、それとも私自身の感情なのか、分からないんだ」
自嘲するように微笑むマリーズ。その彼女の表情は、単純な闘志だけを湛えていたこれまでのものと異なり、複雑な感情の入り交じる不安定なものであった。彼女の赤い瞳に輝いていた眼光が陰りを帯びていく。真治はその様子を眺めつつ――
「……んなもん、どっちでもいいだろうが」
マリーズの言葉をそう軽く一蹴した。
自嘲の微笑みを打ち消すマリーズ。真治は肩をすくめて、苦笑しながら言う。
「面倒クセエこと考えんな。テメエが感じたもんは全部テメエのもんだろ。ケルベロスの本能だか何だか知らねえが、そう感じたのなら素直に吐き出しちまえばいいんだよ」
「……感じたことを素直に……か」
「俺はテメエに勝ちてえ。テメエの信念も誇りも覚悟も感情も、全てをこの力でねじ伏せて勝ちてえ。完膚なきまでの勝利。それが俺の素直な感情だ。テメエはどうなんだよ?」
「……私は」
マリーズの赤い瞳。そこに瞬いている眼光。陰りを帯びていたその眼光が――
また強い輝きを取り戻していく。
「生意気な貴様を捻り潰したい。抗いようもない圧倒的な実力差で、貴様が這いつくばる姿を見てみたい。それがこの私――マリーズ・ケルベロスが抱いている感情だ」
「……いいね。そうこなくっちゃよ」
皮肉でも何でもなくマリーズの言葉を称賛する。マリーズが唇を曲げて――
その表情に会心の笑みを浮かべた。
両手を腰に添えるようにして、マリーズが構えを取る。これまでにない緊張感。チリチリと肌を粟立てる気配に、真治は瞬きも忘れてマリーズを見つめていた。ざわりとマリーズの毛が逆立つ。濁りのない赤い瞳を一際強く輝かせて――
彼女が力ある言葉を発した。
「マークェス・オブ・ケルベロス!」
この直後に――
マリーズの全身を青白い炎が包み込んだ。
マリーズから吹き荒れる突風に、咄嗟に両腕を前方にかざす。舞い上げられた土埃に苦心しながらも、真治はマリーズの姿を視界の中央に据えて決して離さなかった。
マリーズを包み込んでいる青白い炎が、心臓のように鼓動を打ち始める。大きく膨れ上がり僅かにしぼみ、また大きく膨れ上がりまた僅かにしぼむ。これを幾度か繰り返し、青白い炎が徐々に膨張していく。それはまるで――
ひとつの生命が生まれ成長しているようだ。
ここでまた変化が起こる。膨張した青白い炎が、今度は押し固められていくように体積を縮めていき、その密度を高めていく。より明白な輪郭を成した炎が、マリーズの体を這うようにして移動していき、彼女の両手に集められていく。炎がぐねりとうごめき――
マリーズの両手で狼の頭部を形成した。
「序列24位。悪魔ケルベロスより伝承された、ケルベロス族だけが使用可能な魔法だ」
青白い炎を身にまとい、荒々しく牙を剥くマリーズ。彼女の頭部と、青白い炎で形成された狼の頭部。その三つの頭部でこちらを睨み据え、彼女は言葉を続けた。
「悪魔ケルベロスの力の一部を召喚して、この身にまとわせる。効果は単純明快。膂力の倍増だ。この魔法を使用している間、私の身体能力は数倍にまで跳ね上がる」
膂力の倍増。確かに単純だが、それだけに小手先で対処できるものではない。ただでさえ強靭な肉体を誇るマリーズがそれを使用すれば、その効果は絶大と言えるだろう。だがここでマリーズが、表情に浮かべていた微笑みに僅かな苦みを混ぜた。
「だが……私は未熟だ。この魔法を完全に制御できない。これを使用している間、私の魔力と体力は無尽蔵に奪われていく。もっても――数分が限界だろう。つまり貴様は、その限界が来るまでの間、ただ逃げ回るだけで私に勝利することができるわけだ」
マリーズが赤い瞳を細めて、こちらを試すように尋ねてくる。
「さあ……貴様はどうする?」
詰まらない問いだ。答えなど決まり切っている。真治は大きく息を吸い込み――
「当然――正面から受け止める!」
腰を落として構えを取る。どこからか「この馬鹿」と呟く声が聞こえた気がした。マリーズが浮かべていた笑みを深くして、身にまとった青白い炎を歓喜に猛らせる。
「貴様なら――そう言うと思ったぞ」
「時間がねえんだろ!? 早く来やがれ!」
「言われずとも――行ってやるさ!」
マリーズの足元が大きく爆ぜて――
彼女が高速に駆けた。
恐ろしいほどの速さだ。もとより迎えうつ覚悟であったが、仮に回避しようとしたところで難しいだろう。こちらの喉元に喰らいつくようにして、両手を突き出して迫りくるマリーズ。真治は足に踏ん張りを利かせると、突き出された彼女の両手を、こちらも両手を伸ばしてガシリと受け止めた。だが――
一切の抵抗もできずに、突進するマリーズに押されて、体が後方に引きずられていく。
「――ぐっ、がああああああああああ!」
全身の筋肉を総動員して、必死にマリーズの力に抗おうとする。だがいくら足を地に下ろそうとも、地面は紙屑のように砕けるだけで、踏ん張りを利かせることができない。何より彼女の突進に引きずられているだけでも、全身がバラバラに砕けてしまいそうで、それを押し返そうとする余裕などなかった。
地面を砕きながら後方へと引きずられ、背中から闘技場の壁に激突する。その衝撃だけで意識が僅かにかすんだ。だがマリーズが追撃の手を緩めることはない。そのまま真治の体を分厚い壁に埋め込んでいきながら、止まることなく前進をなお続けていく。
「終わりだ――シンジ・リュウオウ!」
声を荒げるマリーズ。その彼女の赤い瞳。そこに映る自身の姿。彼女の強大な力に捻り潰されつつある脆弱な自分。真治はその赤い瞳に映る自分自身に向けて――
呆れて呟いた。
「……こんなもんじゃ……ねえだろうが?」
マリーズの眉がピクリと跳ねる。彼女の強大な力により、真治は何の抵抗もできずに壁に叩きつけられた。彼女は勝利を確信していただろう。だからこそ戸惑いを覚えたはずだ。ただ壁に埋められていくだけの無力な男。その男の体が――
僅かなりと前進したことに。
「こんな……こんなもんじゃねえ……俺の全力が……この程度のはずが……ねえ」
すでに全身の力を絞り尽くしている。だがそこからさらに一段深く、体の奥底から力を捻り出す。今まで数えきれないほどの喧嘩をしてきた。だが全力で戦ったことなど一度もない。全力で戦える場面など一度もなかった。
ゆえに自身の全力を知らない。全力で戦う術を知らない。その術をこの土壇場で体に覚えさせていく。体に馴染ませていく。ドクンと心臓が跳ねた。それと同時に――
全身に力が溢れてくる。
「……貴様――」
マリーズの体が――
僅かに後方へとずれる。
表情を強張らせるマリーズ。だがまだだ。まだ足りない。これでは拮抗した程度だ。もっと力が必要だ。マリーズの強大な力をもねじ伏せる、圧倒的なほどの膨大な力が必要だ。さらにまた一段奥底から力を捻り出す。マリーズの体が――
今度は大きく一歩後退した。
「こんなことが……そんな――!?」
赤い瞳を見開くマリーズ。だが彼女の声などすでに聞こえていない。まだ足りない。これが全力のはずがない。もっと力が眠っているはずだ。もっともっと――
(もったいつけてんじゃねえよ、俺!)
胸中で自身に吠える。
その時、体の奥底から――
これまでにない力が爆発した。
「おぉああああああああああああああ!」
「――なっ!?」
半ば埋もれていた壁から脱出して、マリーズを引きずりながら、全速力で突進する。互いに掴み合いをした両手。それを必死に押し返そうとするマリーズ。だが彼女の抵抗などまるで意に介さず、闘技場を横断して対面の壁へと駆けていく。
地面を砕きながら前進を続けて、マリーズの背中を闘技場の壁に叩きつける。壁がクレータ上に凹み、一瞬後に大きく砕け散る。赤い瞳を激しく揺らすマリーズ。彼女の掴んでいた手が力なく離れたところで、真治は大きく拳を振りかぶり――
まっすぐ拳を突き出した。
頭上高くそびえる闘技場の壁。その一部が爆発して弾け飛ぶ。バラバラと住宅街へと降り注ぐ、荒く砕かれた壁の瓦礫。その欠片の中には、住宅の屋根を突き破るほど、巨大な岩の塊もあった。瞬時にして土煙が膨れ上がり、闘技場全体を包み込む。視界が土煙に遮られる中で、真治は突き出していた拳をゆっくりと引き戻した。
徐々に土煙が晴れてくる。真治の目の前にあるはずの闘技場の壁。
それが――跡形もなく砕かれて消失していた。
「……まだ、やれるかよ?」
視線を僅かに落とす。足元には、力なく座り込むマリーズの姿があった。彼女の全身を包み込んでいた青白い炎はすでに消えている。それでもなお闘志を衰えさせず、こちらを赤い瞳で睨め上げているマリーズ。だがしばらくして――
彼女の肩がガクリと落ちる。
「……馬鹿を言え。もう魔力も体力も使い果たして身動きひとつできないんだぞ」
大きく息を吸い込んで――
マリーズが苦笑を浮かべた。
「私の――負けだ」




