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メモリーストリート  作者: 三月 ゆな
一章
6/7

海のち朝食

前回の続きとなります。


出来るだけ次々投稿していければと思っています。

 それは過去の…。


 --セランの思い出(ゆめ)の世界だった。


 セランはまだ8歳だった。


 愛らしいその容姿は更に幼く。

 白のワンピースが当時のお気に入りだった。


 しかし、半そでだったため保護者のレイン…。


 もとい第一賢者、レイン・リッセ・ストリートが風邪を引かないように半場無理やり着せていた。

 それに幼いセランは頬に空気を詰め込み。不服の意思表示時をするも受け入れられることはなかった。


 一方のレインは黒の上着に、黒いズボンと。全身黒ずくめの恰好で。唯一模様の入っている肩、袖、裾には何とも不思議な模様が入っていた。

 幼いセランはなんとなしに「変な服だ」と笑い。

レインはこれを「変じゃないぞ!これをパズルのように繋げると一つのマースになるんだからな」とどこか誇らしげに言うのだ。

それを興味なさげにセランは聞き流すも、その実はしっかりと聞いていた。


 ここで歴史とレインに触れていこう。


 この世界では〖聖者〗と【賢者】という存在がある。

始まること三百年の年月。その二つが組織する勢力は争いを繰り広げていたのだ。


 聖者が率いるエデンという組織。


 賢者が率いる七星という組織。


 世界はまさに戦争続きの混沌が渦巻く世界だった。


 それを生み出したのは賢者と言われているが、実のところ真実は違っていた。

混沌をつくったといわれるのが“第一賢者。レイン・リッセ・ストリート”その人だった。


 世界の半分を仕切るその人物のイメージとしては…。「悪名高い」「自己中心的」「被虐主義」「暴君」などなど、ブラックワードが並べられる結果となる。


 しかしだ、実際のレインは違っていた。

彼の性格は割とさっぱりとしていて、優しく思いやりがあり、人望も厚く、人付き合いがいいと、セランは思っていた。


 茶色の短い髪の毛はよく寝ぐせだらけで、セランだけでなく様々な知人から指摘を受けるが本人は気にも留めず、明るく笑ってごまかすばかりだった。とても深いエメラルドの瞳は少し吊り上がっていて、その瞳は時々寂し気に遠くを見つめていることをセランは知っている。

人に言えないことをたくさん抱えていることを、8歳ながらもセランは察していたが、それをどう言葉にして尋ねてよいのかはわからなかった。


「セラン」


 ただその伸ばされた手が温かった。


 レインとセランがある大きな都市に入り、その都市に似合わない古びた大きな屋敷に入る前だった。


「ただの捨て子のくせに、第一賢者様の隣に立つだけでなく生活まで!」

 生意気だ。いなくなればいいのに。


 そんな小さな声の罵倒が胸を締め付ける。


 彼らに気が付きレインが睨む。すると、そそくさ、とその場を去る彼らを横目にセランは唇をぎゅっと噛みしめる。

 言われて悔しいといえば嘘になる。それでもなにか悪意ある言葉を口にしてしまえば罵倒した者たちと同じになってしまう気がしたため言えなかった。


「セラン」


 レインは優しくセランを呼ぶ。

それに顔を上げた。


「いいか、セラン」


 言い聞かせるような口調で彼は言うのだ。

いつものようにしゃがみ込み。目線をあわせるとレインの瞳にセランの姿が映る。幼いセランは涙をこらえるも、今にも泣いてしまいだしそうな状態で。それを元気づけるようにレインはにかり、と白い歯をみせて太陽のように明るく笑い…。


「どんな時でもーーー」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 重たい瞼を開き、カーテンから差し込むやわらかな朝の光に目を細めた。


「傷ついたり、痛い思いをしても、さきに。大切なものがある」


 だから諦めたらいけないよ。


 それがレインの口癖だった。


「………みつけられそうにないや」


 か細い声が静かに響く。


用意された寝床は温かかった。比較的小さなサイズのベットはひどく昔を思い出させた。


「また、あなたのいない世界がはじまっていくんだ」


 幸せだったんだ。


そう心の中で呟き、セランは体を起こす。


海の先から朝日が顔をだした。



それから時間が過ぎ。


繋がるブロックの一本線の上をバランスをとりながらセランは歩く。

水平に両腕を広げ、海に反射する朝の光に海のさざ波。


「朝飯できたぞ~」


窓からのシャウアの呼びかけにセランは勢いよく振り返る。


「まっていました!」


その元気のいい声はよく響く。

口の端からかすかに見えるよだれを乱暴に拭い。セランは花が咲きそうな満開の笑顔をしていた。


瞬間ー。


シャウアが「危ない」と慌てた様子で叫び、何事かと思い背後を振り返ろうとした。

その時だった。


大きく打ち付けた海のしぶきがセランの全身を濡らしたのだ。

声など出る間もなく、セランは何が起こったのかわからない、といった呆けた表情でシャウアの方へ二度振り返る。


服だけでなく、靴までもびしょ濡れの。ひどい姿で、シャウアは「あちゃー」と手で顔を覆う。


ぶるり、と体を襲う寒気にセランは体をこわばらせる。


「くしゅんっ」

「ああ、ほらはいっ…、て……」


心配をし手招くシャウアだが徐々に顔を赤らめ、最終的には茹蛸のような真っ赤な表情となる。

どうしたのだろうか、とセランは首を傾げる。


不意に自身の白のシャツへと目を向けた。


「あ、あわわわ」


冷えていた体は、あまりの羞恥心に急激に体温が上がっていき…。




「すす。すみませんでしたー!」


目と目が合うなり窓をばたりと閉め、シャウアは姿を消した。

それは目にもとまらぬ速さであった。


「な、ちょ。まって…」


手を上げるも、手を宙にさ迷わせることしか出来ず。


「逃げるなーーーー!」


海辺にいたセランがいけないのはセラン自身わかっていた。

しかし、気が動転して大きな声が出てしまったのだ。


「はっくしゅん!」


羞恥で体温が上がっていていたが、二度、体がぶるりと震える。

ああ、最悪だ。と心の中で呟く。


不意に開かれたドアと差し出されたタオルにセランは思うのだ。


(シャウアめちゃくちゃいい人…)


大きな声をだしてごめんなさい。と何度も心の中で謝罪を繰り替えした。

セランの瞳は罪悪感からか少し潤んでおり、タオルを手に取ると同時に「早く入って」と声が掛かる。


それにセランは小さく「ありがとう」と返答をした。




「今日は波が高かったから災難だったな」


シャウアは励ますように話すも、その表情は気まずさからなのか少しぎこちない。

一方のセランは一先ず来ていた服を乾かし、冷めた朝ご飯を食べていた。


真ん丸の目玉焼きにサラダとパンというシンプルな朝食…。

しかしだ、青野菜の味わい深い甘みを引き出すための少々の塩。時間が経っても中心がぷるりと揺れる黄身に、最寄りのパン屋から購入したというパンはふわりと柔らかく口の中でバターと香りが広がった。


(ああ、ああ…幸せ…)


頬が落ちてしまわないように優しく自身の頬に手をあてる。

その様子にシャウアは苦笑いを浮かべるも、やれやれと肩をすくめた。


「けどなんで海の側にいたんだ?」

「ああ、私が育ったところは山ばっかりで。昨日は海どころじゃなかったから近くで見てみたくて」

「そりゃあ財布無くして一文無しだからな。…現在進行形で」

「うるさいうるさいやい!」


小さく頬をふらませ、セランはじとりとシャウアを睨んだ。その反応に「くくく」とシャウアに笑いを堪えながら悪戯が成功した子供のように笑って見せた。


「そこでだが…」


口角を保ったままシャウアは言う。

それにセランは不思議に思い首を傾げる。





それと同時刻ーーーー。


ロングコートを着た10代後半の少年は船をおり、港に足をつけた。

桃色の髪は強い風に踊ろき、長い前髪をとめた金色のペアピンがきらりと光る。


「きたぞ…。セラン・リッセ。ストリート…」


にやりと不敵な笑みを浮かべた。

町がにぎわい始めると少年は人波に紛れ、ふらりと姿を消したのだった。まるで空気のように見えない。

いや、正しくは初めから少年がいなかったかのように…。

 



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