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メモリーストリート  作者: 三月 ゆな
一章
5/7

カレー

前回の続きです。


セランがようやく…。


それはもうー…。


絶望の中に差した一筋の光だった。


温かいオニオンスープに、イカや贅沢なことに海老も入ったシーフードのカレーライスをセランは無我夢中で頬張る。

先ほどの虚ろだった瞳とは大違い。きらきらと輝き、宝石のような眼は神秘的だった。

しかしだ、その頬張る一口が大きく。口に入れるなり幸せそうな顔とは正反対で、この食事を作ったシャウアは呆気に取られていた。

綺麗にスプーンで最後の一口を食すと、空になった皿をシャウアの前に突き出し言うのだ。


「おかわり!」

「それで五杯目!」


カレーの入った鍋の底はすぐそこにあった。





「ふ~。食べたたべたぁ」

「まさか鍋一つ分たいらげるとは…」


満足そうに笑顔を浮かべるセランと、底尽きたカレーとセランをシャウアは交互に見る。


「おいしかったよ!ごちそう様でした!」


セランは、パンと手を合わせて感謝を表した。


「実は昨日から食べてなくて…。食べてないからイライラしてて当たってごめんなさい。親切にしてくれてありがとう」

「それはもういいよ…。それよりもなんで一文無しなのにここまできたんだ?」

「…ああ、それは町に着くなり犬に財布を盗まれまして……」

「なるほどな。黒もじゃの犬か…」

「はい…」


セランは諦めたように苦笑いを浮かべる。一方のシャウアは納得したように頷いた。


決して広いとはいえない二階建ての一軒家。複数人では暮らすに難しい間取りとなっており、食事を終えてようやく落ち着きを取り戻したセランはきょろきょろと周りを観察した。

シャウア以外に人の姿がないことから部屋の中にいるだろうと予想図蹴るが、一切現れないことからシャウア一人の暮らしをも思わせはじめた。


「シャウア以外にはこの家には住んでないの?」

何気なくセランは問う。

それにシャウアは首を横に振る。


「もう一人一緒に住んでいるぜ。ただ前の戦争のせいで体が不自由になってて、俺はその人の世話役をするかわりに居候として、面倒みてもらいながら生活してるんだ。ちなみにセランを見つけたのもその人なんだ」


淡々とシャウアは話す。


セランは「では、お礼を言わなくてわ」と立ち上がる。気にかけて家に招くように家主がシャウアにいったのならシャウアだけでなく家主に一言お礼をいうのはセランにとっては当然であった。


その胸をシャウアに伝える。


「ならお礼言わなくちゃ…。あ、食事のお礼に手伝えることがあるならしたいな」

「お礼なんていいよ。それにここの家主は顔を見られるのを嫌っているから会うのはちょっとなぁ…」


困ったように頬をかきシャウアは言う。

手伝うこともとくにないとのことだった。


それにセランは困った、と唸る。


戦争のせいで、おそらく人目を避けるようになったのだろう。家主に直接会ってお礼を言うことは叶わないとわかり、尚且つ一食のお礼で手伝うことも出来ないとなるとセランの気持ち的にも納得できない。

セランにとって『食べる』『寝る』は最大級の必要事項で、それはもう本当に困っていたからこそ「何か…」と考えた。

うーんと考えるセランにシャウアはおかしそうに小さく笑う。


「さっきまでの不機嫌な態度が嘘みたいだな」

「うっ。そのせつは本当に申し訳ありません…」

「もういいよ。それよりもう外は暗いけど泊まるとこはあるのか?」

「ううっ」


窓越しに見える外は確かに薄暗く、財布を失ったセランは返答に詰まる。ここでまた泊まるところがないといえば親切な彼らに迷惑をかけてしまうと考えたのだ。

かといい、上手い嘘が咄嗟には出ず黙り込むようにセランは口を紡いでしまう。

それを見かねたシャウアが仕方ないなと階段をのぼり、二階にある部屋の扉を小さく開けた。

セランのいる位置から部屋の中は見えなかったが、微かに見えたのは隙間は外と同じくらい薄暗くその奥に大人の動く影があることのみ。

シャウアとその人物とのやり取りも距離があるためわからなかった。


やりとりが終わったのかシャウアは扉を閉め、二階から下を覗く。


「泊まっていけってさ」

「でも…」

「明日してほしいことがあるらしいから居てくれると助かるって」

「え、えぇぇ~」


もしかすれば言われるかもしれないと薄々思っていたことだった。セランは顔を引きつらせ、「そこまでしてもらわなくて大丈夫」と申し訳なさそうに伝えるも。シャウアの答えは否だった。

「食」だけでも恩があるのにも関わらず「宿」までお世話になるわけにはいかないと思いながらもうまい言葉が出ず。意思表示として首を横に振ることしかできなかった。

それにシャウアは肩をすくめ…。


「その代わり一緒に働いてもらうから、な」


そう軽く言うのだ。


それにセランもここは頷いて甘んじなければいけないのでは…、と思い。重くもゆっくりと首を縦に振った。

さあ、それで決まりだ。とシャウアが手を叩く。

太陽のような眩しい笑顔が更に眩しいとセランは感じた。











ーーーー 昔の夢だった。



夢を見るのは、きっと、久しぶりの温かい寝床と。本心から親切にしてくれる優しい人のせいだ。



『セラン』


懐かしい声が聴こえた。







「セラン」


……………あの人が呼んでいる。


起きなくてはっと体を起こすも体は思うようには動いてはくれなかった。


重たい瞼を開き、数回瞬きをしてカーテンの隙間の光に目を慣れさせる。


「おはよう。セラン」


珍しく寝坊だな、なんて軽口を叩くその人物をみるだけで瞳から涙が溢れ出しそうだった。


「おはよう。レインおにいちゃん」


セランを拾い育てた人物。


…世界を混沌にしたといわれる【賢者】。

第一の賢者、レイン・リッセ・ストリートが夢の世界にいた。


(ずっと覚めないでほしいな…)


そんな淡い願いを抱きながらも夢の世界は進んでいく。


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