沈むのは空腹だからです
腹を空かせ困り果てたセラン。
そこに救世主が現れ……。
「はぁぁあぁ~」
唯一もっていたジャーキーを噛みしめ…。それはもう味がなるくらい大事に噛んで飲み下ろした。
ついたため息は重く、この世の全てを呪い殺さんばかりに殺気だったセランに近づけるものなどいなかった。
あえてセランの座るベンチから皆、距離をとる光景となっていた。
「乾いた保存食にこれほど感謝したことは今だかつてない…」
最後のジャーキーを噛みながらセランはボヤく。
あれから黒い犬を探すも見つからず。町人に聞いた話では犬は町でも有名な悪犬で。よく人の物や家先に出している小物を盗んでいるとのことだった。
拾い食いなどをしないことから飼い犬だろうと検討づけるも、飼い主らしき人物は町にはおらず、とられた物の行方もそれゆえに分からず仕舞いであるとのことだ。
ふらりと現れてはふらりと物を盗む犬を町の人々は困っているだろうに『怪盗黒もじゃ』となんともかわいらしく呼んでいた。
(ああ、さよなら。私の食事代と宿泊代…。もう探す気力もない…)
そううな垂れながら沈み始める夕日に目を細める。
眩しさのあまり目を細め、セランは二度、ため息をつく。
「まさか序盤から財布無くして一文無しになるなんて誰も思わなかったよ。ええ、私も思ってもみなかったよ…。これはある意味、私にとっての神の嫌がらせだ。神よ、たった今嫌いになりました。出てきて校舎裏に来やがれコノヤロー。喧嘩ならかってやるよ」
もはや空腹のあまり境地を達しており、自身でも何を言っているのは半場わかっていない状態となっていた。ぶつくさと恨み言と愚痴を並べ。校舎などない町で校舎裏にこいとどこのヤンキーかと通る人々は思う。増していく負のオーラに人々は更にセランから距離をとり。中にはセランに指をさし自身の母に「おねえちゃん。顔がこわいね」と報告をし、もちろん母親は「関わっちゃだめよ」と指さしていた手を握り離れるような。そんな光景であった。
そんななか、ゆらりと一人の影がセランに近寄る。
視界のはじに影がちらつき振り返ると、そこには歳が近いと思われる少年がいた。
「お前大丈夫か?」
そう心配そうに除く少年の青い空色の瞳と、フードで隠れていたセランの視線が交わる。
少年は金髪交じりの茶色の髪色をしており、その短めの髪は潮風に靡いており。ぱっとみのセランから見た少年の第一印象は活発的な、人の好さそうな男の子だという事。
その印象通り少年は太陽のように明るく、笑顔が似合っていた。濃ゆい緑色のシャツの襟には黄色の線が入っており。それに似合うデニムにブーツという、少し大人びた服装から少年が背伸びをして大人に見せるようにしていることを思わせた。
「大丈夫に見えますか?」
「そうはっきり答える困るヤツ初めてだよ」
「じゃあある意味初体験ですね」
「その言い回しはよせよ!」
なぜか少し誇らしそうに親指を立て、少年にぶっきら棒にセランは返答した。
一方の少年は呆れるように苦笑いを浮かべ、腰に手を当ててため息交じりに言う。
「…で、他所者だろ。こんな田舎町に何しに来たんだよ?俺と、歳もかわらないぐらいの子供だろう?」
「子供という。そういうあなたは歳いくつなんですか?」
「14だよ。あと“あなた”じゃなくて俺はシャウアな」
「…いや名前まで聞いてません。」
冷たいセランの返答に少年…。シャウアの顔は引きつる。
無愛想なセランの態度は空腹と不幸のせいで、本人も態度の悪さに自覚はあるものの。シャウアにあまり深く関わりたくないという思いからあえて冷たい態度をとっていた。
「いや家の前にずっといるから気になったんだよ」
「家?」
シャウアは後方の民家を指し、セランはつられるように後方を振り向いた。
それと同時に。
ぐ~きゅるる。
となんとも切なく腹の虫が鳴る。
それに二人はぴたりと動きを止め。セランは自身の腹をさすりながら力なく俯く。
「うぅ~」
あまりの空腹に腹部は痛みすら出てきて、セランはもう泣いてしまいたかった。
それを見かねたシャウアは頬をぽりぽりとかき…。
「もしかして腹へってるのか?よかったら食べていくか?」
その問いにセランはガバリとフードをとり、シャウアの手を強く握った。
「よろしくお願いします!!」
ああ、神がここにいた!
セランは勢いよく返事をした。
それはもう清々しいほど。先ほどのつっけんどんな態度は微塵もない。
ただ気になるとするならばシャウアの顔が夕日のせいかとても赤いということだった。