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メモリーストリート  作者: 三月 ゆな
一章
3/7

セラン・リッセ・ストリート

前回の続きとなります。


小さな港の町にたどりつく主人公の少女。

そこでトラブルにあってしまい…。

「お嬢ちゃんついたよ起きな!」

「うえ…!びっくりしたぁ」


 馬車の荷車にのっていた藁の中から飛び起きた少女は深く被っていたフードをとる。


 そして馬車の持ち主らしき大柄の男性は、体に見合う声量で少女を起し前に広がる光景に指をさす。


「寝ぼけてないで降りな。ここが…」


 長い茶色の髪がやわらかな風に揺れる。


「港町のダウンクラウン!」



 太陽の光を浴びて輝く壮大な海と。その向かい側にある小さな漁港と街並みに少女は身を乗り出し。その大きなエメラルドの瞳を見開き目を輝かせる。


 山を越えやってきた彼女は遠く離れた、距離から町のある大通りから活気を肌で感じ。町と外の境界を越えた。


 彼女の名はセラン。セラン・リッセ・ストリート。

 あどけなさのある十三歳の少女だ。腰まで長いやわらかな髪、深いエメラルドの瞳は大きく宝石を思わせる。愛らしい花のような。それでいて清楚感ある整った容姿のためか知らず知らずのうちに注目を集め。少し体のサイズに合わない大きめの上着の中には肩の空いた白のシャツ。ハイウエストの花柄の刺繍の入ったスカートにロングブーツという恰好だった。上着が大きいためかフードで顔を隠すとすっぽりと表情が分からなくなってしまうが彼女はそれを気にはしていなかった。

 二度、フードを被るとセランは馬車の荷台から降り持ち主に礼を述べる。


「遠くからこの町までご親切にのせていただき、ありがとうございました」

「いいよ。行くところが同じだったからな!」


  セランに持ち主の男はからからと陽気に話す。

  それにつられるようにセランもフードをずらしてにかりと歯を見せて笑った。


「あ、そうだ。お礼…」

「そんなのいいんだよ。お礼で金を出すぐらいならこの町で美味いもんくいな」


  じゃあなっと馬車の持ち主は手を振り、自身の目的の場所へ向かう。それを半場申し訳なさげにセランは見送り手を振り返した。

  そして町の入り口に立ちセランは暫し考えを巡らす。

 彼女がこの港町に来たのはもちろん理由あってのこと。

  一つは彼女はある有名な人物に会うためにこの町にきた。そして二つ目が最後になるが………。


 ぐぅぐぎゅるるるぅぅ。


  腹の虫というにはあまりにも大きな、獣のうめき声のような音がセランの腹から鳴ったのだ。それにセランはびくりと驚き、とっさに自身の腹を抑えた。

 周りに人がいないのが不幸中の幸い。恥をかかずに済んだものの心の内では赤面だ。


「まずは腹ごしらえだ!」


  気合いを込め拳を天高く振りかざす。

それにまったくの意味はないのだが、食事に対し気合い十分のセランは大股で町へと足を踏み込むのだった。


  潮の香りと海のさざ波の音。活気にあふれた漁師の声や商売人の声がいきかい、その騒々しいとさえ思える音の数々に胸が躍る。

 深く被ったフードの狭い視界の中、聴覚で感じる様々なせわしいような。けれど不快にならない活気に自然と足取りも軽くなった。


「なにか~おいしい~ごはん~」


  歌うようにセランは呟いた。

その食べ物を探す目は輝き、体は匂いに誘われ自然と右へ、左へと動く。

 港町ならではの捕れたばかりの魚の数々を並べ売る商店があり、その中には魚を編で焼く店や、干した魚を並べる店。他には漁業に関係なくひっそりと編み物を売る小店など。セランにはそれらが鮮やかに思えた。


「新鮮な魚を使ったカルパッチョ。ソテーやムニエルなんて港町の飲食店では当たり前!食べ歩けと言わんばかりのイカ焼きにカフェが誘惑するデザートのレパートリー!」


 口の中からあふれ出しそうなよだれをごくりと飲み。セランは思う。


(海の町最高!神様海をつくってくれてありがとう!)


 心の中でガッツポーズをし、懐の財布を取り出し金銭の確認をしようとした時だったー。


「のわっ!何かぶつかった!」


 とっさに大きな声が出る。

 自然と足取りも軽くなっていたところ、足元に何かがぶつかったのである。

 小店ばかりを見ていて気が付かづ、足元を見てみるとそこには黒い毛玉があった。

 ごわごわとした、黒一色のそれはセランの膝までの大きさがあり、よく見れば犬の耳と尻尾があった。


 と、刹那…。


「あっ」


 取り出そうとしていた花柄の刺繍が入った財布を地面に落とす。

 それと同時に犬が「わふ」と鳴くとぱくりと財布を咥え…。


「がう」


 そう短く鳴き、尻尾を振って瞬く間に走り去ったのだ。


 突然のことにセランは呆けにとられる。

 そして1、2、3秒と時間が経ち。


「私の財布ーー!!」


 唐突な、あまりの現実…。もといセランには食事をするための金銭がないことは、死活問題であり世界の終わりと同等の絶望感だった。


 セランは財布を取り戻さんと駆け出す。


「待って!まって!?」


 すでに遠くにいる犬は人ごみの中を華麗に走り。一方のセランは知らぬ地であることはもちろん、人ごみの中をうまく掻き分けることは出来なかった。


「あーー!」


 等々、姿さえ見えなくなってしまいセランは絶望のあまり叫んでしまう。

 浮足立っていた気持ちはすでに地の底。

 うっすらと浮かぶ涙に瞳が揺れる。酷いことに空腹は消えてくれはしない。


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