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幻の空  作者: 樹上ペンギン
序章 出会い
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第一話 別れと旅立ち

 処女作です。面白くできるかはわかりません。めっちゃ不定期になると思いますが暖かく見守ってください。

 打ち合わせるジョッキの音が、甲高く響く。続いて、お世辞にも上品とは言えないような歓声が小さなテーブルを包む。運ばれてきた料理をつつきながら、今日狩った獲物の話や、とれた素材に、果てはどの受付嬢が好みかなんて話題が飛び交う。

 冒険者ギルドに隣接された酒場では、いつも通りの光景が広がっている。

 その中で一つだけ、しんみりとした空気のテーブルがあった。


「アイオスぅ、お前マジでいっちまうのかよぉ」

「そうだよ!一緒に帰ろうよ!」


 その空気は、主にこの一組の男女から放たれているようだ。二人とも目には涙を浮かべており、セリフから察するには誰かを引き留めているようである。

 アイオス、と名前を呼んだ壮年の男は随分とがっしりした体格で、身につけているインナーがぴっちりと胸囲に張り付いている。てらてらと灯りを跳ね返す坊主頭と見事な筋肉を備えた大男であり、なんなら今六人が囲んでいるテーブルを片手で軽々ともちあげられそうな雰囲気を醸し出している。

 その男の言葉に乗っかった女は、対照的に随分と小柄な少女だ。長旅によるものだろうか、随分と裾がボロボロほつれたマントからは、ちょこんと頭が突き出ている。真っ黒な髪の毛は肩口で切りそろえられ、これまた眉の少し上で切りそろえられた前髪の下には、くりくりとしたつぶらな瞳が並んでいる。将来の楽しみな少女、というべきだろう。


「ガイウス、リタ、あんまり引き留めるもんじゃないぞ」

「そうね。……まあ、寂しくなるのは、確かだけど」


 対して、こちらの男女は少し落ち着いた対応である。寂しそうではあるものの、長年連れ添った仲間を送り出すために笑顔を浮かべている。

 泣いている二人をたしなめたのは、いかにもといった感じの好青年。十七、八歳といったところだろうか。明るい栗色の髪の下には、端正な顔立ちが備わっている。見た目の若さ相応に、無邪気な雰囲気が感じられる。どうやらこのテーブルを囲む一団のリーダー格のような存在らしい。

 静かに別れを惜しむのは、一人の女性。少女というほど幼くはないが、大人の女性というほど成熟してもいない。赤みがかった金髪を首の後ろで束ね、寂しそうな笑みを浮かべている。これがまた美しい顔立ちと合わさって、まるで一枚の絵画である。


「アレン、メリダ。そうは言ってもよぉ、聖女のマリアは教国で別れちまったしよぉ。おまえらだって王国に着いたらお別れなんだろ?その後はおれぁこのちんちくりんと一緒に故郷まで旅すんだぜ?」

「ちんちんくりんってなによ!」

「ちんちくりんはちんちくりんだろうが!」


 ガイウスの言葉にリタが反応し、すぐに口論が始まる。周りは呆れながらも、少々感慨深げにそれを眺めている。


「なぁアイオス、お前冒険者続けるんだろ?だったら俺たちの故郷にくりゃいいじゃねぇか。ウチの国は冒険者とか傭兵とか優遇してくれるぞ?お前ぐらい強けりゃなおさらだ」

「……悪い」


 そこで初めて、アイオスと呼ばれた男が口を開いた。

 アレンと呼ばれた男よりはほんの少し年上だろうか。男にしてはずいぶんと長く伸びた、蒼みがかった銀髪を、後頭部の上の方でまとめ、馬の尾のように垂らしている。顔立ちは十点満点中の七、八点と言ったところだろうか。整ってはいるが、少々大きめの街を探せば必ず二、三人はいるような顔立ちというべきだろう。少しばかり威圧感のある、鋭い目つきに浮かんだ燃えるような紅の瞳。それと顔を含め、体の所々に見受けられる傷痕が、歩んできた道のりを示している。


「お前等の国が悪い訳じゃない。なんとなく、ぶらぶら旅したい気分なんだ」

「ならせめて王国まで一緒に行ったっていいだろ?」

「王国までいくと派手な凱旋パレードがあるんだろう?そういうのは教国でやったので十分だ」


 なおもすがるガイウスに、何度も突きつけた答えを返すアイオス。周りの四人もガイウスに同意するような視線を送っているが、アイオスの決心は固いようである。


「……少し落ち着いたら顔を出す。それで勘弁してくれ。どうにもちやほやされるのは慣れてないんだ」

「絶対だぞ!?言質取ったかんな!」


 その言葉に、しぶしぶ、といった態度で離れるガイウス。


「いつ出発するんだ?」

「明日の朝だな」

「……そっか」


 ほんの少し熱のさめた場で、アレンの問いに答えるアイオス。そのやり取りを聞いて、他の四人もいよいよか、という表情を浮かべる。つい先日も一緒に旅をした聖女と別れたばかりの一行には、改めてしんみりとした空気が流れる。

 そこからは取り留めもない話が続き、お開きとなった。


◇◇◇


「なぁ、アイオス」


 宿屋に戻る途中。前方を歩く三人を眺めながら、アレンがアイオスに話しかける。


「何だ」

「俺たち、本当にやったんだな」

「……そうだな」

「落ちこぼれの王子だった勇者と、吸血鬼もどきなんて呼ばれてた山賊くずれの狂戦士が、魔王を倒したんだな」

「ほかにも仲間はいただろう、次期国王の筆頭候補どの」


 しみじみとした、達成感のあるアレンの声に、ほんの少しからかうような答えを返すアイオス。

 普段の、落ち着いた、を通り越して木石のような様子を知っている人間からは、アイオスのこんな態度は驚くべきものがあるだろう。ともに旅をした仲間でさえ滅多には見られない。


「そりゃそうだけどさ。聖女の導きもないまま走り続けてさ。一個でも仕事失敗したら明日食うものもない、なんて時から一緒だったのはお前だけだぞ」

「おいおい、愛の告白なら聖女どのにしてやればよかっただろうに。男同士でなんて気持ち悪いにもほどがある」


 きしし、と笑うアイオス。いよいよ明日は槍でも降ってきそうな珍事である。

 しかし、仲間が増える前から一緒にいたるまでアレンにとってはそう珍しいことではない。最近見ないな、とは思っていたが。


「そうじゃないよ。俺だってそんなの気持ち悪い。そんなことじゃなくてさ、一度しっかり礼を言っておきたかったんだ」


 そこで一旦言葉を切り、しっかりとアイオスに向き直るアレン。


「お前のおかげだ。ありがとう」

「どういたしまして。ほかの奴らにも言っといてやれ」


 それだけ返すと、二人は足を早めて前の三人に追いついた。月は満月からほんの少しだけ欠けている。


(こういうのを、十六夜(いざよい)って言うんだったか)


 まだメリダと知り合ったばかりのころ、遠く東に旅をしていたときの記憶が、ふと蘇った。銀色の髪は、月の光を受けて、涼やかな光を返していた。


◇◇◇


「じゃあな」


 いろいろな別れの言葉を贈られて、返したのはたったの一言。それもまた彼らしいと、四人は寂しそうに笑って見送った。


 銀鬼と恐れられた狂戦士の新たな旅立ちは、随分とあっさり終わった。

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