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転生者殺しの転生者  作者: com
1章 ~旅立ち~
9/18

それぞれの決意

 

 次の日の朝、竜也たちは朝食をとるとルナが皆を集めた。


「……話ってなんだ、ルナ?」

「……」

「……」


 オリガは心配そうにしており、ガライと竜也は黙ったままだ。

 ルナは少しの沈黙の後、口を開いた。


「……私、この島を出る」

「……な、何言ってるんだ!!」


 オリガはルナの言うことに声を荒らげる。


「……もう、決めたこと」

「島を出る必要なんてないだろ!!」

「……そうか、理由を聞かせてくれ」

「…………ずっと、考えてた。……自分について」


 理由を聞くガライにルナが憂いを帯びた表情で話す。


「……自分は誰なのか。……知りたかった。……そこで手掛かりが見つかった。……だから、行く」

「ルナが誰だって関係ない!! ここに居ればいい!!」

「……私も、そう思ってた。……でも、違った。……私は普通のエルフじゃない。……転生者が世界を巡ってまで探すエルフ。……私には何か、あるんだと思うの」

「そんなものどうだっていい!! それにルナが本当にそのエルフかもわからないじゃないか!!」

「……それを、知りたいの」


 オリガはルナを必死で説得しようとするもルナはもはや聞く耳を持たないようだった。


「……もう……決めたんだな」

「……ごめんなさい、ガライさん」

「……また、人間に、転生者に狙われるかもしれないぞ。それでも行くのか」

「……うん。……例えそうだとしても、もうじっとしてられないの」

「……わかった」

「親父!! ……ふざけんな!! 私は認めない!! 絶対に認めないからな!!」


 オリガはそう怒鳴り散らすと家を出ていってしまった。

 しばしの静寂の後、ルナは再び口を開く。


「……リュウヤに、お願いがあるの」

「……」


 竜也はルナのお願いがわかっていた。


「……私と一緒に、来てほしい」


 ……やっぱりそうくるか

 ……でも、俺は……


「……ごめん。それはできない」

「……どうして?」

「当然だろ。俺がそんなことする義理なんてない」

「……お願い、リュウヤ。私、どうしても自分を知りたいの」

「……勝手に行けばいいだろ」

「……私だけじゃ、ダメだと、思うから」

「なら、行かなきゃいい」

「……どうしても行きたいの」

「だから勝手に行けばいいだろ。俺には関係ない話だ。これ以上の面倒はごめんだ!」


 竜也は立ち上がり、自分に用意してもらっていた部屋に戻った。

 ルナは悲しそうに俯いていた。


 俺には関係ない。……関係ない!!


 竜也は部屋に戻ると自分に言い聞かせていた。

 ルナの辛そうな表情が目に焼き付いていて、それを振り払うように。


「……竜也殿。入ってもいいか?」


 するとガライがノックをして尋ねてきた。


「…………どうぞ」


 竜也は少し落ち着いてから返事し、ガライが部屋に入ってきた。


「……何の用ですか?」

「……少し、話を聞いてくれないか?」

「……」


 竜也は返事をしなかったが、ガライはそのまま話し始めた。


「……まず、竜也殿には謝らなきゃいけねえ。俺はおめえさんに嘘をついていた」

「……?」

「俺と、そしてオリガはこの島で生まれた訳じゃねえ。元々大陸にいたんだ」

「……」


 竜也はガライたちが大陸出身である可能性を考えてはいた。

 オリガの執拗なまでの転生者への苛立ち。

 そしてガライが文字を読めたこと。

 それらからある程度予測していた。


「それに転生者を見たのが初めてといったのも嘘だ。……俺は転生者と共に旅をしていたんだ」

「……え?」


 竜也は今度は全く予想だにしていないことに驚いた。


「……そいつはとてもいいやつでな、竜也殿と同じように魔族と変わらず接してくれる優しい心を持っていたんだ。俺たちは自分たちの村で匿ってやるために他の傷付いた魔族たちを探して大陸を行ったり来たりしていたのさ。だが当然そんな俺たちを他の転生者たちが許すはずがない」


 ガライは少し話すのを躊躇ったように口を止めた。


「……」

「……どう、なったんですか?」

「俺たちは襲われた。そして一緒にいた転生者とは離れ離れになった。襲われ、傷付いた俺はなんとか村へ逃げ帰った。……それがいけなかった。転生者たちは俺の後をつけていて村の場所がバレた。そして村が襲われた」


 話すガライはとても辛そうだった。

 竜也には昔の自分を責めているように見えた。


「多くの魔族たちが傷付けられ、そして、殺された。俺はオリガと……マーサ、オリガの母親を連れて逃げた。だが転生者たちはどこまでも追いかけてきた。俺たちはオリガを守るために必死に逃げたが、遂には海まで追い詰められた。そこで、マーサは……傷付いた俺と、オリガを逃がすために……死を覚悟して……転生者たちの足止めをすることにしたんだ」

「……」

「マーサは俺たちに水の精霊の加護を受けた、まあ、海を渡るための道具を渡し、転生者たちに立ち向かっていった。……俺はマーサにオリガを託され……そして海に出た。……どれだけ時間が経ったかは覚えていない。長い時間海にいたこと、嵐に襲われたことで俺もオリガも気を失った。……そして気が付くとこの島にいたってわけだ」


 ガライは話し終わったのか、零れ落ちそうな涙を拭った。

 竜也は何か言おうとするも、あまりの過去に言葉がでなかった。


「それ以来オリガは転生者を憎みきっていてな。竜也殿を毛嫌いしてるのもその為だ。」

「……そう、ですか」

「だが、竜也殿を完全に嫌っている訳じゃねえ。オリガは心優しい転生者がいたことも知っている。おめえさんもそうであると願いつつも、どうしても素直に受け入れられねえんだ」

「…………どうして、その話を?」

「……この島に来てしばらく経った後、ルナがこの島に流れ着いた。似たような境遇だったオリガはルナをとても大切にしてきた。妹のようにな。オリガは自分を守ってくれた母親を思いながらルナを守り抜くと自分に誓っているみてえだ」

「……」

「……ルナはこの島を出るだろう。1度決めたことはやり通す娘だからな。俺たちにはそれを止めることはできねえ。そして、たぶんオリガはそんなルナについていくだろう。ルナを守るために。……そこでお願いがある」


 竜也はガライの言いたいことがわかった。

 その為の話だったのだと理解した。


「どうか、あの2人についていってほしい。そして2人を、俺の大切な娘たちを守ってくれ」

「……ズルいですね、その頼み方は」


 竜也は意地の悪そうに言った。

 辛い過去があったのはわかったが、それでも自分には関係ないと言い聞かせていた。


「……わかっている。でもこんなこと頼めるのは、2人を守る力を持っているのは竜也殿しかいないんだ!! 頼む!!」

「……ガライさんがいるじゃないですか」

「俺じゃ転生者には勝てない。それに転生者にやられた後遺症で長時間活動することができない。竜也殿しかいないんだ!!」

「……無理、です。俺には……関係ない」


 竜也はそれきりガライの方から目を逸らし、何も言わなくなった。

 ガライは暗い表情で部屋を出た。



 ルナは出ていったオリガを追いかけ、もう一度2人で話し合った。

 今までのこと。

 そして、これからのこと。

 話しているうちにオリガは決意した。

 ルナについていき、そして守ると。

 どんなことがあっても守り抜くと。

 その夜、食事をとった後、そのことをガライに伝えた。

 ガライはわかっていたのでそれを了承した。

 オリガは決意に満ち溢れていた。

 竜也は食事もとらず、部屋に引きこもっていた。













 -------------











 その夜。

 皆が寝静まった頃。

 竜也はこっそりと家を出た。

 そして海岸まで歩くと物思いにふけった。


 ……俺は……人を……殺した

 ……この手で


 竜也は自身にかけられた人殺しという十字架に悩まされ続けていた。


 闘いの時は確かに殺るか殺られるかの思いで必死だった……

 勝つ為に闘っていて、殺すことに頭なんて働かなかった

 でも、あの黒人を殺した時は違う

 頭の中がドス黒い感情で満たされて、あいつを殺すことだけを考えてた……

 闘いに勝つことじゃなく、あいつを殺すことだけを……


 竜也は自分が恐ろしくなっていた。

 あの時の自分の感覚が思い出されるようだった。


 ……結局あの女神の言う通りになったな

 ……情けない


 竜也は女神の思い通り、転生者を殺したことで自分の弱さ、考えの甘さに嘆いた


 俺は馬鹿だった

 女神に恩恵ギフトをもらっての大冒険を考えた

 強い力で楽に、悠々と敵を倒せると考えた

 女神の思い通りになんてならないと思っていた

 自分の道は自分で決められると思っていた

 ……浅はかだった

 強い力があっても……闘いが……殺し合うことが……そんな軽いもののはずがない

 人を、誰かを傷付けること、命を奪うことが軽いもののはずがない

 女神という絶対的な力を持ったやつに逆らうことなんてできるはずがない

 ……俺は……馬鹿だった


 竜也は己の愚かさを呪った。


 ……ルナたちは……心配だ

 ……力になってやりたい


 竜也は誰かの為、なんてことを今まで考えたことはなかった。

 ただ生きていくのに他人との関わりは必要最低限でいいと思っていた。

 そんな竜也が持った純真な思い。

 だがそれでも竜也は決断することができない。


 ……でも、ダメだ

 ……闘い……また誰かを殺すって考えると……怖い

 ……俺にはできない

 ……俺は……臆病だ


 竜也は海を見つめた。

 海に映る月が竜也を嘲笑うようにゆらゆらと不気味に蠢いていた。


「……リュウヤ」


 竜也は突然誰かに話しかけられ、バッと振り向いた。

 そこにはルナが立っていた。


「……」

「……こんな時間に、どうしたの?」


 驚く竜也にルナは心配そうに尋ねる。


「……そっちこそ……どうして、ここに?」

「……リュウヤ、ずっと元気なかったから心配してた。……そしたら家を出ていく音が聞こえたからこっそりついてきた」


 竜也は把握の眼をもちながら、隠れてついてくるルナに気付かなかった。

 それほど精神的にやられていた。


「……」


 竜也はまた海の方を向き直り、黙って海を眺めた。

 月は歪に歪んでいる。

 ルナはその竜也の横に並んで立った。


「……大丈夫?」

「……あぁ」

「……すごく、辛そう」

「……心配ない」


 竜也を覗き込みながら話すルナに、竜也は海を眺めたまま淡々と答える。


「……オリガがね、私についてきてくれるの」

「……」

「……オリガ、心配性だからたぶんそう言ってくれると思ってたんだけど、いざそう言われると、すごく嬉しかった」

「……」

「……私、オリガがいてくれたら大丈夫だと思うの。……だからね、リュウヤはもう、気にしないで。……私たちは、大丈夫だから」


 竜也はそう言うルナが少し震えているのがわかった。

 それが強がりであること、本当は心細いこと、不安でいっぱいなこと、竜也には全て視える。


「……ごめんね。……あんな、お願いして。……変だよね。……リュウヤは人間で、私たちは……魔族だもん。……リュウヤにお願いするのが、おかしいよね」

「……」

「…………じゃあ、私、戻るね。……リュウヤはもう気にしなくていいよ。…………おやすみ」


 ルナは泣きそうになりがら家に戻ろうとする。

 そこで竜也はもう黙っていることができなくなった。


「……おかしくなんてない。俺だって本当はルナを……守ってあげたいんだ。……でも」


 竜也は我慢することができなかった。

 ルナに誤解されているのが。

 そして自分を押し潰す事実を自分の中に閉じ込めておくのが。


「……俺は、怖いんだ。転生者と、人とまた闘うことになるかもしれないことが」

「……」

「……今回みたいに勝てるかもわからない。それに、俺は、もう、人を殺したくない……。人を殺すのが……怖いんだ……」

「…………リュウヤは、優しいんだね」


 打ち明ける竜也にルナは優しく微笑みながら返す。


「……ただ、臆病なだけだ」

「……ううん、リュウヤは優しいよ」

「……」

「……だったら、なおさらリュウヤには頼めないね」

「え?」

「……リュウヤに、辛いことさせたくないから。……だから私たちは2人で行くよ」

「そ、そんなのダメだ!! 転生者に捕まるかもしれない、殺されるかもしれない!!」

「……覚悟、してるよ」

「ダメだ!!」


 竜也は徐々に声を大きくしていく。


「殺されたら終わりだろ!!」

「……どうしても、行かないといけない気がするの。……リュウヤがいなくて心細いけど、頑張るよ」

「~~~っ、俺だってルナたちを守りたいんだよ!! でも!! 俺は! 俺は……」


 竜也の気持ちは決まっていた。

 しかし恐怖によってあと1歩を踏み出すことができなかった。

 そんな竜也の気持ちをルナは察した。


「…………それじゃあ」


 ルナは興奮する竜也の手を優しく握った。


「……私が、リュウヤを守るね」

「……え?」

「……リュウヤが、誰かを殺してしまいそうになったとき、私が止める。リュウヤを守ってあげる」

「そんなの……」

「……必ず止めてみせる。……それにリュウヤならそんなことしないと思う」

「ぼ、暴走するかもしれないだろ!」

「……私は、リュウヤを信じてる。……とても優しい人だって。……自分に打ち勝てる強い人だって」

「……」

「……だから、もう一度お願いするね。……私が……あなたを守るから、私たちを守って」


 ルナは優しく微笑みながら竜也を見つめる。

 竜也は黒人との闘いで、同じようにルナが微笑みかけてくれたことを思い出した。

 あの時と同じように、心が洗われていくようだった。

 竜也の中にあった黒い恐怖の感情が消えていくのがわかった。


 ……そうだ

 ……やっぱり……俺は、俺はこの娘を守りたい

 絶対に守りたい

 ……ビビってる場合なんかじゃない

 ……覚悟を、決めなきゃ!!!


 竜也はルナによって、悩みが打ち消された。

 そして、ルナの手を優しく握り返すと、ルナと同じように微笑み返しながら約束を交わす。


「……あぁ。……わかった。 俺が、ルナたちを……守るよ」

「……うん!」


 ルナはとびきりの笑顔を見せた。

 竜也は自分に誓いを立てる。


 俺は誓う。

 転生者と闘うことを。

 そして闘っても殺さない、女神の思い通りになんてならないことを。

 そして……何があってもルナを守ると!


 竜也とルナは決意で満ち溢れていた。


 海に映る月は美しかった。

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