VS無限魔法 1
「おい、そこの人間。なんでここにいるんだ?」
男は竜也に向かって問いかける。
竜也は相手が自分にはそれほど敵意を向けていないことがぼんやりと視えていたので、警戒しつつも答えることにした。
「……俺はついさっきここに転生されたんだ」
「はぁ? ……ヒャハハハ!!」
男は竜也の言葉を聞くと初めは驚いたようだったが、すぐに笑い始めた。
「マジかよ! 今更転生って……遅すぎだろ!!しかもこんなところに転生されるなんてな!! ヒャハハハ!! 女神様は何考えてんだ?!!」
「……」
笑い続ける男に竜也は何も言えない。
……ほんと何考えてんだろうな、あの女神は
お前を殺すために俺を転生させたんだぞ
竜也は呆れたような、憐れむような目で男を見る。
「はぁ~ぁ。まあ、これは俺にとってラッキーだな。なぁ、お前さぁ「おい!てめえ!」……あぁん?」
男の声をオリガが遮る。
男は先ほどの大笑いからは想像できない不機嫌さを見せる。
「この村に何の用だ!!」
オリガは竜也に向けていたような怒りの声で男に叫ぶ。
「うるせえな! 今はてめえらに用はねえんだよ! ミルド・コル・ノルム!」
まさかっ!?
男が謎の言葉を発しながら杖を地面につくと、オリガたちの足元の地面が触手のように伸び、オリガたちの体を縛り、口を塞いだ。
「……むぐぅ!」
「うー! むうぅぅぅ!」
「……!?」
ガライは土の触手を外そうと力をこめるがビクともしない。
オリガはなにやら叫びながら暴れようとするがこちらもビクともしていない。
ルナは焦りつつも男を見据えている。
「な!? これって魔法なのか?!」
竜也は転生者が魔法を使ったことに驚いたが、すぐにそれがおかしいことではないことを先ほど視た男の恩恵を思い出し、気付く。
無限魔法……
転生者なのに魔法が使えるのか……
しかも恐らく無限に……?
……ふざけてやがんな
竜也は男の恩恵のチートっぷりに驚愕し、苦笑する。
「ったく。今俺が話してんのはこいつだってのにしゃしゃり出やがって!」
男は怒りながらオリガたちに吠えるが、動きを封じ満足したのか落ち着きを取り戻し、また竜也に話しかける。
「ふぅ。なぁ、お前。俺たちと一緒に来ねえか?」
「え?」
竜也は驚いたがそれは当然の誘いだった。
転生者同士が手を組もうとするのは当然だろう。
どうするべきか……
竜也は悩んだ。
竜也は転生者を殺そうと思っていないし、これからこの世界で生きていくには転生者と共にいる方がいいはずである。
しかし、村が吹き飛ばされ、さっきまで普通(?)に話していた3人が拘束されていることに嫌悪感を抱いていた。
「……そうだな。とりあえずこの島から出るまではそうさせてもらおうかな。その後はわからないけど」
「この世界に来たばっかりで、色々知ってから行動してぇんだな。まあ、いいぜ。今はそれで」
「よし。じゃあ、早速行こうぜ」
竜也はとにかく男が早くこの村から離れるように相手の誘いに乗り、催促する。
「おいおい、ちょっと待て。まだやることやってねえっての」
だが男は竜也の提案を聞き入れるつもりはない。
「……そういえばなんでこの島に来たんだ?」
竜也はここで食い下がると不自然と思われると思い、なるべく平常心で尋ねる。
「ん、ああ。ちょっとした探しものだ。なかなか見つからないもんで、こんなところまで来ちまったぜ」
「探しもの?」
竜也の疑問を他所に男はルナに近づく。
「んぐー!」
「んーー! んーーー!」
「……」
ガライとオリガはもがいており、ルナは男を睨みつける。
「へっ、もがいても無駄だっつうの」
男は嘲笑うと杖でルナの口元の土の触手を軽く小突く。
すると土の触手はボロボロと崩れ落ちた。
「これで話せるだろ。おい、お前。ルナという字が掘ってある聖石の首飾り持ってるか?」
「……!?」
ルナは驚愕を顔に浮かべる。
ガライとオリガも目を見開く。
「ヒャハハハ! 答えなくてもその反応でわかるぜ!やったぜ! ついに見つけた! ヒャハハハハハハ!!!」
男は歓喜の雄叫びをあげるように笑い出す。
「どういうことだよ!!」
竜也は嫌な予感がしつつも男に尋ねる。
「どういうことって、こいつが俺たちの探しものなのさ! 見つけるのに随分苦労したぜ」
男はかなり興奮している。
竜也はルナが探しものということに嫌な感じを受ける。
「今日は最高の日だ! ヒャハハハ! 後はこの村ぶっ飛ばすだけだな!!」
「なっ!?」
竜也は男の言うことに驚きの色を見せる。
「その必要はないだろ!! 探しものは見つかったんだから!!」
「あぁん? 何言ってんだ? 魔族の村だぜ? 皆殺しにしなけりゃいけねえだろ。平和の為にな」
竜也は男に怒るが、男は当然かのように答える。
とても冷酷な笑みを浮かべて。
「……そんなこと、させない!」
「あぁ?」
「スプル・シルグ!」
ルナは覚悟を決めた顔で魔法を唱える。
するとルナの周りから風が吹き荒び、3人を拘束する土の触手を吹き飛ばす。
「ちぃ!!」
男は少しバランスを崩し、ルナから距離をとって体制を立て直す。
「うおおおおおお!!!」
「はああああああ!!!」
その刹那、拘束が解けたガライとオリガは男に襲い掛かる。
「調子に乗んじゃねえ!!!」
まずい!!
竜也は把握の眼により男がオリガたちに攻撃魔法を仕掛けようとしているのが視えた。
「避けろ!!!」
竜也は叫んだ。
無意識のうちに支配の眼を使いながら。
「ミルド・イフル!!」
「「「!?」」」
男が魔法を唱えると杖から巨大な火の玉が放たれた。
しかし3人は支配の眼により、まるで予知していたかのように火の玉を躱す。
「なんだと!?」
男はまさか躱されるとは思っておらず驚きを隠せない。
3人も勝手に体が動いたことに驚いて固まっている。
だが、男は瞬時に冷静さを取り戻し、次なる魔法を唱えようとする。
それを視た竜也は咄嗟に、無意識のうちに行動に出ていた。
「ゼノガ・イフがぁ!!」
竜也は男が魔法を唱え終わる前に男の顔をぶん殴った。
男はいきなりの衝撃に地面へと倒れ込む。
「……え?」
「え?」
ルナとオリガは信じられなかった。
転生者が転生者に攻撃するとは思っていなかったからだ。
……何やってんだ、俺は
竜也も信じられなかった。
この世界で最も力のある転生者とわざわざ対立するような行動をとったからだ。
理屈では愚かな行為とわかっていながら、ルナやオリガが傷付くと思った瞬間に守りたいという思いが湧き上がり、竜也を無意識に行動させた。
「……つぅ。……てめえ! 何しやがる!」
男は今までにない怒りの表情で竜也に叫ぶ。
……はは。何やってんだろうな、俺は
……でも、まあ、とりあえず腹くくるしかないよな
竜也は自分の行動に苦笑しつつも、覚悟を決めた。
「決まってんだろ! お前を倒してこの村を守るんだよ!」
転生者と闘う覚悟を。