異世界《ウィゾン》
「さあ、なんでも聞いてくれ!」
「……」
「……」
「は、はい」
ガライの家に着いた竜也たちはまず竜也の傷の手当てをした。
ルナやオリガは反対したがガライは竜也を手当てしてくれた。
そして4人はそれぞれ大きな椅子に座り、そして話し始めた。
ガライの家はこの村で1番大きい家で中は機械的な物はないにしろ竜也が文明の差をそれほど感じない生活を送っていることがわかるようなものだった。
武器や見たことのない物を除いては。
「えっと、じゃあ、なんでその2人がここにいるんですか?」
竜也は無表情なルナと不機嫌なオリガを見て言う。
先ほどはいきなりでさらに攻撃を仕掛けてきたこともあり普通に話していたが、いざ面と向かって話すとガライの威圧感でついつい敬語になってしまう。
「あぁ、そうか。自己紹介をしていなかったからな。こいつらはオリガとルナ、俺の娘なんだ」
「え?」
その言葉に竜也は驚いた。
オリガは納得できるがルナはどう見ても別の魔族だ。
「魔族って別の種族の魔族も産めるんですか?」
「いやいや、そんなことはない。ルナはな……「親父!そんなこといちいち言わなくていいだろ!」
オリガは怒り混じりの声でガライの言葉を遮る。
「あ、ああ、そうだな。まあ、ルナは血の繋がりはないが大事な娘なんだ」
「はあ」
隠し事があることはわかった。
竜也は把握の眼で視ればもしかしたら何かわかるかもしれないと思ったが気が引けたのでやめておいた。
「そして俺はガライ。この村の長だ」
「なんとなくそんな気はしてましたけどね。俺は神崎竜也って言います」
「カンザキリュウヤ? 随分長い名前だな」
竜也の名前を聞いてオリガが鼻で笑う。
「いやいや、1つの名前じゃないよ。神崎は苗字だから」
「苗字?なんだそれ?」
竜也の説明もオリガは鼻で笑う。
苗字がないのか……
いや、まあ、いいけどさ
竜也は元いた世界との違いを感じながらもたいした問題ではないので軽く流した。
「竜也って呼んでください」
「お前なんか転生者で十分だ!」
いちいち噛み付いてくるオリガを無視して竜也は次の質問をする。
「ガライさんとオリガはどういった魔族なんですか?」
「私を勝手に呼び捨てにするな!」
オリガは怒ったが竜也はオリガに反応してもキリがないと思ったので無視した。
「俺たちはオーガという種族だ。簡単に言えば体がでかくて身体能力に優れている種族だな」
そういうガライはかなりの大きさだ。
オリガもガライ程ではないがやはり大きい。
そんな2人が住んでいる家だからか、家具などは竜也やルナが使おうとすれば少し大きい物ばかりだった。
「なるほど。じゃあ、ルナはどういった魔族なんですか?」
「てめえ!ルナまで呼び捨てにするな!」
「ルナはエルフって言ってな、まあ見たとおり華奢で綺麗な種族だ」
竜也はガライの話を聞きながらルナの方を見る。
ルナは竜也の視線に気付くと視線を逸らした。
「……えぇっと、エルフは魔法が得意なんですか?」
「うん、まあ、そうだな」
「ふーん、そうなんですね」
竜也は質問したものの他人に興味を持つような人間ではなく興味なく答える。
「あー、じゃあ魔法について詳しく教えてほしんですけど」
「ま、魔法か?うーん、俺はそういうのはちょっとな……。ルナ教えてやってくれないか?」
ガライは困ったようにルナに頼む。
「ルナ! そんなやつに教えてやらなくていい!」
「……いいよ、教えてあげる」
「ルナ!」
オリガはルナの予想外の返事に驚く。
「……教えても、問題ない」
ルナは表情を変えず説明を始めた。
「……まず、魔法には属性がある。雷、風、水、火、氷、土、そして光と闇。その中の適性のある属性の魔法を魔力を消費して使うことができる」
「ふむふむ、なるほど。ルナは雷と風を使ってたね」
竜也は先ほどの闘いを思い出しながら言う。
「……そう」
「他にはどの属性が使えるんだ?」
「……わからない」
「え?なんで?」
「……確かめる方法がない」
「そうなのか? じゃあどうやって魔法を覚えるんだ?」
「……それも、わからない」
「えぇ?!」
「……魔法は突然頭の中に魔法名が浮かび上がる。それを唱えれば使える」
「つまりその魔法名が浮かび上がる原理がわからないってことか?」
ルナはコクンと頷く。
「なるほどな。じゃあ、自分の頭に浮かんでない魔法名を唱えたらどうなるんだ?」
「……何も起こらない」
「ふーん。まあ、だいたいわかったぞ。ってことはつまり魔法の才能があるやつってのは全属性使えて魔法名がどんどん浮かび上がってバンバン魔法を使えるのか」
「……違う。適性は光と闇のどちらか1つと他の六属性の中から最大で3つまでしか持てない。それに魔法はバンバン使えるほどお手軽なものじゃない」
「色々制約があるのか。使うとしたら大変そうだな。」
「……初級や中級魔法なら何度も使えるかもしれないけど、上級や最上級魔法は無理」
「階級もあるんだな。うん、まあ、だいたい理解した。それじゃあ俺も魔法名が浮かび上がってくるまで待つしかないのか」
「……」
竜也のその言葉にルナは少しの間口を閉じた。
「……それは、ない」
「え?」
「……転生者に、魔法の適性は、ない」
「え、えぇ……」
魔法という幻想的な力が存在するのに自分には使うことができない事実を唐突に突き付けられた竜也はかなりのショックを受けた。
竜也はふとルナの方を見ると、少し笑っていた。
竜也に対し初めて見せた笑顔。
笑えばさらにかわいく見える。
嘲笑だったが。
「はは! ざまあみろ!」
オリガは落ち込む竜也を見て嬉しそうだ。
「はぁ~。まあ、いいや。その代わりの恩恵なんだろうし」
竜也はため息をつき、なんとか自分を納得させた。
「それじゃあオリガやガライさんはどんな魔法を使えるんだ?」
「うぐっ」
竜也のその質問にオリガに面を食らう。
「俺たちオーガは魔法はてんでダメでね、適性がねえわけではねえんだが、魔力は少ないしそもそも魔法名なんてほとんど浮かび上がってこねえのさ」
「しゅ、種族的な問題だから仕方ないんだ!」
「ほとんど俺と一緒の理由だろ、それ」
「~~~っ」
ガライはあっけらかんと答える。
オリガはなんとか体裁を保とうとするが竜也の言うことに何も言えなくなり悔しそうに顔を赤くする。
「それじゃあ、次はこの世界について教えてほしいんですけど。おおまかでいいので」
「わかった」
苦手な魔法の話が終わったので次はガライが真面目な表情で説明を始める。
「簡単に説明するとこの世界はウィゾンと呼ばれ主に4つの大陸とその他の島国でできている。ウィゾンのほぼ全ての場所で人間たちが国を作り統治していて、そのほとんどの国の権力は転生者が握っているそうだ。おまけに転生者たちは魔族に対して敵意を剥き出しにしている。そんな国ばかりなんで俺たち魔族は居場所がねえんだ。環境の厳しいところに逃げ込むか人間に捕まり奴隷として生きていくかといったところが魔族たちの現状なんだ」
だいたい思っていた通りだな
竜也はそれほど驚く様子もなく話を聞く。
オリガはとても辛そうな表情をしており、ルナはそれほど表情は変わっていなかったが辛そうなのが伝わってくるようで、目を伏せていた。
「魔王が倒されて転生者という後ろ盾がある人間たちは復讐がてら俺たち魔族を駆逐しようとしたんだろうな。それに魔族は人間よりも丈夫で知能も高かったりするやつもいるからそれを利用しようと奴隷として使い始めたんだろう」
「酷すぎる! 魔王に従わずにひっそりと暮らしていた魔族もいたのに! 人間は見境なく魔族を殺して奴隷にする! サイテーだ!」
ガライの話にオリガは声を荒げる。
ルナは目を伏せたままだ。
……まあ、どっちの立場の気持ちもわかる気がするけど。
お互いに人間と魔族っていう大きな枠組みでしか見れていないんだな。
それが普通なんだろうけど。
この状況を変えるのは、ま、無理だろうな。
竜也は人間と魔族の対立をおおまかに考える。
あまり真剣には考えてはいない。
竜也にはどうしても他人事のように聞こえるからだ。
「うん、まあ、わかりました。この話は終わりにしましょう」
辛そうなルナとオリガを見ていられない竜也はこの話をやめるようにした。
「ところで今ここはどこの大陸にいるんですか?それとも島?」
「ここは大陸じゃねえ。ウィゾンの端っこにあるこの村しかねえような小せえ小せえ島だ」
「ってことはこの島には魔族しかいないってこと?」
「そういうことだ。魔族が平和に暮らせる数少ねえ場所だ」
さっきまでとは違い3人とも少し明るさを取り戻していた。
「でも、そんな場所人間に狙われるんじゃ?」
「それはねえな。この島の周りの海はちょっと特殊でね。近づくことができねえのさ。まあ島から出ることもできねえんだけどな」
「転生者なら来れるやつもいるんじゃないですか?」
「わざわざこんな小せえ島に来るやつはいねえはずだ。いるのは魔族だけで他に特に価値のあるような物はねえし、魔族を殺したり奴隷にしようとするなら大陸で十分だろうしな」
「ふーん。魔族はここに集まったりしないんですか?」
「俺としては来てほしいんだが来るのが難しいからな。海を渡ってくるのは無理だし、空を飛べるやつらでも風で押し戻されちまう。ここにいるのは元々ここにいたやつらばかりなんだ」
「そっか」
ある程度聞きたいことを聞いた竜也は少し考える。
とりあえずあらかた聞いたかな
うーん、これからどうしようか
せっかく異世界に来たんだからずっとここにいるのは嫌なんだけど、どうもこの島から出るのは簡単じゃなさそうだしなぁ
唯一可能性があるとすれば恩恵を使うことか……
でもまだよくわかってないんだよな、恩恵について
何か情報はないかな……
「あの、転生者の恩恵について知ってることってありますか?」
「……すまねえな。全くわかんねえ。実際に転生者を見たのはおめえさんが初めてでそのギフトってのも初めて聞いたな。俺たちは島の外のことをほとんど知らないんだ」
島から出られないんだし当然か
「なら、なんでこの世界の現状を知ってるんですか?」
「……それはなんとかここに辿り着いた魔族もいてな。どうせ死ぬのならここに辿り着く可能性にかけて覚悟を決めて飛び出してきたらしいんだ。それで運良くここに来れてな、そいつから聞いたのさ」
はあ、そういうことか
ならどうしようか
とりあえずこの世界のことはだいたい把握できたんだけど、これから行動するのに恩恵についても把握しておかないといけないだけどなぁ
んーー、ん?
待てよ?
把握?
そうだ!
もしかしたらわかるかもしれない!
「あ、あの、鏡ってあります?」
「カガミ?なんだそりゃ?」
ダ、ダメか……
せっかくいい方法だと思ったのに
「自分の姿が映し出されて自分の姿を見れるものなんですけど……」
「……え?」
竜也がそう言うとルナが驚きの声をあげる。
「自分の姿が映る? ルナ、おめえ確かそんなもの持ってたよな?」
「……」
「ほ、ほんとに!?」
ガライが尋ねてもルナは答えない。
竜也は鏡がありそうだとわかると早速ルナにお願いをする。
「お願い! ルナ! それを俺に貸してくれないか!」
「ルナ! 絶対に言うこと聞くな! こいつは転生者だ! 何されるかわからないぞ!」
竜也は頭を下げる。
オリガは何かよからぬ事に使われると思い必死にルナを説得しようとする。
「……」
ルナは答えない。
竜也は考えた唯一思い付いた方法だったので必死に頼み込む。
「頼む! この通りだ!」
竜也はついには土下座をして頼み込む。
「……うぅ」
ルナはそんな竜也を見て困惑した。
「ルナ、いいじゃないか。貸してやれ」
「な、親父!」
オリガはガライの言葉が信じられないようだ。
「なんでこんなやつの言うことを聞くんだよ!」
「オリガ、よく考えてみろ。その気になればこいつは俺たちの動きを止めて殺すことができるんだぞ。カガミとやらを貸さねえでも俺たちを殺して探せばいいはずだ。それでもこいつはそんなことせずに頼み込んでんだ。大丈夫だろう」
その発想怖っ!
さすがにそんなことできないって!
竜也は自分では思い付かない発想に驚く。
「……貸して、あげる」
ルナは竜也から目を逸らしつつ答えた。
オリガはもう何も言わないようだ。
「ありがとう!」
竜也は笑顔でルナにお礼を言った。
「……」
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よし!
上手くいった!
竜也は少しヒビの入った手鏡で把握の眼を使い自分自身の力について視ることができた。
よし!
これで恩恵のことが詳しくわかったぞ!
把握の眼:竜也の左目に宿っている恩恵。生き物や自然、魔のものに関する様々な事象を視ることのできる眼。対象は視界に入れておく必要はなく、自身から半径50m以内なら視ることが可能。ただし人間相手では著しく視力が落ちたようにボヤけて視えてハッキリと捉えることはできない。使用中は左目が蒼く光る。
支配の眼:竜也の右目に宿っている恩恵。生き物や自然、魔のものに関するものなど全てを支配し、どんな命令でも下すことのできる眼。対象の数に制限はないが、命令時に視認しておかなければならず、命令は口に出さないといけない。ただし人間には使用不可。使用中は右目が紅く光る。
……恩恵については把握できるけど、俺自身の体とかに関してのことはハッキリ視えないな
……どうも俺の恩恵は人間相手には向いてないみたいだ
まあ、転生者に与えるものだから対魔族に特化してるのは当たり前なんだけど
あの女神本当に俺に転生者を殺させるつもりがあったのか?
「……もう、いい?」
ルナは竜也に上目遣いで話す。
「え、あ、ああ、うん」
そのかわいさに少しオドオドしながら答える。
「てめえ、また変な目でルナを見ただろ!」
オリガはまたも竜也に怒る。
どうもオリガは転生者やルナのことになると怒りっぽくなるな
竜也がそんなことを考えていると突然家の外から轟音が鳴り響いた。
ドゴォォォォォォォォン!!!
「!? な、なんだ!」
竜也が驚いている間にルナとオリガが外に飛び出る。
「お、おい!……ああ、もう!」
竜也は少し戸惑った後、2人を追いかけた。
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竜也が外に出てみるとさっきガライの家に向かっている時に見えていた何軒かの家が吹き飛んでいた。
先に外に出ていたルナとオリガ、そしてガライが臨戦態勢で1人の男と対峙しているのが見えた。
竜也は急いで駆けつけ3人に並んで立ちその男を見る。
「あぁん? なんで人間がここにいるんだ?」
杖を持ち、黒いローブを着た男は不思議そうな顔で言う。
に、人間!?
いや、転生者かこいつは!?
なんでここに!?
竜也は先ほどの話ではありえない状況になっていることに混乱しつつも把握の眼によって相手を視る。
人間であるので詳しくは視えないが、相手が転生者であること、そしてその恩恵については視ることができた。
……む、無限魔法!?
……これがこいつの恩恵なのか!?