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転生者殺しの転生者  作者: com
1章 ~旅立ち~
2/18

把握の眼・支配の眼

 

「こりゃマジでヤバいな……」


 対峙している魔族たちは今にも襲い掛かってきそうだ。


 なんとか切り抜けないと……

 何かないか……?

 そうだ!

 恩恵ギフトを貰ったんだった!

 えっと、確か把握と支配の眼だっけ?

 って、どうやって使えばいいんだよっ!?


「う、うおおおおおおおおおお!!!」


 転生者との闘いという緊張で冷静さを失った1人の体の大きい魔族が大きな斧を振り上げ竜也に襲い掛かる。


「うわあ!」


 !?


 突如竜也の左目が蒼く光った。

 そして驚きで叫んだ竜也だったが、不思議なことに気付く。

 襲い掛かってくる魔族の動きが分かるのだ。

 いや、視えているのだ。

 その魔族の次の動きが。


 躱せる!!


 そう判断した竜也は魔族の振り下ろす斧を余裕を持って躱す。


 ズドンッ


 魔族の斧は空を切り、地面にたたきつけられる。


「なにっ!?」

「油断するんじゃねえ! そいつは転生者なんだぞ!」


 攻撃を躱された魔族に他の魔族が言う。


「……怖すぎるだろ」


 竜也は斧が振り下ろされたところを見て息を呑んだ。

 地面は抉れ、周りには亀裂が走っている。


 こんなのくらったら即死だぞ!?

 くそっ!!

 どうする!!


 最初の一撃を躱された魔族たちはより一層警戒を強め攻撃してきた魔族共々距離をとり、竜也の様子を伺う。

 その間に竜也は思考を巡らす。


 たぶん今のが把握の眼の力をなんだろうな……

 相手の動きを把握できるのか

 強いが今のこの状況を打開できるものじゃない。

 ……なら、支配の眼に頼るしかないけど、いったいどんな力なんだ?

 もしかすると……


 思考を巡らせ結論に至ると竜也は魔族たちの方を見た。


「!?」

「来るぞ!!」


 魔族たちは竜也が行動をとろうしていることを察し迎え撃とうと構えた。

 竜也の右目が紅く光った。


「武器を捨てろ!」


 ガシャガシャンガシャン


 竜也が言葉を発すると魔族たちは自らの武器を捨てた。


「な、なんだこれは!?」


 思い通り!

 支配の目は相手を支配できる、命令を聞かせることができるんだ!

 なんて強力な目なんだ!

 これなら勝てる!


「武器を拾って突撃だ! 魔法で援護もするんだ!」


 転生者の力の片鱗を見せつけられた魔族たちは一気に勝負に出るしかないと悟り、総攻撃を仕掛ける。

 だが、自分の力を理解した竜也は落ち着いて対処する。


「止まれ」


 竜也の命令になす術なく魔族たちは動きを止められてしまった。


「ち、ちくしょう……!!」

「……ふう」


 魔族たちは悔しそうに竜也を睨む。

 竜也は闘いが終わったと思い、力を抜いた。

 もちろん目の力が切れないように意識しながら。


「魔法で援護って言ってたしやっぱり魔法ってあるんだな。っていうか、俺が魔族と闘う意味ないよな。まあ、自分の力がわかったからいいんだけど」

「た、頼む! 見逃してくれ! 殺さないでくれ!」

「……はぁ」


 竜也は魔族が転生者をどう思っているのか痛感し、ため息をついた。

 魔族は転生者が憎い。

 転生者は自分たちに害を与える存在でしかない。

 そんな思いがビシビシと伝わった。

 あるいは視えた。


 相手の感情や心まで視えるのか……


 そんな虚しい思いをしている竜也に1人の魔族が話しかけてきた。

 最初から皆をまとめるような声を出していた魔族だ。

 その男の風貌は体がかなり大きく、2m以上はあるだろうか。

肌は薄い赤色で、額の左右に小さい角があった。耳は尖っており、顔は人間と同じではあるがとても厳つい。


「俺たちを殺すのは構わねえ、だが女子供には手を出さねえでくれ! 頼む!」

「……」


 動きが止まっているのにも関わらず、かなり威圧感のある目でそう言う魔族に竜也は少したじろいだ。


「おめえさんはまだこの世界に来たばかりで心が穢れてねえはずだ! 頼む!」

「手を出すもなにも俺はあんた達に危害を加えるためにこの世界に来たわけじゃないんだけど」


 必死で頼み込む魔族に竜也は誤解を解こうとする。

 竜也は一応転生者を殺す名目でこの世界に来た。そのつもりはないが。

 なので一応竜也は魔族たちの味方としてこの世界に転生してきたのだ。


 まあ、まだ魔族の味方をするつもりもないんだけど闘うつもりもないからな


 竜也はそう思い魔族との和解を考えた。


「そ、それは本当……なのか……?」

「ああ。っていうか今更魔族と闘う転生者がこの世界に来る必要ないだろ」

「な、なら何故この世界に来たんだ?」

「え、あー、んー、それはだなぁ」


 転生者を殺しに来ました、なんて言っても信じないだろう。

 そもそも竜也にそのつもりはないし、何故この世界に来たと言われても答えることができない。


「えっと、魔族を救うため……とか?」

「……」


 ヤバい、ミスったー!

 どう考えても信用されないだろこれ!

 何言ってんだよ俺は!


 竜也はなんとか魔族に良いように思われたくて言い訳を考えたが焦って突拍子もないことを言ってしまった。

 魔族は黙っている。


「……」

「騙されるなガライさん! 転生者が俺たちの味方なんかするはずがねえ!」


 他の魔族が叫ぶ。

 それでもガライと呼ばれた魔族は黙ったまま竜也を見ていた。

 その時だった。


 ヒュッ


 !?


 風を纏った何本もの矢が竜也の体を掠めた。

 把握の目で視えてはいたが、気を緩めていたこともあり、躱しきることができなかった。


「痛え!!」


 掠っただけではあっても元の世界では味わったことのない痛みが竜也を襲う。


 くっそ!

 めっちゃ痛えぞこれ!


 痛みで焦る竜也に木の影からガライと似た魔族が襲い掛かってくる。


「うお!?」

「はあああああああああああ!!!!」


 剣を構えとてつもない速さで竜也に迫ってくる魔族。

 普通の人間になら対応することはできないだろうが、その動きを把握していた竜也は咄嗟にその魔族に命令した。


「と、止まれ!」

「きゃっ!」


 攻撃をする前に命令によって動きを止められた魔族は剣を落としその勢いを消せぬまま竜也に向かって倒れ込む。


「うぎゃ!」

「きゃあ!」


 竜也よりも少し大きい魔族になかなかの体当たりを食らわされた竜也とその魔族は仲良く悲鳴をあげた。


「ったく、なんだってんだよ」


 竜也はその魔族を見た。

 外見の特徴を見るにどうやらガライと同じ種族の魔族らしい。

 しかし顔や体を見てすぐにわかった。


「お、女の子!?」

「くそ!親父たちを離せ!」

「オリガ!」


 ガライが叫ぶ。オリガと呼ばれた女の子は竜也を睨みつける。人間と同じ顔を持つ魔族であるオリガはとても整った顔をしており、大きい体に大きい胸を持っていた。


「でかい……。二つの意味で。」

「ちくしょう!転生者め!みんなを離せ!」


 セクハラ的な発言をする竜也に向かってオリガは叫ぶ。


「わ、わかってるって。とりあえず誤解を解いたらすぐに解放するから」


 オリガのあまりの勢いに気圧される竜也。

 すると、


 !?

 雷が飛んでくる!?


 突如把握の目でそう視えた竜也は雷が飛んでくるであろう方向を向いて命令を下す。


 ジジジジジジジジジ


「止まれ!」


 その方向には誰もいなかった。

 しかしながら放たれた雷が空中で静止しており、しばらく経つと消えていった。


「すげえ!この目魔法も支配できるのか!」

「……これじゃ……ダメ。……他の方法を」


 雷の魔法を放った魔族は身を隠しながら次の策を模索する。


「ルナ! ダメだ! こいつには不意打ちは通用しない! 逃げるんだ!」


 オリガはその魔族に向かって叫んだ。


「……そんなの……ダメ!」

「……逃げるつもりはないみたいだな」


 ルナはオリガの言う事を聞かず竜也に立ち向かうつもりだ。

 その事を把握している竜也はルナの動きに対して構える。


「……来る!?」


 竜也の背後からまたも雷の魔法が飛んでくる。

 それに対応しようとみせる竜也だが、その瞬間正面から風を纏った矢が何本も飛んできた。

 さらにルナ自身が竜也の左側から短剣を持ち襲い掛かる。


「……いける」


 ルナは勝利を確信した。

 だがそれに対し竜也は最小限体を右側へと動すことで矢と雷のわずかな隙間に入り攻撃を躱しつつさらにルナの方を見た。


「……!?」

「止まれ!」


 驚きを隠せないルナに命令を下す竜也。

 ルナの動きが止まり、仰向けに倒れ込む。


「危ねぇ……。なんとかいけたな」

「……そんな」


 呆然とするルナを他所に竜也は周りを把握の目で見渡す。


 ……もう動けるやつで俺に攻撃しようとするやつはいないみたいだな

 なんとか切り抜けたみたいだ


 ドサッ


 今度こそ危機的状況を乗り越えたと確信した竜也はその場に座り込んだ。


「ふうーー。つ、疲れた。それに痛え」

「ちくしょう! ルナを解放しろ!」

「……」

「頼む! 2人を解放してやってくれ!」


 落ち着く竜也にオリガとガライが叫ぶ。


 ……なんとか生き残ったな

 ざまあみろクソ女神が!

 しかしいきなり死にそうに目にあうとか退屈しないな、ほんと


 そんなことを考えていた竜也は黙っているルナの方をなんとなく見た。


 め、めちゃくちゃかわいい!!

 こ、この娘ってたぶんエルフ……だよな……?


 竜也はルナを見ると素直にそう思った。

 エルフであるルナは人間の竜也からすればとても美しい女の子だった。

 金色の髪に、透き通るような白い肌、尖った耳、あどけなさが残る綺麗な顔立ちに、守ってあげたくなるような華奢な体つき。まるで人形みたいである。

 竜也はルナをぼーっと見ていた。

 そんな竜也を見てオリガがまた叫ぶ。


「てめえ! 変な目でルナを見んじゃねえ! ルナに手ぇ出したら殺すぞ!」

「え、あ、ごめん」


 そういう目で見ていた竜也はついつい普通に謝ってしまった。


「ほんとに変な目で見てたのかよ! 殺してやる! 絶対殺してやる!」

「ち、違うって! いや、違わないけど…違うって! 手を出したりしないから!」


 怒り狂うオリガに対して竜也はたじたじになりながら弁明する。


「オリガ、少し静かにしていてくれ」

「親父! だって!」

「いいから、静かにするんだ」

「……うん」


 ガライにそう言われると口を閉ざして落ち込むオリガ。

 あれだけ叫び散らかしていたオリガだったが急にシュンと落ち込むとちょっとかわいいなと竜也は見ながら思った。

 オリガは竜也の視線に気付きすぐに睨みつけた。


 どんだけ嫌われるんだ……

 さすがに初対面の女の子にこんだけ嫌われると落ち込むんだけど……


 オリガが落ち込む以上に竜也は落ち込んだ。


「もうこれ以上この村に闘える者はいねえ。おめえさんの好きにするがいいさ」

「……親父!」

「……ガライさん、ダメ!」


 静かにするよう言われていたオリガと、ずっと黙っていたルナはガライの言葉に反論する。

 しかし、


「俺たちにはもうどうすることもできねえ。俺たちの運命はもうこいつが決めることだ」

「……」

「……」


 次のガライの言葉を聞くと何も言えなくなった。

 2人は涙を浮かべ自分たちの運命を受け入れるしかないのだと悟った。そう、この転生者に襲われ殺される運命を。


「……」


 そんな感じの空気を感じ取った竜也はいたたまれない気持ちになった。


 いやいや、俺そんなことしないんですけど……

 でもやっぱり信用して貰えないよな……

 はあ……

 どうしよう……


 竜也はまたも和解を考えるが先ほど失敗したこともあり、あれこれ考えていた。

 その時ガライが口を開いた。


「俺はおめえさんのさっきの言葉を信じてみようと思う」

「なっ!?」


 ルナやオリガを含めた魔族、ついでに竜也が驚愕する。


「おめえさんが俺たち魔族の味方だって言葉を信じてみようと思うんだ」

「な、何言ってんだよ親父! 転生者が私たちの味方なはずないだろ!」

「そうだよ、ガライさん! 転生者はみんな俺たちの敵だ!」

「……」


 オリガや他の魔族たちはガライに抗議する。

 ルナはまた黙っている。


「こいつはさっきから俺たちを傷付けようとしてねえ。ただ俺たちの殺意をいなしただけだ」

「そんなの俺たちを油断させて後から殺すつもりだけかもしれない!」

「うるせえ!!!」


 ガライは他の魔族の抗議の声を一喝する。

 怒りが混じったかのようなその声に他の魔族たちは押し黙った。


「おめえさんはどうなんだい? 俺たちをこれからどうするつもりなんだ?」

「え?」


 竜也は魔族たちのやり取りがなんだかドラマのようだなぁと思い、呆然と見ていた。

 ガライの問いに対し、少し考えて答えた。


「えっと、とりあえずこの世界のことを教えてほしいんだけど。詳しいことを知らないまま来ちゃったし」

「そんなことならお安い御用だ! なんでも聞いてくれ!」


 ガライはとても嬉しそうに答えた。

 オリガや他の魔族は納得していないようだ。

 ルナは黙ったまま目を伏せている。


「えっと、それじゃあまず……」


 言いかけて竜也は口を止めた。


「……?」


 魔族たちは皆不思議そうに竜也を見た。


 なんか俺以外全員固まったまま話すのって気持ち悪いな……

 なんとかなんないかな


 自分の支配下にある魔族たちを見て良い気分になれない竜也は考えた。


 ……あ、そうだ

 ……うん、たぶんできるだろう


 竜也はそう確信すると支配の眼を解いた。


「うわ!」


 急に体が動くようになった魔族たちはバランスを崩し、ドタドタと倒れた。

 すかさず竜也は新しい命令を下す。


「俺に攻撃するな」


 またも右目が紅く光り魔族たちを支配する。


「これで大丈夫だろ」


 そう安心する竜也にオリガはすぐに立ち上がり殴りかかる。


「うおおおおおお!!!」

「おぉ」


 鬼神の如き勢いで竜也に襲い掛かろうとするが竜也は落ち着き払っている。

 把握の眼でどうなるかわかっているからだ。


「ふにゃあぁ……」


 殴ろうとした瞬間オリガから一気に力が抜け、へなへなとその場に座り込んだ。


「くくく、ふにゃあぁって、かわいい声だな」


 竜也はオリガのかわいらしい姿に笑いを抑えられなかった。


「~~~~っ」


 オリガは悔しさと恥ずかしさからか、元々赤い顔を更に赤くしながら黙って竜也を睨む。


「ははは。いやー、今のは笑うわ。殴ることもできないみたいだし、魔法もダメみたいだな」

「!?」


 背後で魔法を出そうとしているルナの方を振り返りながら話しかける。隙を見て竜也に魔法で攻撃しようとしていたのだ。


「……気付いてたの?」

「まあね」


 ルナは無表情で竜也に問いかける。

 周りの動きを把握していた竜也は当然のように答える。


「2人共落ち着け! 俺たちは動けるみてえだがこいつには手が出せねえらしい! もう無駄なことはやめるんだ!」


 ガライが2人に言う。


「だったら逃げよう! 親父!」


 オリガが立ち上がりながらガライに言う。


「ダメだ。どうせまた動きを止められるだけだ」

「……くっ!」


 ガライの言葉にオリガは悔しがる。


「とにかくこいつの話を聞くしかねえんだ。そうしようじゃねえか」

「えっと、とりあえず話を聞いてくれるってことでいいんだよね?」


 竜也はできるだけ優しめの声で言う。


「ああ、そうだ。立ち話もなんだからうちに来てくれ。他の者は皆自分たちの家に帰っててくれ!」


 ガライが他の魔族たちに言う。

 魔族たちはその言葉に従いぞろぞろ自分たちの家に帰っていった。


 竜也はガライに連れられてガライの家へと向かった。

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