退屈、そして転生
初投稿です
退屈だった。
俺の人生は退屈だった。
子供の頃から要領が良く、勉強でも運動でもどんな事でもある程度やれば人並み以上にできるようになった。
当然みんな褒めてくる。それが気に食わなかった。
頑張っても頑張らなくても結果は同じ。みんなが俺を褒める。俺の努力の量に関係なく。
退屈だった。
そこに達成感は生まれない。やれば出来る、みんなが褒めてくれる。ただ同じことの繰り返し。
それがずっと続いた。何をしても達成感はなかった。
退屈だった。
結果がわかっているのだから。
だったら何もやらなくていい、そういう無気力に襲われるのは当然だった。
熱中することも達成感を得ることも様々なことに一喜一憂することもなく、ただ生きるために必要なことをこなす毎日。
退屈だった。
そして交通事故で死亡。くだらない。
生きていく楽しみも苦しみも何もなく死んだ。
退屈だった。
退屈だった。
退屈だった。
---------------
「そうよねぇ。退屈ってほんと嫌だよねぇ」
気がつくと声が聞こえてきた。
いつの間にか俺は何も無い空間にポツンと立っていた。
なんだ?
俺は死んだはずじゃ?
「おーーーい。聞いてるーー?」
また声が聞こえる。
俺は辺りを見回し声の主を探す。
「やっほーー」
俺が後ろを振り向き、その声の主を見るとそいつはヒラヒラと手を振りながら言った。
「あなた誰ですか?」
「んーー? 私はね、すごいすごーい女神様だよ」
俺の問いにその自称女神様は楽しそうに答える。
俺は相手をよく見た。
綺麗だ。率直にそう思った。
綺麗な金色の髪。美人であり可愛くも見える顔立ち。吸い込まれそうなほど美しい蒼色の瞳。スラッとした体型なのに胸はでかい。
絶世の美女とはこういう人の事を言うのだろう。
「もう、君ちょっとまじまじと見すぎだよっ!」
あまりの綺麗さに俺はじっと見つめてしまっていたのだろう。
自称女神様がいたずらっぽく笑う。
「あ、ご、ごめんなさい」
「うふふ、いいよ。許してあげるー」
俺はオドオドしつつ謝った。
自称女神様はニコニコしながら許してくれた。
「あ、あのー」
「どうしたの?」
「俺って死んだん……ですよね……?」
「そうだよ。だからここにいるの」
ということはここは天国なのか?
こんな美女がいるなら地獄ということはないだろう。
「もしかしてここって天国で、あなたは天使なんでしょうか?」
「うふふ、違うよ。さっきも言ったでしょ。私はすごい女神様だって」
「えっと…じゃあ俺はこれからどうなるんでしょうか?」
「んー、君にはね、転生してもらおうと思うの!」
転生・・・?
転生って漫画やアニメでよくあるあの転生?
ふざけた話だが交通事故にあった事はわかっているし、死んだという感覚もあった。
しかし今こうして俺は自分の足で立っており、よくわからない空間で女神様と言われても信じるくらいの美女にそう言われたら信用する方が自然というものだろう。
「転生って、つまり異世界に行ってあれこれする的なやつですか?」
「そうそう、それそれ」
女神様は当たり前のように答えた。
俺は心臓が高鳴るのを感じた。
異世界。
俺の知らない世界。
そこに行ける。
しかも女神様に転生させてもらって。
大冒険の予感がする。期待しない訳がない。
全てが新鮮で退屈からは程遠いだろう。
ついに俺にもワクワクするような事が起こるのか!
そういう期待が心の底から湧き上がる。
「それって異世界に転生して人々を苦しめる魔王を倒す旅に出るってことですよね?!」
逸る気持ちをを抑えきれなく早口で尋ねる。
が、
「んーーー、それがそうじゃないのよねぇ」
「えっ?」
思ってた返事と違った。
さっきまでの高揚感がどこかに吹き飛んでしまった。
「実はね、君より前にいっぱい転生させてるの。その転生者たちがとっくに魔王を倒して世界を平和にしたの」
「へっ?」
ちょ、待て待て。どういうことだ?
世界が平和?
だったら俺はなんのために転生するの?
え、なんでなんで?
意味不明なことを言われ動揺を隠せない。
頭がぐるぐる回ってるような気分だ。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと説明するから」
女神様は俺の反応がわかっていたのか、落ち着き払った声で話す。
「転生者には私から恩恵を与えてあげるんだけどー」
「恩恵…?」
「そう。ものすっごく強い能力のことだよ」
「あぁ、よくあるチートスキルですか」
「よくあるってそんな言い方しないでよー。ありがたーいチカラなんだからね。でね、そのチカラを持った転生者たちがあまりにも強すぎたの。それで魔族たちはどんどんやられていっちゃった訳」
「は、はぁ」
なんだそれ。マジで俺いらないじゃん。
てか結構適当にチカラを与えるんだな、この人。
「それで魔王も倒されて世界が平和になったの」
「じゃあもうほっといていいんじゃないですか?」
「ここまでだったらね。問題はここから。転生者たちは自分たちがあまりにも強いから自分勝手な行動をし始めたの。自分たちのやりたいことをやる。逆らう者には容赦しない。魔族はおろか人間にさえ牙を剥き始めたの」
「マジか……」
チカラは人を狂わせる。正にその言葉通りだ。
「そして転生者たちはより自分の思うがままに行動できるよう国王の座についたり、自分だけの国を作り始めた。魔族から守ってやるから自分を崇めろって感じでね。さらに転生者たちは魔族たちをチカラで支配し奴隷にまでするようになったの」
「ひでえ…」
「転生者や他の人間たちはそうは思っていないわ。今まで自分たちを苦しめてきたやつら、同じことをしようとしてきたやつらなんだから当然のことと思ってる」
「……」
「もちろん、そんなことをする転生者ばかりではないけど少数派。同じような強大なチカラを持った多数の相手と戦う人はいなかったわ。そういう自分勝手な転生者に嫌気がさした転生者はひっそりと暮らしているわ」
俺は言葉が出なかった。人も魔族も変わらない。チカラを持てばそれを使わずにはいられない。
とても自分勝手だ。
なんだか悲しい気持ちになってきた。
「そんな世界になっちゃって、新しい強い魔王を作っても対魔族戦に優れた転生者たちが強すぎてすぐ負けちゃうの。だからもう見てても退屈で仕方ないの」
「は?」
何言ってるんだ?
魔王を作る?
魔王が負けるのが退屈?
到底女神様から出る言葉とは思えない。
「魔王を作るってどういうことですか?」
「そのままの意味よ? 平和になって面白い展開もないからまた形勢逆転してもらおうと思ったのよ」
ほんと何言ってんだこの女神様は。
平和にするのがあんたの仕事じゃないのか。
どうも理解が追いつかない。
「女神様は平和を望んではないんですか?」
「あら、勘違いしないでね。私は退屈しのぎに世界を、人間と魔族を作ったの。それで途中までは見てておもしろかったけど魔族が支配して大きな動きがなくなってまた退屈になったの。それで転生者を呼んだらまた退屈になった。だから次の刺激を求めて君を呼んだのよ」
「………」
俺は絶句しつつ理解した。
この女神はヤバいやつだと。
自分の退屈しのぎしか考えておらず、人や魔族の命をなんとも思っていない。
その考えの恐ろしさとそれを実現する絶大な力を感じた俺は恐怖した。
その恐怖を感じ取ったのか、女神は不敵に笑い出した。
「うふふ、どうしたの? そんなに震えて」
俺はガタガタと震えていた。
なんとか声を絞りだし女神に話す。
「俺に何させる気だ?」
「言ったでしょ。君にはあの世界に新しい刺激を与えてほしいの」
「……!?」
なんとなく予想がついてしまった。
「つまりね、君にはあの世界に転生してもらって、転生者たちを殺していってほしいの」
予想は当たっていた。
その世界の人間より強く、魔族では勝てないとなれば転生者同士で戦わせればいい。
それが今のその世界を変える唯一の方法だ。
つまり俺に世界を救ったチートスキル持ちの人たちを殺し続けろというのだ。
「い、嫌だと言ったら?」
震える声で言う。
当然そんな狂気じみたことやりたいはずがない。
言ってすぐにもしかしたら俺は消されてしまうかもしれないという考えが浮かんだが女神の返事はそうではなかった。
「別になにもしないわ。私は君をここに呼んだ以上君をあの世界に転生させなきゃいけないし、私はあの世界に直接干渉することは出来ないようになってるから。君があの世界に行って何もしなくても私は君に何もしないし、そもそも何も出来ないよ」
女神の言葉を聞いて一気に安堵感が駆け巡る。
強制ではない。
異世界に転生すればもう俺の自由であるようだ。
「まあ、君が何もしなければ次の転生者を呼ぶだけだけどね。けど、君にはとても魅力的な提案でしょ?自分も転生者だけど相手も転生者。戦えば勝てるかわからない。とてもスリルがあると思わない?今まで君が味わったことのない達成感があると思うよ」
「……」
俺は何も答えなかった。
もうそんなことはどうでもいい。
俺はもうこの女神と一緒にいたくなかった。
恐怖で頭がどうにかなりそうだった。
早く転生させてほしい。
ただそれだけを願った。
「うふふ、私は心配してないよ。君は適任だよ。あの世界に行けば君は必ず他の転生者と戦うようになる。だってあなたはとても優しい人間だから」
言ってる意味がわからないがどうやら話は終わったらしい。
急に俺の体が浮き始めた。
「な、なんだ!?」
「早速君に恩恵を与え、そして転生してもらうね」
そう言うと女神は両手を俺に向けた。
すると、その手のひらから淡い光が出てきて俺の体を包み込んだ。
「君に与える恩恵は把握の眼と支配の眼!!」
そう女神が言うと俺を包んでいた淡い光が俺の両目に集まりだした。
俺は両目がとても熱くなるのを感じた。
眩しくもないし不快でもない。
チカラがみなぎるようだ。
「それじゃあ行ってらっしゃい! 神崎竜也! 私を楽しませて♡ すぐ死なないように祈ってるね♡」
俺の体はどんどんと浮いていき空中にある穴に吸い込まれていった。
「うわあああああああああ!!!」
---------------
「こ、こいつまさか新しい転生者か?!」
「まだ増えるのか!」
「なんでこんなところに!」
「早く子供たちを避難させろ!!戦える者は戦闘態勢をとるんだ!!」
「そうだ!来てすぐなら勝てるかもしれない!」
「「「きゃああああああ」」」
気がつくと今度は周りがすごく騒がしい。
転生者がいきなり現れてビックリしたのか?
にしてはなんか阿鼻叫喚って感じだ。
俺は周りを見渡し騒いでいる人たちを見る。。
視力が良くなっているのか、今までよりも色んなものがハッキリ見える。
皆、角がはえていたり、翼があったり、大きかったり様々な形をしている。
男であろう屈強な者たちは俺に対峙し睨みつけ、女や子供であろう者たちはその後ろの方に逃げ惑っている。
んん?これって魔族だよね?
あれ、ちょっと待って。
なんとなくわかるぞ。
これってもしかしてこの状況ってかなりまずいんじゃ……。
「転生していきなり魔族の村のど真ん中に出てくるとはな!」
「転生したばっかりで戦い慣れていないはず!今すぐに殺すんだ!!」
「これ以上転生者を増やしてたまるか!」
「殺せ!!殺すんだ!!!」
ふむ。
どうやらここは魔族の村のど真ん中らしい。
転生者に支配されている魔族が転生者を喜んでおもてなしするはずもなく、恐ろしいまでの殺意を俺に向けている。
やべえ、いきなり死ぬかもしれない。
そしてそんな中で俺は女神の最後の言葉を思い出し、その意味を理解した。
『すぐ死なないように祈ってるね♡』
「……あのクソ女神がああああああああ!!!!」