仲間割れしてでも戦いたい時がある
自分よりも強い奴がいる。その逆でない事が愉快に抱けるのは、戦闘狂としての資質を持ち合わせている。
「お」
「あら、珍しいわね」
これは偶然。
駅のホームで、電車から降りたら出会ってしまった2人の格差が生じる怪物共。
「広嶋じゃない、どーしたの?」
出会ったのは自分の仲間であった。それは仲間という繋がりであり、自分よりも確かに上にいる存在。
逆立ちしても、いきなしふっかけても、死ぬという未来は揺るぎないであろう。しかし、それをそれで結構と、戦いの中で己に不足した事態による結末ならばなんら恐れない。
楽しいと。嬉しいと。
「ミムラに呼ばれた。理由は知らん。灯もなんでここにいる?」
「これから藤砂と戦闘よ」
人が人ならざる力を手にした。
それでも、人が人でなくなっただけ。広嶋から発せられる瘴気は怪物を凌駕する、邪悪の化身。男性の皮を纏う悪魔。
試したい。今の自分がどれだけ、こいつと戦えるか。山本灯の、人を超えた。文字通りの”超人”としての戦闘意欲は、何者に対しても拳で挑む。
「じゃあ、あんたもデートじゃない?」
「は?お前と一緒にするな」
敵対している状況であるならば、近くで迎えられる事はないだろう。拳が届く、戦闘にとっては短い間合いが灯の戦闘範囲。彼女の世界と言っていい。広嶋もやや戦慄した表情を作った。
「!」
もう一度、記そう。
山本灯、広嶋健吾の2人は人の形をした怪物である。その差は歴然としているが、人という枠に収まらない生物同士。
「私と戦闘よ」
”拳女王”
灯の真価たる”超人”としての技能は、研ぎ澄まされた拳の扱いにある。
拳を放つその挙動を相手に見せた瞬間にはすでに、相手を殴り終えているという。”終わった拳”と呼ばれる、超神速にして、時間が止まったかのように錯覚する突きは圧巻。
広嶋の体が灯の拳に反応し、気付けたとしても、微動だに動けない。金縛りにでもあったかと思えるほどにあるのは、広嶋もまた怪物である証明。それほどに超スピードで繰り出される灯の拳。
ガードしようとしていた手をすり抜け、広嶋の胸骨に叩き込んだ灯の一発は、スピードと比例するようにパワーも甚大。広嶋を回転させながら駅から吹っ飛ばしていき、線路の方へ押し出す。
「おぉっ?」
その勢いはまだ伸びて線路をさらに超え、塀を乗り越えようという一撃。加速していき、少し先のビルにまで届こうというところか。
「………んだぁ?」
広嶋はいきなり殴られ、吹っ飛ばされながらも。軽々と戦闘態勢に切り替わる。仲間であろうと、そーいった枠組みは持っちゃいない。喧嘩を吹っかけてくるなら高く買ってやる。ぶつかるビルの壁、そのちょっと上にあった窓に手をかける。
「やるか?この都会のど真ん中でよ?」
”投手”と”同士討血”。
その2つが広嶋健吾の能力。
あらゆる物を投げられる”投手”と、同類同士を打ち消し合う”同士討血”。格闘戦も、魔法戦も、どっちも器用に高レベルな戦いができる。
難なく窓を掴んでビルの壁にこらえた広嶋の身体能力も灯のように人外。あれだけの威力を持つ突きをモロに浴びても、平然としているのも規格外の力。
「まー、あんたと戦うのも楽しいからねぇ」
灯は駅から大きくジャンプし、橋の塀に足を一っ跳びで着き、さらにそこから大ジャンプ。ビルの窓に捕まる広嶋に一直線だった。
「空中じゃお前の”拳女王”はだいたい無力だろ」
先ほど叩き込んだ一撃。あれだけの速度で打ち込めるのは、灯自身が最良な姿勢と構えを作れる環境でなければ成立しない。確かに身体能力だけなら灯の方が高いが、決して突き放されているわけじゃない。余裕を持って、広嶋は回避を図る。
それはそれで構わず、灯の第二の目的は自分の領域をここに作る事。本領を封じられているのはお互いさま。壁に拳を突き刺し、固定。逃げられない距離での打ち合いを演出。
「!」
広嶋は右手を、灯は左手を。窓に、壁に。掴んで、埋め込んで。
異様な肉体同士の喧嘩。
釣る瓶打ちのように繰り出す灯の右の突きに、広嶋もやや遅れながらガードしていく。腕の動きじゃ負けると察し、蹴りを繰り出すその動き。やや不慣れで嫌うように出た動きを灯が見逃すはずはなく。
しっかりと、広嶋の蹴りをガードしてから。避けれない角度から顎を蹴り上げる。
「っぅ!」
窓を掴んでいた広嶋の手が離れ、やがて地面へと落ちるだろう。
「あははは、広嶋。喧嘩弱すぎでしょ!」
それはお前が喧嘩に対して強すぎるだけ。
「腹立つな、!」
灯は壁から拳を抜いた。それは灯も地面に落ちる事を決められているようなこと。しかし、壁にしっかりと足を付けていた。落ちるという状態が始まる刹那に成せたという事実であり、時間や重力の法則が常時あるところの中で成せた矛盾もある。
作られしその構えを、確かに広嶋は感じ取った。
蹴り上げられた自分に追いつくように、壁を登っていく灯の姿は確かな事実。その証明は自分が殴られているという不運。
空中でお見舞いした灯の一撃は、ムカつく広嶋の顔面を襲った。
「!!」
「驚いた」
そりゃこっちだと思う。灯は確かに自分の求める地点に近づけた一発を繰り出せたが、
「そり立つ場所で”終わった拳”を使える事にはな」
だがそれはスピードのみがやや再現できたところ。パワーはやはり地面に足を付けた状態でないと発揮できず、打ち終わりからの動きも遅くなっている。広嶋が殴られてからも平然と追いつき、灯の右手を捕まえた。
「分解の時間だぞ、ゴラァ」
広嶋の”同士討血”が発動。
灯の要と言える両手を変型させながら、枯れていく花のように崩し始める。一度かかれば、灯がいかに抵抗しても外せない。
「ふふふ」
「あ?」
それを喰らった瞬間、灯は笑った。自分の制御と違う攻撃がどれだけかを理解し、それでもなお殺しに行く。タフな女だ。広嶋も知っている。
「あんたねぇ」
色々な能力があろう。広嶋の”同士討血”は戦闘における攻守に長けている。性能という意味でだ。
どシンプルに、突きを強化する灯の”拳女王”はパワー、スピード、テクニック、タフ。そんくらいの取り柄で、それだけで能力を超える代物となる。
「遅いのよ」
お前が速いだけだろ。
宙にいる状態で繰り出す、”終わった拳”はそれまでとは格段に遅くはあったが、それでも広嶋が灯の両手を切り落とすよりも遥かに早く、彼を殴って地面へと押し潰した。
「っっ」
広嶋が起き上がって来るなと、少しの気持ちを抱いたが
「どーする?まだ気が済まねぇか?」
それでもなお、広嶋はなんなく起き上がって来た。まだまだ精進しなければ到達できない領域があると知り、
「ええ、気が済むまで」
「今度は俺がボコる番だぞ」
また一つ、死線を潜って成長する山本灯であった。
◇ ◇
「広嶋くん、本気で戦ってますね。アカリン先輩、大丈夫ですか?」
「本気か、……7割といったところだろう」
その様子をミムラと藤砂が遠くで見守っていた。
「間違いなく、……俺の考えに気付いたんだろ」
「え?」
「たまには俺じゃない奴と戦った方が良いだろう、……灯とまともに戦えるとしたら広嶋くらいしかアテがいないが」
2人が戦うほど、2人の体もそうだが、街までもボロボロになっていく。
こうして怪物達は身や周りを壊しながら、日々成長していくのである。