表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ノスタルジックパスポート

作者: はるばら




 僕の世界は暗く、何にもない。

 ただ生きて、ただ歩く。それだけの世界。 そんなある日、それはやってきた。


「あなたにこれを差し上げます」


 突然目の前に現れたのは自称天使。

 驚く僕は無視をして、押しつけるようにあるものを渡してきた。

 なんでも、子供に戻れる紙切れらしい。


「なんで僕に?」

「あなたがつまらなそうに歩いていたからです」


 そんなに適当でいいのかよ────という疑問はそっと心にしまって、僕は言った。


「じゃあ、早速使わせてもらうよ」

「承知しました。さあ、目を閉じて」


 自称天使の簡単な指示に従うと、じわじわ意識が遠のいていく感覚に眩暈を起こしてしまいそうになった。

 それでも数秒後、ふわりと鼻をくすぐる甘い香りにつられて瞼を開くと、驚いた。


 透き通るような青い空にふわふわと気ままに流れていく雲。暖かなやわらかい風に吹かれて揺れる色とりどりの花の匂いが、甘い香りの正体だとわかった。

 子供の頃って、こんなに綺麗なものを見ていたっけ。


 急に、胸が苦しくなった。心臓がぎゅっと誰かに握られているようで、涙も自然と溢れ落ちる。

 でも、ずっと奥の方に仕舞ったまま忘れていた何か(・・)が僕の心を温めていた。


「今も同じなんですよ」


 自称天使の声が聞こえてくる。


「もう、忘れてはいけませんよ」


 その声は、優しかった。






 ◇ ◇ ◇



 次の瞬間、僕は布団の上で目覚めていた。


「……夢か」


 なんだかリアルな夢だった。まだあの花の香りが漂っているようだった。

 涙の跡に気付いて、少し恥ずかしくなった。男が夢見て泣くなんて……。


 背伸びをしながら起き上がり、いつものように部屋のカーテンを開けて室内を明るくする。

 ふと思いついて、普段は放っておく窓を開けてみた。

 そして、空を見た。


「…………」


 ────ああ、本当だ。

 僕のレンズが曇っていただけで、今も昔もこの世界は、なにも変わっていなかった。





・fin・

 実は人間は眼球も日焼けをしていて、実際大人は子供の頃見ていた風景より色褪せたものを見ている。

 みたいな話をどこかで見た時に書いたものです。

 感想など頂けるととても嬉しいです! よろしくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 書こうとしているテーマや視点がいいなって思えました。自分を振り返れます。 文体も読みやすかったです。
[一言] もう何年も空や道端の花を見ていない自分に気付きました。 自分の目に映る世界がもう大人の世界になってしまったんだという寂しさと、毎日が冒険だった子供時代を思い出せた高揚感でいっぱいです。 素敵…
2016/04/29 20:37 退会済み
管理
[一言] 何だかとても切ない気持ちになりました。 子ども時代の大切な忘れものを思い出したような気分です。 ありがとうございます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ