さい●かわらで
前の自民党の総裁ですか?・・・あ、アレ谷垣さんだ。まえがきじゃねえ。
しんだ。
私は死んだ。
車に轢かれて死んだ。交通事故死エンド。
「あ、あぶない!」
その時、私を轢き殺す車は道を横断する途中の猫に向かって走っていた。
「・・・」
んで、
気がつくと私の体は私の意志とは関係なく勝手にガードレールを飛び越えて車道に飛び出していた。いつの間にか自分のショルダーバッグを肩から手に持ち替えて、次の瞬間にはソレを車を見て固まっている猫にお見舞いしていた。きっと学生時代ラクロス部で鍛えていたのが幸いしたんだろう。
猫は私の鞄と一緒に道の反対側に飛ばされた。やわらかい素材の鞄だったから多分、多分大丈夫だろうと思う。多分。
・・・、
お願いだから大丈夫であってほしい。
そして猫の無事を見届ける前に私は轢かれた。
んで、死んだ。
もちろんその車の運転手の事を私は恨んだ。モチのロンで。もしかしたら運転しながらスマホでもしていたのかもしれない。あるいはその車は最初から猫を狙っていたのかもしれない。
うん。
そういう人って結構いるから。
うん。まあ私の肌間だから、なんともいえないけど。
あと、その猫のことも少し恨んだ。
ちゃんと見ないで飛び出しやがって・・・。って。
・・・、
それくらいは許されるんじゃない?
だって『右を見て左を見てもう一度右を見るそれから手を上げて渡る』って人間界では太古の昔から言われているあの標語があるでしょう?人間と密接な関係の猫がそれをいまだに知らないとは思えない。
絶対に知っている。
あと、猫族の皆さんは普段から人を食ったみたいに優雅然として振舞っているけど、
でも、それで轢かれたら意味無いじゃんよ・・・。
って思う。
にしても、人間と同じで猫族の皆様も自分だけは大丈夫だと思って渡ってそんで轢かれるのだろうか?
・・・、
でも、
まあ、いいか・・・。
死んだものは死んだのだ。もう仕方ないではないか?死んでから何を言ったところでだ。どれだけ科学が発達したところで、現行世界ではファンタジー世界のようにフェニックスの尾が誕生する事も、世界樹の葉が買える事も無い。
死んだら終わりだ。
・・・、
・・・でも、
一つだけ言わせて頂ければ、
我ながらなベタな死に方をしたものだと思う。
だから、それは少し恥ずかしい。
あ、
あともう一つ、
お父さんお母さん。
先立つ不幸をお許し下さい。
本当にごめんなさい。
・・・、
んで、
「・・・おわあ!?」
ふと気がつくと私はなんか知らないところにぽつねんとつっ立っていた。そんでまずそれに自分自身で超驚いていた。
「な、なんじょあここ!!」
噛んだりもした。
だってそうでしょ?びっくりするでしょう?噛むでしょう?だって私はそれまで一回も死んだ事無いんだもん。
「・・・おおお・・・?」
私の前には川が流れていた。一筋の川。二筋の川だったらパコデルシアだったのにとか思った。あと・・・チャゲ&・・・ああ、あれは万里の河だったっけ・・・。
ともかく、
「・・・」
そこは川原だった。
川原だけに足元には小さい石や大きい石が沢山ゴロゴロとしていた。
そこはなんか渓流の様な感じで、川を挟んだ向こう側も同じような川原だった。
・・・渓流・・・?
なんだろ、違うな・・・こんな所で自分の語彙量が無い事を実感するとは・・・、
谷?
違うな・・・、
けい・・・こく・・・、
あ!
渓谷!
そう渓谷だ。
私は見知らぬ渓谷の只中に立っていた。
どんな渓谷か?
語彙量がないから難しいんだけど、
まあ、
なんだか釣りキチ三平さんが釣りをしていそうな渓谷だ。
そう。
私はそういう渓谷に立っていた。
・・・、
で、
「なんだべが、ここ・・・」
私は改めて驚いていた。大人になってからは出ていなかった『べ』が出ちゃうほど驚いていた。本当に驚いたんだろうと思う。心から。
だってそうじゃない?
死んだんだもん私。
あ、死んだんだよね?
・・・、
私はその辺で焦り出して自分の手を動かしたり、足を動かしたり、腰を回したり、ジャンプしてみたりした。
全部出来た。
「・・・おおう?」
声も出た。
その声の意図っていうのは簡単な事だ。まあ結論から言えば、
生きている。
私は生きている。
体に違和感がない。これはどう考えても生きているということにほかならない。
と言う事だ。
それに意識もはっきりしている。
車にひき殺されたのもはっきり覚えている。
・・・、
おおっ!
覚えている!
・・・、
覚えてる。私死んだじゃん。
・・・、
私は死んだんだ・・・。
絶対にあの時死んだんだ。
・・・、
え?
じゃあ何これ?
「・・・」
死後の世界?
違う世界?
シーゴーのカイセー?
え?
ネクストステージ?
異世界系?
なろうで流行っている系?
・・・、
え?
えええ?
「ええええええええ!?」
・・・マジですか?
・・・、
「・・・え・・・えええ~・・・」
ショックだった。正真正銘ショックだった。リアルにショックだった。
だって・・・、
私はそれまで死んだら終わりだと思っていたから。
終わり。終了。終幕。散会。フィナーレ。エンドロール。何でもいい。
死んだら終わり、生きているときこそが全て。
でしょ?
だってそうじゃない?
『死んでも次があるから、まあいいかな・・・』
って考えてあの時車の前に飛び込んだわけじゃない。
『車に轢かれて死んだとしても、きっと次の世界があるから!』
なんて、そんな事誰が考えるの?
そんなの、なんだか生きる事を軽んじているんじゃないの?
『次があるから、まあがんばらなくてもいいか・・・』
みたいじゃない!
だから困る。
困るんだ。
死んでから何か始まってもらっても私困る。超困る。困ります神様?
・・・、
神様ですか?
そもそも、神様ですか?
・・・、
「・・・神様ですかあー!?」
私は空に向かって叫んだ。曇天のねずみ色の空に向かって。すごい叫べた。声がよく出た。渓谷だから響くのかもしれない。
かあー、
かあー、
かあー・・・、
やまびこは遠ざかったが、でも一向に返事は無い。
まあ、そうだよね。
まあ、そうだろうけどね・・・。
やがて首がだるくなってきたので私は上を見るのをやめた。
「マジでかあ~・・・困るわあ・・・」
自分の口からそのようなネガティブな言葉が出た。
ホントにそうだよ・・・。
しゃがみこみたかった。
でもきっと、しゃがんだらもう立てないと思う。
そしたらもう少しも動けなくなると思う。
・・・、
いつまでも止まっていたら動けなくなる気がして、私はとにかくあたりを歩きながら散策した。川原だった。流れる川は澄んでいた。まあ、そうだろう。渓谷なんだから。ガンジス川だって下流はすごい汚いけど、でも上の方は澄んでいるじゃない?
まあ、行ったことないけど・・・。
「・・・おおい!」
んで、そんなまとまらない思考のまま私はその川原でおかしげんたものを発見してしまった。
「・・・ベタだ・・・」
それを見て思わず口から声が出た。
その川原のいたるところに石が積まれていた。
そしてそのどれもこれもが建造途中で破壊されている感じを醸し出していた。
「・・・わー超ワイコー」
死んだはずの自分が、目を覚ましたら川の近くにいて、そしてそこに石が積んである形跡がある・・・。
・・・、
これは・・・、
ここは・・・、
まあ、
もう言わないでもわかるでしょう?
これが、ここがブレアウィッチプロジェクトやXファイルじゃない限りはアレだ。
あ~、
ぬ~べ~の一巻にあったやつでしょ?
その・・・、
サイカワでしょ?
つまり、
セカオワみたいなことでしょ?
「・・・逆に斬新・・・」
私の口がその破壊された石の塔を見ながら言った。
・・・、
その時、
がさ・・・がさがさ・・・
私のそのタイミングを見計らった様に、背後の茂みから音がした。
「・・・いっ!」
その音が聞こえた瞬間、私は動きを止めた。まるで時間停止モノのAVみたいに急に止めた。
「・・・ふうー・・・ふうー・・・」
荒い息遣いが背後から聞こえる。
お、鬼・・・、
・・・、
鬼?
マジで?
節分以外で鬼っているんだ!?
そんな現実逃避をした。
「・・・ぐうー・・ぐうー・・・」
するとまたそんな声。
「・・・」
・・・うなり声?・・・それとも腹の音?
もしその鬼が今お腹ペッコリーノだったら私の事をペロリと頂いちゃうんだろうか・・・?
ディープブルーみたいに・・・。
アナコンダの映画みたいに・・・。
山猫亭みたいに・・・。
・・・、
このタイミングでなんて想像をしちゃうんだ私はっ!?
私このやろう!
私は罰としてほぼほぼ固まったままで、そーっと自分の左手を右手の側に持って行って、で、ギュってつねった。
「ううん!ううん!」
はいはい、きこえるきこえる、げんきげんき・・・、
・・・、
「あ・・・」
と、そこで不意に私の鼻腔がある匂いをキャッチした。
・・・、
・・・あ、あれ?
・・・これって・・・、
それは私にとって実に懐かしい。そしてとても大事な匂いだった。
「ううう・・・ううう・・・」
え、じゃあ、この声って・・・、
私はすごい速さで声のする側に振り返った。それは絶対に危険な行為だと思う。ホラーモノによくある引っ掛け的な感じのヤツだったらどうするつもりなのか?そんで騙されて殺されたら騙した奴の思う壺ではないか?ジュラシックパークだったらまんずまぢがいねぐ食われる。それは自分でも分かっていた。
私のその行為は右も左も見ないで道を渡る行為と同じだ。
それでも、
たとえ車に轢かれて場所もわきまえずに赤黒いものやピンク色のものを撒き散らしたとしたって、たとえ父母を死ぬほど悲しませたとしたって、
私は振り向かなくてはいけなかった。
決して褒められる事じゃないとは思うんだけど、
でも、
生きていたらそういう事もある。
と思う。
ははっ、まあ、死んでるだけど。
そんな風に雑念群に犯されていたけど、
「・・・」
振り返った時、それを、そこに立っていたソレを見た瞬間に、
私は、
もう号泣してしまった。
「ふうー、ふうー」
サイ。
そこにはサイが一頭立っていた。
「ふうー」
そして、そのサイは私の方を見ていた。
そのサイは、
「・・・うあああーん!!ランビーーー!!!」
私は嬉しくて嬉しくて泣きながらだったけど、彼の名を大声で叫んだ。
ランビー、
ランビー、
ランビー・・・、
そしてやまびこが収まるのも待たずに彼のもとに走った。
・・・、
ランビ。
そのサイの名前。
私が生前勤めていた動物園で子供の時からお世話をしていたサイのランビ。
世界中の他の誰もわからなくても、私だけは知っている。
見たら分かる。
絶対に分かる。
ランビは私にとってそういう存在だった。
「ランビいいいー!」
私が愛して止まない存在だった。
ランビはとても賢いサイだった。彼は私のことをちゃんとわかっていたと思う。小さい頃からいたずらもしなかったし、私の仕事の邪魔もしなかった。採血も嫌がらなかった。彼は私の仕事をちゃんと理解していたんだと思う。だから私はとても長い時間ランビと一緒に過ごすことが出来た。
ずっと一緒にいた。時間が許す限り。ずっと。
「うあーんうあーんうあーんランビいいいいい!!!」
私はランビに抱きついて、大声で泣いた。そんなに泣くか?っていうくらいに泣いた。
サイの寿命は長い。
通常三十年~四十年くらい生きる。
でも、
ある日、
本当にある日、
ランビは病気にかかって死んだ。
その日、私が朝見つけた時、ランビは既に冷たくなっていた。
肝不全だった。
私はとても長い間ランビと一緒にいた。暇さえあればランビのところにいた。それなのに私はランビの不調なんて何一つ知りもしなかった。全く知らなかった。想像もしていなかった。
だからそのランビの死は、私の心や精神、脳味噌、体にさまざまな大小の穴を開けた。
この川原に転がるさまざまな石のような、それこそ様々な大きさの穴。
ランビが死んで、私に開いたその穴から日に日に何かが抜けていくのが自分でも分かった。
それはきっと私の生きる意志みたいなものだと思う。
「どれほど万全を期していても、そればかりは仕方の無い事です。野生で生きている動物にはそう言う事もあります。あなたは悪くない。貴方がランビをとても大事にしていた事は貴方とランビの姿を見たら誰だってわかるはずです」
私が退職する日、園長は私に言ってくれた。
「ありがとうございます」
私は言った。
でも、
ランビは私の事をちゃんと分かってくれていたのに。
それなのに、
私はランビの事を一切理解していませんでした。
きっと私はただ自分が愛されたかっただけなんです。
そう思った。
その想像は怪物だった。
その怪物は私を踏み潰し、破壊し、蹂躙した。容易く。
そうして私は壊れた。
だから、
本当は、
単に死にたくて車に飛び込んだだけなのかもしれない。
「ランビ・・・ごめんねえ・・・ごめんねえ」
私はランビに抱きついて泣いた。
「・・・」
その間、ランビは特に何も言わないし、動かずにただ黙っていた。
私のそのクソみたいなもろもろの感情をただただそうして受け止めてくれていた。
「ごめんね。気が付いてあげられなくてごめんね・・・」
だから私はずっとランビに甘えて泣いていた。
出来たサイだ。少なくとも人間の私よりもずっと出来たサイだ。
そう思った。
・・・、
「・・・ううん!」
私が泣き止むのを待って、ランビが言った。
「・・・どしたの?」
その時、ランビの角に何かがぶら下がっているのが見えた。
「・・・」
それはカバンだった。私のカバン。猫を助けるときに咄嗟に使ったカバン。
「これ・・・」
私がそれをランビの角からとって中を見ると、
「にゃー」
と鳴き声がして、猫が顔を出した。
「・・・え・・・?」
それはまさしく私が助けた猫。
「にゃー」
猫は私の手に顔を擦り付けた。
「・・・君、も、死んだの?」
私が言うと、
「ううん!」
ランビはゆっくりと頭を使って私の身体を押した。
「ど、どした?どしたランビ?」
私はランビに押されて川の水面がのぞき込める所まで行った。
「・・・なに、ランビ?」
水面はキラキラと輝いていた。曇天の空なのにとてもキラキラと。
そこには現世の私の家が映っていた。そして両親が映っていた。
「・・・」
二人共泣いていた。どうやら私の死を悲しんでいるようだった。
「・・・」
「ううん!」
ランビがそれを見て唸った。
「にゃー」
猫もそれを見て鳴いた。
「・・・」
私は察した。
「・・・帰れるの?」
その川に飛び込んだら、私は帰れるのか?
「・・・帰れる・・・」
私は水面を見て呟いた。
「・・・みんなで?」
私がそう言うと、
「・・・」
ランビも猫も黙ってしまった。
「・・・私一人で?」
その時、
・・・がさがさ・・・、
また、音。
そちらを見ると、そこには鬼が立っていた。何体もの鬼が立っていた。巨大な。とても巨大な。私の想像の怪物と同じようなとても強大で、圧倒的な力。
私が親よりも早く死んだから・・・。
賽の河原の鬼が。
「・・・オオオ・・・」
立っていた。
「ううん!」
気が付くとランビがそちらを見て、唸っている。
「ふー!」
猫も毛を逆立てている。
「・・・」
私は水面を覗いた。
「・・・お父さん、お母さん・・・」
父と母を見た。
でも、
帰れる?帰る?私だけ?せっかくランビにまた会えたのにか?私が帰ったらランビはどうなる?この猫は?どうなる?私のせいであの鬼にひどい目に遭うのか?私のエゴのせいで?そもそもが人間の思考である三途の川、賽の河原だ。だから動物である彼らには一つも関係ないはずだ。それなのに彼らはここにいる。私の為にこの二人は来てくれたんだろう。無茶をして。そんな無茶必要ないはずなのに。だからきっと本当は私は二人の意思を尊重しなくてはいけないんだろう。彼らがどうして私のためにここに来てくれたのか?それを考えたらきっと帰るべきなんだろう。
でも、
私は・・・、
「・・・っ」
私はカバンから猫を取り出して、更に奥に入っていたマッキーとハンカチを取り出した。
ハンカチを広げる。
マッキーの太い方の蓋を取る。
そしてハンカチにマッキーで文字を書いた。殴り書きの汚い文字だ。ごめん。本当にごめん。でも時間がない。
文字を書き終わると、側に落ちていた小さめの石を一個巻きつけて、それをそのまま猫くんの首に結んだ。
「・・・猫くん。お願いがある。これを私の両親に届けて欲しい。私はランビとここに残る。申し訳ないだけどお願いします」
「にゃあ・・・」
そして私は猫くんの言葉も待たずに水面に入れた。
「・・・」
少しでも待ったら決意が揺らいでしまいそうだったから。
猫くんにも、また改めて必ず謝らないといけない。
私はそう思った。
それまで死ぬわけにはいかない。
とも。
・・・あ、あと、
猫くんのことは恨んでいません。むしろ感謝しています。
とも。
「・・・オオオ・・・」
鬼達が私に向かって走ってくた。
「・・・ランビ、逃げよう」
私が鬼を見ながらそう言うと、
「ぐうー!」
といってランビがしゃがんだ。
「・・・乗っていいの?」
私は聞いた。
その答えは聞くまでもないようだった。
「・・・オオオ・・・」
とにかく、
とにかく今は逃げないといけない。それに私はまだちゃんと全部を理解はできていないし、ランビと一緒にいる時間が欲しい。今はとりあえずそれだけだ。
とにかく、逃げなくては。
生きなくては。
自分より強いヤツを倒せ。のCMかっこいいですねえ。