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「お、なかなか良い肉だな。これ、高かったんじゃねえか」

「そうでもないですよ・・・いや、まあ、多少は奮発したかな」

「悪りぃな、あとで清算してくれ」

「いいですいいです、こちらが無理やり誘ったんですから」

「無理やりだなんて。可愛い風太君からお誘いを受けるなんて光栄なことだよ」

「かわいい?ふうた?」

「うん、とてもかわいいよ」

「ふをっ♪」


ここは東京郊外の一軒家。

燦々と降り注ぐ日差しの下、バーベキューセットの上に肉や野菜を所狭しと並べているのは恭介だ。

頭に鉢巻を巻いているのは、滴り落ちる汗を止めるためだろう。

肉が焼ける香ばしい臭いに鼻をひくひくさせながら、待ちきれないとばかりにピョンピョン飛び跳ねているのは風太であるが、空腹を我慢できないせいか頭から猫耳が、お尻からは長いもふもふの尻尾がぴょんと飛び出している。


今日は二人だけではない、客人がいるのだ。

見事なブロンドの巻き毛を腰まで垂らし、真夏だというのにシルクの長袖シャツを着ている麗人と、これまた真夏だというのに汗ひとつかかず日焼けもしていない美形の日本人。

ブロンドの美形はルカ、ヴァンパイアだ。

日本人の方は日下大輔、かつては警視庁捜査一課の敏腕刑事として鳴らしたれっきとした人間であるが、ルカのパートナーとなったため自らヴァンパイアとして生きる道を選んだ。

そして、元は猫だった風太。

そう、4人いる中で純粋な人間は、恭介ただ一人だけだ。


グ~~~っと盛大な音が鳴る。

ふと見やると、バツが悪そうに微笑むルカがいた。


「良い音だな」

「だってぇ、なんだかお腹空いてきちゃったんだもん」

「まあ、こんだけいい臭いしてればしかたねえか」

「あともうちょっとで焼けますから、縁側で座ってビールでも飲んでてください。あ、シャンパンもありますよ」

「あんた一人働かせちまって悪いな」

「いえいえ、お気になさらず~」


鼻歌でも聞こえてきそうな勢いの恭介は、バーベキュー係を心底楽しんでいるようだ。

その横でぴょんぴょん飛び跳ねている風太も楽しそうで、日曜日のお父さんと息子という感じだ。

お父さんにしては恭介はちょっと若すぎるが。


「あっちーなぁ」

「あっち?」

「いや、暑いな、って」

「ふうた、あつくないよ」

「そうか?」

「ふうたくんは俺たちと同じでどんな気候も関係なく体温調節できるんだよ」

「そうなんだ・・・」


シャンパングラス片手に涼しい顔をして縁側に座っている美形の西洋人は、ヴァンパイアのルカだ。

ルカは胸元にゴージャスなフリルが付いた真っ白なシャツに、黒いスリム、焦げ茶のロングブーツという、まるでこれから乗馬でもしそうな出で立ちでだ。

その横でぐびぐびと缶ビールを飲んでいる日下もやはり黒いロンTにジーンズという、真夏には相応しくない服装である。

タンクトップに短パン姿にも拘らず汗だくの恭介との対比がすごい。


「なんか、狭いところですいません」

「なに言ってるの、これだけの庭があれば十分だよ」


戸建とはいえ、それほど大きな家ではない。

庭もそこまで広くはないので正直大人が3人もいると結構な圧迫感があるが、ヴァンパイアカップルはまったく気にしていないようだ。

そもそもなぜ2人が恭介の家に来ることになったかというと、ことの発端は今から数時間前にさかのぼる。




「ふをっ」

「風太、大声出すんじゃないぞ。尻尾も出さないように気を付けろよ」

「うん」


ウサ耳帽をかぶった風太の手を引いて、恭介は涼しい店内を練り歩く。

今日は庭でバーベキューをするのだ。

昨日バラエティー番組でタレントが海辺でバーベキューをしているのを見た風太は、自分もやりたいと興奮気味にねだってきた。

バーベキューなら庭でもできるぞと言えば、明日にでもやりたいと言う。

そこで急いでオンラインショップでバーベキューセットをポチったところ、今朝一番で届いた。

これでいつでもバーベキューができる。

あとは食材と飲み物を買うだけということで、こうして買い物にやってきたというわけだ。


バーベキューなんて久しぶりだった。

ウキウキ気分でついちょっと遠出していつもと違う高級なスーパーに来てしまったが、この夏大きな仕事の発注が入っているので懐具合もまあまあだし、たまにはいいかと肉売り場をウロウロしていると・・・


「あっ、ルカちゃん!」


恭介の手を離し、風太が駆けて行く。


「おい、風太!どこ行くんだっ」


風太が向かった先には長身の白人が立っていた。

以前、遊園地で偶然出くわした人物・・・いや、ヴァンパイアだ。


「あ・・・どうも・・・お久しぶりです」

「こんにちは。恭介さんだっけ」

「はい、えっと、ルカさんと・・・」

「日下だ」

「すいません」

「いいんだよ、名前なんていちいち覚えてられないよね?」


ルカの絶妙なフォローに少し安堵する。

ルカはニコニコしていて人当たりがいいが、この日下という人物は元刑事だけあって眼光が鋭く、ちょっととっつきにくい。

思わぬ再会が嬉しいのか、風太はルカの手を取ってピョンピョン跳ねている。

尻尾が出てしまわないか冷や冷やしている恭介をよそに、風太はこれから庭でお肉を焼くのだと嬉しそうに語り出した。


「へぇ・・・バーベキューか。いいね。今日は良い天気だし、楽しいだろうね」

「うんっ。ふうた、はじめてなの。おにく、たべるの。おさかなも」

「そっか、よかったね」

「ルカちゃんもくる?」

「え?」


大きな目が期待で爛々と輝く。

どうやら風太はこの二人をバーベキューに招待したいようだ。

突然のことに戸惑っていると、風太が畳みかけてきた。


「きょうすけ、ルカちゃんもいっしょ、いい?」

「え・・・ああ、そうだな。大勢いたほうが楽しいしな」

「くさかさんも?」

「もちろんだ。でも先にお二人の予定を聞かないと」

「ルカちゃん、くさかさん、うちくる?」

「お邪魔してもいいのかな?」

「うんっ」


ルカのおねだりにノーと言える大人がいるだろうか。

そんなわけで、急きょルカたちがバーベキューに参戦することになったのである。

午前中少し用事があるというので一旦家に帰り、午後から恭介宅に訪れるという約束をして別れた。

風太はウキウキでスキップしそうな勢いだ。


「嬉しいか、風太」

「うんっ。ルカちゃんもくるの、ふうたうれしいっ」

「そうか・・・」


本当は二人きりがよかったな、という言葉を飲み込み、肉を物色する恭介であった。




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