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<7>

キャッキャとはしゃぐ子供の声が庭に響く。

降り積もった雪の中、風太が元気よく駆け回っている。

ふわふわの尻尾をピンと立て、さくらんぼのようなピンクの唇からは喜びと興奮で白い息が漏れる。


「楽しいか、風太」

「うんっっ」


犬は喜び庭駆け回り、猫はこたつで丸くなる。

なんて童謡があるが、猫も喜び庭駆け回る珍しい状況だ。

どうやら、世の中の猫すべてが寒さを嫌うわけではないようだ。

現にこうして寒空の下、大きな目を爛々と輝かせて雪遊びする風太を見ていると、自分の持っていた猫に対する先入観が覆される。

風太に履かせているサロペットは、ちょうど尻の部分に切れ込みを入れてある。

そこから尻尾が出せるように、恭介自身が工夫したものだ。

風太と暮らすようになってからというもの、恭介は料理だけでなく裁縫も覚えた。

長いふさふさの尻尾が邪魔にならないように、ズボンや下着にアレンジを加えるなんてことも、今ではお手の物となっている。


尻尾をピンと立てるのは、猫が何かに夢中になったり喜んだりしている時だ。

もふもふとした尻尾を立てながら、風太は熱心に雪だるまを作ろうとしている。

「んしょ、んしょ」といった掛け声のようなものが漏れて、それがまたいじらしくて微笑ましい。

思わず目を細めて見入ってしまう恭介だ。

風太は小さな手でかき集めた雪で、一生懸命だるまを作ろうとしている。

だが、どうしてもうまく形にならないらしい。


「どれ、風太。俺も手伝おうか」


縁側で見ているだけだった恭介がおもむろに庭に出る。

正直、この寒い中雪だるまを作るなんて勘弁・・・と言いたいところだが、可愛い風太の為だ。

庭の隅にある物置から軍手とスコップを取り出す。

スコップで雪をかき集め、小さな球と大きな球を作っていくと、そばで見ていた風太が感嘆の声を上げる。


「すご~~~い。だるまさん、できたね」

「はは、雪が少ないからな。もっと積もれば大きな雪だるまが作れるんだが・・・まあ、これで我慢してくれ」

「うん!」

「そうだ。だるまに耳を付けるか」

「おみみ?」

「そう、耳を付けて猫っぽくしよう」

「ねこ?ふうた?」

「ああそうだ。風太と同じだ」


小さめの雪だるまの頭頂に、三角の耳を二つ作る。

ペットボトルの蓋や木の切れ端を使って、目と鼻と口を付けると、こじんまりした可愛い猫だるまのできあがりだ。

我ながら、なかなか上手くできたじゃないか。

雪だるまなんて作ったのは、何十年ぶりだろうか。

悦に入りながらだるまを見ていた恭介は、突然思い立ったように部屋に戻る。


「風太、ちょっと待ってろよ」


すぐさま戻ってきた恭介の手に握られているのは、ビデオカメラだ。

風太と暮らすようになって、ビデオ撮影が趣味になった。

一分一秒でも、可愛い風太の様子を記録しておきたい。

その一心で、奮発して良いビデオカメラと一眼レフカメラを購入した。

結構な出費だったが、風太の為なら痛くもかゆくもない。

こんな風に雪遊びをする風太なんて、最高の被写体ではないか。

縁側に腰を掛けると、恭介はカメラのピントを合わせる。


「風太、だるまの横に立ってみろ」

「ん?」

「ほれ、撮影するから」

「びでお?」

「そうだ、ビデオで撮るから雪だるまの横に行ってごらん」

「うん」


素直に頷くと、風太は雪だるまの横にちょこんとしゃがんだ。

何とも言えない愛らしさである。

身悶えしつつ、恭介はカメラを回す。


風太が来てからというもの、写真や動画を山のように保存するようになった。

そのほとんどが風太一人が映っているものだが、たまに二人で撮ることもある。

せっかくなので三脚を持ってきて、二人で雪遊びしているところを録画することにした。

そうやって撮りためた動画を後で見るのも、恭介の楽しみなのだ。

もちろん、風太もビデオや写真のことは理解していて、恭介と一緒に見ては喜んでいる。

ちょっとしたファミリー動画のようなものなのだ。


「風太、そろそろ中へ上がろう」

「んん?」

「もうたくさん遊んだろ、あんまり長いこと外にいると冷えてしまう」

「ふうた、もっとあそびたい」

「寒いだろう?」

「ふうた、さむくないよ」

「だがなぁ・・・」

「きょうすけ、いっしょ?あそぶ?」

「いや、俺は・・・」


雪遊びを始めてもうかれこれ小一時間は経過している。

そろそろ潮時だろうと思うのだが、風太はまだ外で遊びたいようなのだ。

いくら半分人間の姿になっているとはいえ、猫とはこんなに寒いのが平気なものだろうか。

そう疑問に思った時、以前獣医に言われたことがふと頭の中をよぎった。


仔猫の風太を拾った時、まずは健康状態をチェックするのと予防注射などを受けさせるのに、獣医に連れて行ったことがある。

その時獣医師から、風太は洋猫の血が入っているのではないかと言われたのだ。

たぶん、ノルウェイジャン・フォレストキャットかメインクーンではないか、と。


「そうか・・・だから寒いのが平気なのか・・・」

「ん?」

「風太、おまえ、寒いの平気なんだな」

「うん、ふうたへいきだよ」

「おまえの故郷は、雪がたくさん降るところなんだな」

「こきょう?」

「あ、いや、いいんだ」

「きょうすけ、さむいのいや?」

「俺か?俺は・・・そうだな、ちょっとさすがに寒くなってきたな」

「じゃあ、なかはいる?」


心配そうに小首を傾げる姿の可愛らしいこと。

風太はもっと遊びたいのに、恭介に気を使って中に入ろうと言っているのだ。

なんて愛らしいのだろう。

思わず、風太の小さな体を抱きしめる。

ふさふさの耳がピルピルと動いて、恭介の頬をくすぐった。

恭介の胸元を小さな手でキュッと掴んでくる。

そんな仕草さえ、愛おしい。


仔猫の風太を拾った時、真っ白でふわふわしていて、確かに和猫ではなさそうだとは思った。

長毛種かどうかとか、猫に詳しいわけではない恭介には区別がつかなかったが、医者に言われてからネットで色々調べてみたのだ。

ノルウェイジャンもメインクーンも、かなり毛足の長い大柄な猫だ。

また、ノルウェイジャンはノルウェイ、メインクーンはアメリカのメイン州というどちらも豪雪地帯から生まれた猫だ。

二重の被毛に守られて、雪の中も平気で駆けられるよう肉球にも毛が生えているという。

実際、雪遊びをする猫も珍しくないと聞く。

だとしたら、風太にとって東京の冬など寒いうちに入らないのかもしれない。

この程度の雪なんて平気なのかもしれない。


「いや、おまえが遊びたいんだったら、あとちょっとだけならいいよ」

「ほんと?」

「ああ、だから俺のことは気にせず、思う存分遊べ」

「うん!!」


嬉しそうに頬を薔薇色に染めると、風太はまた元気に庭じゅうを走り始めるのだった。




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