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「うーーー」

「風太・・・?」


唇を尖らせて不満の声を上げる風太の中身は、まだまだ幼いのだろう。

どこかよそよそしい恭介の態度を敏感に察知してへそを曲げてしまったらしい。

だが、中身はどうであれ見た目は青年なのだ。

不機嫌に歪めた眉も突き出した赤い唇も、何もかもが蠱惑的で目のやり場に困る。

それでも何ごともなかったかのように、いつもの笑顔を作ってみせると、


「風太、そうむくれるなよ」


となんとか平静を装う。


「だって」

「そんな恰好でいたら風邪引くだろ」

「平気。さむくないもん」

「ダメだよ、何か着なきゃ。ちょっと待ってろ」

「やだ」


抱きついてくる風太に、恭介の心臓は飛び跳ねた。

生暖かい息が耳にかかる。

ふわりと香る、風太の匂い。

それは少しだけ甘さを含んだ、けれども間違いなく雄のもので、そのアンバランスさがまた恭介をドギマギさせる。


「しょ、しょうがねえなぁ、風太は。こんな姿になっても甘えん坊さんか?」

「恭介、ちょっとへん」

「変ってどこが」

「風太のこと見ないようにしてる」

「そりゃおまえ、いきなり裸になるから」

「裸はだめなの?」

「ダメってわけじゃないけど・・・人間は普通はちゃんと服を着るもんだ。特に今みたいな大人の姿になったら」

「おとな・・・」

「風太は大人だろ?だったら大人らしくしないと」


急に抱きついていた腕を緩めると、風太がすっと離れる。

それを思わず寂しいと感じてしまった自分の感情を、もはや蓋することはできない。

このままずっと風太と抱き合っていたいと思っていることも。


「風太、おとな!だからおとならしくする!」

「そ、そうか・・・」


大人という言葉に反応した風太が、キラキラした瞳で胸を張っている。

子供っぽい仕草が逆に倒錯した官能を呼び起こす。

見ないようにしていた下半身にも、ついつい視線が行ってしまう。

想像通り、風太のそれは胸の飾りと同じ淡いピンク色で、下生えはほとんど透明に近い金髪だ。

髪や眉毛、まつ毛と同じブロンド。

神話に出てくるニンフというのは、こんな感じだったのではないか。

それほどまでに、青年姿の風太は浮世離れしていた。


「と、とりあえず服を着ろ。な?」

「うんっ」


慌てて箪笥の中からトレーナーとジーンズを出す。

それを嬉しそうに着る風太の様子を見ていると、複雑な思いがよぎってくる。

恭介より細身で小柄ではあるが、手足が長いからかトレーナーの袖がつんつるてんんだ。

なんだかちょっと悔しい。

ジーンズはウェストが少し緩いが、ベルトで何とかなりそうだ。

そしてやはりこれも、裾が短い。

モデルのような風太の体型に、標準日本人向けの洋服ではサイズが合わないのだろう。


「よく似合うぞ、風太」

「にあう?」

「ああ、すげぇきれいだ」

「ふうたきれい?」

「この世で風太以上にきれいなやつなんていないよ」

「へへ」


せっかく買ってきた焼き芋を食べようと台所に向かう。

すでに覚めてしまったのでレンジで温めようとすると、風太がぴったりとくっついてくる。

いつでも恭介のそばをくっついて離れないのだが、さすがに大の男が二人台所をうろうろすると狭苦しい。


「風太、冷蔵庫からお茶を出して持って行ってくれるか。俺は焼き芋を持ってくから」

「お芋!」

「冷めちまったからな、いま温め直してる。ほら、お茶持ってってくれ」

「うん」


風太が入れたお茶(といっても市販のウーロン茶をグラスに注いだだけだが)と焼き芋が、今日のおやつだ。

おやつタイムは風太が何よりも楽しみにしているのだが、今日はそれよりも大人の仲間入りをした自分をアピールすることに気持ちが行ってるようだ。

恭介のお手伝いを積極的にすることで、一人前の大人気分なのだろう。

その表情はどこか誇らしげだ。


二人して焼き芋を頬張る。

やはり寒い季節には、ホクホクの焼き芋がうまい。

熱いので気をつけないと口の中を火傷してしまう。

風太は慎重に、けれども夢中になって芋を食べていた。

大きな焼き芋を半分ほど食べたところでお腹が膨れてきたのか、少し食べるペースが落ちる。

恭介も3分の2ほど食べたところで腹いっぱいになった。

残りはまた夕食後にでも食べればいいかとお茶を飲みながら一息ついていると、またしてもキラキラの目で問いかけられる。


「恭介、お出かけする?」

「え?」

「お出かけするの、風太と」

「出かけるってどこへ」

「んー・・・おかいもの?」

「もう買い物は済んだよ」

「じゃあ、公園」

「この寒空の下、公園はちょっとなぁ・・・

「うーーー」

「なんだ、風太は外に出かけたいのか」

「だってぇ・・・」

「その姿で出かけるのはやめといたほうがいいと思う」

「どうして?」

「どうしてって・・・」


風太は目立つ。

子供の姿でさえ、あの子可愛いと周りが騒ぎたてて勝手にカメラを向けられる始末なのだ。

それがこんな西洋の王子様みたいな姿になってしまった今、外を歩けば目立つことこの上ないだろう。

いくら都心とはいえ、ここまでの超絶美形はそうはいない。

以前のようにカメラマンに写真を撮らせてくれとか言われたりするのも、面倒だ。


「風太、お外いきたいなぁ・・・」

「家でゆっくりしようぜ。映画でも見てさ」

「せっかく大きくなったのに。恭介といっしょにおでかけできるとおもったのに」

「風太・・・」


しょんぼりしてしまった風太の様子に、胸が締め付けられる。

人間になりたいとひたすら思い続け、ようやくその願いがかなったのだ。

二人で出かけたいという細やかな願いを無下にはできない。


「わかった。じゃあ、出かけようか」

「いいの?」

「ああ。その代り、絶対に耳と尻尾を出しちゃダメだぞ」

「うん。風太ぜったいにおみみもしっぽもださないよ。やくそくする」

「じゃあ、着替えるか」

「またおきがえ?」

「ああ、それは室内着だからな。出かけるならちゃんとした格好しよう」

「ん~」


よくわかっていないのか、風太が小首をかしげる。

そんな仕草すら色っぽいと思ってしまう恭介だった。




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